サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。
日本は猛暑のようですね。私は群馬生まれの群馬育ちなので、天気予報で前橋や伊勢崎の気温が日本トップになっているのを見ると「いよっ、日本一!それにしても群馬はホント暑かったよな」とやや誇らしく(?)昔を思い出します。とはいえ気温が高すぎますよね。以前はせいぜい35度くらいだったのが、今や38度が当たり前になってしまいました。
読者の皆さんがどの地域にお住まいなのか、お申し込み時に住所を聞いていないため、実は私には全く分かりません。その上で敢えて話題を振ると、東京都知事選が今日(7日)ありましたね。私は前回4月の総選挙の際にも韓国政治の解説記事などを書いたので、どうしても韓国の選挙や政治状況と比べてしまいます。そして日本の「多様性」にいつも驚かされます。
今回の特徴は2位の石丸伸二氏にあるでしょう。広島の一地域で市長を一期務めただけの人物が東京に現れ、170万票近くを得たことをどう見るのか。TikTokやYouTubeなどのショート動画をうまく使ったとも言われていますが、その辺りの分析を今後、じっくりと読んでみたいところです。私は非常に苦手なタイプですが。
雑談はここまでにして、本論に入ります。まずは今号の特集からです。
◎特集:続々と辞める軍の中間幹部
本来はドキュメンタリー紹介の枠なのですが、ニュース特集にします。今回、取り上げるのは韓国軍を悩ませる中間幹部が辞めてしまう問題について。5月から7月にかけて各メディアが集中的に報じた内容をまとめてみます。
ご存知のように、韓国は徴兵制です。50万人の軍隊のうち、30万人は徴兵制により徴集された男性兵士たちです。うちの息子もあと数年で対象となります。
基本的には18~30歳までの間に入隊し、陸軍の場合は1年6か月の兵役を務めることになります(他にも拒否時に3年の代替勤務を選べるなどたくさんの制度がありますがここでは割愛します)。
しかし尹錫悦大統領が先日「国家非常事態宣言」を出すほどの人口減に悩まされる韓国では、現行の徴兵制では2035年から現在の兵力を維持できなくなることが明らかとなっています(さらに前倒しになるとも言われています)。
このため、募兵制への転換やより多くの人物を対象として公益服務制度といった代案が少しずつ公論化している状態です。つまり、軍を維持するための過渡期的な状況に入りつつあるということです。
今日お話しするのは、そんな韓国軍の「腰」にあたる副士官や尉官級の中級幹部が続々と軍を辞めているという内容です。
5月24日付の『韓国経済』の記事によると、昨年23年に軍を辞めた5年以上の経歴を持つ将校および準・副士官は9481人に上ります。22年に比べ24.1%(1842人)増です。
そしてこの中の43%(4061人)が5年から10年の経歴を持つ中間幹部とのことでした。具体的には野戦の中心となる中士・上士(陸上自衛隊における二等陸曹、一等陸曹に相当)や大尉以下の幹部です。年齢は20代から30代です。
さらに、なり手もいません。4月23日付の『マネートゥデイ』によると、24年度の第一四半期における副士官の選抜率(獲得率)は募集計画の36.7%に過ぎませんでした。
このような傾向は過去5年にわたり続いていたと言いますが具体的な数値が明らかになったのはこの時が初めてだったと同紙は述べています。
軍歴が5年から10年の間の「中期服務転役(除隊)者」の統計です。2021年の2821人から23年には4061人と35%増えています。KBSよりキャプチャ。
そして6月30日になって公営放送のKBSがニュースでこの問題を取り上げました。
その中で転役(除隊)の理由として挙がったのが、▲安い給料、▲頻繁な引っ越し、▲非効率的な業務時間、▲階級定年にしばられた不透明な未来といったものでした。
階級定年というのは、ある年齢になるまで昇進できない場合、除隊を選択する他にないことを指します。正確には年齢定年です。副士官の下士は40歳、中士は45歳、上士は53歳、将校である少尉や中尉は43歳、大尉は50歳といった形です。
ニュースでは除隊した人物が登場し、「軍人はみな同じ苦労をしているのに、進級で落ちる人が出てくる。自身の未来まで不透明な状況で『私が国のためこんなにも犠牲にならなければならないのか』という思いが湧き起こってきた」と語ります。なかなか重い言葉です。
お金の問題も深刻です。現役の上士は「現在も超過勤務手当の支払いが遅れており、過去に遡及して支払われている上に、これすらもお金がなく月37時間に減らすという」と遅配が起きている現状を明かします。
