サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。年末に向かうせわしさからなのか、それとも陰に陽に濃さを増す世界的なきな臭さにあてられてか、落ち着かない日々が続いていませんか。
私の日常もひと言で「ニュースの洪水」です。私がふだん関心を持って追っている分野は、朝鮮半島情勢、南北関係、韓国政治、日韓歴史問題という形になりますが、これまでにない数のニュースが出てきています。
さらに年末を控えた時期柄、そして米大統領選という世界的イベントを受け、それなりに重要と思えるシンポジウムも毎日のように開催されています。インプットとアウトプットのバランスを考え頭を抱えている中、ざっと一週間を振り返る形で今号をお送りします。
◎風雲急を告げる韓国政治
(1)李在明代表に一審で有罪判決
※この部分の一部は判決が出る前に書いたものですが、参考までにそのまま引用いたします
今日15日と明日16日は韓国政治にとって、大きなターニングポイントになる日です。
まず15日の午後2時半からソウル中央地検で開かれる法廷で、最大野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表に一審判決が下ります。嫌疑は公職選挙法違反です。前回の大統領選挙(22年3月実施)に臨む過程の21年10月と12月に、李在明氏が嘘をついたというものです。検察は懲役2年を求刑していました。
そして午後3時過ぎ「懲役1年、執行猶予2年」という判決が出ました。
判決の内容が注目される理由は、李氏の政治的評価やリーダーシップに傷がつく可能性があるためです。どう見ればよいのかについて保守系日刊紙『中央日報』が3つのシナリオを挙げ詳しく取り上げています。
共に民主党の李在明代表。10日、筆者撮影。
まずは100万ウォン(約11万円)以上の有罪となる場合です。今回の判決はこの部分に該当します。懲役刑(執行猶予刑)ということで、予想を上回る量刑となったと、韓国メディアは伝えています。
韓国では公職選挙法違反で100万ウォン以上の罰金刑もしくは禁固刑となる場合、被選挙権が5年間(※)制限されます。李氏がこれに該当する場合、次期大統領選(27年3月実施)に立候補できなくなります。
※李氏への判決は罰金刑ではなく懲役刑であるため、これが確定する場合に被選挙権剥奪期間は10年となります。
また、こうした判決が下る場合、前回大統領選で国庫補助を受けた434億ウォン(約47億円)を国に返付しなければなりません。李氏はもちろん、共に民主党にも致命傷となる「最悪のシナリオ」です。
一審判決直後、李氏は控訴するとしました。いずれにせよ大法院(最高裁)までもつれこむことになるので、すぐに何かが起きる訳ではありませんが、現在、党内で絶対的な地位を築いている李氏の立場にヒビが入る可能性があります。
過去に韓国政治を動かした「三金」つまり、金大中(キム・デジュン)、金泳三(キム・ヨンサム)、金鍾泌(キム・ジョンピル)をもじり、「新・三金」と呼ばれる金富謙(キム・ブギョム)元総理、金東兗(キム・ドンヨン)京畿道知事、金慶洙(キム・ギョンス)元慶尚南道知事の三人が動くのではと見られています。
次に100万ウォン以下の有罪となる場合です。
これは「李氏にとって政治的な勝利となる」と中央日報の記事で専門家が述べています。有罪ではあるものの、被選挙権の剥奪には至らないことで、李代表は体面を保つことができます。このシナリオの特徴は「司法も体面を保てる」という点にあるそうです。
100万ウォン以上の量刑にする場合、韓国政治の一つの軸である共に民主党にとって大打撃となり、支持者たちにより判決を下した判事への個人攻撃、司法への圧力などが最高潮に達する可能性が高いからです。
司法への不信を煽るのは韓国政治における悪癖と言わざるを得ない部分ですが、こんな混乱を避ける、いわば玉虫色の決着がこの100万ウォン以下の罰金です。そういう決め方でいいのか、と思うのですが。
最後に無罪です。
この場合には与党・国民の力や大統領にとって不利となります。共に民主党のあらゆる政治的な主張を「李代表を守るため」と攻撃してきたことが、そのままブーメランとなって返ってきます。
そして、14日に野党が国会で可決した大統領夫人・金建希(キム・ゴニ)特別検察法の行方や、大統領夫妻を巻き込んだスキャンダルに注目が移ることになります。
