ニュースレター号

[42号 K-5] 日朝首脳会談への韓国の反応、韓国内で与党が野党に「従北」レッテル貼り、拉致被害者の新たな象徴決まる、北朝鮮外交など 7トピック

 サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。韓国は総選挙という巨大な渦の中に飲み込まれていくようですが、こういう時にこそ、南北関係や朝鮮半島情勢にしっかり目を光らせておきたいものです。

◎日朝首脳会談をめぐる韓国専門家の反応

 岸田政権になって以降、ずっとくすぶっている日朝首脳会談ですが、25日に金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委員会副部長の談話が発表されがぜん注目が集まりました。

 日本から複数のルートで首脳会談の打診があることを明かしながらも「主権的権利行使(核・ミサイル開発)」や「拉致問題」にこだわる場合、それは敵対関係になる上に、岸田首相の構想も「人気取りにすぎない」と断じる手厳しいものでした。

 さらに談話の最後の部分では「会いたいからと会える訳ではない」とクギを刺し、なかなかに強気な談話でした。

 それでも、わざわざこのような談話を出すということは、脈が完全にない訳ではないと一般的には受け止められました。

北朝鮮の金与正氏。写真は18年2月の韓国訪問時に撮影されたもの。こんな表情の時もありました。写真は共同取材団。


北朝鮮の金与正氏。写真は18年2月の韓国訪問時に撮影されたもの。こんな表情の時もありました。写真は共同取材団。

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 ちょうど26日、私は旧知の北朝鮮専門家2人と会う予定があり、話題は自然とこの話題になりました。実現可能性については低く見るものの、蓋然性という点では「ある」という結論でした。

 つまり、金正恩氏にとって日米韓の結びつきを緩めることは「やるべき事」であって、現時点で日本は韓国よりも可能性のある存在というものです。

 また、米国の態度も話題に上りました。米国は今年2月15日の金与正氏による「(日朝)二つの国が近づけない理由がない」という談話以降、日朝対話を積極的に支持するメッセージを出しています。

 逆に「北韓はソウルを経由せずにワシントンと東京に絶対に行けない」(2月16日、金暎浩キムヨンホ統一部長官)と強気の発言を行っていた韓国政府が、「韓半島の平和と北核問題の解決の助けになるならば、日本と米国など北韓が他の国と対話することに反対しない」(同25日、金暎浩長官)と姿勢を180度変えた点がやり玉に挙がりました。

 ニュースレターでしつこいほど書いてきたように、尹錫悦政権は北朝鮮が核とミサイル開発を「断念」してこそ対話があるという立場です。まるで日米に取り残されるような「韓国政府の定まらない態度こそ問題だ」という結論に落ち着きました。

 また、11月の米大統領選を控え、バイデン政権としては「朝鮮半島で選挙戦に不利なことが起きないよう管理する」目的もあるという話もありました。

 ライバルのトランプ大統領が「金正恩と対話できる」点を自身の長所として売り込んでいる中で、在任中一度まともな米朝対話をできなかったバイデン政権が、せめて選挙まで安全に朝鮮半島情勢を管理するため、日本政府の対話提案を後押ししているのではという見立てでした。なかなか興味深い分析でした。

 いずれにせよ金与正氏が26日にふたたび談話を出し、その中で対話の提案が「日本の首相の政略的な打算」であると判断し、さらに「日本側といかなる接触や交渉も無視し拒否する」と結論付けたことで一旦この話題は沈静化しそうです。

 しかし日本政府はこのまま引き下がるでしょうか。

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◎南北が国連軍縮会議で衝突

 なお、南北は国連で舌戦を繰り広げました。『聯合ニュース』によると26日(現地時間)、スイス・ジュネーブで行われた軍縮会議の席で、米国、英国、フランス、日本、ウクライナといった国々が国連安保理の制裁決議を違反し、核とミサイル開発を行う北朝鮮を批判しました。

 これに対し、会議に北朝鮮代表として参加した参事官(外交官)が「ただの一度たりとも認めたことのない安保理決議を強く拒否する」とし、「強力な核の力量は、安保守護のために不可避な選択で、これからも国防力伸長をより加速化させていく」と述べたとのことです。

