ニュースレター号

[63号] 韓流は北朝鮮住民をどう変えたか?、ドキュメンタリー「沖縄アリラン」、尹政権は夫人スキャンダルで‘四面楚歌’など

 サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。韓国の徐台教です。韓国は秋雨で肌寒いすが、日本はいかがでしょうか。前回のお知らせで記事は火曜日に、ジャーナル形式のニュースレターは木曜日とお伝えしたのですが、やってみたところ木曜日は無理でした。後述するように水曜日を終日取材に当てたのですが、そうなると木曜日は難しいという結論になりました。

 火曜日(15日)にお送りした記事はお読みいただけましたでしょうか。

 この日、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が南北を結ぶ道路2本を爆破したことで南北関係に緊張が集まりましたが、その背景に尹政権が出し続けている「ちょっかい」の存在があることを指摘した記事です。まだ未読の方はリンクを貼っておきますのでごゆっくりお読みください。

 さらに翌16日、ポリタスTV(津田大介さんを中心にたくさんのMCが活躍するYouTube番組)に出演し、この問題について説明しました。後半部で今月10日にノーベル文学賞を受賞した韓江(ハン・ガン、)さんのノーベル賞受賞が「進歩派が進歩するきっかけになれば」という問題意識を明かしました。

 これは今、私が持っている一番最先端の問題意識です。こんな部分を整理しながら韓国言論界に飛び込んでいこうと考えています。

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 それでは今号の内容です。プチリニューアルという形になります。今後は基本的に、▲一週間の朝鮮半島情勢整理、▲韓国政治・社会、▲ドキュメンタリー・映画、▲その他、という形で進めていきます。

 ●63号目次
 (1)一週間の朝鮮半島情勢の整理
 (2)韓国政治:尹政権は夫人のスキャンダルで崖っぷち
 (3)ドキュメンタリー紹介:沖縄アリラン(24年8月、KBS)
 (4)韓流は北朝鮮住民をどう変えたか?最新論文から読む
 (5)あとがきに代えて

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(1)南北関係と朝鮮半島情勢(10月10日〜18日)

◎10月10日

・トランプ前大統領が9日(現地時間)、遊説中に過去、金正恩委員長と通話したと明かしました。「どちらの核ボタンが大きくて強いか」とやりあっていた18年1月に、金正恩から電話が来てそれが同年6月の首脳会談につながったといいます。こんな話は初めて聞くもので信憑性は低いです。

・9日午前、北朝鮮が国連軍司令部に電話通知文を送り、南北の陸路の完全な断絶のための工事を行うと通報しました。その内容は韓国軍によると「9日から南側の国境線一帯で、わが方の地域で大韓民国と連結されていた東部・西部の道路を鉄路を完全に絶つための工事を進める」というものです。「工事には多数のわが方の人員と重装備が投入され、爆破作業も予定されている」、「貴方は必要な対策を責任を持って準備すべき」としました。15日、これが実行されました。

・9日、韓国のNGO『北韓人権情報センター(NKDB)』は『2024北韓人権白書』を発表しました。これについては次号以降でまたお伝えします。NKDBでは「信念および表現の権利」の侵害例が2020年代には10年代よりも10倍に増えたと強調しています。

首脳会談を行う日韓首脳。大統領室提供。


首脳会談を行う日韓首脳。大統領室提供。

・尹錫悦大統領と石破新首相がラオス、ビエンチャンで首脳会談を行いました。この二人の会談は初めてです。この場ではミサイルに対する「警報情報」をリアルタイムで共有することを続ける点が強調されるなど、北朝鮮の脅威(ロシアとの協力含む)に対抗することが主に語られました。

・北朝鮮で朝鮮労働党創建79周年記念公演と宴会が行われ、金正恩氏や娘・ジュエ氏が出席しました。また、これに伴い金正恩氏が談話を発表しました。

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◎10月11日

・北朝鮮の外務省が重大声明を出し、10月に入り3度にわたって平壌の中区域(まさにド真ん中です。朝鮮労働党本部庁舎があります)に韓国からの無人機が飛来しビラを撒いたとしました。「すべての攻撃力の使用を準備する」とし「韓国に対する最後通牒」としました。

