(12月29日)無料登録会員の皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第27号をお届けいたします。年末進行で(使い方が間違っているかもしれません)発行の遅れを取り戻せていません。年明けからは新たな企画と共に正常化させていきます。
今号の目次は以下の通りです。
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韓国社会(1):「国家基幹通信社」聯合ニュースへの補助金が大幅削減で経営危機
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韓国社会(2):雑誌『時事IN』が今年の人物に、政府と対立する海兵隊幹部を選出
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韓国政治(1):韓東勲氏が与党の非常対策委員長に就任…「運動圏を清算」、「出馬しない」
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韓国政治(2):与党の前代表、李俊錫が離党し新党結成を発表…「自分だけが30年後まで生きて評価を受ける」
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ショートニュース:(1)トップ俳優、李善均さんが自死、湧き上がる「誰のせい」という声、(2)MBCが第四四半期の「よく見るニュース番組」で1位に、(3)尹大統領が夫人の株価操作疑惑への特別検察法に拒否権行使を明言、政界は真っ二つに、(4)梨泰院特別法の票決が年明けに持ち越し…来月9日に決着か
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あとがきに代えて
◎韓国社会(1):「国家基幹通信社」聯合ニュースへの補助金が大幅削減で経営危機
『聯合ニュース』といえば韓国最大の通信社で、日本では共同通信にあたります。毎日数百本のニュースを配信する、韓国メディアの生態系に無くてはならない存在です。
一方で、国庫から補助金を得ている点が共同通信とは大きく異なります。聯合ニュースには毎年約300億ウォン(33億円)が支援されてきました。
これは03年に制定された『ニュース通信振興に関する法律』によるためで、同法により「国家基幹通信社」に指定された聯合ニュースに「国家が同社のニュースを使う利用料」なども含め、補助金が支払われている形です。
ちなみに聯合ニュース社は1980年にいくつかのメディア会社が合併して発足した民間企業です。同法ではその役割を「国家基幹ニュース通信社として情報の主権を守護し、情報格差の解消および国民の知る権利の充足のための機能を遂行する」と定めています。
そして具体的な業務として、公共機関や国内外の言論メディアにニュースや写真、データや映像を供給すると指定しています。
この「国家基幹通信社」という役割は同社の信頼を高め、自社HPに大きく掲げるなど、同社のアイデンティティとなっています。もっとも、記者達の間では冗談交じりに「ずるい」とも言われているのですが(笑)
聯合ニュースのロゴ。国家基幹ニュース通信社と書かれている。
しかしこんな補助金が来年から大幅に削減されることとなりました。
韓国最大の労組の連合体である全国民主労働組合総連盟(民主労総)内の言論労組が運営し、韓国内の言論メディアウォッチを役割とする媒体である『メディアオヌル』の22日付け記事によると、「国家基幹通信社支援のため」の来年度予算は50億ウォン(約5億5千万円)と、23年度の278億ウォン(約30億円)から約82%の減額で確定しました。
なお、26号でお伝えしたように、韓国国会では21日に来年度予算が成立しています。
同記事によると聯合ニュースは年間1750億ウォン(約190億円)から1800億ウォン(約200億円)の間の予算で運営されているそうです。今回の削減と各機関のニュース利用料の削減により、来年の年間予算に「250億ウォン(約27億円)の穴が空いた状態」とのことです。
