サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。韓国の徐台教です。
この「アンニョンハセヨ」というのは挨拶であると同時に「安寧ですか」と意味を持たすこともできる言葉です。実際にそういう使い方をすることはありませんが、おそらく今の韓国では「アンニョンハセヨ」と言う時に「そんなはずはないよな」と感じる方が多いのではないでしょうか。
それほどに厳しい12月となりました。3日深夜の非常戒厳から続く政治的な混乱に加え、昨日29日の飛行機事故。
SNSでは識者と呼ばれる人々の「国運が尽きたのではないか」という書き込みがやたらと目に付きます。これは歪んだナルシシズムの表れに過ぎませんが、ずっしりと重い時が流れているのは確かです。
実はその間、3本を記事とニュースレターを配信しようと思いましたが、途中で止めてしまいました。うまく文章がまとまらなかったためですが、そのせいで前回のニュースレターからずいぶんと間が空いてしまいました。お待たせしてしまい申し訳ありません。
今日はもう12月31日ですよね。韓国は陰暦の正月を祝うので(今年は1月29日が正月です)、日本のような年末年始の雰囲気はありません。日本で年末年始を最後に過ごしたのはもう15年前になり、なんだかあのコタツとみかんが懐かしくもあります。
今号ではいくつかのニュースや展望の整理だけしておこうと思います。内容は以下のようになります。
(1)尹錫悦の『12・3非常戒厳(12・3内乱)』その後
(2)済州航空惨事について
(3)北朝鮮の朝鮮労働党中央委拡大総会
(4)2025年の見通し
(1)尹錫悦の『12・3非常戒厳(12・3内乱)』その後
●尹氏は内乱罪に相当
尹錫悦大統領による12月3日の非常戒厳に関する捜査は着実に進んでいます。ちなみに、尹氏は14日に国会で弾劾訴追案が可決されたことで職務停止となりましたが、大統領のままです。
非常戒厳の全貌に関しては未だ捜査中です。しかし重要な進展がありました。
検察が27日に金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防部長官(戒厳当時の国防部長官)を「内乱重要任務従事および職権濫用権利行使妨害」の嫌疑で起訴した際に、尹氏を「主要な共犯」と明確にしました。
そればかりか検察は金前長官をはじめ尹氏を含む人物11人の行為が「国憲の紊乱にあたる」と明示しました。
具体的には「大統領が違憲・違法な非常戒厳を宣布、違憲・違法な布告令を発令し、武装した軍と警察を動員し国会を封鎖」、「国会、中央選挙監理委員会などを掌握した後、違憲・違法な布告令に基づき、国会議員など主要人士と選管委の職員を令状なく逮捕・拘禁しようとし、選管委の電算資料を令状なく強制捜査しようとした」といった行動を根拠に挙げています。
これを「議会制度を否定し、令状主義に違反するものであり、憲法機関である国会と選管委の権能の行使を不可能にする結果を招く」原因であると十分に見なせるというものでした。
「国憲の紊乱」というのは憲法機関の権能行使でできなくすることと刑法91条で定められており、これは同87条に規定される内乱罪の構成要件を満たすものです。
つまり検察は尹氏が「内乱の首魁」であると主張することになります。
また「多数の武装戒厳軍と警察を動員したこと」などを根拠にこれが「暴動を起こしたもの」という判断も付け加えました。尹氏側の「内乱ではない」という主張に正面から反駁するものです。
非常戒厳を宣布した当時の尹大統領。今改めて見ると、顔つきが虚ろです。3日、YTNをキャプチャ。
●「戒厳は警告用」という尹氏のウソ
検察が公開した10ページの書類には、非常戒厳当時の尹大統領の生々しい発言が引用されています。いくつか並べてみます。