ここ二か月あまり、金建希氏とその知人のミョン・テギュン氏が与党の選挙候補人事や、大統領の人事さらに経済措置に関する情報の事前漏洩に関わっていたのではないかという疑惑が毎日のように報じられています。
尹錫悦大統領の肉声も公開され、限りなく「クロ」に近いという印象が韓国社会に形成されつつあります。
ミョン・テギュン氏。15日早朝、逮捕されました。同氏のFacebookより。
ミョン氏は15日に逮捕されましたが、この捜査をどこまで行うのかも注目の的です。つまり、大統領夫妻が傷つかない範囲で「幕引き」を図ろうとする場合に、世論の強い批判を浴びることになるということです。
李氏に対する無罪判決はこんな動きを加速化させるトリガーになる可能性があります。
判決を控えた今日、裁判所の前では李在明代表の支持者数百人以上が無罪判決を求める集会を開きました。
また、反対に有罪を求める集会もあり、非常に騒がしい雰囲気となったとのことです。25日には李氏が偽証教唆した嫌疑についての一審判決もあります。共に民主党のある関係者によると「今回の裁判はなんとかなるが、25日にものは厳しいという見方」とのことでした。
後述するように「ポスト尹錫悦」に関心が集まる中、今日の判決には大きな注目が集まりましたが、李在明氏に予想外の重い判決が下ったことで、共に民主党の反応を中心にさらに混迷を増す見通しです。
判決後、記者会見に応じる李在明代表。「今日のこの場面も韓国の現代史の一ページになる」とし、判決への不満を強く訴えると共に、控訴することを明かしました。YTNより引用。
(2)高まる尹錫悦大統領退陣を求める声
「国民の命令だ、尹錫悦を弾劾せよ!」
13日、国会議員会館の大ホールで20人あまりの議員がこうコールしました。この日、韓国国会に「弾劾議員連帯」が発足しました。共に民主党から27人、祖国革新党から9人、進歩党から3人、基本所得党から1人、社会民主党から1人の計41人が名を連ねました。
私も取材に行ったのですが、400人近く入れるホールは各議員の支持者などにより満席に近く、なかなかの熱気でした。
壇上で「尹錫悦を弾劾せよ」というプラカードを掲げる議員たち。13日、筆者撮影。
日本には馴染みがない制度である大統領弾劾、その二段階の仕組みついて改めて説明します。
まずは国会です。
弾劾決議案が可決される必要があるのですが、それには国会在籍議員の過半数(150人以上)が発議した法案について、国会在籍議員の3分の2(200人)以上が賛成しなければなりません。可決された場合、大統領はただちに職務停止となり、国務総理が大統領代行となります。
次に憲法裁判所です。
弾劾決議案は訴追議定書として憲法裁判所に持ち込まれ、弾劾審判が行われます。憲法裁判所は180日以内に最終決定を下さなければなりません。憲法裁判官(定数9)のうち6人以上が弾劾の理由を認め賛成する場合、「認容」となり大統領は罷免されます。
なお、過去に韓国の大統領の中で唯一弾劾された、朴槿惠(パク・クネ)元大統領の場合、16年12月9日に国会で弾劾決議案が可決され(可決234人)、翌17年3月10日に憲法裁判所裁判官(当時は8人)の全員一致で罷免となりました。
弾劾の理由は、崔順実(チェ・スンシル)の国政介入を許し、権力を濫用したというものです。
現在に戻りましょう。
過半数を優に超える170議席を持つ共に民主党は、祖国革新党などとは異なり、尹錫悦大統領の弾劾を党論として定めていません。
もし定めると仮定する場合、弾劾決議案の発議に問題はありませんが、可決となる200議席には野党すべての党を合わせても8議席が足りません。
このため13日、弾劾議員連帯は「200人を集める」ことを目的とすることを明かしました。与党議員のうち最低でも8人が弾劾決議案に賛成する必要があります。
「弾劾で審判せよ」というプラカード掲げる議員と支持者たち。13日、筆者撮影。
それでは弾劾は実現するのでしょうか?これについて10日、興味深い意見を聞きました。
この日は日曜日だったのですが、共に民主党の李在明代表の主宰で、米大統領選においてトランプ氏が再選したことを受け、今後の朝鮮半島情勢に関する記者懇談会が行われました。
珍しく外信(外国メディア)を意識した会であり、これは李在明氏が本格的に次期大統領選への準備を始めたのだなと思わせるものでした。
