ニュースレター号

韓国軍需産業ドキュメンタリーの紹介と、『9.19南北軍事合意書』の死文化がもたらす二つの危機|第18号

(11月25日)サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。

 ニュースレター第18号をお届けいたします。丸一日遅れてしまいました。北朝鮮による衛星発射に対する韓国内の議論の動きの見極めに時間がかかりました。他では読めない切り口で解説しているので、じっくりとお読みください。

 今週は記事が2本だけです。ショートニュースなどは次号で穴埋めいたします。

  • [連載]韓国ドキュメンタリー:『大韓民国のブランド武器が世界を揺るがす…その現場の中へ(KBS『時事企画 窓』より)』

  • 韓国から見た南北関係:『9.19南北軍事合意書』の死文化がもたらす二つの危機

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◎[連載]韓国ドキュメンタリー:『大韓民国の防衛産業 世界トップ4の条件(KBS『時事企画 窓』より)』

 前号ではじめてお送りした韓国ドキュメンタリー紹介記事は上々の評判でした。韓国トップ級の放送局が作っている番組なので当然でしょう。引用の範囲に注意しながら、原作者に敬意を持ってコーナーを続けていきます。

 南北関係・朝鮮半島情勢を扱う号であるため、今回はそれに合ったドキュメンタリーを選びました。今年9月19日に公営放送KBSが放映した韓国の防衛産業についてのものです。毎週火曜日22時の『時事企画 窓』という時事ドキュメンタリー枠からです。

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番組タイトルは『大韓民国の防衛産業 世界トップ4の条件』です。KBSをキャプチャ。


番組タイトルは『大韓民国の防衛産業 世界トップ4の条件』です。KBSをキャプチャ。

 韓国で防衛産業は略して「防産(パンサン)」と呼ばれます。ここ一、二年のあいだ日常生活で聞くことが本当に増えた言葉です。

 背景には22年2月にソ連のウクライナへの侵攻により始まった「ウクライナ戦争」があります。

 ウクライナの隣国、ポーランドが昨年8月から10月にかけて韓国から123億ドル(現在のレートで1兆8000億円)の兵器を輸入すると決めたことが韓国内で大きく報じられたのです。

 それにしてもなぜ「ポーランド」、なぜ「韓国」なのでしょうか。

 番組でポーランドの記者は「ポーランドが使用していた古い戦車をウクライナに支援したので、ポーランドの軍需倉庫は空っぽになった。『Gap Filling』つまりウクライナ支援により生まれたポーランドの軍備の空白を韓国が埋めてくれた」と説明します。

 それだけではありません。

「韓国は軍備の空白を早く埋めてくれる唯一の国家だった。この点がポーランドが韓国を大規模な軍備パートナーとして選んだ理由の一つ」というのです。韓国が迅速に穴埋めしてくれるので、心置きなく支援できた、という話のようです。

 続いて、ポーランド国防大学の軍事戦略研究所教授は「ポーランドはこれからも武器がたくさん必要になるが、韓国だけがあれほどの分量をしっかり生産し、早く供給できる唯一の国家だ」と確信に満ちた様子で語ります。

 韓国文化の特徴に「パルリパルリ(早く早く)」があるとよく言われますが、兵器の生産でも同様なようです。驚きでした。

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 「なぜ韓国なのか」については、他にも興味深い言及もありました。

 防衛工学を専門とする韓国のある大学教授が「朝鮮戦争で韓国が廃墟となったように、ポーランドも第二次大戦でワルシャワが壊滅し、完全な廃墟から今の姿にまで成長した。ポーランド人は韓国を知った後に『自国よりも模範となる国がある』と言う」と述べたのです。

 ここでようやく番組の冒頭に、朝鮮戦争や金日成の映像が流れた理由が分かりました。ポーランドと韓国は「隣国からの侵攻」と「廃墟からの発展」という点で共通項があったのです。

