サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。ニュースレターも60号になりました。単発記事などはカウントに含んでいないので、実際はもう少し多いのですが、もうすぐ開始から一周年を迎えるにあたり、今後どう充実させていくのか常に考えています。
今号は南北関係と朝鮮半島情勢です。最近よく思うのが、この分野のニュースは毎日たくさん出ているにもかかわらず、韓国社会「ですら」ほとんど伝わっていないということです。
朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)に対する関心が落ち続けているという点、韓国内に大きなニュースが多い点、そしてNetflixやYouTubeなどが優先されニュースに関心を払わない人が増えている点など様々な理由があると考えられます。
さらに、この分野のニュースは「分かる人だけ分かればよい」とでも言わんばかりに不親切に書かれたものが多いため、次第に社会から離れていっているように思えます。昔から南北関係は政権固有の、大統領固有の、専門家固有のマターとして扱われてきました。だからこそ、このニュースレターが重要であると思います。
それでは気を引き締めて本文に進みます。
◎政府機関が北朝鮮の外貨収支の推定値を算出
韓国の情報機関『国家情報院』傘下のシンクタンク『国家安保戦略研究院』は3日、「対北制裁以降の北韓外貨収支推定2:不法的な取引収支および総合収支(2017~23)」レポートを発表しました。
タイトルからも分かるように、このシリーズとしては二作目になるもです。「合法的な取引の収支」を扱った一作目は今年5月に同院から発表されています。
一作目の結論は「国際社会による経済制裁が本格化する以前の00年から16年までの間の北朝鮮の取引収支はプラス55.9億ドル、年平均3.3億ドルの黒字であったが、17年から23年までの累計はマイナス82.5億ドル、年平均11.8億ドルの赤字であった」というものです。
一方、二番目の本レポートでは「不法的な取引の収支」を扱っています。
結論から言うと「北朝鮮は不法的な取引を通じ、17年から23年まで合計でプラス57.5億ドル~62.9億ドルの黒字を上げている」というものでした。数値の差は、23年7月から始まったロシアへの武器輸出額を含めるか否かによるものです。
報告書の表紙。筆者キャプチャ。
どんな内容なのでしょうか。報告書は24ページと短いものであるため、私も読んでみました。
不法な収入は、以下のように分類されます。
▲サイバー外貨稼ぎ(ハッキング)、▲海外への労働者派遣、▲石炭の密輸出、▲精製油の密輸入(支出に相当)、▲武器取引、▲漁業権料、▲金の密輸出、▲送金、▲外交官の不法収入、▲麻薬・偽造紙幣・タバコ、▲海外でのレストラン経営、▲海外での建設および銅像建設
比較のため、一作目の報告書から合法的な収入の項目も引用してみます。
▲無償援助、▲譲許的借款、▲直接投資、▲資本支出(支出に相当)、▲対外貿易、▲外国人観光、▲用船・運送・再保険、▲領空通過、▲羅先特区・常駐国際機関、▲カジノ
不法な収入の中で、金額が大きい順に並べると以下のようになります。いずれも17年から23年にかけての合計です。
1位:石炭の密輸出。21.5億ドル
2位:海外への労働者派遣。17.5億ドル
3位:サイバー外貨稼ぎ(ハッキング)。13.5億ドル
4位:精製油の密輸入。11.8億ドル ※支出
5位:金の密輸出。7億ドル
6位:漁業権(入漁料)。6.1億ドル
7位:武器取引。5.4億ドル
レポートを作成したイム・スホ研究員は、それぞれの項目の算出根拠などをしっかりと提示しているのですが、これをすべて引用すると膨大なものになるので、本項では省略します。
その代わりに、上記7項目の特徴をかいつまんでお伝えします。
(1)石炭の密輸出 / (4)精製油の密輸入