私も出席し、李代表に二つ質問しました。蛇足を承知で説明しますと、一つ目は「同党が米国のトランプ陣営に代表団を派遣する考えはあるのか」というもので、もう一つは「現在、南北政府間をつなぐ対話のチャンネルが全くないが、共に民主党には北朝鮮との対話のツテはあるのか」というものでした。
答はいずれも「NO」。
特に後者については「政府にもないのに野党にある訳ない」と、やや無気力なものでした。
ふたたび本論ですが、この時の食事会で隣の席に座った同党のある議員に色々と聞く機会があったのです。
その際に、16年の朴槿惠大統領の弾劾時と現在の状況を比べながら、弾劾に行くのかと聞いてみたのですが、否定的な見解でした。「今のまま、支持率20%くらいを維持しながら政権は続いていくのではないか」というコメントでした。
興味深かったのは「今の尹大統領に近い議員は親李明博(イ・ミョンバク、朴槿惠の直前の保守派大統領)派たちだ。彼らは一度、朴槿惠弾劾の際に裏切ったことがある」という指摘でした。これは今後、展開によってはどうなるのか分からないということであり、印象に残りました。
(3)ろうそく集会の行方は
最後に、この「展開」について触れて本項を終わりにします。
ソウルでは毎週土曜日午後から夕方にかけて、尹錫悦大統領を批判し、退陣を求める集会が行われています。
特に先々週(11月2日)、先週(11月9日)と共に民主党が党を挙げて集会をリードし、かなりの人出があったと報じられています。李在明氏もマイクを握りました。
参加者数は2日の場合、30万人という主催者とその10分の1以下であるという警察発表の間に大きな差がありました。真実はどこにあるのか、私も「ジャッジ」をしようと試みたのですが、いかんせん現場に足を運んでいないため言及を控えてきました。
今週土曜日(明日です)のデモは注目です。
先述した国会での弾劾議員連帯の発足という野党の一本化に加え、これまで別々に尹錫悦退陣運動をやってきた市民団体も13日から14日にかけて急速に一本化を進めています。
このような二つの一本化に加え、李氏の一審有罪判決を受け、反尹錫悦運動が大きなうねりとなる可能性があります。
ただ、16年から17年にかけての朴槿惠弾劾の全課程を取材した立場から言うせてもらうと、本当に「社会を変える」思いが強かった当時の集会と今では、その性質に大きな違いがあります。
当時のデモは政治色はほとんど無く、ろうそくデモの参加者はむしろ、自身が政治の党派に吸収されカテゴライズされることを強く避けていました。
このため、生まれて初めてデモに足を運んだ人が少なくなく、そんな純粋さが大きな力を生んだ側面があります。
それに比べ現時点ではまだ、共に民主党や野党の動員が目立ち、李在明裁判という党派性も存在します。
李在明氏の有罪判決を受け、明日のデモはこんな集会が今後、どのように形を変えていくのかを図るものになりそうです。しっかり取材して見極めてこようと思います。
◎日韓国交正常化60年を控え「三つのテーマ」
国会に取材に行った13日の午後、私はシンポジウムを取材するため、ソウル都心のプレスセンターに足を運びました。
韓国政府傘下の「日帝強制動員被害者支援財団」が主催する学術大会です。タイトルは『浮島丸、長生炭鉱、原爆被害の問題解決のための課題』というもので、現在進行形の日韓にまたがる三つの問題を扱う意欲的な会でした。
このシンポジウムについて、発表者の一人であり、浮島丸の乗船者名簿を世に出すという大仕事をしたフリージャーナリストの布施祐仁さんは「浮島丸、長生炭鉱、原爆被害の問題解決に取り組む関係者が一同に会する貴重な場」であると評価しました。
発言する布施祐仁さん(左から二人目)。13日、筆者撮影。
同じく井上洋子さん。同上。
私もこの日、現在日本メディアから最も注目を集める長生炭鉱(山口県宇部市)の遺骨発掘をリードする市民団体『長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会』の井上洋子さんに初めてお目にかかり、そのパワフルさに圧倒されるなど、大変意味のある取材となりました。
これについては別途、日本世論への広がりを考えYahoo!ニュースに無料記事として公開すべきと考えています。来週初頭に記事を書きますのでお待ちください。
◎映画『アマゾン名射手』観覧記
皆さんも同じようなことが思うのですが、頭がぎゅーっと緊張している際に、リラックスするために映画を観たりしますよね?