・韓国軍はこれに対し「そんな事実はない」(国防部長官)としましたが、後に「確認しない(NCND:neither confirm nor deny、確認も否定もしない)」に変わりました。また、北朝鮮に対し「もし北韓がわが国民の安全に危害を加えるならば、その日がまさに北韓政権の終末になると明確に警告する」としました。

・韓国内の学者から「戦術核の(韓国への)再配置は北朝鮮の判断ミスを招く」という指摘が出ました。これは「北朝鮮の核兵器攻撃に対応し、米国はそれに見合った制限的または比例的な対応にとどまるという意味に誤解されるおそれがある」というものです。それよりも今のように「『北韓が核を使ったら政権が終わる』と言ったほうがよい」とのことでした。難しい、というか恐ろしい話をしているものです。

・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が、北朝鮮が南北軍事境界線付近を要塞化するとしたことを受け、これを即時撤回するよう北側に要求しました。さらに「ゴミ風船」撒布も止めるように言いながら「(北朝鮮が)いくら宣言しても南北は決して別の二つの国になれない」、「血を分けた兄弟が外国人にはなれない」としました。また、尹政権い対してはチキンゲームを止めて対話を模索するよう求めました。

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◎10月12日

・北朝鮮で前日の外務省重大声明が労働新聞の一面に掲載されました。朝鮮中央通信は主に対外向けですが、今回の一件は労働新聞、朝鮮中央テレビ、ラジオ(中央放送)でも伝えており、これにより平壌に韓国の無人機が来たというのは周知の事実になりました。ある韓国の専門家は「もはや隠せないのだろう」と指摘しました。そういう側面もありそうです。

北朝鮮メディアが公開した「ビラ」の写真。朝鮮中央通信より。


北朝鮮メディアが公開した「ビラ」の写真。朝鮮中央通信より。

・金正恩氏の妹、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は「韓国の仕業」であり、次に同じ事が繰り返される場合には「おそろしい惨事が必ず起こる」としました。

・韓国の申源湜(シン・ウォンシク)国家安保室長が『TV朝鮮』に出演し、南北関係について語りました。「平壌の防空網が破られたことの損よりも、体制への脅威をチャンスとして利用する利益の方が大きいと戦略的に判断したのでは」と、金正恩氏が無人機の一件を明かした背景を分析しました。結論は「すべての責任は北朝鮮側にある」というものです。

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◎10月13日

・韓国の与党「国民の力」のスポークスマンは「わが国民の安全を脅かす場合には『政権の終末』を覚悟すべき」と明かしました。

・12日、朝鮮人民軍の総参謀部の指示により国境線付近の砲兵連合部隊と重要火力任務が賦課された部隊たちに完全射撃準備態勢をとるよう作戦予備指示を下達した。「戦時定員編成に従い完全武装した8つの砲兵旅団を13日20時まで射撃待機態勢に転換し、各種作戦保障事業を完了」すべきとの内容でした。

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◎10月14日

・13日(現地時間)、ウクライナのゼレンスキー大統領が演説の中で、北朝鮮が占領軍(ロシア軍)に人を送っていると明かしました。これに先立ち、いくつかのメディアが北朝鮮軍の人員がロシアに派遣されウクライナ戦線に投入されていると伝えていました。ロシア当局は否定しています。

・韓国の統一部は一連の北朝鮮の無人機をめぐる動きに「住民の統制が目的、内部の需要によるもの」という見方をしました。追い詰められているという判断です。こうした見方は尹政権に一貫しています。

・北朝鮮の金与正氏が再び談話を出し「無人機は韓国軍の仕業」としました。しかし証拠は示さず。この辺の部分は前掲の記事に書いてありますが、形式的にまとめています。

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◎10月15日

・ロシアが今年6月に北朝鮮との間に結んだ「包括的戦略的パートナーシップ関係に関する条約」の国会で批准する手続きに入ったと明かしました。11月のロシア下院で批准される見通しとのことです。クレムリンの報道官は「安全保障を含む全ての協力を戦略的に深めるもので、重要な意味を持つ」としています。

