ニュースレター号

[70号] 宣告まであと2日! 尹錫悦弾劾審判の争点は?、脱北民の「正論」に注目

 サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。韓国の徐台教です。4月になりましたね。日本では桜が咲いていると聞きましたが、私の住むソウル郊外では桜はもう少しといったところです。その代わりにケナリ(レンギョウ)が綺麗に咲いています。もう春ですね。

家の近所に咲いているケナリ(レンギョウ)です。


家の近所に咲いているケナリ(レンギョウ)です。

 暦の上では春ですが、韓国の多くの人々の時計は昨年12月3日で止まったままです。誰も予想しなかった尹錫悦氏による非常戒厳は韓国の日常を一変させました。

 韓国の週刊誌『時事IN』の昨年12月の記事によると、2010年の『憲法注釈書』第3巻には戒厳の要件をこう定義しているそうです。

行政だけ顕著に遂行が混乱な場合、非常戒厳を宣布することはできず(中略)戦時といっても、行政および司法機能が正常に遂行できる以上、当然ながら非常戒厳の要件を充足するものではない。

時事インの記事より

 これはどういう話かと言いますと、尹錫悦氏による非常戒厳は、憲法や戒厳法で定める非常戒厳の要件を満たしていなかったということです。

 これらの法で非常戒厳は「戦時・事変またはこれに準じる非常事態において兵力をもって軍事上の必要に応じたり公共の安寧秩序を維持する時」に可能であるとしています。なお、事変というのは武装叛乱集団の暴動行為と理解すればよいものです。

 尹錫悦氏による非常戒厳は、それまで韓国の市民が享受してきた憲政秩序を力ずくで破壊しようとするものでした。この破壊の企図は国会のはたらきや軍の抗命、市民の踏ん張りによって中途で鎮圧されました。

 しかしその後、これを企図した尹錫悦氏は職務停止とはいえ大統領の地位にとどまり続け、要件や手続きを満たさずに恣意的に行った非常戒厳(つまりは内乱です)への反省を口にしていません。非常戒厳への評価は進歩・保守陣営によって割れ、宙ぶらりんの状態が続いてきました。

 ですがようやく、その状態も一段落となる見通しです。1日、憲法裁は4日に尹錫悦大統領の弾劾審判の宣告を行うと明かしました。

1日(昨日)午前10時41分に私の携帯に憲法裁判所からとどいたメッセージ。「2025年4月4日午前11時に憲法裁判所の大審判廷で宣告がある」とあります。


1日(昨日)午前10時41分に私の携帯に憲法裁判所からとどいたメッセージ。「2025年4月4日午前11時に憲法裁判所の大審判廷で宣告がある」とあります。

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◎弾劾審判の争点を改めて整理

 4日、憲法裁が下す判断は三つの内の一つになります。「認容」の場合は尹錫悦氏は罷免、つまり解任となります。「棄却」、「却下」の場合は大統領の職務に復帰します。

 当日、文炯培(ムン・ヒョンベ)憲法裁判所長(現在は代行)が「決定文」、つまり判決文を読み上げます。その中に、上記三つのうちどれかを含んだ「主文」がありますが、これを読み上げる際に効力を発揮します。

 ちなみに17年の朴槿惠大統領弾劾審判の際には憲法違反か否かを判断する内容を十数分間読み上げたあと、憲法裁判所長はこう述べました。「ここに、裁判官全員の一致した意見として主文を宣告します。主文、被請求人、大統領朴槿惠を罷免する」。

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 尹錫悦氏の場合にはどうなるのでしょうか。

 憲法裁判所における弾劾審判というのは、刑法や民法上の法律違反行為を裁くものではなく、被請求人の行為が罷免に値する重大な憲法違反か否かを判断するものです。

 尹錫悦氏のケースにおいて、韓国メディアが報じる争点は大きく二つまたは三つに分けられます。

 まずは先述したように、▲非常戒厳を宣布した際の状況が戦時・事変に準じる事態であったか、次に、▲正式な国務会議(閣議)を経て戒厳が宣布されたか、が挙げられます。これらはいわば、要件と手続き論といえるでしょう。

 さらに、▲戒厳軍を送り国会を封鎖したことの違憲性も問われます。憲法と戒厳法が定める「国会過半数の賛成」という非常戒厳解除の方法を、封じ込めることに当たるか否かというものです。