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 番組は続いて、韓国の国防産業の歴史に触れていきます。朝鮮戦争の映像が示唆するもう一つの要素「自主国防」の話です。

 「自主国防」について、おそらく韓国社会でも正確に理解されていないと私は思えます。日本社会ではなおさらです。番組でも物足りないので、少し寄り道して説明してみます。

 これは文字通り自力を国を守るということで、より具体的には「米軍の力を借りず、独力で北朝鮮を抑止し、場合によっては撃退する」ことを目標とするものです。

 きっかけは1969年と70年にありました。

 当時のニクソン米大統領がアジアに対する軍事介入を減らす「ニクソン・ドクトリン」を発表し、在韓米軍を二個師団から一個師団へと減らし、南北軍事境界線の警備などを韓国軍に任せたのです。

 これを機に米国に頼り切りだった韓国軍は独り立ちの必要性にかられ、今も韓国の兵器開発の中枢である国防科学研究所が70年に設立されます。そして1973年に軍を近代化するプロジェクト『栗谷事業』が始まりました。

 今でこそ南北の経済格差は「40倍(20年6月の文在寅大統領の演説)」というのが定説ですが、1950年代、60年代は北朝鮮の経済力が上回っていました。

 ようやく逆転するのは1975年のことです。その後差は広がり続け、1988年のソウル五輪の際には韓国が約10倍の経済力を持つに至っています。

 しかし軍事力で考える場合、韓国が北朝鮮に優位に立ったのは最近のことです。

 盧武鉉政権(ノ・ムヒョン、03年2月~08年2月)が04年に韓国の国家戦略『平和繁栄と国家安保』を発表した際も「今後10年の間に自主国防を達成する」と目標が設定されていました。

 今はどうなのでしょうか。

 文在寅政権(17年5月~22年5月)下で文大統領は「軍は北朝鮮との国防力を比べる際に、我が軍の戦力が劣るかのように表現し、挙句の果てには『独自の作戦能力では十分でない』と言うが、どうやって軍を信頼すればよいのか」と国防部を追及したことがあります(17年8月)。

 その上で「これまで莫大な国防費を投入してきたのにも関わらず、北朝鮮の軍事力を相手にできず、ただひたすら(米軍との)連合防衛能力に依存するようで、もどかしい」とも述べています。これが自主国防の一般的なイメージでしょう。

 なお21年、独自開発した4.5世代の最新鋭国産戦闘機『KF-21 ポラメ』の出庫式の席で文大統領は「自主国防の新たな時代が開いた」と述べています。

22年7月、初飛行を行ったKF-21『ポラメ』。最新鋭国産戦闘機です。8兆8000億ウォン(約9700億円)の開発費が投入されました。20%はインドネシアの負担です。韓国防衛産業庁より。


22年7月、初飛行を行ったKF-21『ポラメ』。最新鋭国産戦闘機です。8兆8000億ウォン(約9700億円)の開発費が投入されました。20%はインドネシアの負担です。韓国防衛産業庁より。

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 番組に戻りましょう。

 アン・ドンマン元国防科学研究所長が「1970年を『統一元年』とすると北側が宣布した」と当時の北朝鮮の勢いを振り返っています。

 韓国は予備軍を組織したものの、武器が足りなかったそうです。このためとりあえず手榴弾や小銃など武器を自作したそうです。

 わずか一か月で試作品を当時の朴正熙大統領に見せた際に朴大統領が「私たちもできる」と発言し、これが「ハルスイッタ(やればできる)」という用語のはしりだったとアン元所長は述べています。

 それから約60年。韓国の国防産業はしっかりとした土台の上に「多くの部分で外国の支援がなくとも自力で防衛産業の製品を作れる」ところまで発展しました。

 ここでいくつかのデータが出てきます。

 韓国の兵器受注額を見ると、2020年まで毎年20~30億ドルだったのですが、これが21年と22年で急増し、22年には173億ドルに達しています。

 一方、世界のシェアでは過去5年を基準に2.4%、第9位です。

韓国の特徴としては「冷戦終結以降、各国が軍備縮減をしていた90年代に、韓国は在来式兵器における大量生産基盤を維持することに投資してきた」という背景があるそうです。