・ロシア外務省は14日(現地時間)、北朝鮮への無人機とビラ撒布について「内政干渉である」として韓国を批判しました。

京義線爆破の瞬間。韓国国防部提供。


京義線爆破の瞬間。韓国国防部提供。

・正午、北朝鮮が京義線と東海線の南北連結道路を爆破しました。これを受け京畿道は、坡州(パジュ)市、金浦(キンポ)市(私が住んでいるところです!)、漣川(ヨンチョン)郡の11箇所を「危険区域」にすると明かしました。この地域には特別司法警察団を導入し、ビラ撒布などの北朝鮮に向けた宣伝を取り締まるとしています。

・道路爆破を受け米国務省は「緊張の緩和と武力衝突の危険を育てるあらゆる行動を中断することを北朝鮮に求める」と明かし、「北朝鮮が対話と外交に復帰することを督励する」としました。

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◎10月16日

・ウクライナのゼレンスキー大統領は16日(現地時間)、ウクライナ議会で「ウクライナを相手にする戦争に二番目の国が参加した」と発言しました。ウクライナメディアはこれに前後し、北朝鮮によるロシア派兵のニュースを伝えています。「3000人」という具体的な数字も出ています。米国は「確認できない(NCND)」としています。

・北朝鮮の朝鮮労働党機関誌『労働新聞』が、韓国による無人機侵入により「韓国のゴミを懲罰する滅的の意志が国じゅうに溢れている」とし、全国で青年140余万人が入隊・復隊嘆願に署名したと伝えました。プロパガンダ記事です。

韓日米外交次官協議会の様子。共同取材班(ニューシス)提供。


韓日米外交次官協議会の様子。共同取材班(ニューシス)提供。

・韓日米外交次官協議会がソウルで開催されました。共同声明では「インド太平洋地域で3か国のパートナーシップの範囲を拡大するために多様な努力が進展していることを歓迎」するとする一方、北朝鮮の「敵対的な修辞」や「多数の国連安保理決議違反を続けていること」を糾弾しました。

・また、ロシアの反対により今年4月30日をもって終了した国連安全保障委員会の対北制裁委員会の傘下に置かれていた「専門家パネル」に代わるものとして『多国籍制裁モニタリングチーム(MSMT)』の発足を明かしました。これは韓日米の他に、フランス、英国、ドイツ、イタリア、オランダ、カナダ、豪州、ニュージーランドの11か国が北朝鮮制裁の履行をモニタリングする組織です。代替組織ができたのはよいですが、国連の外にある組織であるため、その力不足は否めません。

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◎10月17日

・北朝鮮の『朝鮮中央通信』が道路爆破を伝えながらその理由として「大韓民国を徹底した敵対国家と規制(決めた)した共和国憲法の要求」であることを表明。10月7日から8日にかけて行われた最高人民会議で変わった憲法の中で、統一や領土に関わる憲法の内容がはじめて明かされることとなりました。まだ全文は分かりません。

・上記の変更に対し、韓国の統一部は「統一に対するわが国民と北韓住民の念願を打ち捨てる、反統一的で反民族的な行為」と厳しく非難しました。

◎10月18日

・韓国の国家情報院は北朝鮮が特殊部隊『暴風軍団』1万2000人をロシアに派遣する計画があるとし、その中の1500人はすでにロシアに渡り極東地域で適応訓練を受けていると明かしました。大きな出来事です。韓国の大統領室は「すべての可用手段を動員し対応する」と明かしました。

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(2)韓国政治:尹政権は夫人のスキャンダルで「四面楚歌」、残る手立ては

 もう随分ながいことニュースレターで韓国政治を扱ってきませんでしたが、尹錫悦政権の弱体化は着実に進んでいます。

 毎週定例の支持率世論調査を行っている『リアルメーター』社の最新結果(調査期間7日〜11日)によると支持(肯定評価)25.8%、不支持(否定評価)71.3%で、不支持は政権発足後最低値となっています。もう一つの『ギャラップ』社の定例調査(調査期間15〜17日)によると支持22%、不支持69%となっています。