「まだ入れないのか、何をしているんだ。門を壊して入って(国会議員を)引きずり出せ(注:非常戒厳解除決議案の採決を妨害しようとした)。銃を撃ってでも門を壊して入って引きずりだせ」(ヨ・イニョン国軍防諜司令官に対し)
「国会に入ろうとする国会議員をすべて逮捕しろ、捕まえろ。違法なんだ。国会議員はみな、布告令違反だ、逮捕しろ」(チョ・ジホ警察庁長官に対し)
「国会議員が150人を超えてはならない。本会議場の門を壊してでも中に入り、国会議員たちを引きずり出せ」(クァク・ジョングン陸軍特殊戦司令官に対し)
こうした証言からは非常戒厳の当日、紛れもなく尹氏が最高司令官であったことが分かります。
それと同時に、尹氏や尹氏の弁護団側が強弁している「国民たちに巨大野党の反国家的な悪事を知らせ、これを止めるよう警告するもの」という戒厳の目的が完全にウソであることが浮かび上がってきます。
●捜査はどうなっているか
今日30日午前0時、高位公職者犯罪捜査処(公捜処コンスチョ)を中心とする共助捜査本部(日本メディアでは合同捜査本部と称しています)は尹氏の逮捕令状を請求しました。
このニュースレターを書いている31日午前4時現在、裁判所がどう判断するのか結果はまだ出ていません。日をまたがずに決まるとされていましたが、判断に時間がかかっているようです。いずれにせよ、逮捕令状の請求自体が韓国の76年間の憲政史上初めての出来事です。
背景には、尹氏が公捜処からの出頭要請に3度応じなかったことがあります。3度応じないと逮捕されるというのは慣例のようで、それに則った形です。
しかし韓国メディアでは令状が発付される場合にも、公捜処がすぐに執行に乗り出すのかは分からないとする見方が大勢を占めています。大統領警護処との衝突が予想されることもあり、令状を一つの根拠とし、尹氏に4度目の出頭要請を行うと見ているようです。
一方の尹氏側は、この逮捕令状に問題があるとしています。根拠は「公捜処は内乱罪を捜査する資格がない」というものです。
この指摘の半分は当たっています。公捜処法には捜査できる違反行為が具体的に示されていますが、内乱罪は含まれていません。一方で「職権濫用」は含まれています。
先に見た金龍顕前国防長官の起訴内容にも「職権濫用」が入っていることからも分かるように、ここから迂回して内乱嫌疑にたどり着くという構えのようです。
公捜処にはさらに大統領に対する「公訴権」を持たない(検事・判事・警察高官については持つ)という問題があります。つまり捜査はなんとか行っても、これを起訴することはできません。起訴は検察だけができます。
ここまで読まれても何の事かよく分からないと思います。一旦、下記の表をご覧下さい。
朝鮮日報が作成した表を私が日本語に翻訳したものです。
つまり、内乱罪の捜査ができるのは「警察」だけ、そして捜査結果を元に起訴できるのは「検察」だけです。しかし現在は捜査は「公捜処」が行っています。なぜでしょうか。
すべて説明すると長くなってしまうので、結論だけ述べますと、警察は今回の『12.3非常戒厳』に関与してしまったためです。既に多くの映像でご覧になられたと思いますが、国会議員の国会出入りを警察は妨害しました。
これを指揮した内乱の容疑で今月11日明け方、警察庁長官とソウル警察庁長が逮捕されています。このように警察は捜査の第一線に立てない状況が少なからず存在する上に、大統領という高位公職者の犯罪であるため公捜処に一本化しています。
国会を封鎖する警察。3日晩、徐台教撮影。
次に検察です。
検察は非常戒厳に関わった数人の軍幹部を逮捕するなど、4日から最も積極的に捜査を進めてきました。しかし同じ検察出身の尹錫悦大統領をかばうのではないかという「疑いの目」を世間から向けられ続けています。
それには根拠があります。つい最近まで検察は実際に、大統領夫人の金建希(キム・ゴニ)氏への甘々の訪問捜査そして不起訴決定と、言わば検察総長出身の尹錫悦氏の「懐刀」のような評価を受けていました。任期を半分残す尹大統領は「生きた権力」であるため、それに付き従う存在のようでした。
