ニュースレター号

人権問題が北朝鮮政策のど真ん中へ、住民を意識?北朝鮮で新しい選挙、韓国国防部の「本音」など 6トピック|第20号

(12月1日)無料登録会員の皆さん、アンニョンハセヨ。

 ニュースレター第20号をお届けいたします。私が住んでいる金浦は毎朝マイナス6度くらいとずいぶん冷え込んできました。ふと思い立って北朝鮮の天気を検索すると2日午前3時現在、平壌はマイナス6.6度、朝中国境の鉱山都市・茂山(ムサン)はマイナス19度でした。北側の人々もどうか暖かく過ごしていてほしいです。

 今号は南北関係・朝鮮半島情勢を中心にお届けします。衛星発射から約10日、南北関係は一旦は落ち着きを取り戻したかのように見えますが、その実は静かな緊張に覆われています。特に軍事境界線付近から嫌なニュースが聞こえてこないかと『聯合ニュース』の速報を伝えるアラートに少しおびえています。

 今号の目次は以下の通りです。

  • 韓国から見た南北関係(1):尹錫悦政権下で北朝鮮人権問題は「根本的・中心的問題」へ

  • 韓国から見た南北関係(2):韓国国防部が『9.19南北軍事合意』の全面破棄を要求へ

  • 朝鮮半島情勢(1):機能不全の国連に代わり、日米韓豪が北朝鮮への追加制裁案を発表へ

  • 朝鮮半島情勢(2):初の「反対」投票箱や複数候補者が登場…北朝鮮が地方人民会議代議員選挙を実施

  • ショートニュース:北朝鮮がバングラデシュとコンゴ民主共和国の大使館を撤収/[コラム紹介] 北朝鮮人権問題をどう位置づけるか

  • あとがきに代えて:南北衛星競争はじまる

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 本論に入る前に、今号のニュースレターの前提について整理しておきます。

 11月21日夜に朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が偵察衛星を発射したことを受け、韓国は翌日に『9.19南北軍事合意書』の一部効力停止を発表しました。

 他方、北朝鮮はこの対抗措置として「同合意書にこれ以上拘束されない」と宣言をした上で、同合意書に従い撤去済みだった南北軍事境界線付近のGP(監視哨所)を再建し重火器を持ち込みました。

『9.19南北軍事合意書』により撤去したGPを再建し重火器(無反動砲や高射砲)を持ち込む北朝鮮兵士。韓国国防部提供。


『9.19南北軍事合意書』により撤去したGPを再建し重火器(無反動砲や高射砲)を持ち込む北朝鮮兵士。韓国国防部提供。

 さらに、板門店で勤務にあたる兵士に拳銃を着用させるなど、やはり合意書以前への「復元」を着々と進めています。韓国も同様にGPの再建に取りかかっています。

 ひと言で、静かな緊張の高まりが朝鮮半島を覆っている状況です。この記事の時点から南北関係をふたたび追っていきましょう。

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◎韓国から見た南北関係(1):尹政権下で北朝鮮人権問題は「根本的・中心的問題」へ

 尹政権が北朝鮮政策の中心に全体主義下で抑圧される北朝鮮住民の人権問題を置き、自由民主主義体制の韓国の正当性を強くアピールしていることは、過去のニュースレターでも触れてきました。

 街中のデモで「大統領を火あぶりにせよ!」という横断幕を掲げても捕まらないという、韓国が圧倒的に優位に立つ民主主義を用いた圧力です。

 北朝鮮に厳重な人権問題が存在することもまた事実であるため、それなりに筋の通った立場となります。人権問題に口を閉ざした文在寅前政権との差別化の意味合いもあります。

 しかし最近になって、人権問題が突出している印象を強く受けます。人権侵害を根拠に、もはや北朝鮮の存在すら認めないという強い姿勢が目に付きます。

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 11月28日、ソウル市郊外で『民主平和統一諮問会議(民主平統)』の全体会議が開かれました。