 ・金建希スキャンダルで限界に

 かなり厳しい状況ですが、これには二つの理由があります。

 まずは4月の総選挙での与党惨敗後の動きです。野党192,与党108議席という歴史的な敗北を受け、尹大統領はそれこそ全てを変えて国政の運営に臨むべきでしたが、結果として何も変えないまま来ている点が、多くの市民の「諦め」につながっています。市民の要求に世を向けることは、政治家とのしての態度ではないということです。

 次は大統領夫人、金建希(キム・ゴニ)さんの尽きぬスキャンダルです。

 従来の高級バッグ授受、株価操作加担、修士・博士論文ねつ造、大統領室・大統領官邸移転に伴う不可解な工事発注、高速道路開発にかかわる路線変更、総選挙時の与党候補者選定への介入、政治ブローカーの暴露などなど、次から次へと疑惑が出てきます。

 さらに、バッグ授受、そしてつい昨日の17日には株価操作加担疑惑の両方を検察が不起訴としたことで、多くの市民「いったいこの政権はなぜ金建希さん一人にこんなに振り回されているのか」とウンザリしているのです。

今月10日、シンガポール大統領夫妻と記念撮影を行う尹大統領夫妻。左端が金建希氏。大統領室提供。


今月10日、シンガポール大統領夫妻と記念撮影を行う尹大統領夫妻。左端が金建希氏。大統領室提供。

 そうなると尹錫悦大統領は弾劾されるのか?という問いが浮かんできますが、その可能性は限りなく低いでしょう。まず、弾劾事由となるような事案が明確に存在しません。

 今年7月に国会で行われた「弾劾聴聞会」では弾劾事由として、▲チェ上兵殉職事件捜査において外圧を加えた疑惑、▲金建希女史に関する疑惑、▲(南北の)戦争危機の助長、▲強制徴用問題の解決(第三者弁済)の強行、▲福島汚染水(処理水)の海洋投棄ほう助、といった内容が挙がっていましたが、この中では本ニュースレターでも繰り返しお伝えした「チェ上兵事件」が最も近いと私は考えます。

 夫人スキャンダルに関しては、共謀して何か利益を得たことなどが明らかになれば前に進むのでしょうが、夫人の独断(完全に夫人に逆らえないとまで言われています)により事が行われている場合にどうなるか、現段階では全く分かりません。

 しかし尹政権がこれ以上、金建希女史の問題を抱え続けるのは限界であることは確かです。与党代表の韓東勲(ハン・ドンフン)さんが正面から金建希氏の活動自粛と大統領室の刷新を要求しているからです。金建希さんが問題であるのは周知の事実であるため、韓東勲さんの主張には「政権のため」という‘大義’もあります。尹大統領は四面楚歌といってよいでしょう。

 ・改憲を

 そんな中18日、韓国紙『韓国日報』に興味深いコラムが載りました。イ・ジュニさんという同社顧問によるものです。尹政権は末期的な状況にあるとし、尹大統領に残された最後の花道は「4年重任制への改憲」だと提案したのです。

 イさんは「政権ごとに繰り返される大統領の独善と不通(コミュニケーション不足)、帝王的な身の処し方を断ち切るためには、国民の直接評価の機会が必要である」とします。具体的には尹大統領がみずからの任期5年を4年に短縮し、26年春(3月)に大統領選と全国地方選挙を同時に行おうというものです。

 これが実現する場合、今後は4年ごとの春に大統領選と統一地方選挙が同時に行われ、その中間に総選挙が行われるという安定した日程が可能になるというものです。26年3月大統領・統一地方選→28年4月総選挙→30年3月大統領・統一地方選→32年4月総選挙、といった形です。大統領選を4月に行えばよりしっくりくるでしょう。

 私はこれに大賛成です。改憲を行い尹政権は韓国社会発展のための「肥やし」になれるでしょうか。

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(3)ドキュメンタリー紹介:沖縄アリラン(24年8月、KBS)

 今年8月13日、韓国の公営放送KBSが放映したドキュメンタリー『沖縄アリラン』。「沖縄の南にある島、宮古島でアリランを歌う現地のお婆さんとお爺さんたち。このドキュメンタリーは彼らの記憶を伝えようとするものです」という冒頭の字幕の通り、これまで断片的に知られてきた宮古島での朝鮮民衆歌謡・アリランの足跡をたどるお話です。

