写真は憲法裁判所前です。尹錫悦大統領の弾劾に反対する市民が連日、集会を開いています。
サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。韓国の徐台教です。いかがお過ごしでしょうか。
日本も韓国も人が出会うと天気の話から始まるのは同じです。私が住んでいる金浦(キンポ、ソウルのすぐ隣)は昨日今日は日中20度、朝晩は5度程度と寒暖の差が激しく体調を崩しやすい陽気です。また「ミセモンジ(微細なホコリの意)」と呼ばれるPM10やPM2.5、さらに黄砂が飛来する時期となり靄(もや)がかかったような空が続きます。
もやと言えば、私が置かれた状況も未だ、もやの中にあります。2月から引きずっている書籍は草稿を終え、原稿の直しを続けています。尹錫悦大統領弾劾の行方に伴う追加取材や、いくつか追加インタビュー(素晴らしい方々です)もあり、あと一歩というところです。
そうとはいえ、完成に向けたラストスパートなので楽しい状況です。3月には身軽になると思ったのですが、そうはなりませんでした。しかし、もう少しです。
もう一つのもやは、ご存知のように韓国の政治状況です。憲法裁判所による尹錫悦大統領弾劾審判の宣告が3月7日、14日、21日と流れ、人々のフラストレーションが溜まると共に、政治の不安定さが増しています。
より正確に表現するならば、フラストレーションは弾劾(罷免)を願う人々の心をむしばんでいます。彼らは弾劾案の「認容」、つまり尹大統領の罷免(クビ)は確実であると見るため、宣告日が遅れるだけ尹錫悦氏が大統領でいる期間が長引くと受け止め、ストレスを感じるのです。各種世論調査によると、尹錫悦氏の弾劾を求める人々の割合が60%程度であることから、韓国市民の多数がこちらに属しています。
一方、尹錫悦氏の弾劾に反対する人々にとっては、宣告の遅れは「棄却」、すなわち尹錫悦氏の職務復帰の可能性が高まる過程として受け止められています。上記のように韓国有権者の多数が罷免は当然と考え、過去の盧武鉉(ノ・ムヒョン)、朴槿惠(パク・クネ)両大統領の弾劾審判よりも早く決着が付くと繰り返し主張してきたのでなおさらです。
憲法裁判官8人のうち3人が「棄却」を選ぶ場合に尹錫悦氏は職務復帰となりますが、憲法裁の内部でこうした対立が起きていると、尹錫悦氏を支持する人々は考えているようです。
実際のところは、現状が「遅れ」なのかどうかも分かりません。なぜなら、憲法裁に与えられた時間は180日、つまり6月10日過ぎまであるからです。
そうとはいえ、弾劾を求める立場からすると、憲法裁の動きにはフラストレーションしかないでしょう。野党側は憲法裁に早期宣告を求める圧力をかけています。一方で、与党側も弾劾を棄却せよと憲法裁に圧力をかけ続けています。もしかしたら最もフラストレーションを感じているのは、憲法裁判官かもしれません。いや、そんなヤワな精神では務まらないでしょう。
◎韓悳洙総理の弾劾審判の結果は「棄却」
宣告は過去の例に従い金曜日にあるとされるため、最速で28日とみられます。しかしこのニュースレターを書いている今日月曜日から、韓国は怒濤の一週間に突入しています。
まず24日午前10時に韓悳洙(ハン・ドクス)国務総理の弾劾審判の宣告があります。同氏の弾劾訴追案は昨年12月27日に国会で可決されました。弾劾事由は、▲大統領とその配偶者の犯罪疑惑に対する特別検事を任命する法律案の拒否、▲尹錫悦の非常戒厳に関連する違憲・違法行為と内乱行為の共謀または黙認とほう助など五つに上ります。
五つのうち一つでも該当すれば罷免という訳ではなく、それぞれについて検討し、全体的な違憲の程を判断するという形になります。中でも、非常戒厳に関する部分において憲法裁がどんな判断を下すのかが注目されます。非常戒厳の過程に違憲・違法行為があったのか、さらに非常戒厳が「内乱行為」なのか、という点は今後、尹錫悦氏の弾劾審判の結果をうらなう部分となります。
…と、実は昨日の夜中、ここまで書いて寝ました。今日(24日)は朝から取材があり、今(17時)ようやく続きを書いています。
韓悳洙総理の弾劾案は「棄却」となりました。国務総理への職務復帰、すなわち大統領代行への復帰となりました。上記の五つの弾劾事由のうち、非常戒厳の関わりについては以下のような判断でした。引用してみます。
被請求人(韓悳洙)が非常戒厳宣布の手続き的な正当性を付与するために国務会議(閣議)の召集を建議するといった積極的な行為をしたと認定すべき証拠や客観的な資料を探すことはできず、国会の非常戒厳解除要求決議案が可決された後にも、大統領に国務会議の招集を建議しなかったなどの訴追に関する証拠や客観的な資料を探すことはできない。
つまり、韓悳洙は尹錫悦氏の非常戒厳宣布に関する憲法違反行為を行わなかったというものでした。これ以外に、非常戒厳自体が憲法違反にあたるといったような判断は決定文の中にありませんでした。これは当初の予想、すなわち「韓悳洙の弾劾宣告の結果が尹錫悦の宣告内容を占うものとなる」という予測が全く外れたことを意味します。