『民主平統』とは、2万人を超える諮問委員が統一を促進するために活動する大統領直属の諮問機関です。

 名士による一種の名誉職の意味合いが強く、社交場のような雰囲気もあります。統一政策の方向性も時の大統領に大きく作用されるため正直、余り意味のある存在に思えません。

 以前にも触れたように私も文在寅政権時代に諮問委員を2年間務めました。しかし失望が大きく、再任を申請しませんでした。

 この日の会議では尹錫悦大統領が開会辞を述べました。人権問題への言及を見ていく前に、まずは北朝鮮観を見ましょう。

 余談ですが、尹大統領が就任して1年半になる今も「尹錫悦さんは北朝鮮をどう見ているのか」と聞かれることが多いのが事実です。

 これはおそらく、北朝鮮に‘どこまで’反感をもっているのか?という問いではないかと思うのです。その答えがここにあります。

11月28日、ソウル市郊外で開かれた『民主平和統一諮問会議(民主平統)』の全体会議に出席する尹錫悦大統領。大統領室提供。


11月28日、ソウル市郊外で開かれた『民主平和統一諮問会議(民主平統)』の全体会議に出席する尹錫悦大統領。大統領室提供。

 尹大統領は開会辞の中で「過去70年間、自由民主主義と共産全体主義が作り出す格差がどれほど大きいのか実際に感じた」と南北の体制の違いに触れ、「北韓の共産全体主義システムは活気のある市場も、発達した技術も、未来の人材も何も作れなかった。失敗した」と断言しました。

 これは文在寅大統領も述べていた「体制競争は終わった」という表現と一脈通じるもので、単語選びのセンスはともかく特徴のある視点ではありません。

 続いて「北朝鮮が核兵器を作り武力挑発を繰り返す理由は、これが全体主義の独裁権力を維持するための唯一無二の手段である」という見解を示しました。この辺りからオリジナリティ(?)が出てきます。

 そして過去に国際社会と北朝鮮との間に結ばれた「核と経済開発を交換する」様々な合意を挙げつつ、これらが一つでも実現していれば北朝鮮経済は今よりも発展していただろうと指摘しました。

 それにもかかわらず、北朝鮮は核を放棄しなかったとし、その理由は「核の放棄が究極には独裁権力を危険にさらすと考えるからだ」と見立てたのです。

 二度繰り返されたこの主張は、金正恩と核を一体視する考えに他なりません。さらに北朝鮮は核を捨てないだろうと確信していることが分かる発言です。

 尹大統領はまた「相手の善意に頼った平和は夢と虚像に過ぎないことを人類の歴史は証明している」とも述べています。

 そしてそこから「真の平和は圧倒的で強力な力と、私自身を守るためにいつでもそんな力を使えるという断乎とした意志により構築されるもの」という持論につなげていきます。

 この理論のカギは「北朝鮮は過去一度も核を放棄しようとしなかったし、これからもすることはない」という認識です。保守派の典型的なものと言えます。

 対する進歩派は「北朝鮮が核を放棄しようとしても米国がそれを信用せず積極的に後押ししなかった。やり方(例えば段階的、長期的な非核化)によってはまだ可能性はある」と考えるのです。

韓国の進歩派の中には金正恩との「ケミストリー」を願いトランプ再選を望む声も...。写真は共同取材団。


韓国の進歩派の中には金正恩との「ケミストリー」を願いトランプ再選を望む声も…。写真は共同取材団。

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 尹大統領はこんな認識の上に人権問題を論じます。

 「北韓の人権の改善なくして民主平和統一の道は見えません。私たちが指向する民主平和統一というのは、南北韓すべての構成員が自由を享受し、共に繁栄する統一です。自由、人権、法治が息づく、そんな統一大韓民国を成し遂げるということが、私たちの確固とした意思と努力が国際社会の呼応と指示を導きだせるでしょう」