この事態を前に、聯合ニュースの社長は21日、社内向けの公示の中で今回の事態を防げなかったことを謝罪すると共に、政府に対しては「深い遺憾」を表明した上で、非常経営体制を敷くことを明かしました。
その内容はかなり職員のモチベーションに関連がありそうなものでした。
社長50%、常務30%の給料返納はまだしも、海外出張費や接待費の半減、ガソリン代支給の中止、語学学習支援金の廃止、配偶者などの健康診断費廃止などの福祉の削減があります。
同時に「労組と合意な必要な部分がある」としながらも、成果により給与を決める制度の導入も論じられています。広告事業の強化や外注化といった対策もずらりと並びます。
聯合ニュースのトップページ。同社の特徴は「記事改編OK」にあります。これにより各社ともに聯合ニュースの記事をちょこっとだけ変えて自社記事にすることが可能になります。韓国にネットメディアが乱立する一因となっています。筆者キャプチャ。
衝撃だったのは海外特派員の削減でした。
同記事によると「来年初めに任期が終わる香港、瀋陽、ウラジオストク特派員は後任を置かず支局を閉鎖する」とのことです。「シカゴ、ケニアなど10余人維持していた通信員網も3~4人に減らす」ともありました。
これを見たときに「ああ、ただでさえ韓国メディアが苦手とする北朝鮮内部ニュースの内容がさらに薄くなるな」と思いました。遼寧省の瀋陽市は同社の北朝鮮取材の拠点の一つです。
聯合ニュースの社長はこんな特派員の縮小を「公的機能の削減」と表現しています。国家の支援が減るため、公的機関であることを止めるという論理ですね。
繰り返しになりますが、韓国メディアは日本メディアに比べ海外ニュースの特派員の数がかなり少なく、その弱さを指摘する声があります。今回の動きがこれに輪をかけることにならないか心配です。
『ミディアオヌル』紙は22日付けの別の記事で社内の反応として、聯合ニュースの労組による「その被害は結局、すべて国民がかぶる他にない」という声明の中身を引用しています。
それではなぜ今回、予算が削減されたのでしょうか。答えはなんと「理由が説明されていない」というものです。
誰よりもこの話題に敏感なはずの労組の声明にも「聯合ニュースも正当な予算の削減ならば受け入れなければならない。しかし尹錫悦政権は削減の理由を今まで説明していない」と書いてあります。
声明にはさらに「削減は『政権の最高位層の意志』という噂だけ聞こえてくる」と、尹錫悦のせい、と言わんばかりです。
こんな指摘が出る背景には、ニュースレター第15号にも書いたように尹政権が「フェイクニュースの撲滅」という建前で言論メディアへの圧力を加えている事実があります。
聯合ニュースのあり方が独立不羈を尊しとすべきメディアのそれとして正しいのかという議論はさておき、韓国社会における同社の存在感を考える場合、今回の予算削減は確実に「韓国市民の知る権利の低下」という結果となって現れるでしょう。残念なことです。
◎韓国社会(2):雑誌『時事IN』が今年の人物に、政府と対立する海兵隊幹部を選出
ニュースレターで何度か引用してきた『時事IN(シサイン)』という韓国の週刊誌があります。おそらく韓国で最も硬派な週刊誌で、論調はリベラル、調査報道でも知られています。
そんな同紙が25日「2023年今年の人物」という記事を発表しました。
選ばれたのは海兵隊のパク・チョンフン大佐(52)。同紙は選出の理由について「‘正義’と‘真実’を重く見なす公職者が2023年を記憶するのに最も見合った象徴的な人物である」としながら、「逆に言うとこの二つの価値が色あせた時代の傍証である」ともしています。
『時事IN』の該当記事。筆者キャプチャ。
パク大佐はいったい何を行ったのでしょうか。同紙の記事や韓国メディアで明らかになっている内容を元に再構成してみます。
今年7月19日、韓国南東部の慶尚北道(キョンサンプクト)醴泉郡(イェチョン)郡の河川で、水害で行方不明になった住民の捜索にあたっていた海兵隊員チェ某上兵(21)が流され亡くなる事件がありました。
チェ上兵は当時、大雨で流量が増えた河川に、ライフジャケットも着用せず、海兵隊の半袖の赤いTシャツに長靴という軽装で立ち入っていました。
海兵隊捜査団長(捜査トップの職責)としてこの事件の捜査にあたったのがパク大佐です。