 この発言を受け、韓国側代表の参事官は「安保理決議は、北韓がしばしば主張するようにねつ造されたものではなく、全ての理事国の満場一致の決定であり、国連憲章にしたがい全ての国連会員国に対し法的な拘束力を持つ点を想起したい」と発言しました。

 その上で、「北韓は実存しない(西側諸国の)『敵対政策』に責任を転嫁しているが、盲目的な大量殺傷武器の追求は自らの安全保障をより脆弱にするだけ」と畳みかけました。ずいぶん踏み込んだ物言いです。

 さらにこの韓国側参事官は「北韓は私たちの『条件のない対話』の提案にも沈黙を続けている。対話と外交のドアは依然として大きく開いている」と続けたそうです。

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 前出の北朝鮮側の参事官はこんな一連の発言に対し、「韓国は無数の連合軍事訓練を実施し、韓半島の周辺地域に米国の戦略資産を引き入れ、戦争が触発される状況に追いやっている」とし、「私たちの自衛権は主権に関するもので、いかなる妥協もない」と返答しました。

 そしてトドメとして「私たちは韓国といかなる対話にも関心がない」と述べたそうです。

 なお、北朝鮮側の一連の発言を伝える中で、聯合ニュースでは「韓国」や「韓半島」といった単語を当てていますが、北朝鮮の参事官は実際には何と言ったのか気になって仕方がありませんでした。

 昨年末の金正恩氏による「二つの国家」発言を受け、国連でも「韓国」と呼んでいるのでしょうか。

 国連サイトや国連TVを通じ実際の発言をチェックしようと探し回ったのですが、見つかりませんでした。もう少し探してみて、見つかったらまたお知らせします。

 いずれにせよ、こんな北朝鮮側の対話拒否の姿勢に対し、韓国側参事官は「遺憾」を表明し、「北韓が対話と外交に臨むことを求める声を傾聴するよう勧告する」と述べたそうです。

 韓国側の発言は完全に「アリバイ作り」で、本当に対話を望んでいたらこういう言い方はしませんよね。

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◎韓国内で高まる「レッテル貼り選挙」の機運

 韓国では4月10日に総選挙があります。前号で言及したように、現在の情勢は「野党(進歩派)」有利で進んでいます。今日28日から選挙運動解禁となったのですが、よほどの事がない限り選挙はこのまま野党側の勝利となりそうです。

 与党はパンチ力が足りません。韓東勲(ハン・ドンフン、50)非常対策委員長はやはり政治家一年生であり、政治ビジョンは甘く、国を背負う人物という印象に欠けます。

 何より同じ「政治の素人」の尹錫悦氏を選んだ弊害を有権者が感じている今、韓東勲氏個人の力では情勢をひっくり返すことはできません。本来ならば与党優勢である地域でも劣勢を強いられており、「尹政権の皇太子」イメージが持つ神通力は底をついた感じがあります。

 かといって、別の人物が与党にいる訳ではありません。頼みの(?)尹大統領はやはり前号で書いたように「出てくるほどに与党が不利になる」存在となっています。そもそも、選挙介入は憲法違反です。そして与党の別の人物は、既に前回の大統領選で「尹錫悦以下」と評価が決まった人物たちです。

 選挙に勝つために必要な「中道層(実際は浮動層)」への訴求力が与党にはもはや存在しないということです。挽回は厳しいでしょう。

左から尹錫悦大統領、韓東勲非常対策委員長、印曜翰元革新委員長。京郷新聞より引用。


左から尹錫悦大統領、韓東勲非常対策委員長、印曜翰元革新委員長。京郷新聞より引用。

 そんな八方塞がりに近い状況の中、与党は「レッテル貼り」選挙に乗り出しています。

 進歩紙『京郷新聞』は26日晩に「尹大統領、韓東勲、イン・ヨハンまで、焦る与党、一斉に‘レッテル貼り’を持ち出した」という記事を配信しました。

 これは26日に尹大統領による国務会議での「反国家勢力たちが国家安保を揺るがし、国民の安全を脅かさないよう、私たち皆が力を合わせるべきだ」という発言、さらに韓東勲氏による19日の「今回(選挙に)負けたら、従北勢力がこの国の真の主流を掌握する選挙になるだろう」、さらに与党の革新委員長を務めた印曜翰(イン・ヨハン)氏が26日に語った「理念と思想に対しては戦争をしてでも守るべき部分がある」という一連の発言を取り上げての指摘です。