石炭の密輸出は中国を中心にロシアに対しても海路を用い行われています。本報告書では、石炭と精製油(ガソリン、軽油)の密輸量は19年をピークに新型コロナ拡散により減少した後、23年に再び急増したとしています。
なお、物量については最大値を適用している上に、制裁によるリスクプレミアム(この場合は価値の引き下げ)を考慮する場合、石炭の密輸出価格が減る可能性があるとしています。
(2)海外への労働者派遣
ここではIT分野の高級労働者と、一般労働者を分けて統計をまとめています。
IT分野では23年現在、中国に約2000人、ロシアに約500人、東南アジアに約500人(ラオス150人)が勤務しているとします。収入については中国では23年に月3500ドルなどと推定し、17年から23年の間に約4億ドルを得たとしています。
続いて、縫製・建設・木の伐採などの労働者についてです。中国には現在3万から12万人の労働者がいると推定しながらも計算上では3万人としたそうです。ロシアは17年に3万1500人、21年に3200人でしたが、22年以降は800人として計算しています。月給は中国では524ドルを想定しています。
この分野で13.6億ドルを得たこととなり、合計で17.5億ドルとなるのですが、傾向としては中国での労働者が増え続けている一方で、今後はロシアに派遣される労働者が急増する可能性があるとしています。
(3)サイバー外貨稼ぎ(ハッキング)
13.5億ドルのうち13.4億ドルが暗号通貨(ビットコインなど)のハッキングとのことです。法定貨幣については15年以降、15億ドルをハッキングしようとしたものの、最終的に成功したのは約0.4億ドルに過ぎないとしています。
(5)金の密輸出
金は元々すべて密輸出だったしながら、17年から19年の動向について、北朝鮮内の近郊の稼働率が増加したとし、その理由を無煙炭・鉄鉱石鉱山の労働者が金鉱へと移動したためとしています。
20年から23年にかけては新型コロナ拡散による移動の禁止、洪水による沈鉱などが影響を与えていると、算出の根拠を提示しています。
(6)入漁料(漁業権)
中国船舶の入漁料となります。
(7)武器取引
これはロシアに向けての軍需物資の輸出です。作成者のイム研究委員は「外貨の収支に含めるか明確でない」と注釈を付けています。
具体的な物量としては、152ミリ砲弾93万7500発、122ミリ砲弾18万7500発、KN-23短距離弾道ミサイル9発、KN-24短距離弾道ミサイル9発となっています。
これは23年7月から12月までの物量としています。単価は152ミリ砲弾500ドル、122ミリ砲弾200ドル、KN-23が300万ドル、KN-24が150万ドルとしています。ロシア内の市場単価であり、砲弾の場合は在庫品であるため、最新の単価の20%を適用しているとします。
これらの資料はウクライナ国防部・韓国国防部・米国国務省、米ホワイトハウス、ウクライナ検察の推定値を総合したものです。
報告書の表。徐台教作成。
上記の表は、本報告書のまとめ部分の表を私が翻訳したものです。
表が意味するものは、17年から23年にかけて北朝鮮は「合法的な」対外貿易収支で82.5億ドルの赤字を出したものの、不法な収入62.9億ドル(対露軍需物資輸出を除く場合57.5億ドル)を上げており赤字を大幅に補填できているということです。
イム研究委員は全体の傾向について、北朝鮮への制裁が本格化した17年以降赤字幅が急増し、新型コロナ拡散期間中は黒字に転換したものの、新型コロナ終了後にはふたたび赤字に転換した状況とまとめています。
また、赤字を緩和する上で最も大きな役割を果たしたのは、石炭の密輸出、海外への労働者派遣、暗号通貨(仮想通貨)のハッキングであったとしています。
報告書で北朝鮮の外貨保有高についても触れています。23年末の時点で、北朝鮮の外貨保有高は81億ドル~86億ドルを相当に下回る水準としています。