24日から28日にかけて捜査し、その結果を7月30日に李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防部長官に報告し決裁を受けました。
その後、翌31日にメディア向けの会見を行い、さらに8月2日に慶北(慶尚北道)警察庁に事件を移牒(移すこと)すればパク大佐の任務は終わるはずでした。
ですがここで大事件が起きます。7月31日の昼12時に、李国防長官が30日の決裁を取消し、メディア向けの会見を中止すると共に移牒を保留することをパク大佐に指示したのです。
しかしパク大佐はこれに従わず、8月2日に予定通り慶北警察庁に調査記録を渡します。
記録の中には、海兵隊第一師団長、第七旅団長、第七砲兵大隊長、第十一砲兵大隊長など8人に「業務上過失致死」の疑いがあると摘示していました。
翌日、韓国国防部の検察団はパク大佐に対し「集団抗命の首魁」などの疑いを着せ、海兵隊捜査団に強制捜査を行います。同捜査団が上官の命令に従わず書類の移牒を行うことをパク大佐が主導したという疑いです。
さらに8日にパク大佐は、海兵隊捜査団長を解任されます。その後もパク大佐への攻撃は続きます。軍検察は8月14日に嫌疑を「抗命」へと変え、同30日には逮捕状を請求します。
これは9月1日に軍事法院(裁判所)で棄却されたのですが、10月6日に軍検察はパク大佐を「抗命および上官名誉毀損」の嫌疑で起訴しました。この裁判は12月7日にはじまり、今も続いています。
10月6日にパク大佐が起訴された際の『ハンギョレ』記事。筆者キャプチャ。
いったい7月31日から8月2日の間に何があったのでしょうか。
パク大佐はこの時期に「外部からの捜査の外圧があった」と明かしています。
具体的には、8月1日に捜査結果に含まれたチェ上兵の事故死に関わる嫌疑者の一部を外すように、国防部の法務管理官からパク大佐に5度の電話連絡があったというのです。
さらに同じ日に国防部長官の軍事補佐官が海兵隊司令官に対し、警察に移牒する書類の中で捜査を依頼する人員を減らすように要請していました。
2日には、大統領室所属の国家安保室第2次長も海兵隊司令官と接触しました。
一方、7月30日に国家安保室の国防秘書官は移牒前の捜査書類を提出するよう海兵隊捜査団に求めていました(捜査団は「捜査中」との理由で拒否し、メディア向け資料を代わりに提出)。
こんな一連の動きの目的は「イム・ソングン海兵隊第一師団長」を捜査対象から外すことでした。
ここで今年、韓国で密かな流行語(?)となっていた「大統領の激怒」が出てきます。『時事IN』に掲載されているパク大佐の証言を引用してみましょう。これはパク大佐が8月28日に明かしたものです。
「(私が)海兵隊の司令官に『いったいなぜ国防部でこんなことをしているのか』と聞いた。司令官はハッキリとこう言った。『今日(7月31日)午前11時に大統領が、主管した首席補佐官会議の席で国防秘書官から事件の報告を受け激怒し…大統領は国防部長官に『こんなことで師団長まで処罰したら、大韓民国で誰が師団長をやれるというのか』と叱責した」。
チェ上兵が在籍していた砲兵七大隊は海兵隊第一師団所属です。このためイム師団長を業務上過失致死の疑いで捜査するよう、パク大佐は慶北警察庁に移牒する書類の中で要請していました。
複数の韓国メディアによると、当時すでに海兵隊内部ではイム師団長を解任することが決まり、後任人事も内定していました。
しかしこれを聞いた尹大統領が激怒し、これによって圧力が始まったというのです。背景には昨年に形成された、尹大統領とイム師団長の「ただならぬ縁」がありました。
22年8月、ソウルに降った大雨により、市内の半地下住宅が浸水し一家族3人が亡くなる事故がありました。映画『パラサイト』に出てきたような住宅です。災害に際し、貧富の差が被害の大小に直結することを如実に表した出来事で世間の関心も高まりました。
事故のあった半地下住宅を覗き込む尹大統領をあしらったバナー。大統領室提供。
この時に、大統領室は現場の半地下住宅を外からのぞき込む尹大統領の写真を公開しました。これは「ふざけているのか」、「庶民の痛みが分からない大統領だ」と世論の大きな批判が集まりました。