 これは最大野党・共に民主党の衛星政党「ともに民主連合」に過去、「内乱を議論する会合を開いたこと」などが「民主的な基本秩序」に反するとされ、14年に政府により解散させられた『統合進歩党』の人物たちが参加していることから、野党を一纏めに「アカ」と断じるような物言いです。

 「従北」というのは、文字通り北朝鮮に従うということで、「アカ」の別の表現に過ぎません。

 こんな時代遅れの与党指導部の動きに対し、現場は反対していると記事では指摘します。

 27日には、与党指導部が地域の各小選挙区に対し「これ以上この国を犯罪者と従北勢力に与えてはなりません」という懸垂幕を掲げるよう支持しましたが、現場がこれに拒否反応を示し、結局党が指示そのものを取り下げる出来事もあったということです。

 いかに与党指導部のピントがずれているのかが分かる一方、韓国の「保守」が最後に拠って立つものが何かがよく分かる一幕でした。

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◎韓国式「ブルーリボン」?尹大統領の胸に新たなバッジ

 『ムルマンチョ』という韓国語があります。日本語では「勿忘草(忘れな草)」です。

 これを北朝鮮に拉致または抑留され、韓国に戻って来られない人たちを忘れない気持ちの象徴とすることを韓国政府が決め、バッジを作りました。

27日、『KBS』によると統一部は統一部庁舎内で、拉致被害者、抑留者、国軍捕虜などの家族を招き、このバッジを胸につけるイベントを行いました。

新たに製作された「ムルマンチョ」バッジ。KBSをキャプチャ。


新たに製作された「ムルマンチョ」バッジ。KBSをキャプチャ。

 『KBS』によると、朝鮮戦争時に拉致された韓国市民は約10万人、朝鮮戦争後だけでも516人にのぼります。

 さらに、朝鮮戦争時代の捕虜約8万2千人のうち、約6~7万人が未帰還とされます。また、金正恩政権以降に北朝鮮に新たに抑留された韓国住民は6人いますが、生死は不明なままです。

 韓国政府は今後、この「ムルマンチョ」バッジの普及に努めていくようです。英国議会でも既に一度、議員たちに着用をお願いしたとのことで、日本にも要請が来るかもしれません。

 尹錫悦大統領も26日の国務会議(閣議)でこのバッジを着用しました。

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◎北朝鮮の活発な「東側」外交

 前号でもお伝えしたように、北朝鮮の外交はにわかに活気づいています。『聯合ニュース』によると21日、訪中している朝鮮労働党代表団(団長:金成男[キム・ソンナム]党国際部長)は全国人民政治協商会議(政協)の王滬寧(ワンフーニン)主席に接見しました。

 王氏は中国共産党中央政治局常務委員であり、序列4位の人物とされます。同紙によると、北朝鮮が新型コロナによる国境封鎖を解除して以降に接触した中国の人物としては最高位にあたるとしています。

 王氏はこの席で「今年、両国修交75周年と『中朝友好の年』を迎え、中国は朝鮮とともに両国の最高指導者の共同認識を中朝友好の実際の行動へと転換する用意がある」と述べたそうです。

 これに対し、北朝鮮の金成男党国際部長は「『朝中友好の年』が両国の領域別の交流・協力を促進し、両国の社会主義事業がより大きく発展するよう導くと信じる」と述べたと同紙は伝えています。

 また、22日には習近平主席の「秘書室長格」である蔡奇(ツァイチー)中国共産党中央書記処書記(序列5位)にも接見したとのことです。

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26日ハノイでベトナム共産党中央委員会政治局委員チュオン・ティ・マイ氏(中央右)と会談する朝鮮労働党代表団。朝鮮中央通信より。