沖縄アリランのタイトル


沖縄アリランのタイトル

 番組には朝鮮語や日本語でアリランを流暢に歌う宮古島の住民が幾人か登場します。なぜこの地域の方々がアリランを歌えるのか。それは労働者や「従軍慰安婦」として強制動員された朝鮮人が歌うアリランを覚えたからです。

 キーワードは「井戸」です。『沖縄戦争の記憶と「慰安所」』(インパクト出版会、16年)の著書がある沖縄大学で歴史研究を行う韓国人学者ホン・ユンシンさんによると、沖縄には147の慰安所があり、宮古島には17の慰安所があったとのことです。

 特徴としては村落内の住宅が慰安所として使われ、そこにいた朝鮮人女性と現地住民は「井戸」での洗濯を通じ交流したといいます。また、宮古島の隣の阿嘉島では特攻艇の特攻隊の一人が朝鮮人で、この人物からアリランが伝わったという話も出てきます。

 沖縄も元は琉球王国です。1879年に日本に服属する中で「沖縄の人は劣っている」とされ、太平洋戦争では人口の3分の1を失いました。日本軍に逆らうと殺されることもある、そんな被差別民として、沖縄の人は朝鮮人が置かれた状況を「自身の経験と重ねて理解する傾向があった」(ホン教授)ということです。「あった事を無かった事にしてはならない」と住民達が「慰安婦」に関する証言を行い様々な事実が明らかになりました。

証言する兼島菊江さん(故人)。「(朝鮮人女性たちがお酒を飲んだ際に)アリランも一緒に歌いましたか?」という質問に、「はい、よく歌っていました」と答えている。


証言する兼島菊江さん(故人)。「(朝鮮人女性たちがお酒を飲んだ際に)アリランも一緒に歌いましたか?」という質問に、「はい、よく歌っていました」と答えている。

 中でも、部落の区長に頼まれ慰安所で炊事係をしていた、兼島菊江(故人)による2010年の証言は胸を打ちます。同氏は慰安所で働いていた女性たちの名前を一人一人挙げながら、彼女たちがお酒を飲むと朝鮮語で「モッサルゲッタ」と話したことや、アリランをよく歌ったと伝えています。

 「モッサルゲッタ」というのは朝鮮語못살겠다のことで、直訳すると生きていけない、つまりとても厳しくつらいという意味になります。他の証言者からは「アイゴ、チュッケッタ아이고 죽겠다」という同様の意味を持つ朝鮮語も出てきます。

 番組には宮古島にある『アリランの碑』も出てきます。

小学校5年生の時に出会った慰安所の朝鮮人女性を「見たことのない美しいお姉さんたち」と表現した与那覇博敏さん(91)が中心となり、彼女たちが休んでいた場所に08年に建てられた碑です。

 傍らにはもう一つの碑があります。これには大きく「女たちへ」と書かれたプレートが埋められ、戦時性暴力の被害にあった女性を悼む意が12の言語で刻まれています。碑の前で今年まで毎年、歴史を受け継ぐための集会が開かれています。

集会の様子。朝日新聞さん...引用すみません。


集会の様子。朝日新聞さん…引用すみません。

 沖縄に散らばる「アリラン」を集めた前出のホン教授は、沖縄の「ちむぐりさ」との精神的な類似性を指摘します。これは日本語に翻訳できない言葉で、単純な同情ではなく「私も心が痛む」という概念を含んでいるというのです。沖縄の人々はアリランを単純に音としてなぞったのではなく、朝鮮人と同じように心を痛めた、そしてその気持ちが記憶となりアリランを歌わせるというのです。非常に心に残る解説でした。

 この番組は、韓国人が知らない新たな事実を明らかにすると同時に、証言者の高齢化が進む中で「記録」に価値を置き作られたものだなと感じました。

 無料で全編見られるYouTubeリンクを貼っておきます。日本語もたくさん登場するので分かる部分も多いと思います。ぜひ一度、アリランの旋律に身を任せてみてください。