この時に、イム師団長が救世主となります。同年9月に南東部の浦項(ポハン)市が水害に見舞われた際、海兵隊第一師団が装甲車を用い被災民を救助したことが脚光を浴び、こちらに世間の関心が移ることで尹大統領は危機を逃れたというのです。
その後尹大統領は浦項市を訪れ、イム師団長に被災内容の説明を受けるなど、直接的な交流もありました。「恩返し」ではないですが、尹大統領はそんなイム師団長が更迭されることに強い不快感を示したというのです。
ここまでが、韓国で今年「チェ上兵事件」と呼ばれ大きな関心を集めた事件の顛末です。
それでは一体、海兵隊同期の166人のうち、2番目に進級が速いほど優秀で、部下からの信頼も厚いパク・チョンフン大佐はなぜ、上部からの指示(外圧)を無視して慶北警察庁への移牒を敢行したのでしょうか。
これについてパク大佐は「警察に移牒することだけが正直な海兵隊を守る道」と明かしています。しかし何よりもパク大佐の心情を理解できるのはこの言葉ではないでしょうか。
「チェ上兵の遺体の前で、お前の死に悔いと報われないものが残らないよう徹底して調査し、再発防止につながるようにすると約束し誓った。またあの瞬間(移牒するかしないか)に戻っても同じ決定をしただろう」
パク大佐は現在、軍事警察団長の職を解かれ一人で勤務する閑職に追いやられました。インターネット環境もない場所とのことです。
先述したように、事件は現在、中央地域軍事法院(裁判所)で公判が始まったばかりです。
今はまだ尹大統領の「怒り」が本当にあったのか、そしてそれがどんな影響(外圧)をもたらしたのかははっきりと明らかになっていません。今後、明らかになるのかも分かりません。
一方で、チェ上兵の死亡に関する捜査も慶北警察庁で始まっています。同警察の関係者は『時事IN』に対し「(調査には)長い時間がかかる他にない」と明かしています。
なお、この一連の出来を受け野党は当然のことながら政府と大統領室を追及しています。
その結果、10月6日に一連の捜査妨害と事件隠ぺいを特別検察が捜査する特別法が「ファストトラック」に指定されました。自動的に最長330日以内に国会の本会議で採決されることになりますが、来年4月の総選挙があるため、先のことは分かりません。
パク大佐は今月7日の裁判で「20歳の海兵が花を咲かせることもなく、あまりにもあっけなく死亡した事件が、発生から5か月が経ったにもかかわらず警察は嫌疑者の立件すらできてない」と述べ、「軍事裁判を信じ、誠実に私が無辜であることを糾明し、さらにわが国の正義が生きていることを証明する」と続けました。
なお、今月になって最大野党・共に民主党が来年の総選挙に立候補しないかとパク大佐にラブコールを送りましたが、パク大佐は「政治家としてよりも軍人としての名誉を守る」と断っています。
チェ上兵をはじめ、兵士の生命をつかさどる海兵隊の幹部として、また軍内の事故をただす捜査団長として任務にあたったパク大佐の「正義」と「真実」が、国防部からの外圧となって現れた尹大統領の「怒り」と衝突した今回の事件。
いくつかの世論調査では「捜査への外圧があった」という解釈が半数を超えるなど、世論はパク大佐を信頼する方向に流れています。
パク大佐の裁判には、予備役の海兵隊同期が同行したことでも注目されました。韓国日報の記事をキャプチャ。
韓国では今年、史実を元にクーデターを起こす軍人とそれに抗う軍人を描いた映画『ソウルの春』を人口の20%にあたる1000万人の市民が観ました。
これに例えるのは飛躍しすぎかもしれませんが、一兵卒を大事にし、原則を貫くパク大佐の姿に韓国市民は「理想の軍人像」を重ねているのかもしれません。過去、軍内のセクシャルハラスメントやパワハラなどで自死した軍人の遺族も「パク大佐を守れ」と裁判に同行しています。
この事件には過去3か月の間ニュースレターを書きながら、一度も触れてきませんでしたが、今後の裁判の流れによっては尹錫悦政権のアキレス腱になり得るという見立てもあるほど、要注目のニュースです。ようやく紹介できました。今後も追っていきます。
無料登録会員の皆さんはここまでとなります。いかがでしょうか。今年3か月間ニュースレターを続けてきましたが、来年はさらにパワーアップする予定です。ぜひ年末を境に、あるいは新年を迎えて有料会員に登録していただけると、とても嬉しいです。上記ボタンから簡単にできます。よろしくお願いいたします。(徐台教)