これは16年末の外貨保有高106億ドルから、17年~23年にかけての赤字分を引いた上で、さらに「資本財の密輸入」と「WMD(大量殺傷兵器)開発に関する部品や資材、技術の導入額」を差し引く点を根拠としています。
さて、ここからが報告書の結論です。
本ニュースレターでも度々お伝えしてきたように、昨夏以降、ロシアと北朝鮮は急速に接近し軍事・経済協力を行っています。
さらに今年5月には国連による北朝鮮への経済制裁の実態をチェックしてきた「専門家パネル」がロシアの反対により活動停止に追い込まれ(5月1日に解体)、もはや無法地帯になっているという指摘があります。
こんな「制裁無用論」や「制裁懐疑論」の広がりに対し、本報告書では現在の制裁体制が続く場合、北朝鮮当局が統制できる外貨保有額は急速に減少し「限界点に到達する見通し」と言及しています。
このために北朝鮮制裁が維持されるように外交的な努力が必要であるとし、不法取引が行われるルートに対する監視や遮断を拡大すべきというのが報告書の結論です。
いかがでしょうか。報告書の数値が実際に近いと仮定する場合、確かに23年までは制裁の効果があったと見られるかもしれません。しかし23年までと同じ制裁体制を維持できない場合には今後、北朝鮮への経済制裁の効果は急速に薄れる可能性があるとも受け止められます。
韓国メディアは、8月27日に米ニューヨークで開催された韓国外交部と米国務省の合同シンポジウム「北韓仮想資産の洗濯(マネーロンダリング)を遮断するための米韓民官シンポジウム」の様子も伝えています。
地上波テレビ『SBS』によるとこの中で、米国務省のベイリー対北朝鮮特別副代表はリサーチ会社TRM Labsの報告書を引用し、「昨年、ハッキングにより世界で奪われた仮想資産のうち3分の1が北朝鮮によるもので、今年はさらに増える見通し」と明かしました。
また、「北朝鮮の大量殺傷兵器(WMD)および弾道ミサイル開発プログラム資金の40%以上が仮想通貨の経路を通じ調達されている」と述べたとのことです。
同記事によると現在、韓米政府間で北朝鮮のサイバー脅威に共同で対応するための実務グループを22年8月に発足させたとしています。
一方、聯合ニュースでは8月29日に、ニューヨークの国連本部で安保理の非公式協議が開かれ、北朝鮮への経済制裁について議論が交わされたと伝えています。
協議後、韓国のファン・ジュングク国連大使は同紙に対し「専門家パネルが無くなった状況で北朝鮮への制裁履行を監視するための代替メカニズムをどう作るのかについて協議を続けている」と明かしています。
専門家パネルが活動を停止し4か月が経ちますが、依然として新たな監視システムの構築に苦心していることが分かります。
ロシアの工業貿易省次官と北朝鮮側代表団の会談の様子。朝鮮中央通信より。
そんな中、8月27日、ロシアの産業貿易部次官が平壌を訪れ、北朝鮮のユン・ジョンホ対外経済相や化学工業省次官と会談したと朝鮮中央通信が伝えています。
具体的な議題は明らかになっていませんが、露朝の経済的な結びつきは深まり続けています。
このままなし崩しに制裁が無効化される場合どんな事が起きるのでしょうか。
北朝鮮経済の収支が改善する事は言うに及ばず、「制裁一部解除と非核化の段階的な履行という伝統的な『取引』の構図」が成り立たなくなる点は見逃せません。
つまり、19年2月のハノイ米朝首脳会談までは機能していた、北朝鮮の行動を変えるための「テコ」が失われるということです。当時、北朝鮮がトランプ政権に求めた100%正確な交換条件は未だ分かっていませんが、金正恩氏は当時、寧辺核施設の廃棄を引き換えに制裁の(一部)解除を求めたことは確かです。
軍備拡張を続ける北朝鮮を平和へと方向転換させる力は、もはやどこにもないのでしょうか。この「諦め」は「崩壊論」や「体制転覆」といった極端な動きにつながる可能性があります。
今はとにかく、なんとしても南北対話を始めなければなりません。