世界12大防衛産業輸出国です。韓国は2.4%で9位です。番組よりキャプチャ。


世界12大防衛産業輸出国です。韓国は2.4%で9位です。番組よりキャプチャ。

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 番組では次に、韓国の防衛産業を担う企業を一つ一つ訪ねていきます。普段なかなか明らかにされず、外国メディアの取材も制限される部分なので非常に興味深いものがありました。

 まずはK2戦車を製造する『HYUNDAI(現代)Rotem』社です。03年から07年まで5年に渡り開発された同戦車は、3.5世代という最新の枠組みに入り、性能で世界のトップ5に入るとされます。ポーランドに180台が納品されることになっています。同社の現場幹部は「K(韓国)防産のトップランナー」と胸を張ります。

『HYUNDAI(現代)Rotem』社によるK2戦車の紹介ページ。


『HYUNDAI(現代)Rotem』社によるK2戦車の紹介ページ。

 次はK−9自走砲を製造する『ハンファ(韓火)エアロスペース』社です。世界の自走砲市場の60%を占める圧倒的なベストセラーですが、同社の幹部はやはり「韓国防産の長兄」と誇らしげです。

そして、ウクライナ戦争への弾薬供給で注目された『プンサン』社が続きます。60種類の完成弾薬を生産する工場で、たくさんの職人が働く姿が映りました。同社幹部は「2010年代までは国内売上が多かったが今では輸出の方が多い」と内情を明かします。

『ハンファ(韓火)エアロスペース』社によるK-9自走砲の宣伝ページ。グローバルNo.1と書かれている。


『ハンファ(韓火)エアロスペース』社によるK-9自走砲の宣伝ページ。グローバルNo.1と書かれている。

 最後は『KAI(韓国航空宇宙産業株式会社)』です。ここはFA-50軽攻撃機を生産しています。米国のF-16の70%の性能を持ち、価格は半分ということで、中小国家のニーズを満たすものとされます。同社幹部は「20年間準備をしてきたもの」とその過程を強調しました。

ここでKBSの記者は「他社は自社兵器がトップランナーで長兄だと言いますがどう思うか」と面白い質問をします。

答えも冴えていました。KAIの職員は「うちが物理的に最も高い所にいる」と笑いました。

『KAI(韓国航空宇宙産業株式会社)』のFA-50紹介ページ。


『KAI(韓国航空宇宙産業株式会社)』のFA-50紹介ページ。

 この辺りまで見ながら私の頭の中には「???」が浮かびました。もしかしたらこの番組が国威発揚放送のようなものなのではないか。ですがそうではありませんでした。もう少しだけ続けます。

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 番組はさらに、政府の役割を強調します。ニュースレター第7号でも紹介したように、韓国政府は「防衛産業は安保と経済を支える『国家戦略産業』である」と公言し育成を進めています。

 防衛産業庁は2027年までの短期間に「国防科学技術7大強国への跳躍(21年世界9位→27年同7位)」、「武器システムの迅速獲得期間の短縮(21年12年→27年5年)」、「防衛産業の規模の倍増(20年17.9兆ウォン[約2兆円]→27年40兆ウォン[約4兆4000億円])」という野心的な三つの目標を掲げています。

 世界的な環境もこれを後押ししているようです。

 産業研究院の研究者は「今後10年間、累積で2兆ドル、2600兆ウォン(約300兆円)の防衛予算が増加する。このうち30%が武器確保となる」と見通し「防産ルネサンス時代が来る」と述べました。

 また、国防分野の教授は「第二次大戦以降に導入した武器を交換する時期に来ている。ウクライナの軍備再建も大きな機会となる」と期待を隠しません。

 ですが、イスラエルやトルコといった競争国がいる上に、韓国の国防科学技術もまだまだ発展する必要があるとします。2015年も今も9位のままだというのです。これを7位にするというのが尹政権の目標です。

