サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。既にお気づきかと思いますが、先週金曜日に発行すべきジャーナル号(韓国政治・社会)を飛ばしての、南北関係・朝鮮半島情勢号になります。
実はまだ、本の作業が終わっておらず、大変な焦りの中にあります。5月の暖かい陽気の下、冷や汗をかきながらの毎日です。いずれにせよ、ニュースレターは大事な商品なので穴を空けずにやっていきます。もう少しの辛抱です。
◎金正恩氏の‘路線転換’後初の「統一世論調査」の結果は?
韓国に『民主平和統一諮問会議(民主平統)』という政府組織があります。韓国内外に約2万2千人の諮問委員を任命し、統一についての知恵を出し合い、各地域で統一世論を醸成することを目的とするものです。議長は大統領です。
任期2年の諮問委員に選出されることは、韓国ではステータスの一種となります。私も文在寅政権時に選ばれましたが、社交クラブのような活動に意味を見出せずに延長申請はしませんでした。
同会議では四半期ごとに「国民統一世論調査」を行っています。その最新の結果が4月25日に公開されました。
調査内容は10項目にわたり、3月22日から24日にかけて1000人を対象に世論調査会社が代行しました。目に付く3つの内容を紹介します。
一つ目は定番の「統一が必要だと思うか」という質問です。
これには「とても必要」36.1%、「ある程度必要」34.5%と、合計70.6%が「必要」と答えました。昨年第四四半期の64.0%(過去最低)から6.6%Pの上昇となりました。
統一の必要性についての回答。棒グラフの左から順に、とても必要36.1%、ある程度必要34.5%、別に必要でない17.5%、まったく必要でない11.0%、分からない/無回答0.9%でした。民主平和統一諮問会議資料より引用。
これに対し同会議は「北韓が年末年始に南北の単一民族と平和統一を否定するなど、南側に対する路線の変化を宣言したことに対し、韓国政府が強い統一意思を闡明にしたことが影響を与えたものと見られる」と『聯合ニュース』に明かしています。
どうでしょうか。同会議はあくまで政府の諮問機関なのでこう解釈することもできるのでしょうが、一概に「こうだ」と言えないと思います。
過去の推移を見ると、20年の第二四半期に65.5%まで落ち込み、その後回復しています。
この時は20年6月の北朝鮮による南北合同連絡事務所の爆破が影響したと思われますが、そのショックも長続きしませんでした。つまり、何かしらの事件による落ち込みからの回復を、自然な動きと見ることもできるということです。
二つ目は「北韓の対南路線の転換が統一にもたらす影響」についてです。
前項にも出てきましたが「対南路線の変化、転換」というのは、「北南関係はこれ以上は同族関係・同質関係ではない、敵対的な二つの国家関係、戦争中にある二つの交戦国関係として完全に固着した」という金正恩氏の昨年末の演説での発言を指します。
金正恩氏はその後も「大韓民国を徹頭徹尾、第1の敵対国として、不変の主敵と確固として見なす」とし、国家機関の文書から「統一」や「民族」といった単語を削除するなど、韓国との「断絶路線」を続けています。
理論上の、路線上の断絶だけではありません。
4月29日に韓国軍は「北韓が昨年末、江原道(カンウォンド)鉄原(チョロン)郡のファサルモリ高地一帯のDMZ(非武装地帯)内の戦術道路に地雷を埋設した」と明かしています。
この道路は南北政府が18年末に、朝鮮戦争の戦没兵士の遺体を共同で発掘するために切り拓いたもので、当時、南北の将校が握手する写真は広くシェアされました。なおこの時、発掘は韓国単独で行っています。
18年11月22日、互いに地雷を除去し道路を作ってきた南北の軍人たちが、軍事境界線付近で握手している。写真は国防部提供。
北朝鮮はこの他にも、開城工業団地に続く道路、金剛山に続く道路にも地雷を埋めたとされており、名実共に「南北の断絶」が進んでいることになります。
調査に戻りましょう。
「北韓の対南路線の転換が統一にもたらす影響」については、「否定的な影響」59.5%、「特に影響がない」29.2%、「肯定的な影響」6.7%という結果でした。
「否定的な影響」の詳細は「とても否定的」30.6%、「ある程度否定的」28.9%でした。これまで当たり前だった「南北統一」という命題を金正恩氏が否定したことは、やはり小さくない影響を韓国社会に与えています。
