(11月25日)無料登録会員の皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第18号をお届けいたします。丸一日遅れてしまいました。北朝鮮による衛星発射に対する韓国内の議論の動きの見極めに時間がかかりました。他では読めない切り口で解説しているので、じっくりとお読みください。
今週は記事が2本だけです。ショートニュースなどは次号で穴埋めいたします。
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[連載]韓国ドキュメンタリー:『大韓民国のブランド武器が世界を揺るがす…その現場の中へ(KBS『時事企画 窓』より)』
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韓国から見た南北関係:『9.19南北軍事合意書』の死文化がもたらす二つの危機
◎[連載]韓国ドキュメンタリー:『大韓民国の防衛産業 世界トップ4の条件(KBS『時事企画 窓』より)』
前号ではじめてお送りした韓国ドキュメンタリー紹介記事は上々の評判でした。韓国トップ級の放送局が作っている番組なので当然でしょう。引用の範囲に注意しながら、原作者に敬意を持ってコーナーを続けていきます。
南北関係・朝鮮半島情勢を扱う号であるため、今回はそれに合ったドキュメンタリーを選びました。今年9月19日に公営放送KBSが放映した韓国の防衛産業についてのものです。毎週火曜日22時の『時事企画 窓』という時事ドキュメンタリー枠からです。
番組タイトルは『大韓民国の防衛産業 世界トップ4の条件』です。KBSをキャプチャ。
韓国で防衛産業は略して「防産(パンサン)」と呼ばれます。ここ一、二年のあいだ日常生活で聞くことが本当に増えた言葉です。
背景には22年2月にソ連のウクライナへの侵攻により始まった「ウクライナ戦争」があります。
ウクライナの隣国、ポーランドが昨年8月から10月にかけて韓国から123億ドル(現在のレートで1兆8000億円)の兵器を輸入すると決めたことが韓国内で大きく報じられたのです。
それにしてもなぜ「ポーランド」、なぜ「韓国」なのでしょうか。
番組でポーランドの記者は「ポーランドが使用していた古い戦車をウクライナに支援したので、ポーランドの軍需倉庫は空っぽになった。『Gap Filling』つまりウクライナ支援により生まれたポーランドの軍備の空白を韓国が埋めてくれた」と説明します。
それだけではありません。
「韓国は軍備の空白を早く埋めてくれる唯一の国家だった。この点がポーランドが韓国を大規模な軍備パートナーとして選んだ理由の一つ」というのです。韓国が迅速に穴埋めしてくれるので、心置きなく支援できた、という話のようです。
続いて、ポーランド国防大学の軍事戦略研究所教授は「ポーランドはこれからも武器がたくさん必要になるが、韓国だけがあれほどの分量をしっかり生産し、早く供給できる唯一の国家だ」と確信に満ちた様子で語ります。
韓国文化の特徴に「パルリパルリ(早く早く)」があるとよく言われますが、兵器の生産でも同様なようです。驚きでした。
「なぜ韓国なのか」については、他にも興味深い言及もありました。
防衛工学を専門とする韓国のある大学教授が「朝鮮戦争で韓国が廃墟となったように、ポーランドも第二次大戦でワルシャワが壊滅し、完全な廃墟から今の姿にまで成長した。ポーランド人は韓国を知った後に『自国よりも模範となる国がある』と言う」と述べたのです。
ここでようやく番組の冒頭に、朝鮮戦争や金日成の映像が流れた理由が分かりました。ポーランドと韓国は「隣国からの侵攻」と「廃墟からの発展」という点で共通項があったのです。
番組は続いて、韓国の国防産業の歴史に触れていきます。朝鮮戦争の映像が示唆するもう一つの要素「自主国防」の話です。
「自主国防」について、おそらく韓国社会でも正確に理解されていないと私は思えます。日本社会ではなおさらです。番組でも物足りないので、少し寄り道して説明してみます。
これは文字通り自力を国を守るということで、より具体的には「米軍の力を借りず、独力で北朝鮮を抑止し、場合によっては撃退する」ことを目標とするものです。
きっかけは1969年と70年にありました。
当時のニクソン米大統領がアジアに対する軍事介入を減らす「ニクソン・ドクトリン」を発表し、在韓米軍を二個師団から一個師団へと減らし、南北軍事境界線の警備などを韓国軍に任せたのです。
これを機に米国に頼り切りだった韓国軍は独り立ちの必要性にかられ、今も韓国の兵器開発の中枢である国防科学研究所が70年に設立されます。そして1973年に軍を近代化するプロジェクト『栗谷事業』が始まりました。
今でこそ南北の経済格差は「40倍(20年6月の文在寅大統領の演説)」というのが定説ですが、1950年代、60年代は北朝鮮の経済力が上回っていました。