◎韓国政府が民間団体に北朝鮮との「間接接触」を許可
7月末に北朝鮮西北部の平安北道(ピョンアンプクト)、慈江道(チャガンド)、そして両江道(リャンガンド)を襲った水害。
被害の実態は今も正確には分からないままですが、韓国の統一部や国家情報院は「北朝鮮の国営メディアで多数報道された平安北道よりも慈江道の方がひどい」という見解を明かしています。
金正恩氏は8月15日になって約1万3千人以上の罹災者を平壌に呼び寄せるなど、表向きは最善を尽くしているように見えます。
一方で日本のアジアプレスなど北朝鮮内部に取材網を持つメディアでは、これを「ショー」とする世論や、資材や物資の「供出(国家に無償で提供すること)」に憤る住民の声を伝えています。
そんな中、8月30日になって統一部は韓国の民官支援団体に対し、北朝鮮と接触することを認める措置を取ったことを明かしました。韓国では法律により北朝鮮住民と接触する場合に、事前の許可を得るように定めています。
今回の許可は「間接接触」で、北朝鮮と直接やりとりをする前に、北朝鮮側にその意志があるのかを確かめるため、海外同胞(中国朝鮮族など)といった仲介者に接触することに対してのものです。
許可された団体は『わが民族相互支援運動本部』や『肩を組む子供の友達』、『ワールドビジョン』といった韓国でも広く名を知られた人道支援団体です。過去に北朝鮮で多くのプロジェクトを展開してきました。
この次の段階はいわゆる北側の「受け入れ機関(カウンターパート)」との直接のやり取りになり、内容が確実になった場合に、物資や人が動くという形になります。
聯合ニュースによると、尹錫悦政権になってから民間レベルでの北朝鮮との接触は「離散家族の生死確認や国民の安全、財産権の保護などの『必須の事案』を除いては大部分が不許可」になり、人道主義的な交流協力のための接触申告は、昨年11月が最後だったそうです。
統一部は今回の措置があくまで「一時的なもの」と強調しています。
果たして韓国からの人道支援は実現するでしょうか。
『国家情報院』は北朝鮮はロシアの支援を受け入れるだろうとの見解を示していますが、国連機関や中国からの受け入れは無いようです。
こんな状況の中で既に「敵」であり「他人」である韓国からの支援を受け入れるとは思えませんが、このようなアプローチを韓国の人道支援団体が繰り返すことはとても大事でしょう。
◎尹錫悦大統領が改めて「統一ドクトリン」を説明
尹錫悦大統領は8月29日、就任後二度目となる国政ブリーフィング(説明会見)を行いました。これは今年4月の総選挙における与党大敗の主原因の一つが「大統領の独善的な姿勢」と指摘されたこと受け始めたものです。
5月9日には就任2周年の節目の記者会見を約1年9か月ぶりに記者会見を行いましたが、6月3日の一度目のブリーフィングは「東海(日本海)に石油が見つかった」という話を一方的に行いさらなる批判を浴びています。
会見後の質疑応答に臨む尹大統領。激しい手振りを何度も行った。大統領室提供。
今回は冒頭の発表と質疑応答を含め、約2時間と外見上は充実した会見となりました。ここでは南北関係についての部分を見ていきます。全文は以下のようになります。
私は先日の光復節慶祝辞で『8.15統一ドクトリン』を発表しました。これは大韓民国の自由民主主義憲法が大統領と国民に命令した都一ビジョンと方案を具体化したものです。
大韓民国の自由の価値体系をより強固にした時、私たちの自由と繁栄を北側の地にまで拡張することができるでしょう。国際社会の平和と繁栄に寄与する自由統一大韓民国に向け、力強く進んでいきます。
読んで違和感を感じませんでしたか?なんと主語が「私」なのです。アンタが発表したから何?と思わず突っ込まずにはいられません笑 国会の同意や野党や市民団体などの幅広い意見を集めて発表されたものではないことを、改めて公言した形です。
次に質疑応答における南北関係に関する部分を見ていきましょう。三つありました。ざざっと触れます。