こうした見方からすると、今回の検察の姿は「組織の保身のためにうまく立ち回る」という組織の特性を表す行動と受け止められます。違憲の疑いが濃い非常戒厳を行った尹大統領を断罪することで、今後表れる新たな権力との関係をスムーズにしたいのでは、ということです。
ここまでうがった見方をすると疲れますが100%「そんなことはない」とも言えません。
●特別検察という解決策
ならばどうすれば良いのでしょうか。捜査も起訴もでき、権力の干渉を受けないやり方が一つあります。それは特別検察法です。国会が任命する特別検察官が尹錫悦大統領の内乱や職権濫用についてを捜査し、裁判も維持するというものです。
実際に今月12日、国会で『尹錫悦大統領の非常戒厳宣布による内乱行為を調査するための特別検察法』が可決されました。
しかし職務停止となった尹氏に代わり大統領代行となった韓悳洙(ハン・ドクス)国務総理は17日、24日の国務会議(閣議)でこれを公布しませんでした。そればかりか拒否権の行使をほのめかしています。
公布期限は1月1日であるため、明日31日の国務会議で新たな大統領代行である崔相穆(チェ・サンモク)企画財政部長官兼経済副総理がどう判断するかが一旦の見どころとなります。
しかし、韓国メディアの論調では、期限の1月1日まで粘るのではないかと見られています。崔相穆氏は大統領代行になったばかり、後述する憲法裁判官の任命も加わり、韓国の命運を左右する選択を迫られています。
崔相穆大統領権限代行。企画財政部提供。
●弾劾と憲法裁判所、そして憲法裁判官の任命
だいぶややこしいですよね。これでも最大限に端折っているのですが、非常戒厳に関しては毎日とんでもないニュースが飛び出てくるので全容を掴むのはなかなか大変です。
それでもニュースレター読者の皆さんにはなんとか全容を掴んで欲しいので、説明を続けていきます。もう少しです。
先ほどサラリと「韓悳洙大統領代行も弾劾された」と書きましたが、これは27日の出来事です。なぜでしょうか。野党が提示した理由は5つありますが、最も重要なのは「憲法裁判官の任命を拒否したこと」です。
この部分は非常に重要です。どういうことでしょうか。
尹大統領は現在、憲法裁判所で弾劾審判を受けています。憲法裁判所は6月11日までに認容(罷免)なのか、棄却なのかの決定を下さなければなりません。しかし今のところ、それは不可能であると見られています。
理由は他でもない、憲法裁判官が定数に満たないためです。
現在、憲法裁判官は定数9人のうち、6人が在籍し、3人は空席となっています。憲法裁判所法の23条第一項では「裁判部は裁判官7人以上の出席で事件を審理する」と定める一方、続く第二項で弾劾の決定には「6人以上の賛成が必要である」と定めています。
つまり、今のままでは審理ができません。しかし27日、憲法裁判所では審理が始まりました。これは今年10月、憲法裁判所法23条第一項の効力を止める仮処分申請が憲法裁判所により認められたためです。
しかしこのままでは最終判断(決定)は難しいというのが大方の見方です。
今月24日、憲法裁判所の広報官は「6人でも審理と弁論まで可能である」と述べています。しかしこれは最終的な決定が可能であるのかどうかに結論は出ていません。
弾劾可決案が可決された当初は 「6人全員が賛成すれば尹錫悦大統領は罷免される」という説(私もこう考えていた)が優勢でしたが、これはいったん脇に置いて考える必要があります。このままでは弾劾審判は終わりません。
ソウル安国(アングク)駅前にある憲法裁判所。厳重な警備が敷かれている。28日、徐台教撮影。
このため、共に民主党を中心とする野党は空席となっている3人の憲法裁判官の任命を急ぐよう韓悳洙大統領代行に求めてきました。しかし26日、韓氏は 「与野党が合議し案を提出するまで、私は憲法裁判官の任命を保留する」と明かしたのです。