現在の韓国の防衛産業は「離陸には成功したが、安全高度には達していない。さらに加速が必要で今後3~5年が重要になる」とのことでした。

国防科学技術の順位です。韓国は米国を100としたときに79です。日本は81.この順位が世界シェアと一致すると番組では説明していました。


国防科学技術の順位です。韓国は米国を100としたときに79です。日本は81.この順位が世界シェアと一致すると番組では説明していました。

 こうした様々な課題を前に、政府が省庁を横断するコントロールタワーが必要だと番組は力説します。

 また市場を広げるために米国との『国防相互調達協定(RDP: Reciprocal Defense Procurement)』を締結すべきとします。

 これがあれば自国産の兵器が米国産と見なされ、入札で有利になるというのです。日本をはじめ28か国が米国と締結していますが、韓国はまだです。

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 そろそろ今回のドキュメンタリーも終わりです。私がこの番組を選んだ理由は、韓国の防衛産業の今を紹介したかったからなのですが、一方で、南北分断と南北対峙の中、韓国の人々はどんな思いで兵器を作っているのかも知りたいと思っていました。

 番組を作った記者も似たようなことを考えていたのか、番組の最後にこの問いをドンとぶつけました。質問はこうです。

 「防衛産業とは基本的に殺傷武器を製造し、それが戦争に使われ他国に渡る場合、人命を殺傷する武器になります。これは国家のイメージにとって害や悪影響になるかもしれません。放送として『防衛産業を育成しよう』というのが正しいのでしょうか」

 あくまで国家の立場からの質問なのがKBSという感じですが、聞かないよりは遙かにマシです。これに対する回答をずらりと引用して、番組の紹介を終わりたいと思います。

 「学生とも討議した内容だ。防衛産業である以前に武器が必要なのかという質問をしてみたい。誰かが武器を持つとみな持たなければならない。『囚人のジレンマ』と同じで、最善の選択が何か分かるが、それを選べない状況だ」

 「ウクライナ戦争以前には現代社会の国家間で大規模な戦争が起きると考えなかった。起きても局地戦程度だろうと考えたが、予想を裏切り欧州で国家間の戦争が起きた。戦争は近くにある」

 「アウシュビッツ収容所で起きたことを扱った映画を見た。人々が死に貨車に運ばれて打ち捨てられていた。私の家族がそうなったかもしれない。力が無いと同じようなことが起きる」

 「強くなければ他人に引きずられ奴隷になる。強くなるためには防衛産業は必ず必要。自由と平和を確保するための最後のあがきではないか」

 「人類の歴史に戦争がなかった時はない。『平和を望む者は戦争に備えよ』という言葉がある。戦争に備えてこそ平和に生きていける。戦争に対する備え、平和のための準備。それこそが戦力の増強で軍事的な建設だ。そしてそれは防衛産業の発展であると言う他にない」

 いかがでしょうか。

 今なお停戦体制の中にある韓国で、防衛産業の現場の人々が抱く気持ちが率直に表れていると思います。日本社会とはひと味異なる歴史的経験や現状が垣間見えた番組でした。

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◎韓国から見た南北関係:『9.19南北軍事合意書』の死文化がもたらす2つの危機

 今号のニュースレターでは、この一点のみ考えてみようと思います。

 理由は18年に締結され、この度南北双方により打ち捨てられた『9.19南北軍事合意書』こそが19年下半期以降、対話が途絶えていた中でも南北関係の完全な破綻を防ぐ装置だったからです。

 これが無くなったことがどんな意味を持つのでしょうか。

 まずはここ一週間の時系列を簡単にまとめてみます。

・11月19日(日)

 韓国:申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官がテレビに出演し北朝鮮の偵察衛星発射時期について「今後一週間以内、遅くとも11月30日以前」と発言。『9.19南北軍事合意書』については平素のように「韓国にとって不利な内容」として破棄を主張。