ようやく逆転するのは1975年のことです。その後差は広がり続け、1988年のソウル五輪の際には韓国が約10倍の経済力を持つに至っています。
しかし軍事力で考える場合、韓国が北朝鮮に優位に立ったのは最近のことです。
盧武鉉政権(ノ・ムヒョン、03年2月~08年2月)が04年に韓国の国家戦略『平和繁栄と国家安保』を発表した際も「今後10年の間に自主国防を達成する」と目標が設定されていました。
今はどうなのでしょうか。
文在寅政権(17年5月~22年5月)下で文大統領は「軍は北朝鮮との国防力を比べる際に、我が軍の戦力が劣るかのように表現し、挙句の果てには『独自の作戦能力では十分でない』と言うが、どうやって軍を信頼すればよいのか」と国防部を追及したことがあります(17年8月)。
その上で「これまで莫大な国防費を投入してきたのにも関わらず、北朝鮮の軍事力を相手にできず、ただひたすら(米軍との)連合防衛能力に依存するようで、もどかしい」とも述べています。これが自主国防の一般的なイメージでしょう。
なお21年、独自開発した4.5世代の最新鋭国産戦闘機『KF-21 ポラメ』の出庫式の席で文大統領は「自主国防の新たな時代が開いた」と述べています。
22年7月、初飛行を行ったKF-21『ポラメ』。最新鋭国産戦闘機です。8兆8000億ウォン(約9700億円)の開発費が投入されました。20%はインドネシアの負担です。韓国防衛産業庁より。
番組に戻りましょう。
アン・ドンマン元国防科学研究所長が「1970年を『統一元年』とすると北側が宣布した」と当時の北朝鮮の勢いを振り返っています。
韓国は予備軍を組織したものの、武器が足りなかったそうです。このためとりあえず手榴弾や小銃など武器を自作したそうです。
わずか一か月で試作品を当時の朴正熙大統領に見せた際に朴大統領が「私たちもできる」と発言し、これが「ハルスイッタ(やればできる)」という用語のはしりだったとアン元所長は述べています。
それから約60年。韓国の国防産業はしっかりとした土台の上に「多くの部分で外国の支援がなくとも自力で防衛産業の製品を作れる」ところまで発展しました。
ここでいくつかのデータが出てきます。
韓国の兵器受注額を見ると、2020年まで毎年20~30億ドルだったのですが、これが21年と22年で急増し、22年には173億ドルに達しています。
一方、世界のシェアでは過去5年を基準に2.4%、第9位です。
韓国の特徴としては「冷戦終結以降、各国が軍備縮減をしていた90年代に、韓国は在来式兵器における大量生産基盤を維持することに投資してきた」という背景があるそうです。
世界12大防衛産業輸出国です。韓国は2.4%で9位です。番組よりキャプチャ。
番組では次に、韓国の防衛産業を担う企業を一つ一つ訪ねていきます。普段なかなか明らかにされず、外国メディアの取材も制限される部分なので非常に興味深いものがありました。
まずはK2戦車を製造する『HYUNDAI(現代)Rotem』社です。03年から07年まで5年に渡り開発された同戦車は、3.5世代という最新の枠組みに入り、性能で世界のトップ5に入るとされます。ポーランドに180台が納品されることになっています。同社の現場幹部は「K(韓国)防産のトップランナー」と胸を張ります。
『HYUNDAI(現代)Rotem』社によるK2戦車の紹介ページ。
次はK−9自走砲を製造する『ハンファ(韓火)エアロスペース』社です。世界の自走砲市場の60%を占める圧倒的なベストセラーですが、同社の幹部はやはり「韓国防産の長兄」と誇らしげです。
そして、ウクライナ戦争への弾薬供給で注目された『プンサン』社が続きます。60種類の完成弾薬を生産する工場で、たくさんの職人が働く姿が映りました。同社幹部は「2010年代までは国内売上が多かったが今では輸出の方が多い」と内情を明かします。
『ハンファ(韓火)エアロスペース』社によるK-9自走砲の宣伝ページ。グローバルNo.1と書かれている。
最後は『KAI(韓国航空宇宙産業株式会社)』です。ここはFA-50軽攻撃機を生産しています。米国のF-16の70%の性能を持ち、価格は半分ということで、中小国家のニーズを満たすものとされます。同社幹部は「20年間準備をしてきたもの」とその過程を強調しました。
ここでKBSの記者は「他社は自社兵器がトップランナーで長兄だと言いますがどう思うか」と面白い質問をします。
答えも冴えていました。KAIの職員は「うちが物理的に最も高い所にいる」と笑いました。
『KAI(韓国航空宇宙産業株式会社)』のFA-50紹介ページ。
この辺りまで見ながら私の頭の中には「???」が浮かびました。もしかしたらこの番組が国威発揚放送のようなものなのではないか。ですがそうではありませんでした。もう少しだけ続けます。