さらに、誰もが派遣を嫌がる前線部隊では、訓練時の人員が足りずに他の部隊から借りてくることもあるそうです。これは後述するように別のニュースでも取り上げられていました。
こんな惨状を事態を前に、国防部では23年から少領(少佐、日本では三佐)の階級定年を45歳から50歳へと延長したそうです。31年ぶりの改定でした。また、警戒部隊の時間外手当も月100時間まで認めるとしました。
なお、同じKBSでは23年9月にも除隊幹部の話を取り上げながら、その再就職の難しさを指摘しました。
除隊幹部の就職・起業率は66.3%に過ぎないというのです。米国95%、英国94%と比べると大きく劣っており、こんな事情が知られることで初級幹部の志願率が落ちる悪循環に陥っているというものでした。
除隊軍ジンの就業・起業率は他の先進国に大きく劣る。KBSよりキャプチャ。
今年6月に放送された別の『ノーカットニュース』という番組でも同様の問題を取り扱っていました。キリスト教放送を母体とするれっきとした報道メディアです。
軍事力世界5位(グローバルファイアーパワー調べ、24年)の韓国の30~40代の中堅幹部が早期退役する傾向がただ事ではないというものです。2つに分けて解説していました。
(1)武器はあるのに人がいない
前線部隊で副士官が不足しており、部隊間での人員の貸し借りが行われています。先にKBSニュースでも取り上げていたものと同様です。
除隊した上士のコメントとして、22年の定期機動訓練時に別の中隊から幹部を借りて射撃訓練を行い、借りた中隊にも幹部を貸す行為を行ったことを取り上げていました。この上士がいた部隊には最新鋭のK21装甲車が配備されていたそうです。
また統計として、必要な幹部が1割以上も足りていない現状を提示します。一連の状況を「初級幹部の支援は減り、中堅幹部の除隊が増えている状況」と整理します。
そして「こうした状況は軍全体の士気と直結する」と指摘します。これは初級幹部にとって中堅幹部は「将来の自身の姿」であることから、中堅幹部が多く辞めることが将来の不安を可視化させているというものです。競争競争の韓国社会で、これでは厳しいでしょう。
計画における実際の副士官の数の割合です。全体で86%、前線では81%と、足りない状況が続いています。ノーカットニュースより引用。
(2)なぜ30代40代の中堅幹部が軍を辞めるのか?
除隊する中堅幹部には将校(尉官級)よりも副士官が多いと言います。背景には給料の問題があります。今年除隊した元上士の除隊直前の月給は控除後288万ウォン(約32万円)。この人物は徴兵で勤務する兵長(205万ウォン=約22万円)よりも副士官である下士の給料が安い点を指摘します。
さらに前述した「前線の警戒部隊の時間外手当も月100時間まで認める」という部分においても「常駐する者に限る」という条件が付いている点を挙げ、家から通う中級幹部が手当の対象から除外されているとしました。軍の苦しい実情がうかがえます。
また06年から募集を増やした副士官が再来年26年に年金受給条件を満たすことから、さらなる除隊が予想されると問題を提起します。
副士官に割り当てられた宿舎の一例。カビだらけで今にも崩れそうな内部の様子が分かる。23年6月11付けのKBSニュースより。なお、初級幹部の軍生活の満足度は19年の59.4%から21年には46.1%へと下落している。
番組では最後に、この状況を変えるためには予算を投入する他になく、そのために「防衛税」のような財源を設けるべきという陸軍予備役上士のコメントを引用して終わります。
これまで本ニュースレターで見てきたように、少子化や格差、地方消滅など、韓国社会のあちこちでこんな「限界」が目立つようになってきています。数年以内に大きな改革が必要なことは間違いないでしょうが、軍という巨大組織にそれが可能でしょうか。
今回、記事を書く中で副士官に女性が急速に増えているという事実を知りました。
22年の女性の任官者は将校944人、副士官1456人の合計2400人でしたが、これは18年に比べ1.6倍に増えているそうです。21年には新任の副士官(下士)のうち82.5%が女性でした。
こうした変化の背景には、人口減に伴い、過去に男性のみ任官できた機甲兵科をはじめとする戦闘兵科を14年から女性にも開放したことがあります。
いずれにせよ、冒頭に挙げた徴兵制維持の問題も合わせ、軍を今後どのように維持していくのは、韓国にとって喫緊の課題と言えるでしょう。南北分断の解消は見えず、東北アジアの緊張も高まる一方の中、前途多難と言わざるを得ません。