・11月20日(月)

 北朝鮮:偵察衛星の発射時期について「22日0時から12月1日0時まで」と日本政府に通告。

 韓国:合同参謀本部が北朝鮮に対し「現在準備中の軍事偵察衛星の発射を即刻中断することを厳重に警告する」、「北韓が偵察衛星の発射を強行するならば、わが軍は国民の生命と安全を保障するため必要な措置をとる」と発射を警告。

・11月21日(火)

 北朝鮮:午後10時42分北朝鮮が偵察衛星『マンリギョン(万里鏡)-1』号を新型衛星運搬ロケット『チョンリマ(千里馬)-1」型に搭載し発射。

 韓国:午前に米原子力空母『カール・ビンソン』が釜山(プサン)作戦基地に入港。

・11月22日(水)

 北朝鮮:朝鮮中央通信は発射成功を発表。「共和国武力の戦争準備態勢を確固と高めることに大きな寄与をするだろう」とし、金正恩国務委員長が参観したと明かす。「今後、早い期間の間に数個の偵察衛星を追加で発射する」とも。

 午前10時に金正恩氏が国家航空宇宙技術総局(NATA)、平壌総合管制所を訪問。この場で同総局は「12月1日から正式な偵察任務にに着手する」と報告。金正恩氏はグアムの米アンダーソン空軍基地などを撮影した航空宇宙写真を見たとのこと。晩に北朝鮮が弾道ミサイル発射実験を行ったが失敗(韓国政府発表)。

韓国:未明に外遊中の尹大統領の主宰でNSC(国家安保会議)常任委員会を開き『9.19南北軍事合意書』の一部(1条3項)効力停止を決定。午前8時に韓悳洙(ハン・ドクス)国務総理が主宰する国務会議で議決し、尹大統領が裁可。効力停止期間は「南北間相互の信頼が回復する時」まで。これにより軍は午後3時から軍事境界線南側での偵察活動を再開。

 陸軍参謀総長は勤務服を着る兵士たちに戦闘服を着用し勤務するように指示。陸軍は理由を「敵の挑発時に即刻応酬できる戦闘準備態勢を完備するのに必須な、精神的な備えを確固たるものにするため」と説明。

 また、申源湜国防長官は米空母『カール・ビンソン』を訪問。

22日、米原子力空母『カール・ビンソン』を訪問した申源湜長官(中央)。


22日、米原子力空母『カール・ビンソン』を訪問した申源湜長官(中央)。

・11月23日(木)

 北朝鮮:金正恩氏が娘ジュエを連れて国家航空宇宙技術総局を訪問し「第8次党大会が提示した国防力発展5大重点目標の最重要先決課業を成功的に達成した」と科学者や技術者、職員などを慰労し記念写真を撮影。さらに宴会を催した。

 金正恩氏は「偵察衛星の保有はわが国の安全環境と発展利益、人民の安寧と幸福を根強く守り、敵対勢力たちの様々な危険千万な侵略的行動を主動的に抑制し、統制・管理していかなければならないわが武力において、一毫たりとも譲れず一瞬たりとも止められない正当防衛権の堂々とした行使となる」と発言。

 一方、国防省の名義で「『大韓民国』のものは北南軍事分野合意書を破棄した責任から絶対に逃れられず、必ず残酷な代価を払わなければならない」という声明を発表。

 「『大韓民国』の故意的で挑発的な策動により、9.19南北軍事軍や合意書は既に死文化し皮だけとなって久しい」と明かし、▲いまこの瞬間から北朝鮮の軍隊が9.19南北軍事合意書に拘束されない、▲同合意により中止したすべての軍事的措置を即時回復する、▲北南の間に取り返しのつかない衝突が発生する場合、すべて『大韓民国』の者らが責任を取ることになる、とし敵(韓国)を注視するとした。