番組はさらに、政府の役割を強調します。ニュースレター第7号でも紹介したように、韓国政府は「防衛産業は安保と経済を支える『国家戦略産業』である」と公言し育成を進めています。
防衛産業庁は2027年までの短期間に「国防科学技術7大強国への跳躍(21年世界9位→27年同7位)」、「武器システムの迅速獲得期間の短縮(21年12年→27年5年)」、「防衛産業の規模の倍増(20年17.9兆ウォン[約2兆円]→27年40兆ウォン[約4兆4000億円])」という野心的な三つの目標を掲げています。
世界的な環境もこれを後押ししているようです。
産業研究院の研究者は「今後10年間、累積で2兆ドル、2600兆ウォン(約300兆円)の防衛予算が増加する。このうち30%が武器確保となる」と見通し「防産ルネサンス時代が来る」と述べました。
また、国防分野の教授は「第二次大戦以降に導入した武器を交換する時期に来ている。ウクライナの軍備再建も大きな機会となる」と期待を隠しません。
ですが、イスラエルやトルコといった競争国がいる上に、韓国の国防科学技術もまだまだ発展する必要があるとします。2015年も今も9位のままだというのです。これを7位にするというのが尹政権の目標です。
現在の韓国の防衛産業は「離陸には成功したが、安全高度には達していない。さらに加速が必要で今後3~5年が重要になる」とのことでした。
国防科学技術の順位です。韓国は米国を100としたときに79です。日本は81.この順位が世界シェアと一致すると番組では説明していました。
こうした様々な課題を前に、政府が省庁を横断するコントロールタワーが必要だと番組は力説します。
また市場を広げるために米国との『国防相互調達協定(RDP: Reciprocal Defense Procurement)』を締結すべきとします。
これがあれば自国産の兵器が米国産と見なされ、入札で有利になるというのです。日本をはじめ28か国が米国と締結していますが、韓国はまだです。
そろそろ今回のドキュメンタリーも終わりです。私がこの番組を選んだ理由は、韓国の防衛産業の今を紹介したかったからなのですが、一方で、南北分断と南北対峙の中、韓国の人々はどんな思いで兵器を作っているのかも知りたいと思っていました。
番組を作った記者も似たようなことを考えていたのか、番組の最後にこの問いをドンとぶつけました。質問はこうです。
「防衛産業とは基本的に殺傷武器を製造し、それが戦争に使われ他国に渡る場合、人命を殺傷する武器になります。これは国家のイメージにとって害や悪影響になるかもしれません。放送として『防衛産業を育成しよう』というのが正しいのでしょうか」
あくまで国家の立場からの質問なのがKBSという感じですが、聞かないよりは遙かにマシです。これに対する回答をずらりと引用して、番組の紹介を終わりたいと思います。
「学生とも討議した内容だ。防衛産業である以前に武器が必要なのかという質問をしてみたい。誰かが武器を持つとみな持たなければならない。『囚人のジレンマ』と同じで、最善の選択が何か分かるが、それを選べない状況だ」
「ウクライナ戦争以前には現代社会の国家間で大規模な戦争が起きると考えなかった。起きても局地戦程度だろうと考えたが、予想を裏切り欧州で国家間の戦争が起きた。戦争は近くにある」
「アウシュビッツ収容所で起きたことを扱った映画を見た。人々が死に貨車に運ばれて打ち捨てられていた。私の家族がそうなったかもしれない。力が無いと同じようなことが起きる」
「強くなければ他人に引きずられ奴隷になる。強くなるためには防衛産業は必ず必要。自由と平和を確保するための最後のあがきではないか」
「人類の歴史に戦争がなかった時はない。『平和を望む者は戦争に備えよ』という言葉がある。戦争に備えてこそ平和に生きていける。戦争に対する備え、平和のための準備。それこそが戦力の増強で軍事的な建設だ。そしてそれは防衛産業の発展であると言う他にない」
いかがでしょうか。
今なお停戦体制の中にある韓国で、防衛産業の現場の人々が抱く気持ちが率直に表れていると思います。日本社会とはひと味異なる歴史的経験や現状が垣間見えた番組でした。
◎韓国から見た南北関係:『9.19南北軍事合意書』の死文化がもたらす2つの危機
今号のニュースレターでは、この一点のみ考えてみようと思います。
理由は18年に締結され、この度南北双方により打ち捨てられた『9.19南北軍事合意書』こそが19年下半期以降、対話が途絶えていた中でも南北関係の完全な破綻を防ぐ装置だったからです。
これが無くなったことがどんな意味を持つのでしょうか。
まずはここ一週間の時系列を簡単にまとめてみます。
無料会員の方はここまでとなります。この後の記事は南北関係の今後を考える上で、とても重要な内容が含まれています。これを機にぜひ有料会員(サポートメンバー)となって、続きをお読みください。上記ボタンから簡単に登録できます。よろしくお願いいたします!(徐台教)