「北朝鮮の対南路線の転換が統一にもたらす影響」への回答結果。棒グラフの左から順に、とても肯定的な影響をもたらすだろう1.9%、ある程度肯定的な影響をもたらすだろう4.8%、特に影響がないだろう29.2%、ある程度否定的な影響をもたらすだろう28.9%、とても否定的な影響をもたらすだろう30.6%、分からない/無回答4.6% 。民主平和統一諮問会議資料より引用。
年代別に見ると「否定的な影響」と答えた層は40代で65.8%と突出しています。
先の総選挙でも一部明らかになったように、韓国で最も進歩的とされるこの層で、北朝鮮の路線転換がショックと共に受け止められていると見ることができます。
三つ目は「新たな統一ビジョンの必要性」です。
尹錫悦政権は昨年からずっと、現行の『民族共同体統一方案』を改定すること公言しています。目的は尹大統領お気にいりのフレーズ「自由民主主義」に合った統一方案に作り替えることです。
しかしこれは誠実な学者の対応によりスムーズに進んでいません。
なぜかというと『民族共同体統一方案』(94年)とその元になっている『韓民族共同体統一方案』(89年)の土台には、韓国の保守・進歩陣営の完全な合意があるからです。
尹政権は「30年を迎えた」という理由でこれを変えようとしていますが、現在の政治状況では保守・進歩陣営の合意は望めません。
それにもかかわらず強引に変える場合、政権が変わる度に統一政策が変わることになる可能性が生まれるなど、取り返しのつかないことが起きるという危機感が学者・専門家の中に共有されています。
この辺の議論は、ニュースレター40号でかなり詳しく扱っています。ここまで詳細に取り上げている記事は日本にも韓国にも無いでしょう。ぜひ一度お読みください。
それでも尹政権は3月15日に『統一未来企画委員会』を発足させ、議論を始めており、その帰趨が注目されています。
さて、調査の結果に戻りましょう。
「新たな統一ビジョンの必要性」については「必要」65.8%、「不必要」29.5%という結果でした。
「必要」の詳細は「とても必要」35.8%、「ある程度必要」30.0%、「不必要」の詳細は「まったく不必要」12.5%、「別に不必要」17.0%という結果でした。
「新たな統一ビジョンの必要性」についての回答。棒グラフの左から順に、とても必要だ35.8%、ある程度必要だ30.0%、別に必要ではない17.0%、まったく必要でない12.5%、分からない/無回答4.7%でした。民主平和統一諮問会議資料より引用。
この項目の回答で目を引いたのは年代差ではなく、政治的性向による差でした。
保守、進歩、中道(浮動層)の中で「新たな統一ビジョンの必要性」に最も多く共感したのは進歩層で80.3%にのぼりました。
保守の56.6%とは大きく異なり、中道の64.5%と比べても突出しています。
ここから類推できるのは、進歩層は前述したような金正恩氏による「路線の転換」などを踏まえ、現在の三段階(和解協力ー南北連合ー完全統一)の‘吸収統一’ではない‘別の南北の未来’を描いている可能性があるということです。
それが何かは分かりませんが、注目すべき世論の変化であると思います。
ただ、進歩層は一つ目の「統一が必要だと思うか」という質問に対し84.5%が「必要」と答えています。保守層の61.4%と比べ高い数値です。
これらの点から暫定的に、進歩層が北朝鮮の変化に最も敏感に反応する層であると結論づけることができるでしょう。「何を望んでいるのか」はまだ形になっていません。
◎国連の対北経済制裁を監視する「専門家パネル」の活動が終了
ニュースレター44号でもお伝えしたように、4月30日をもっていわゆる「専門家パネル」の活動が終わりました。
朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)への経済制裁がしっかり行われているのかを調査する目的で、国連安全保障委員会の対北制裁委員会の傘下に置かれていた組織です。
8人の専門家で構成され、毎年期限を延長する形で活動を続けてきましたが、今年3月末にロシアが拒否権を行使したことで(中国は棄権)、活動終了となりました。
背景にはロシアの「作戦」がありました。
ロシアは北朝鮮へのあらゆる経済制裁に「一年後の時限を設ける条項」を提案しました。つまり、一年後にあらゆる制裁が無くなるというものです。当然この提案は米国などが拒否しましたが、それを理由に拒否権を行使したのです。
ウクライナへの侵攻を続けるロシアが、北朝鮮からの弾薬やミサイルを安定して受け取るために、邪魔な専門家パネルを終わらせたのではないかという疑いは当然出てきます。