 韓国:申源湜国防部長官が国会・国防委員会の全体会議で報告。北朝鮮の衛星発射が国連安保理決議の違反であり、韓半島と国際社会への挑発と表現。北韓は「9.19合意を遵守する気がこれっぽっちもないことが再び分かった」と述べる。

 北側は衛星発射で偵察能力を高めているが、韓国は9.19合意のために偵察ができないという理論を持ち出し、同合意の効力停止は「生命と安全を守るための必須の措置」と強調した。さらに「北韓の挑発には即時強力に、最後まで応酬するだろう」と発言した。

 金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官は北側が『919南北軍事合意書』を守らないと決めたことについて「北韓の具体的な行動を見て判断する必要がある」と述べた。北側に向けた拡声器による宣伝放送(情報戦)などは考えていないとした。

 他方、情報機関の国家情報院は国会で「北韓の発射体の成功にはロシアの支援があったものと判断する」と述べた。

 23日、宴会に臨む金氏父娘。北朝鮮メディアより


 23日、宴会に臨む金氏父娘。北朝鮮メディアより

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・11月24日(金)

 北朝鮮:金正恩氏が国家航空宇宙技術総局を平壌総合管制所を訪問。24日に撮影した航空宇宙写真を見たとする。場所は韓国の木浦(モクポ)、群山(クンサン)、平澤(ピョンテク)、烏山(オサン)、ソウルなど。いずれも韓国軍と米軍基地がある地域です。

 韓国:与党・国民の力の報道官が論評で最大野党・共に民主党に対し「厳重な安全保障の状況の中で北韓よりも韓国政府に向けた批判に熱を上げている民主党の姿は、大韓民国の公党なのか、北韓を代弁しているのか疑いすら湧く」と批判。

 これに先立ち、共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は「韓半島の安保状況が文字通り『強対強』になっている。(政府は)北韓に分からせてやるとばかりに平和の安全ピンを抜く、まさに矯角殺牛(角を無理にまっすぐにしようとして牛を殺してしまうこと)の愚を犯してはならない」と述べ、「戦争の脅威だけを高める強対強一辺倒の無責任な政策が再考されるべき」と主張してた。

 まず今回の衛星発射が持つ意味について整理してみましょう。

 「軍事偵察衛星の運営」という目標は、金正恩氏が21年1月の第8次党大会における事業総和報告で提示した『国防科学発展および武器開発5か年計画(2021~2025)』の中に含まれています。

 さらに衛星発射は22年12月の朝鮮労働党第8期第6次全員会議で「国防力強化のための4大目標」と定められていました。これを年内に行うことが重要だったことがうかがえます。

・衛星の目的と「現在」

 衛星の目的について、韓国の国策シンクタンクである『統一研究院』は最新のレポートで「核兵器の高度化のために必ず必要である」としています。

 具体的には、▲相手の軍事基地や施設の動向を把握し目標化する、▲ミサイル発射を通じた相手への打撃効果を極大化する精密化に寄与する、▲偵察情報を蓄積し核・ミサイルの運営をシミュレーションする能力を高めることができる、としています。

 他に政治的な目標として、▲米韓に対し核兵器を高度化する意志の表明、▲国内向けに「科学技術強国の地位を確保」などと喧伝し核兵器の高度化にすべてを集中してきた金正恩路線の正当性を見せる、とったものです。

 各メディアの報道を総合すると『マンリギョン-1』は25日現在、高度518キロの地点で地球を周回し、日に2~4回朝鮮半島の上空を通過していると言います。識別できる物体の大きさは3メートルで軍事的な効用は高くないというのが総論です。

 ただ、ロシアの協力の下で行われているため、技術の発展は時間の問題だという見方が韓国メディアには目立ちます。

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 さて、ここからが本論です。

 「9.19南北軍事合意書の死文化」が南北関係にもたらす短期的な影響と長期的な影響を考えてみようと思います。

 その前にこの「死文化」という表現ですが、南北双方ともあえて「破棄」という単語を使っていません。韓国は「一部効力停止」、北朝鮮は「すでに死文化」「これ以上拘束されない」としています。