◎その他:韓国与党代表選は大荒れ、チェ上兵特別検察法可決 など
ここからはいくつかの重要な動きをまとめます。
まず、韓国の与党・国民の力では7月23日の与党代表選に向けて、4人の候補が泥仕合をたたかっています。下馬評ナンバーワンは、先に総選挙で与党の実質的代表である非常対策委員長を務めた韓東勲(ハン・ドンフン、51)氏です。同党支持者を対象にした世論調査では50%以上の支持を得ています。
韓氏に対し、残る3人の候補が猛攻撃を加えています。そのやり方はかなり嫌らしいもので、総選挙で負けた韓氏を「戦犯」とするものから、後述するチェ上兵特別検察法に原則賛成することを指し「裏切り者」というものまで、人身攻撃に近い形で行われています。
さらに先週『ノーカットニュース』が、1月に尹大統領夫人の金建希(キム・ゴニ)氏が韓氏に対し「国民向けの謝罪」を行う旨を携帯電話のメッセージで送ったにもかかわらず、韓氏がこれを無視したと報じました。
与党代表選の候補たち。左から元喜龍(ウォン・ヒリョン)、羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)、尹相現(ユン・サンヒョン)、韓東勲(ハン・ドンフン)。MBCより引用。
当時、ブランドバッグの授受問題を筆頭に以前から続く株価捜査への加担疑惑などが再燃していたましたが、4月に控えた総選挙のために謝罪する意があったというものです。無視した韓氏に対し他の候補は「党を害する行為だ」と攻撃し、文字通り泥仕合となっています。
金建希氏の話は、大統領室の姿がちらつきます。検察時代から側近の一人で、政権発足後にも法務部長官を務めるなど政権の重要人物であった韓氏が、尹大統領からの「独り立ち」を図るや、これを牽制しようとしているように見えるからです。
大統領室はこれを否定していますが、どうでしょうか。韓国メディアは連日この話題で持ちきりですが、聞いていて本当に嫌になってきます。
8月には共に民主党の代表選もあります。こちらは李在明(イ・ジェミョン)代表の圧勝が予定されていますが、こちらは対抗馬がいない選挙になる可能性もあります。多様性を失った党にも見え、韓国政界は相変わらず落ち着きません。
韓国政界については、良いドキュメンタリーと記事を見つけたので、来週また取り上げます。
チェ上兵特別検察導入に関する世論調査。6月第4週の時点で、賛成は63%、反対は26%となっています。5月第2週と比べ、賛成は6%P増です。調査は韓国ギャラップ、表は聯合ニュースを引用しました。
最後に、チェ上兵事件のその後です。事件の捜査を特別検察に任せようという法案が、7月4日に再び国会で可決されました。47号でお伝えしたように、5月にも一度国会で可決されましたが、この時には尹錫悦大統領が拒否権を行使しました。
今回もまた拒否権行使が確実視されていますが、最大野党・共に民主党をはじめとする野党の狙いは「再議決」にあります。
与党から8人の離反者が出れば可決が現実となりますが、適切な時期を見て再議決に臨む構えです(期限はなし)。韓国メディアでは7月23日の与党代表選以降という見立てが多いです。党内のゴタゴタを狙うものでしょう。
◎あとがきに代えて
日曜日の午後に、妻と話題の映画『関心領域』を観てみました。日本でもちょうど公開されているので名前を目にした方も多いと思います。
アウシュヴィッツ収容所長のルドルフ・ヘス一家の生活を中心に、塀の中と外でいかに異なる生活が行われていたのか、より正確には「何を見て、何を見ないのか」という文字通り『関心領域』を人がいかに意識的・無意識的に設定するのかを表現した作品でした。
いくつかの映画賞を受賞し、ツイッターなどでも評判なので観て観たのですが…終わった後に思わぬ夫婦げんかとなってしまいました。私はどうも、気に入らない映画をみた時に、終わった瞬間それを口に出す癖があるようで、今回もそのパターンでした。
韓国では原題通り『The Zone of Interest』でした。
作品のコンセプトや問題提起は非常によかったのですが、表現方法が私にはよく理解できませんでした。作品としての完成度から考えると絶賛に値するものではなかったのです。
こればかりは好みの問題なので伝え方によっては理解を得られたかもしれません。先に妻の話を聞いて相づちを十分に打ったあとで、「でもね…」と切り出すべきだったのでしょう。失敗でした。興味のある方はぜひご覧下さい。
さて、今号はここまでです。今週もよろしくお願いいたします。皆さんよい月曜日を。いつもありがとうございます。(徐台教)