まずは『光復節』の演説にあった「反国家勢力(演説では『反自由勢力、反統一勢力、黒い扇動勢力』などと表現)」とは正確に誰を指すのかという質問でした。
これについて尹大統領は「スパイ活動や国家機密を流出すること、北韓政権を追従しながら韓国のアイデンティティを否定する人を指す者」と説明しました。
さらにハイブリッド戦争(一般的な武器を用いた戦争の他に、サイバー攻撃や世論操作などが組み合わさった現代的な戦争のこと)を念頭に置いているとしながら、「(社会に)100%韓国の憲法と国体に忠誠する人だけがいるわけでないので、そんな人々に対する警戒心を持ってこそ自由民主主義を堅く守れる」と強調しました。
とても自由民主主義の本質を理解しているとは思えない発言でした。
次は米国の大統領選挙についてです。民主党も共和党も政綱を発表する際に「北朝鮮の『非核化』が抜けていた」点についての考え、韓国の核武装化についての考え、バイデン大統領と岸田首相退任後に韓米日関係がどうなるのかという質問でした。
これに対し尹大統領は「米国が北朝鮮の核を容認するとは絶対に考えられない。(中略)そうなると世界的なNPT(核不拡散条約)体制が崩れる」と述べました。また、韓米日協力については「公式な外交文書を通じて効力がずっと続くだろう」と見通しました。
このように尹大統領本人は頑なにNPT体制を擁護し、絶対に独自核武装を口にしません。大統領の立場としては当然ですが、その代わりに与党内や閣僚が核武装について話すことは放置しています。
核武装論への支持は保守層に多いので不満の「ガス抜き」に加え、北朝鮮が核を使う場合に核で反撃することを保障するよう米政府に求める「世論の圧力を維持するため」という二つの目的からの行動でしょうが、こういうやり方は危ういと感じます。
最後に「『統一ドクトリン』に対し北朝鮮の反応がない。今後の南北関係をどうするのか。対話を求め続けるのか」というものでした。良い質問でした。
尹大統領はこれに「統一が自由民主主義の方式で行われるといっても手段と方法に構わず統一するということではない。戦争を防御する以外には侵略戦争を行わないというのが自由民主主義の本質だ」としながら「統一は必ず平和的なものでなければならない」と述べました。
さらに「難しいし、(自力では)できないでしょう。実践できない。しかし絶え間なく努力すべき」とし、「韓国が独立戦争をして解放と光復を得た訳でなく日帝が太平洋戦争で負けたから自由を得て国権を取り戻した。しかし独立運動をしたためにそうなったと私たち皆が考えている」と話しました。
その上で「統一も同様だ。状況は変わり得るので私たちは準備しなければならない。どんな価値観を持って統一問題を見るのかを8月15日に語ったものだ」とまとめました。
この発言については、短く論評することはできません。歴史観の問題、方法論の問題など論点がいくつかあるからです。
一点だけ指摘すると、「状況が変わり得る」という表現、これが金正恩体制の崩壊を示す事は確実です。この時に韓国がどう動くのか明らかになったものはありませんが、崩壊を遠くないものと見て、世論に「韓国主導」を訴えかけているように思えます。
なお、尹大統領は『光復節』を前後し「日本に弱腰」との批判が広がったことを意識してか、この日の会見では日韓の経済力の差が縮まっていることを再び強調していました。特に光復節の際にも言及した「24年の上半期の輸出額が日本と韓国で32億ドルしか変わらなかった」点を再び取り上げました。
気になって調べてみたところ、同時期の輸出額は日本3410億ドル(JETRO)、韓国3348億ドルでした。差は62億ドル。32億ドルというのは別の統計から来ているのだと思いますが、確かに差は大きく縮まりました。ちなみに23年の日本の輸出額は約101兆円、韓国は約89兆円です。