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(4)韓流は北朝鮮住民をどう変えたか?最新論文から読む

影響は大きいですよ。はじめは好奇心からはまっていき、その次ぎは日常での知識や技術の深さなど、一般的な水準がとても高いのだなといった考えが多く浮かびます

論文に引用されている2023年の脱北民のインタビューより

 昨年末、金正恩氏が「北南関係はこれ以上は同族関係・同質関係ではない、敵対的な二つの国家関係、戦争中にある二つの交戦国関係として完全に固着した」と述べて以降、南北関係は大きな変化の中にあります。

 前回(15日)配信した記事で取り上げた、南北を結ぶ道路の爆破もこの発言の延長線上にあるのですが、金正恩氏がこうした強硬な態度に出る背景について、少なくない韓国の専門家が「限界説」を唱えています。

 何が限界かというと「これ以上、韓国からの影響を受ける場合に体制が保たない」というものです。韓国を切り離すことで体制の延命を図っているという解釈です。

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 その証拠として、韓国政府が「三大悪法」と呼ぶ『反動思想文化排撃法』(20年12月)、『青年教養保障法』(21年9月)、『平壌文化語保護法』(23年1月)の存在があります。

 これらは韓流、つまり韓国文化の‘侵入’を止めるためのものであり、最高刑を死刑とまで定めた法律を作るほどに金正恩氏は韓流の浸透を恐れている。そんな恐ろしい韓流を根元から絶つための総仕上げとして「敵対関係」宣言があったとする見方です。

 今では半ば主流になりつつあるこんな論理が成立するためには一つの条件があります。そうです、韓流の浸透が金正恩政権にとって脅威であることが証明されなければなりません。

 私もこれまで少なくない脱北民を取材する中で、韓流文化の存在の大きさがある程度分かりますが、全体像はなかなか掴めません。今回、この問いに答えてくれるような論文を見つけたのでその中身を見ていきます。

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 論文のタイトルは『韓流文化の経験が北韓住民の意識にもたらす影響:韓流は果たして北韓の住民たちを変化させるか』というもので、つい最近、キム・テクビン、ソウル大学統一平和研究院先任研究員により発表されました。

 論文は当然ですが、先行研究をきちんと踏まえたものです。これまでの関連する論文は主に、脱北者個人へのインタビューを通じ得られた内容(100人へのインタビューをまとめたものもあります)に基づいているとしたら、キム研究員の論文は統計的なアプローチをしています。

 その土台となるのが、ソウル大学統一平和研究院が2011年から20年まで10年にかけて行ってきた脱北民への調査です。

 同研究院は政府系シンクタンク『統一研究院』と並び定例調査に定評がありますが、その特徴は「(主に)直近一年の間に北朝鮮から直接韓国入りした脱北民」を対象にしている点にあります。

 北朝鮮にいる時にどれくらい稼いでいたのか、肉は週に何度食べていたのかといった生活上の内容から、金正恩氏を支持するのかといった点まで細かく聞くため、定点観測として価値があるものでした。同研究院所属のある教授からは「支持率を知ることができるため北朝鮮当局も参考にしている」と聞いたこともあります。半分は笑い話ですが。

 過去形なのは21年以降は新型コロナの影響により脱北民が激減したためです。現在ではこの調査は、小規模な対象へのインタビューへと変わっています。

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 いずれにせよ、キム研究員は10年間の1241人を対象とした調査から韓流が住民にもたらす影響を抽出しました。

 やり方は以下の4つの回答、▲経済難は最高指導者の責任、▲経済難を改善するために資本主義を導入すべき、▲脱北の動機は政治への不満・政治的な弾圧、▲脱北の動機は自由体制への憧れ、と答えた人々に、△韓流の経験、△年齢、△性別、△教育水準、△非公式(商売などによる)所得水準といった変数、さらに、○労働党員か否か、○商売経験の有無、○外部の地域への訪問、という変数をを結びつけ、こうした変数がどんな作用を引き起こすのかを解き明かそうとしています。

 ややこしいので、結論だけ述べていきます。論文の中で明かされている主に認められる傾向は以下の通りです。箇条書きにまとめます。矢印部分もキム研究員の記述です。

・韓流経験がある場合、経済難の責任を最高指導者に求める傾向が有意味に強まる(この場合の有意味とは「統計上認められる」ということを指す)→韓流との接触が最高指導者を批判的に見る上で重要な役割を果たす