なおこの日、憲法裁判官8人のうち棄却5人、認容1人、却下2人というものでした。棄却を予想する世論が多かったとはいえ、憲法裁の厳密さが際立つ判決でした。弾劾賛成派にとっては憲法裁の緻密さを認識する機会であったでしょうし、反対派にとっては尹錫悦弾劾も棄却になるだろうと勢いづく背景になり得る決定でした。社会的には緊張が高まる状況は続いています。
金浦市の愛妓峰(エギボン)展望台から臨む北朝鮮の黄海北道開豊(ケプン)郡。24日、徐台教撮影。
◎水曜日に李在明氏への重大判決
次に26日水曜日には最大野党・共に民主党の李在明代表の二審判決があります。同氏は現在、五つの裁判を抱えています。今回は公職選挙法違反の二審です。昨年11月15日の一審では懲役1年、執行猶予2年という予想以上の重い判決が下りました。
この量刑が確定する場合には被選挙権が10年間はく奪されます。尹錫悦氏が非常戒厳を宣布せずに罷免されなかったならば(まだ仮定の話ですが)、次の大統領選は27年3月の予定でした。李在明氏は5つの裁判ですべて無罪を勝ち取るという難しい挑戦を強いられるはずでしたが、尹錫悦氏の予想外の行動により大統領選が前倒しになるチャンスがやってきました。
罷免の場合は60日以内に大統領選挙が行われるからです。しかし、26日の判決でふたたび有罪判決が下る場合、李在明氏は政治的に大きな打撃を受けるでしょう。この状況が韓国政治の読み方を難しくしています。
そして最後に、尹錫悦大統領の弾劾審判の宣告が行われる可能性があります。数日前に期日を予告するため、水曜日までに「金曜日にする」という期日の取り決めがある場合、政局は一気にそこに移っていくでしょう。
整理すると、水曜日までは目を離せないということですが、一方で今日(24日)の午後になって、YTNをはじめとするメディアで「今週の宣告はない」と報じられ始めました。いやはや、という感じです。憲法裁が厳密な仕事をしていると考えるべきでしょう。
◎三つの課題の概略
ここからは今日の本題になるのですが、3つの話題を取り上げようと思います。いずれも重要であるため、すべてを書き切るにはスペースも時間も足りません。今後、続けて追っていくテーマになると思うので、今回は概略だけ述べてみます。
(1)極右と友達になれるか?
これはハンギョレと京郷新聞に載ったコラムに端を発した議論です。極右にどう相対すべきという点で、共存は無理でも共にあることを認める(現存)べきだ、という議論や、極右に対し「強い対応」をしてはならないというものです。二つのコラムの主張は異なるのですが、共通しているのは「極右への寛大さ」をどこまで許すのかというものです。尹錫悦氏の非常戒厳を許さない人々からは批判が殺到しましたが、非常に重要な試論であったと思います。また次号でしっかり書きます。
(2)なぜ進歩派はウクライナに冷たいのか
これはオスロ大学の朴露子(パク・ノジャ)教授によるコラムです。日本リベラルの一部がゼレンスキーを痛烈に批判しプーチンの肩を持つのと似た構図です。これは韓国進歩派の国際問題へのスタンスを表すものでもあります。不安定化する世界の中で、今後成立するであろう(まだ予想に過ぎませんが)進歩派政権下の韓国がどのような外交的役割を担っていくのかの議論がスタートしたとみるべきでしょう。
(3)韓国政府が北朝鮮人権問題にお金を出せるか
米国に「USAGM(米グローバルメディア)」という組織があります。ここは『VOA(ボイス・オブ・アメリカ)』や『RFA(ラジオ・フリー・アジア)』といった、米国の自由と民主主義的な価値を対外、特に旧共産圏国家に広める放送への資金支援をしています。トランプ政権下でUSAGMが大幅に縮小されたことで、この二つのメディアは閉鎖の危機に直面しています。
一方、北朝鮮・金正恩政権の人権問題を追及する運動への資金を提供してきた米国務省の民主主義・人権・労働局(DRL)やNED(国立民主主義基金)の資金、年間約1000万ドルも削減される見通しです。こうした一連の動きにより北朝鮮人権問題を扱うNGO(非政府組織)もまた運営の危機に直面しています。
長年、北朝鮮の人権問題を取り上げるも資金援助をしぶり、米国に頼ってきた韓国政府がこの資金を穴埋めするのか、しないのかを含め、北朝鮮人権運動は大きな曲がり角に直面したとみるべきでしょう。もちろん、上記の米国資金が純粋な善意から来ている資金であるとは言いません。しかし、世界で権威主義国家の勢いが強まる中、このままで良いのかという議論はできるでしょう。長期的には南北関係とも関わる大きな問題です。
◎あとがきに代えて
なんとしても今日、ニュースレターを送らなければならないとの思いで、駆け足の内容となりました。今日の三つは、私が今かいている本で扱う南北分断の問題と合わせ、今後追い続けていくテーマとなるでしょう。もう少し丁寧な論考を今後、連載の形でお届けします。また、外部寄稿者の参入を含むリニューアルもいま少しお待ちください。それではまた次号でお会いいたします。(徐台教)