 実は過去の長い南北分断の歴史の中で、韓国側が先に南北の合意文を止めたのは今回がはじめてです。それほどまでに大きな出来事でしたが、全面破棄には至りませんでした。

 背景にはウクライナ戦争と中東紛争に関与する米国が、これ以上の不安定要素を望まないという見方が存在します。

 申源湜国防長官や尹大統領は『9.19南北軍事合意書』に否定的です。先日、オースティン国防長官が韓国に来た際にも、破棄の意志を伝えたはずですが、一部効力停止にとどまったのは何かしらの制止があった可能性があります。もっとも、韓国側にとっては今後のカードを残す意味合いがあるかもしれません。

 さらに南北共に、先に破棄を口にすることで正当性を失うことを恐れているという点も指摘できるでしょう。

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・短期的な影響

 短期的には南北が衝突する可能性が高まりました。しかしこれを南北共に衝突を望んでいると解釈するのは間違いです。偶発的な衝突の可能性が高まるというのが、より正確な表現になります。

 これについて、統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)専任研究委員は24日、電話インタビューで「暗闇で人と子犬が急に出会う場合を考えてみればよい」という面白い例えで説明してくれました。

 子犬は暗闇で驚いたあまりすぐに人と分からず、普段は自分より大きな生き物に対しては吠えないのに吠えてしまう一方、人も同じように暗闇であるため子犬であることが分からずに、吠えられたことに対応するようになるというものです。こうして互いに望まない衝突が起きます。

 まさに誤判断による、偶発的な衝突です。互いが偵察行動を増やす中で、可能性はグッと増します。趙研究委員はこんな衝突の可能性が「恐ろしいほど高まった」と警告します。

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 以前お伝えしたように、南北間には現在、互いに連絡を取り合うホットラインが存在しません。対話のチャンネルが存在しないため、実際に衝突が起きた場合にどんな形が落とし所になるのか、中々想像が付きません。

 別の例としては、15年8月の出来事を挙げられるかもしれません。

 当時、軍事境界線沿いを巡察していた韓国軍兵士2人が、北朝鮮の木箱型の地雷を踏み吹き飛ばされました。あってはならない所に北朝鮮の地雷が存在したことを受け、韓国側は拡声器による宣伝放送の再開で対抗します。これに対し北朝鮮側は韓国側に砲撃を加えますが、韓国も自走砲を撃ち返します。

 金正恩氏は「準戦時体制」を宣布し一触即発となります。しかし朴槿惠政権は一歩も引かなかったことで、北朝鮮は対話を提案します。板門店で43時間の南北会談が行われ、結果は北朝鮮側が地雷で韓国兵士が負傷したことに遺憾の意を表明するという、韓国側の勝利に終わりました。

 しかしもし今回、南北間で衝突が起きる場合、このような形が繰り返されるとは限りません。当時はまだ金正恩氏は核兵器を完成させていませんでしたが、今は違います。指導者としても10年以上のキャリアを積んだ上に、核兵器を持ったことで自信も付きました。簡単に謝謝罪せず、ある程度の衝突を容認するかもしれません。

 こうなる場合、双方共にメンツがあるため「引き際」を探すことが難しくなります。

 南北軍事合意書はこうした事態が起きた際に戻れる場所として、そもそもこうした事態にならないために存在したのです。朝鮮半島の平和のための「安全ピン(安全弁、安全板とも」と評される所以です。

 趙漢凡研究委員は「北朝鮮側は韓国よりも衝突を望んでいないだろう」としながらも「今後おそらく北朝鮮は板門店の再武装や、軍事合意により撤去したGP(哨所)の再建などを目論む」と見立てました。