・韓流の経験はすべてのモデル(上記変数の組み合わせ)で資本主義の導入に賛成する傾向を増加させる。若者である方がこの傾向が強い。女性よりも男性に強い

・韓流の経験が政治的な理由から脱北する確率を増加させる一方で、他の変数との相互作用を通じてその効果は変わる。年齢が高い方と、非公式所得の水準が高まるほど脱北する確率が高まる

・韓流文化に接触するほど自由体制に対する憧れから脱北する確率が高くなる。この傾向は若者ほど強い。女性は男性に比べ自由体制に対する憧れから脱北する確率が低いが、韓流文化に頻繁に接する場合にむしろ女性の脱北の確率が高くなる。→脱北を決心するにあたり韓流との接触の効果が男性よりも女性に大きい

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 こうした内容を導き出した後、キム研究員は結論として以下の2点を挙げています。

(1)韓流との頻繁な接触は北韓(北朝鮮)体制に対する批判的な態度を強める

(2)韓流文化に接触する効果は事案によっては若者世代により強くはたらく

 …そこの読者のあなた、「知ってるよ」と思ったでしょう笑

 キム研究員も先行研究を分析しながら「韓流コンテンツへの頻繁な露出が韓国と統一、人権などに対する認識を改善し、北朝鮮体制に対する批判的な態度を高める」点や、「韓国の文化により多く接するほどに統一をより近いものとして予想し、統一を北韓と自身をより利するものとして受け止め、韓国の体制への統一をより支持する」点をしっかりと挙げています。

 その上で、誰もやっていなかった1241人のチェックを行った結果、上記のような結論が導き出された点に価値があるのでしょう。

 一方、キム研究員自身も今回の調査が脱北民を対象としたものであるため、一般化には一定の限界があると認めています。

 その上で今後はどんな韓流のジャンルや詳細なコンテンツが、どのような影響を与えたのかといった分析や、韓流が南北住民の統一意識にもたらす影響についての分析も要るとしています。

 いずれにせよ今回の論文の結果からも、金正恩氏が韓流を強く取り締まり、南北の道路を爆破し、憲法に「大韓民国は徹底した敵対国」と書き入れてまで韓国と距離を置きたがる理由の断片が見えたのではないでしょうか。

 もしかしたらこの論文もまた、北朝鮮当局が読むのではないかなとも思います。

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◎あとがきに代えて

 ここまで10500字です。冒頭の日誌部分が長すぎるので、これをどうにか見やすい形にしていければと思います。記録としても役立つので、うまく読みやすいフォーマットを作ってみます。

 16日、私は韓国中部の大田(テジョン)市にあるコルリョンコルという地域を取材してきました。ここは朝鮮戦争当時、約7000人にのぼる住民が韓国軍警に虐殺された場所です。発掘はこれまで何度も行われており、その区切りの3年前に一度長い記事を書いたことがあります。読まれた方も多いかもしれませんがリンクを貼っておきます。

発掘現場の様子。数十体の遺骸が見付かりました。16日、徐台教撮影


発掘現場の様子。数十体の遺骸が見付かりました。16日、徐台教撮影

 その後、発掘ボランティアなどを通じ何度か訪れたのですが、今回訪れたのは新たな虐殺地が見付かり発掘が始まったためです。

 遺族会会長の全美暻(チョン・ミギョン)さんに会って詳しい話も聞いてきました。現代史の傷みを描いた韓江(ハン・ガン)さんのノーベル賞受賞に関しても、胸をえぐられるようなコメントをしていまして、来週、記事にまとめる予定です。

 記事は有料記事で出すか、Yahoo!ニュースに無料で出すのか迷っています。書き方に変わりはないのですが、重要な内容もあり、より多くの目に止まるYahoo!ニュースに書くかもしれません。いずれにせよ火曜日に配信するのでお待ちください。あ、同じ火曜日にYouTube『徐台教の韓国通信』もありますね。できるかな…。

 それではまた!いつもありがとうございます。(徐台教)

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