理由は「憲法機関の任命を含めた大統領の重大な固有権限の行使は自制するのが韓国の憲法と法律に込められた一貫した精神である」というものです。憲法機関とは、国会(国会議員)、大統領、総理、最高裁判官、憲法裁判官といった憲法で規定される機関を指します。
つまり、自身はあくまでも大統領代行であり、大統領ではないため、大統領にだけ認められた権限は行使できないというものです。
17年に朴槿惠大統領が弾劾された際に、当時の黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行が憲法裁判官を任命したことがありますが、これはあくまで罷免後のことであり、自身が前例を作るつもりはないという確固とした気持ちを明かしました。
一見、筋が通ったように見えるこの意見ですが、異論が相次いでいます。
それは空席の3人が、国会が推薦する枠だからです。既に国会でプロセスが終わっている人事にもかかわらず、なぜ韓悳洙氏はこれは認めないのか、合理的な理由が存在しないのです。
3人のうち、2人は野党から、1人は与党からとなりますが、11月下旬に人選が終わり、この際に「与野党の合意」は行われたと見なされています。
しかし韓悳洙氏は頑なにこの任命を拒否し、そして翌27日に共に民主党が発議した弾劾訴追案が国会で可決したことで、職務停止となりました。やはり憲法裁判所で認容(罷免)か棄却(職務復帰)かの判断を待つことになります。
韓悳洙さん。国務総理室提供。
韓悳洙氏といえば「韓国最高の官僚の一人」とされる人物です。49年生まれの75歳。ソウル大学商科大学経済学科を首席で卒業し、その能力を社会のために役立てると行政の道に進みました。
その後ハーバード大学で経済学博士号も取得、93年の金泳三(キム・ヨンサム)政府発足後からは、金泳三、金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)、李明博(イ・ミョンバク)政権下で要職を歴任します。盧武鉉政権下では国務総理まで務め、官僚として最高位に登り詰めました。尹政権の発足以降、二度目の国務総理を長期にわたり担っています。
合理的で堅実な市場主義者として知られるそんな人物が、なぜ憲法裁判官の任命を拒否するのかは今なおミステリーです。
結果として内乱を起こした尹錫悦大統領を擁護することになる行為であることは明らかであるため、とても残念な姿に映りました。あるいは「官僚」としての限界なのかもしれません。
●崔相穆代行の判断は?
それでは、27日から大統領権限代行となっている崔相穆氏は憲法裁判官任命、そして特別検察法について、どんな判断を下すのでしょうか。崔相穆氏もソウル大法科大学司法学部を首席で卒業した秀才官僚として知られる人物です。61歳です。
ちなみに、崔相穆氏は「大統領権限代行兼、国務総理代行兼、企画財政部長官兼、経済副総理」となっています。巷で言われるような「代行の代行」ではなく、あくまで大統領代行であると認識すべきですが、一人三役になっているのは事実です。
私は直接取材している訳ではありませんが、韓国紙の論調を総合すると、特別検察法には拒否権を行使するも、憲法裁判官の任命については悩んでいるといったところです。
30日、面談する禹元植国会議長(右)と崔相穆大統領権限代行。企画財政部提供。
30日、禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長が崔相穆氏と面談し、憲法裁判官を任命するよう説得し、政治学者542人は特別検察法の公布と憲法裁判官を任命するよう連名で訴えました。この中で政治学者たちは「大韓民国は現在、国家的な危機状況にある」とし、「憲法秩序の回復と国政安定」のための決断を促しました。
共に民主党は、崔相穆氏が任命を拒否する場合には、ふたたび弾劾するとしていますが、このやり方には党内からも批判の声が上がっています。どうにかここで結論を出すべきです。