 既に見てきたように、尹大統領の頭の中は「全体主義=人権侵害=核=金正恩」となっています。この図式によると「北朝鮮の人権問題は金正恩がいる限り変わらない」となります。

 つまり金正恩は打倒する対象であることが分かります。そこにはもう対話が入る余地がありません。

 翌29日には、尹錫悦政権の外交安保政策に多大な影響力を持つ金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室1次長が、民間シンポジウムでの祝辞で北朝鮮人権問題に言及しました。

 『聯合ニュース』によると、金次長は「北韓の人権は北朝鮮政策の本質」と言い切り、さらに「私たちの対北韓政策は、人権を考える対北政策にならなければならない」と述べたとのことです。

 このように、尹政権における北朝鮮人権問題に対する発言のトーンは上がる一方です。

 もはや北朝鮮人権問題は「議題の一つ」ではなく、北朝鮮という国の正当性を認めない「根本的問題」となりました。衛星発射による軍事的緊張の高まりの傍らで、南北は完全に折り合わない時代を迎えています。

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◎韓国から見た南北関係(2):韓国国防部が『9.19南北軍事合意』の全面破棄を要求

 韓国国防部は11月30日の定例会見で、『9.19南北軍事合意書』への正直な(?)思いを明かしました。

 きっかけはある記者の質問でした。

 要約すると「韓国政府は北朝鮮による衛星発射の翌日に1条3項のみ効力停止し、その後は合意に『拘束されない』(これを記者は全面破棄と表現)とした北朝鮮が一つ一つ起こすアクションに相応の対応をしている。しかし相応措置をとるならば、北朝鮮と同じように全面破棄すべきでは?」というものでした。

 これに対し国防部は何度か記者とやり取りする中で「南北軍事合意が軍事作戦に様々な制限をかけると今まで継続して説明してきたし、必要ならば全面的な効力停止も必要ではないかと、関連機関に意見を明かしてきた」と認め、「全面破棄が望ましいのか」とさらに聞く記者に対し「そうだ、必要だ」と明言しました。記者の見事な質問でした。

 申源湜(シン・ウォンシク)長官が今年10月7日に就任して以降、韓国国防部の勢いは恐ろしいものがあります。北朝鮮に対する戦意をむき出しにすることが、軍の士気を維持し抑止力を高める効果があると信じているようです。

 南北間で偶発的な衝突の可能性が高まる今、こんな国防部の姿勢が吉と出るか凶とでるのかは、遠からず分かると思います。

「力による平和、精鋭先進強軍」。最近、国防部が新たに作ったバナーです。国防部提供。


「力による平和、精鋭先進強軍」。最近、国防部が新たに作ったバナーです。国防部提供。

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◎朝鮮半島情勢(1):機能不全の国連に代わり、日米韓豪が北朝鮮への追加制裁案を発表

 11月21日の北朝鮮による衛星発射を受け、27日(現地時間)米国の国連本部で国連安保理の公式会議が開かれました。

 『聯合ニュース』によると会議で国連政務・平和構築局(DPPA)の中東・アジア・太平洋局長は「安保理決議は弾道ミサイル技術を利用した北朝鮮のいかなる発射行為も禁止している」と改めて強調しました。

 また、発射過程で存在した北朝鮮の危険行為も指摘しました。

 「日本の海上保安庁に発射を事前に通報したものの、国際海事機構(IMO)と国際民間航空機構(ICAO)または国際電気通信連合(ITU)には発射を告知しなかった」というものです。

 特にIMOは会員国(北朝鮮も会員国です)に対し、船舶の航行の安全に影響を及ぼす軍事訓練などを実施する際には前もって知らせることを義務づけていますが、北朝鮮はこれを守りませんでした。いくつかの民間分野に被害を及ぼす可能性があったとうことです。

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 無料登録会員の方はここまでとなります。北朝鮮の新しい選挙制度の話はなかなか面白いので、これを機にぜひご登録してお読みください。

 いつもありがとうございます。(徐台教)

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