後述するように、専門家パネルの調査団は最近にもウクライナを訪問し、北朝鮮のミサイルをロシアが使用した事実を明かしています。
今後はどうなるのでしょうか。
韓国外交部の当局者は30日、新しいモニタリングのメカニズムについて「立場の似た国家と協議を続けている」と『聯合ニュース』に明かしています。時間はもう少しかかりそうです。
◎深まり続けるロシアと北朝鮮の関係
昨年9月の金正恩・プーチン両氏による首脳会談以降、結びつきを深め続けているロシアと北朝鮮。
改めてロシア外務部の幹部が「ウクライナの特別軍事作戦(ロシアによるウクライナ侵攻の呼称)に対する無条件の指示と私たちの勝利に対する信頼に特別に感謝する」と発言したとロシアの『タス通信』が26日付けの記事で伝えています。
さらに新たな動きが続々と出てきています。
まずはミサイルです。
今年1月にウクライナ北東部ハルキウ州に打ち込まれたミサイルが北朝鮮製のものであったことを今回、国連専門家パネルが現地調査の末に明かしたと『ロイター』が29日付けの記事で伝えました。
このミサイルは「火星11」、または「KN-23」と呼ばれるもので、既にウクライナ当局が同様の発表を行っていましたが、改めて確認された形です。
次に、新種の小麦の導入です。
4月29日、韓国の『聯合ニュース』は駐北朝鮮ロシア大使館のFacebookを引用し「4月初頭に北朝鮮がロシアから渡された小麦の種は平壌や北部地域に植えた」旨を伝えました。
同大使館が北朝鮮の李哲萬(リ・チョルマン)党中央農業部部長(兼副総理)と接触したことに言及する過程で明らかになったものです。
今年4月、黄海南道の農場に「現地了解」(現地視察)に訪れた北朝鮮の金徳訓(キム・ドクフン)首相(中央)。この記事でも、小麦と大麦の「肥培管理」で成果を挙げることが重要とされた。朝鮮中央通信より引用。
金正恩氏は2021年から小麦の栽培を強調しています。
トウモロコシの代わりに小麦粉を主食とすることを勧めていますが、韓国の『統一研究院』は23年12月のレポートでその背景として、▲トウモロコシよりも収穫量が多い、▲トウモロコシよりも肥料の必要量が少ない、▲地球温暖化により北朝鮮全土で栽培が可能になった、▲住民の食生活上の嗜好の変化などを挙げています。
先の記事によると、駐北朝鮮ロシア大使館は種子の提供について「これは朝鮮で栽培するに適した小麦の種類を確定させるため」と、その目的を明かしています。
日本の総務相の統計によると、2020年時点でのロシアの小麦生産量は世界3位です。そんな「小麦大国」からの種子の提供は今後、北朝鮮の小麦栽培に躍進をもたらす可能性があるでしょう。
◎ロシアと韓国の関係は?「互いに理解している」
それでは、韓国とロシアの関係はどうなっているのでしょうか。これについて韓国の安全保障のコントロールタワーである国家安保室の張虎鎮(チャン・ホジン)室長が言及しました。
韓国の各メディアが伝えたところによると、張室長は4月27日、公営放送『KBS』の南北関係専門番組『南北の窓』に出演し、「韓国とロシアは依然としてレバレッジを持って両国関係を管理している」と明かしました。
これは互いにテコとすべき部分を維持し、相手を動かすことができるという意味ですが、具体的には双方が「嫌な部分」を知り、その一線を超えていないという事のようです。
地上波テレビ『MBC』は「ロシアは韓国が憂慮する核心軍事技術を北朝鮮に移転せず、韓国はウクライナに殺傷武器を支援しないこと」とこれを読み解いています。
張室長はさらに「ロシアも究極的には南北韓のうち、どちらと協力すべきか自らよく知っている」と自信を見せています。
そして「ウクライナ戦争(終結)以降、国際情勢にブロック化の加速などといった新たな外生変数がなければ、韓国とロシアの関係は元の姿に戻る可能性がある」と明かしました。
ウクライナ戦争がどう終わるか読めない中、随分と楽観的な見通しのように思えますが、どうでしょうか。
なお、インタビュー全編(約13分)は上記リンクから見られます。字幕が結構きちんと出るので、ご興味のある方はぜひ。
一方、今回の総選挙で大勝を収めた進歩派の中からも対ロシア外交についての「注文」が出ています。
過去、11年11月から15年5月まで駐露韓国大使を務めた魏聖洛(ウィ・ソンラク)さんがその主人公です。
22年3月の前回大統領選で李在明氏の外交政策を統括するなど進歩派きっての外交通として知られている同氏は、今回の選挙に共に民主党の衛星政党の比例代表として当選しています(現在は合併し共に民主党所属)。