既にお気づきの通り、国政のあらゆる判断が憲法裁判所に委ねられています。その憲法裁判所を正常化させることがまず、何よりも優先されるべきでしょう。場合によっては特別検察法は後回しでも良いのではないでしょうか。
●尹錫悦大統領の弾劾審判は「スピード重視」
最後に、尹大統領は今後どうなるのかです。
先述したように27日、憲法裁判所で一度目の審理(正確には弁論準備手続き)の際に、この裁判が「刑事裁判ではない憲法裁判である」としました。
この意味を詳しく伝えた30日付けの『京郷新聞』によると、これは裁判の争点があくまで「憲法違反」であることを示しているといいます。冒頭でも触れたように、非常戒厳宣布が憲法を違反したかどうかを判断するというものです。
この日、憲法裁判官の一人が述べた「刑事訴訟のように厳密に証拠を争ったり、被告人(尹錫悦)の個人的な権利の保護を刑事訴訟ほどに保障することは難しい」と述べた点は象徴的です。記事によると尹氏側の裁判遅延を遮断する目的があるとのことです。
次回の審理は1月3日に予定されています。尹大統領は必要なタイミングで直接弁論に臨むとも見られています。
なお、憲法裁判所が再整理した国会による弾劾訴追の事由は以下の通りです。記事から引用します。
①12月3日の非常戒厳宣布行為、②戒厳司令官を通じ布告令1号を発表させた行為、③軍隊・警察を動員し国会を封鎖・進入し、戒厳解除要求件を含む国会活動を妨害した行為、④軍隊を動員を令状なしに中央選挙管理委員会を強制捜査した行為
憲法裁判所前にずらりとならぶ花輪。いずれも尹大統領の弾劾に反対するものです。市民が意志表示のために花輪を送る文化はここ数年生まれたものです。徐台教撮影。
●「時間稼ぎ」の意味
本当に最後です。
先に「遅延」と書きましたが、尹大統領が引き延ばしを図る背景には、最大野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン、61)代表の裁判事情があります。
李氏は今年11月15日に公職選挙法違反に問われた裁判の1審で有罪判決を、同25日には偽証教唆に問われた裁判の1審で無罪判決を受けています。
それぞれ2審に突入したのですが、公選法違反裁判の場合、1審から2審までは3か月、2審から最高裁(大法院)までは3か月と期限が定められていることから、5月15日にまでに決着がつかなければなりません。
与党は今月16日に「2審を2月15日までに」と裁判所に要求する決議案を採択するなど「時間」を重要視しています。
憲法裁判所により尹大統領が罷免される場合、そこから60日以内に大統領選が行われます。それが李氏のデッドラインである5月15日以前なのか、もしくはそれ以降になるのかが焦点と言えます。
もちろん、予備選を通じ共に民主党から別の候補が出ることもあり得ますが、その可能性は低いため、皆がカレンダーを見ながら仕事をしている状況です。
尹錫悦大統領に関するお話は一旦ここまでとします。間が空いたので書くことが多くなってしまいました。一回ここまで書いておけば次回からは短くまとめられると思います。
(2)済州航空惨事について
既に日本のニュースでも大きく扱われているので、事故の詳細は省きます。29日朝、全羅南道にある務安(ムアン)空港に着陸しようとしたチェジュエアー(済州航空)便が、何らかの理由から胴体着陸を試みるも減速せず、空港の外壁に衝突し炎上した事故です。179人が亡くなり、2人が救助されました。
今のところ韓国メディアの中で今回の一件を「事故」と呼ぶところはありません。「惨事」と呼んでいます。古くは94年の聖水大橋の崩落(死者32人)、95年の三豊百貨店の崩壊(死者502名)、14年のセウォル号沈没(死者304人)、22年の梨泰院雑踏事故(死者159人)などと同じ扱いです。国家の大惨事ということです。