日本の人口は韓国の約2.5倍であることを考えると、確かにすごい事です。尹大統領は「世界輸出5大強国の地位が見えてきた」、「過去には夢見ることもできなかった事が目の前の現実として迫っている」と述べました。
こうした事実と、ボロボロの政治や社会の実情はうまく整合性が取れないのですが、この辺に韓国という国を理解するヒントがあるのでしょう。
◎続く脱北外交官リ・イルギュ氏の発言
最近、露出がとみに増えている北朝鮮外交官のリ・イルギュさん。ここ二週間の間に、国会セミナー、政府機関の民主平和統一諮問委員会(民主平統)での講演、そして統一部主催の国際シンポジウムと三か所で公開発言を行いました。
リ・イルギュさん(左)。23年11月にキューバから韓国に入国しました。ニュース1より引用。
こうした場でリ氏は主に、北朝鮮の外交や、民心の移ろいについて説明しています。
また、特徴としては尹政権のリクエストに応じ(推測ですが)「どうやれば金正恩体制を倒すことができるのか」という部分にも踏み込んで発言しています。これらの場所で語られた内容をいくつか箇条書きにすると以下のようになります。
・金正恩時代の外交は孤立が最も深刻な時期。過去の金正日時代の外交との差は「首領の権威守護や宣伝を最優先課題に」、「国際社会の視線を完全に無視し、多者的な空間(多国間協議)を排撃」、「国内状況を隠しつつ、協力よりも海外派遣労働者などを通じ技術奪取などを目論む」、「国内の掌握と統制強化を核心要素とし党を中心とした政治」
・金正恩政権下でのエリート意識の変化。エリートの賄賂授受や上納金受け取りを取締り、不満が増大。
・一般住民の意識の変化。『反動思想文化排撃法』、『平壌文化語保護法』、『青年教養保障法』などの『悪法」を通じ、若者の親世代が「うちの子にまで手を出すのか」と反発する可能性
・北韓内部に情報を流入させることや、エリート層への責任を問わないといった韓国の姿勢を伝えることで彼らを「変化の主体に」すべき
見てきたように、これまでの北朝鮮外交官の誰よりも踏み込んだ発言を行っています。もっとじっくり話を聞いてみたいものです。
◎ショートニュース
・「脱北を誘導」兵士がご褒美に一か月の休暇
8月に仁川(インチョン)市江華(カンファ)郡、そして江原道(カンウォンド)高城(コソン)郡を通じ北朝鮮から徒歩で住民が脱北する出来事が続けてありました。
そして韓国軍は、それぞれの地域で住民(後者は軍人でした)を誘導し「無事に」脱北させた点を評価し、これの作戦を行った兵士に「褒賞休暇」を与えました。
休暇の期間は29泊30日と、許可される最長の期間です。現在、韓国軍は南北軍事境界線の一帯で北朝鮮に対する拡声器放送を続けており、さらに前述してきたように金正恩体制の弱体化を至上目標としていることが背景にあります。どんどんやれ、ということでしょう。
私の背景の川が漢江です。川の手前が韓国の喬桐島。向こう側が黄海南道の延安(ヨナン)郡です。6日撮影。
私も6日、実際に前者の現場である喬桐島(キョドンド)を訪問し、脱北ルートとされた漢江(ハンガン)河口を取材してきました。幅約2.3キロと簡単に言いますが、『朝鮮日報』によると脱北過程で義足の父は流され亡くなったそうです。
来週のYouTube『徐台教の韓国通信』で動画を公開しますが、厳しい脱北の現場を改めて確認しました。
・韓国の国防ラインが「強硬派」で固まる
本ニュースレターでも強硬派として何度も登場した申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官。韓国大統領室の外交安保のコントロールタワートップの国家安保室長に任命され6日、任免状を受け取りました。
国防部長官の後任には金龍顕(キム・ヨンヒョン)氏が同日、任命されています。金龍顕氏は韓国陸軍出身で、首都防衛司令官や合同参謀本部作戦本部長などを歴任した後、22年5月の尹錫悦政権発足後から大統領警護処長の要職に就いていました。