 また、他にも布告令第一条「国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」という内容の違憲性、そして最大野党・共に民主党の李在明代表に無罪判決を出した裁判官を逮捕しようとしたこと、なども審判の俎上に載ることになるとしています。

 主要政治家の逮捕を命じたこと、国会の他に中央選挙管理委員会にも軍を派遣し掌握したことなども判断の対象となるでしょう。

憲法裁判所の審理に出廷し自説を述べる尹錫悦大統領。憲法裁判所提供。


憲法裁判所の審理に出廷し自説を述べる尹錫悦大統領。憲法裁判所提供。

 繰り返しになりますが、この全てが認められる必要はありません。どれかが重大な憲法違反であると認められれば、尹錫悦氏は罷免となります。

 私は憲法裁判官8人全員一致の「認容」判断を下すと予想します。

 なお、韓国メディアは過去の憲法裁の宣告例から、全員一致の場合には先に決定文の理由部分を読み上げ、意見が分かれる際には先に主文を読み上げると報じています。当日、文炯培氏の読み上げ開始から注目が集まることになるでしょう。

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◎共に民主党所属の脱北民が尹錫悦弾劾を求める

 もう一つだけ韓国内の興味深い動きを紹介して今号を終えたいと思います。4月1日、国会でチョ・ギョンイル氏が会見を行いました。

 チョ氏は朝鮮民主主義人民共和国、いわゆる北朝鮮出身の脱北民です。現在はピースアゴラという平和運動団体の代表を務めるかたわら、最大野党・共に民主党の北韓離脱住民特別委員会で副委員長を務めています。ややこしいですが、北韓離脱住民とは脱北者、脱北民に対する韓国政府の公式名称です。

 チョ氏は会見で尹錫悦氏の非常戒厳を批判すると共に、国民の目線に合った罷免という判断をするよう憲法裁に訴えかけました。

中央がチョ氏・ニュース1より。


中央がチョ氏・ニュース1より。

 内容から見る場合、取り立てて特別なものではないのですが、この会見は二つの意味で特別でした。

 まず、進歩派の共に民主党に所属する脱北民による声明という点です。韓国で脱北民が政治活動を行う場合、反共を掲げる保守政党に所属するのが一般的です。過去、00年代以降、保守政党から4人の脱北民が国会議員に当選しています。

 ですが、進歩派政党から国会議員となった脱北民はいません。進歩派政党は北朝鮮との対話を重視するため、北朝鮮の体制を逃れて韓国に来た人物がポジションを得るのが難しい構図が背景にあります。チョ氏は国会議員ではないとはいえ、珍しいケースです。

 もう一つの特徴は声明の内容にあります。

 チョ氏は声明の中で「北郷民(脱北民のこと。チョはこう自称していました)は北韓の独裁政権の被害者である」と明確に述べています。「だからこそ韓国の法治主義の大切さが分かる」とし、これを根拠に「自由と人権を踏みにじる尹錫悦による戒厳」を正面から批判したのです。

 声明文はそう長くないのですが、この基調が全体を貫いています。「布告令の各項目をみると、すべて北韓の行う仕草をまねしている」、「個人の自由は保障されるべき。それが民主主義の基本原則である」といった形です。

 こんなチョ氏の発言が民主党内でどれほど傾聴されているのかは分かりませんが、正面から金正恩政権を批判しながら、韓国の民主主義にコミットする姿には「正当性」を強く感じました。

 「北朝鮮に融和的」とくくられがちな民主党ですが、チョ氏のこんな基調がスタンダードになる場合にはこれまでとは別の姿に変わる可能性が出てくるでしょう。共通の知人がいることもあり、今度じっくりインタビューしてこようと思います。

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◎あとがきに代えて

 弾劾宣告をにらみながら本の原稿の整理をしているので非常に落ち着きませんが、4月にはすべて片付くと考えればやる気が出ます。4月4日に尹錫悦大統領が罷免となる場合、次期大統領選は6月3日になると韓国各紙が報じています。

 なお昨日、YouTube『徐台教の韓国通信(デモクラシータイムスch内)』を更新しています。政治をはじめ韓国のいくつかのシーンを解説しています。お時間ある方はぜひご覧ください。

表紙です。クリックすると映像(YouTube)にリンクします


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内容です。クリックすると映像にリンクします


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 次回のニュースレターは4月4日の結果が出た後になります。それではまた!ご購読いただきありがとうございます。(徐台教)

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