事故の原因は、これから長い時間をかけ分析することで明らかになるでしょう。ブラックボックスとボイスレコーダーの回収が終わり、亡くなった方の身元確認も明日には完了するとのことです。
事故当日の29日は土曜日でしたが、私を含め多くの韓国に住む人々がテレビの前から動けなかったと思います。繰り返し流れる滑走路を滑る飛行機の姿(爆発する場面は途中から流さなくなりました)を見る度に心が削られるようでした。
事故機が衝突した方位角。SBSよりキャプチャ。
方位角の場所。滑走路から251メートル離れた所にあり、外壁と滑走路の間に位置していた。SBSよりキャプチャ。
ニュースに出てくる専門家の中には、なぜ滑走路の果てに壁状の物体があったのかを強く追及する声があります。コンクリート製でさらに土まで被せてあったものです。韓国では방위각(方位角)と呼んでいますが、着陸を助けるための施設だそうです。
あの壁さえ無かったら空港の外壁を突き破り機体が空港外に出ることで速度がもっと落ち、ここまで大きな被害が出ることもなかったといいます。
政府の説明では未だに方位角をどう作るのかの規格があるのか無いのかよく分かりませんが、いくつかの記事では、外国の専門家もこの「方位角」が事故を大きくしたと指摘しています。
また、務安空港付近は有数の渡り鳥の飛来地であるとされ、エンジンが鳥を巻き込むバードストライクの危険が他の空港よりも高かったという話もあります。さらに、チェジュエアーは飛行機一台あたりの稼働時間が韓国の航空6社の中で最も長く、整備が疎かになっていたのではないかなど、事故に関係ありそうな内容が次から次へと出てきます。
繰り返しになりますが、現段階ではこうした部分は推測に過ぎません。しかしこのような惨事が起こる度に「ああすれば防げたはずだ」という話が出てきてガックリすることになります。「事故」や「惨事」でなく、「人災」だったという話です。本当にこういう出来事はこれで最後になってほしいものです。
(3)北朝鮮の朝鮮労働党全員会議
12月は韓国であまりに大きな出来事が続き、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)や南北関係を見る比重が相対的に下がりました。
しかし12月23日から27日まで、北朝鮮では大事な会議がありました。朝鮮労働党中央委員会第8期第11次全員会議拡大会議です。日本メディアでは「中央委員会拡大総会」と訳されているものです。
朝鮮労働党機関誌『労働新聞』は29日、この会議の結果を長い記事にまとめました。写真は49枚もあります。さらにそれとは別に同会議の結果の人事を反映した「公報」も掲載しました。17人の幹部たちの写真と肩書きがイメージ化されています。
この会議の結果をめぐっては今日現在、統一研究院と極東問題研究所で分析資料が出ています。これらを元に、対外関係、南北関係に関する部分を整理してみます。北朝鮮国内の政治や経済などについては別途扱うことにします。
同会の内容を伝える労働新聞のバナー。
●対外部門:米国
まず米国については「最強硬対米対応戦略」という単語が目に付きます。米国による「反共和国(北朝鮮)軍事的挑発策動に対処し、国防科学技術の加速的な進歩と防衛産業の急進的な発展により、自衛的戦争抑止力の強化をより信頼をもてるよう担保する」としました。
こうした言及について、統一研究院では「トランプ政権の発足後に米国との対話や核に関する交渉で優位に立つために外交的な手段よりも、軍事的な圧迫を図る可能性がある」と見立てています。
米国の出方を見極めるまでは曖昧な姿勢を取りうるが、満足できない米国の北朝鮮政策が出る場合に、最強硬対応戦略を実行するのでは、という分析です。
また、この会議にあった「国家の尊厳と国益を尊重する親善的で友好的な国との関係発展を積極的に図る」と明かします。ここにはロシアや中国の他にグローバルサウス国家が入ると見ています。
●対外・軍事部門:ロシア