26日ハノイでベトナム共産党中央委員会政治局委員チュオン・ティ・マイ氏(中央右)と会談する朝鮮労働党代表団。朝鮮中央通信より。

 北朝鮮訪問団はその後、ベトナムに移りました。

 27日付けの朝鮮中央通信によると、25日に朝鮮労働党代表団はハノイで、ベトナム共産党中央対外委員長のレー・ホアイ・チュン氏と会談しました。

 この場で金成男代表は「両党首脳による歴史的合意を前面的に履行し、親善協調関係をより一層強固に発展させること」を協調したとのことです。

 一方のレー・ホアイ・チュン氏は「ベトナムと朝鮮の両党、両国間の関係は社会主義理念に基づく強固な関係であるとし、伝統的なベトナムと朝鮮の親善関係を昇華発展させていくベトナム共産党と政府、人民の確固不動の立場」を表明したとしました。

 朝鮮労働党代表団は26日にもハノイでベトナム共産党中央委員会政治局委員チュオン・ティ・マイ氏と会談し、両国関係の強化について論じました。

 朝鮮労働党代表団はこの後、ラオスを訪問する予定です。

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 一方、ロシアとの外交も続いています。

 尹正浩(ユンジョンホ)対外経済相を団長とする経済代表団が26日、ロシアに向けて出発したとやはり朝鮮中央通信が伝えています。

 同代表団はモスクワで開催される朝露間の「貿易・経済および化学技術協調委員会の共同委員長級実務会談」に参加すると、韓国メディアが駐朝ロシア大使館を引用し伝えています。

『聯合ニュース』によると、同委員会は朝露の経済協力に関する高位の協議体であり、1996年4月から23年11月まで10度開かれ、11度目のの協議体開催に向け動いているようです。

 朝露間の交流は昨年9月の朝露首脳会談を契機に深まり、今年1月には崔善姫(チェ・ソニ)外相がモスクワを訪問するなど、プーチン大統領の訪朝に向けた準備が着々と進んでいる印象です。

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◎北朝鮮の対南組織がまた一つ解散

 北朝鮮の朝鮮中央通信は24日、平壌で『祖国戦線』中央委員会が開かれたとし、この場で同組織の解体が決まったと伝えました。

 韓国メディアによると、同組織は朝鮮民主主義人民共和国政府樹立前の1946年7月に平壌で結成された『北朝鮮民主主義民族統一戦線委員会』を元に、1949年に創設されたものです。

 北朝鮮の各政党、社会団体など20の団体で構成され、韓国に対する声明文を出すといった活動を続けてきました。

 朝鮮中央通信では会議の様子について「北南関係が同族関係、同質関係ではない敵対的な二つの国家関係、戦争中にある二つの交戦国関係として完全に固着した現実の中で、全民族的な統一戦線組織である祖国統一民主主義戦線中央委員会がこれ以上存在する必要がないという点に対し見解が一致した」と伝えています。

 昨年末に金正恩氏が明かした「南北分離」の方針。北朝鮮住民の中で理解を得るには長い時間がかかりそうな中、まずは外堀から埋めているようです。

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◎あとがきに代えて:迫るビラ撒布

 以前より何度も言及してきた、南北関係を動かす要因になるであろう北朝鮮へのビラ撒布。風向きを見ると、北風が南風に変わりつつあります。関連団体に取材したところ「もうすぐ」という返事でした。ビラ撒布再開は目前に迫っています。

 これが行われる場合、南北関係は新たなフェーズに入るでしょう。双方ともに軍事的行為に対し強い反応を採ることを公言する中、ビラを契機に何かしらの衝突が起きる可能性があります。この場合、与党が野党に対し強める「従北」といったレッテル貼りが少しは功を奏す可能性もあるでしょう。

 投票日まであと13日。選挙期間が静かに過ぎることを願っています。それではまた次号で。ありがとうございます。(徐台教)

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