金氏は尹大統領の高校の後輩であることから、側近人事との批判があります。これを元に戒厳令を狙っているのではないかという最大野党・共に民主党の指摘もありますが、これは未だ「怪談」の域を出ないようです。
金龍顕(左)と申源湜。筆者作成。
・11月に迫る北朝鮮の人権状況「審査」
もうすぐ、北朝鮮の人権問題を正面から扱う国連イベントの時期がやってきます。国連人権委員会によるUPR(Universal Periodic Review、普遍的定期審査)というもので、これは同委員会に所属する193の国家すべてが4年半に1度ずつ人権状況のチェックを受ける制度です。
08年に導入されたもので、北朝鮮はこれまで09年12月、14年5月、19年5月に審査を受けました。今回は4度目となります。なお、19年5月当時には3本の連続記事を書きましたので、ご興味ある方はご覧下さい。
正式な日程は11月7日でスイス・ジュネーブとなります。これに備え既にアムネスティ韓国や今年5月に発足した日本のNGO「Free2Move(フリートゥームーブ、F2M)」などが意見書を国連人権委員会に提出しています。
例えばF2Mの意見書では、いわゆる「帰国事業(59年~84年)」で北朝鮮に渡った日本人配偶者約7000人の中で今の生存している人々の日本への「帰郷」を実現するよう北朝鮮政府に求めています。これ以外にも北朝鮮住民の国内での移動の自由を保障するために、通行証の発行システムを整えることなども勧告しています。
F2Mは11月のUPRにも直接参加する予定とのことです。日本の北朝鮮人権団体の中では最も信頼できる団体なので、私も今後の活動に注目しています。
また、8月28日にはUPRに先駆けプリセッションが行われ、韓国の人権団体が西側諸国の国連代表部に対し、北朝鮮人権問題を訴えました。
アントニオ・グテーレス国連事務総長も9月3日に国連総会に提出した北朝鮮人権問題に関する報告書の中で「加害者への調査と処罰」を呼びかけています。
私はご存知のように尹政権の対北政策について(内容もそうですが、その進め方について特に)全く支持していないのですが、それでも良い点を一つ挙げるとすれば、「人権問題」の重要さを改めて強調していることです。
少なくとも文在寅政権までこの問題は「核」や「平和協定」といった問題と同格のものとは考えられていませんでした。今もそう考えていない進歩派の学者がほとんどでしょうが、南北関係の今後を考える上でもはや欠かせない議論になっています。
先日、文在寅政権で統一部長官を務めた金錬鉄(キム・ヨンチョル)さんの講義を聞きにいきました。韓国で少しずつ頭をもたげる「二国家論」について進歩派の立場から批判しながら「統一の価値でもっとも重要なのは民主主義」と強調していたのが印象的でした。
韓国の統一基調は「自主・平和・民主(民族大団結ではない)」であるというものですが、それにもかかわらず講義では一度も「北朝鮮人権問題」に触れないところに、現在の進歩派の限界が垣間見えました。
保守派(中でも尹政権に群がる最強硬派)の対北政策が危ういものである一方、進歩派の対北政策も旧態依然のまま止まっているのも事実です。
金元長官は「新たな議論をはじめる時」として「多文化主義や生態・環境という価値の導入」を訴えていました。私はこれに共感しつつも、一方で本質から逃げるナイーブな議論にも感じられました。聴講だったため質疑応答ができなかったのは残念でした。
依然として進歩派にとって人権問題は「タブー」です。しかしこの議論を超えていかない限り今後、進歩派の対北政策もまた支持を得られないものになるでしょう。
◎あとがきに代えて
いつもニュースレターを通じ、私の悩みを一方的にぶちまけているような気がするので、今日はやめておきます笑。
とにかく私は、南北関係がどうなるかを追いながら、どうするかを言論を通じ関わろうと韓国に住んでいる訳ですので、これを逃さずにやっていきたいと考え続けています。いつもありがとうございます。(徐台教)