ロシアについては派兵を認めるといったことはありませんでした。また、軍事的な部分については国防力発展計画や国防に関する具体的な課業に対する言及が無かった点が特徴であるとしています。また核武力への言及も公開部分にはありませんでした。
統一研究院のレポートでは「対内外の情勢の不確実性と変動期の情勢運用のために、身を振る空間を確保する次元から、今後展開されるであろう米国の対北政策や情勢変化などを念頭においた」と前置きした上で、「過剰に好戦的な計画を明かすことを自制した可能性もある」としています。
また、人事の特徴として、「ウクライナ戦への派兵、ミサイルおよび軍需、朝露軍事協力に関する人物たちの躍進がある」としています。
●南北関係
実は今回、韓国に関する内容がほぼゼロでした。労働新聞の記事でわずかに一度「大韓民国」という言葉が出てきただけです。該当部分を引用してみます。
「米国は変わらず反共を国是としている、最も反動的な国家的な実態であり、米日韓同盟が侵略的な核軍事ブロックとして防諜し、大韓民国が米国の徹底した反共前哨基地に転落した現実は、私たちがどのような方向に進めば良いのか、何をどうすべきかを明白に提示している」
統一研究院はレポートの中で、これは昨年23年の中央委総会とは異なる様子であると指摘します。
昨年12月の同会議で金正恩氏は韓国について長々と触れ、「北南関係はこれ以上は同族関係・同質関係ではない、敵対的な二つの国家関係、戦争中にある二つの交戦国関係として完全に固着しました」という爆弾発言をしました。いわゆる敵対的二国家論です。該当記事はこちらから。
統一研究院はさらに、労働新聞の報道した写真から崔善姫(チェ・ソニ)外相(党中央委員会政治局委員)の主宰で「対南および対外分科研究および協議会」が開かれたと言及しています。同院では、いずれにせよ、韓国との関係は、米国に対する戦略の下位に位置づけられるとしています。
韓国を「無視」しているのか、それとも優先順位が低いだけなのか、見極めが必要な部分です。
崔善姫外相。朝鮮中央通信より。
(4)年末のご挨拶と2025年の見通し
ずいぶんと長くなってしまったので、最後に2025年の見通しに触れて終わりにします。
25年はニュースレターを本格的に仕事の中心に据えていきます。毎週定期的に朝鮮半島の出来事をしっかり整理しながら、オリジナルの取材を進めていきます。
そして3月初頭を目処に大幅なリニューアルを行います。名前を『コリア・フォーカス』へと変え、外部の筆陣を入れてジャーナルに形式にします。私は南北関係に集中して記事を書くようにします。資金繰りのために色々と動いています。また進展があったらお知らせします。
来年は韓国で尹錫悦大統領が罷免されることはほぼ間違いなく、早ければ上半期に新たな大統領が就任する可能性があります。
現在の混乱があまりにもひどいため、これを立て直すのに時間がかかるでしょうが、南北関係もこのまま終わるとは思えません。うまくリニューアルを先に行い、様々な視点を日本社会に提供していきます。
来年もYouTube『徐台教の韓国通信(デモクラシータイムスch内)』は続けていきます。動画は動画、テキストはテキストとしっかり役割を分けてやっていきます。とにかく「何でも屋」にならないように気を付けていきます。
懸案の書籍ですが、これは順調に進めています。決定的な進展があり次第、すぐにお知らせいたします。
これにて2024年のニュースレターは終わりです。新年は2週目からの発行となります。
今年一年間、ニュースレターを支えていただいたサポートメンバーの皆さまに深く感謝しております。ニュースレターだけでなく、仕事全般を支えていただいたという感触があります。来年は「伝える」ことに加え「社会を変える」ことを意識してやっていきます。
今年も残すところあと一日となりましたが、皆さまもどうか良いお年をお迎えください。本当に一年間ありがとうございました。(徐台教)
31日午前5時の姿です。皆さまありがとうございました!