魏聖洛(ウィ・ソンラク)さん。69歳。『ハンギョレ』より引用。
魏元大使(議員就任は5月30日)は4月17日の『ハンギョレ』インタビューの中で「北(北朝鮮)・中・露と対話の余地を開いておく必要がある」と述べ、日米韓連携を高め抑止力強化にひた進む尹政府の外交基調を「単純な外交」と批判しています。
特にこのままでは「韓半島の未来を議論する舞台から韓国だけが排除される可能性がある」という主張は切実でした。
その上でロシアと北朝鮮の結びつきは今後「際限なく」進む可能性がある旨を語り、「米・日・中・露に対する全体の戦略を調節し、全てを総体的に扱う」という「韓国オリジナルの外交の座標の必要性」を訴えています。
同氏はまた、4月10日にやはり『ハンギョレ』に寄稿した記事の中でも「韓・露関係の破綻を防ぎ、関係を復元するため」に「総体的なアプローチ」を掲げています。
他方、共に民主党の李在明代表は4月29日の尹大統領との会合の席で「価値中心の外交」から「国益中心の外交」への転換を求めています。
日米韓連携一辺倒の外交から何か変わるのでしょうか。ウクライナ戦争の深刻さを考える場合に簡単ではなさそうですが、注視していきたいところです。
それにしても、米国のインド太平洋政策を一手に握るカート・キャンベル国務副長官が4月24日(現地時間)、現地シンクタンクの対談で述べたという「ノーベル平和賞を日韓の両首脳にあげたい」という旨の発言には本当に腹が立ちました。
確かに、尹大統領の「譲歩」によって米国にとって積年の問題だった日韓の不協和音が解消されたのでしょうが、それを良しとしない韓国市民もたくさんいるのです。
本当に日本と韓国のことを道具として見ているんだなあと改めて思いました。
◎第一四半期に韓国入りした脱北民は43人
韓国の統一部は4月30日、今年の1月から3月末で韓国に入国した脱北民(北韓離脱住民)が43人であると明かしました。35人は女性です。
なお、昨年は年間を通じ196人が韓国入りしました。
最盛期に年間2914人(09年)を記録していたことと比べると「少ない」と思ってしまいがちです。
だが、そうではなく「この一人一人にのっぴきならない事情があり、北朝鮮を出て韓国にたどり着くまでのどこかに命をかけた瞬間があった」と考えるべきでしょう。説教じみていますが。
◎先週のTBS『報道特集』の北朝鮮特集は必見
脱北民といえば、先週、日本のTBS『報道特集』で大きく取り上げられていました。
23年4月に船で脱北し韓国入りした一家を取材したもので、当時の北朝鮮内部の映像も公開されるなど貴重な取材でした。番組の該当部分は下記の公式ページで全て公開されているのでぜひご覧ください。
それにしても、なぜ韓国でこうした特集が組まれないのでしょうか。前号でも書きましたが、韓国社会の(メディアの)北朝鮮への無関心は恐ろしいものがあります。
◎板門店宣言6周年…「平和」と「人権」の狭間で
今号最後のトピックです。
皆さんは『板門店宣言』と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。文在寅・金正恩両氏が握手する姿かもしれません。
18年4月27日、11年ぶりに開かれた南北首脳会談で、南北首脳は「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言 」を発表しました。
三項目からなるこの宣言は、過去の合意を復活させることでそれまで断絶していた南北関係を修復する一方、軍事的緊張の緩和ならびに非核化と平和構築という最終ゴールを示す申し分ないものでした。
その後、同年6月に史上初の米朝首脳会談が続き、さらに同9月の平壌での南北首脳会談を経て米朝が具体的な合意に到達するのかと思いきや、翌2月にベトナム・ハノイで開かれた米朝首脳会談が決裂し「世紀の談判」はお流れとなりました。
18年4月27日の北朝鮮の金正恩国務委員長(左)と、韓国の文在寅大統領(当時)。板門店共同取材団提供。
韓国では一連の流れの起点となった『板門店宣言』から6年を迎え、4月26日に記念シンポジウムが開かれました。
文前大統領はこれに寄せたビデオメッセージの中で「過去2年、韓半島の状況は極度に悪化した。対話の復元と平和のための真摯な努力が消えた反面、互いに刺激し敵対し葛藤(衝突)だけ育てた」と述べました。尹政権になって南北関係が悪くなったというものです。