つい数日前に、その必要を感じ、子どもを連れて映画館に足を運びました。観たのは『アマゾン名射手(原題:아마존 활명수)』。大好きな名優リュ・スンリョンさん主演のコメディ映画です。
たまたま映画館アプリを開いた際に1位だった映画で、リュさんが出ているということもあり即決したものの、映画館に向かう際に問題が起きました。
『アマゾン名射手』ポスター。10月30日に公開されました。
てっきり数百万人が観ていると勘違いしていた私は、娘に「観客はどれくらいなん?」と聞きました。答は「49万人」。とてもヒット作とは呼べない数字です。
あれ?と思い「どんな感想が書いてあるん?」と質問を続けると、「世の中に出てきてはいけない映画」、「お金がもったいない」、「リュ・スンリョンの無駄遣い」、「コメディ映画なのに口角すら上がらなかった」とひどい書き込みのオンパレード。思わず「観に行くのやめようか」と問いかけてしまいました。
それでも気を取り直し観ましたが、とんでもない、笑いあり涙ありの佳作でした。
元アーチェリー五輪選手の商社マンが南米の架空の国で金鉱開発の権利を得ようと、同国の意向に従いアーチェリー世界大会で同国にメダルをもたらそうと悪戦苦闘する話です。
狩猟民族で名射手のアマゾン原住民3人とその通訳が韓国で暮らす姿を通じ、色々なカルチャーギャップが描かれ、韓国社会の問題点が浮かび上がります。
金鉱の乱開発で、選手である原住民の住む村も大きな被害を受けていることも明らかになり、商社と選手の間で板挟みになる主人公が選手側を選んだことで、最後は感動的なフィナーレとなります。
興行成績の不振により日本での公開は難しいかもしれませんが、Netflixなどでいずれ観られるようになると思います。見かけた際はオススメです。
それにしても、ネットのコメントは本当にアテになりませんね。見終わった後に娘も息子も大満足でした。なかなか良い時間でした。
◎あとがきに代えて
「クルピッ(글빚)」という造語があります。文字の借金という意味で、書かなければならないのに書けていないものを指します。今は記事に本にといくつかこれを抱えている状態で、年内にすべて整理するスケジュールで一つ一つ進めてします。辛抱ですが気合いで乗り切ります。
また、年明けからはニュースレターに外部の筆者も入れようと資金面を含め画策しています。私が弱いカルチャー面の手練れライターや、韓国の政治家や専門家にも寄稿をお願いする予定です。
そうすることで私も、自分の強みである朝鮮半島情勢や南北関係といったテーマにより集中できるようになります。
このニュースレターも開始から1年が経ちました。来年は一つのプラットフォームとして育てていこうと思っています。
たくさんの出来事とニュースの洪水の中で、信頼できる情報源となり、さらに朝鮮半島と日本の今後を見通し変化を作っていく、そんなメディアになります。今後ともよろしくお願いいたします。
あっという間に12月が近づいてきています。不安定な天気が続くと思いますが皆さまくれぐれもご自愛ください。いつもありがとうございます。(徐台教)