文前大統領はさらに「偏狭な理念外交をもって、韓半島の平和のために国際社会からの協力を導き出すことにも難しさを感じている」と尹政権に追い打ちをかけました。理念外交とは「反共意識」から来る善悪や好悪で外交路線を決めているという批判です。
同氏はさらに「このままではいつどこで軍事的な衝突と戦争が起きるか分からない、危機が高まる実に重要な時期だ」と南北関係の今を診断しました。
その上で「絶体絶命の危機的な状況であるほど、対話を通じてのみ問題を解決できるという事実」を強調し、「総選挙の民意を受け止め、南北関係と韓半島政策の基調を早急に転換すべき」と主張しました。
一方、与党・国民の力はこれに強く反発しています。同党のスポークスマンは翌日の論評で「文大統領は今も妄想の中でひとり『徒歩橋』を渡っているのですか?」と責め立てました。
「徒歩橋」とは6年前の会談当時、南北首脳が歩き、45分間の秘密対話を行った板門店の一角にある橋のことです。このシーンほど、南北が同じ民族であることをアピールするシーンはなかったように思えます。
徒歩橋の一角で対話する南北首脳。今もその内容はベールに包まれたままだ。板門店共同取材団提供。
論評ではさらに「4.27板門店宣言と(同年9月の)9.19南北軍事号いがもたらしたのは、韓半島の平和ではなく、北韓の一方的な規約破棄と挑発だけだったことをすっかり忘れてしまったのですか?今や大韓民国の国民すべてが『北韓は絶対に核を放棄しない』という真実を知っています。文前大統領が屈従的な姿勢で平和を叫ぶあいだ、北韓は核を高度化しました」、「文大統領が叫んだ『平和ショー』にこれ以上だまされる国民はいません」とまくし立てています。
それでは一体、平和はいらないのでしょうか?
与党の意見は、今のように極限まで抑止力を高めながら、金正恩政権の崩壊を待つというものに他なりません。
加えて、崩壊が進むよう人権問題などで北朝鮮国内に情報流入などの圧力をかけ続けるいわゆる「自由の北進政策」も視野に入っていることでしょう。
与党に代表される保守派の立場というのは、金正恩体制の北朝鮮との共存共栄はないというものです。北朝鮮は人権侵害を繰り返す全体主義国家という認識がその根底にあります。
「北朝鮮は絶対に核を放棄しない」という発言は、正確には「金正恩を除去することが非核化には欠かせない」ということです。
このため、尹政権は北朝鮮に対話を持ちかけていません。それは彼らの言葉を借りると「平和を物乞いする」ことになるからです。
つまり、尹錫悦政権の目的は金正恩政権の打倒に他ならないというもので、民主主義の韓国と全体主義の北朝鮮という差異が、韓国に正当性を与えてくれると確信しているのです。
一方、文在寅政権に代表される進歩派の考えは、北朝鮮社会とできるだけ接点を多く持ち、過去に西ドイツが東ドイツに行ったような「接近を通じた変化」をもたらそうというものです。
これを実現するためには当然、対話が必要になります。ただ「路線の転換」を行った北朝鮮が韓国との対話に応じる可能性はもはやほとんどありません。
対話をするとしても、米国や日本といった国が相手となり、韓国は徹底的に無視されるでしょう。つまり、この考えもまた行き詰まっているのです。
今はこうした過渡期にあります。
なお、文前大統領はメッセージの中で北朝鮮の「路線転換」についてこう言及しました。
「近頃、北韓は南北関係を『敵対的な二国家関係』に新たに規定し、統一と民族の概念すら否定しています。北韓が韓半島の平和と南北の共同繁栄に逆行する道へとこれ以上進まないことを願います。6年前に板門店で南北首脳が合意した南北関係の発展と恒久的な平和体制の構築は南北が持続的に共に追求すべき歴史的使命であることを忘れてはなりません」
昨年末の金正恩氏の発言以降、文前大統領が初めてこれに反応したものです。
韓国の進歩派の主流にとっては、「統一」は遠い未来の目標として置いておき、まずはその前段階の「南北関係の発展(共同繁栄)」そして「平和体制の構築(朝鮮戦争の終結)」を実現していくことが当面の課題であることがよく分かる内容でした。しかし繰り返すように、そううまくはいかないでしょう。
南北関係が内外に難しい局面であることが改めて浮き彫りになった『板門店宣言』6周年でした。
◎あとがきに代えて
総選挙での野党圧勝を受け、北朝鮮政策を含めた韓国の外交が変わるのかは未知数です。そう簡単に変わらないでしょうが、野党の圧力もまた強まり続けるでしょう。5月30日の国会議員入れ替わりを契機に、活発な議論が行われることを望みます。(徐台教)