 この過程でいくらでも偶発的な衝突が起きる可能性があります。

14年10月、南側から撒布されたビラに反発し、北朝鮮が「高射機関銃」を打ち込んできた跡。22年7月漣川郡で筆者撮影。


14年10月、南側から撒布されたビラに反発し、北朝鮮が「高射機関銃」を打ち込んできた跡。22年7月漣川郡で筆者撮影。

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・長期的な影響

 ここからはやや私の持論になります。

 結論から言うと、南北関係の未来について、いよいよ進歩派が答えを出すときが来たというものです。

 今回の衛星発射を受け、韓国の日刊紙主要9紙には4日間で21の社説が出ました。すべて読んでみたのですが、保守紙と進歩紙(ハンギョレと京郷新聞の2紙だけですが)で立場は大きく異なります。

 保守派の論調をよく表しているのは24日付けの『朝鮮日報』の「北韓のような国際法規と相互合意を守る義務と考えない集団に対処する際に最も悪いのは、彼らの善意に頼ること。大きな災いを呼ぶ」との一文です。北朝鮮に引きずられてはならず、断乎とした対応を取るべきという主張です。

 一方、進歩派の論調は25日付けの『京郷新聞』が象徴的です。

 前置きを説明します。同紙は22日付けの社説で、韓国政府が南北軍事合意を一部停止したことを取り上げ、総選挙を控え保守層を結集させる意図があるのでは」と疑問を提起しました。

 北朝鮮との緊張が高まることが、反共つまり北朝鮮への強い姿勢を示す保守陣営の支持を集めることにつながるという論理です。

 これに対し申源湜国防長官が翌23日に「強盗を擁護する典型的なストックホルムシンドロームに立脚した偏向した記事」と非難したのです。

 これに対し25日、京郷新聞は「韓国が北韓と全く同じ方式で対応することが平和を守る側面から賢明なのかという問題意識を持っている」と反撃します。

 さらに「総選挙を前に保守政府はこの問題でより鮮明性を強調するだろうし、衝突の危険性がより高まる可能性がある。そういう時こそ誰かが和解の声を挙げなければならない」と主張します。

 少し横道に逸れますが同紙は「ミサイル発射時に株を取引し、ゴルフを行う軍人を制服トップに据えようとする政府を信じて安心する国民が多いと思うのか」との一撃も忘れませんでした。

 これは新任の金明秀(キム・ミョンス)合同参謀議長候補の過去の行状を皮肉ってのものです。なお同氏は25日、大統領が任命を強行しました。

金明秀(キム・ミョンス)合同参謀議長。25日に任命されました。


金明秀(キム・ミョンス)合同参謀議長。25日に任命されました。

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 いずれにせよ「韓国が北韓と全く同じ方式で対応することが、平和を守る側面から賢明なのか」という問題意識こそが、進歩派の北朝鮮政策の根底にあると言えるでしょう。私もまったく同じ問題意識を持っています。

 そしてこの点こそが、進歩派と「正統派保守(盧泰愚)」の北朝鮮政策の大元になっている概念です。

 つまり、韓国の軍事的・経済的優位をもっと信頼しようというのです。経済力や民主化の水準で北朝鮮を圧倒している韓国が懐の深い姿を見せて北朝鮮を包容しよう、その入り口に南北交流があり、南北が混じり合う先に最終的な統一があるという考えです。

 一方の保守派は、北朝鮮の脅威を甘く見るな、北朝鮮は敵だという姿勢です。

 この考え方をする人は韓国の経済力と軍事力が成長を続ける中で減ってきましたが(徐々に極右に分類されていきました)、北朝鮮が核を完成させ、様々な運搬手段ミサイルを開発し、さらには核ドクトリンを改定し韓国を先制核攻撃の対象に含めたことで、再び発言力を持ちつつあります。

 より分かりやすく言うと、進歩派と保守派の北朝鮮政策の差は「余裕」にありました。

 先日のヤフーの記事にも書いたように「強者の韓国が譲歩することが南北関係の改善につながる」というのが進歩派(保守派の盧泰愚政権もここに含まれる)の論理です。

 一方、「強者の韓国が譲歩するため金正恩がつけあがる」というの保守派の論理となります。

 しかし、この法則はもはや通用しません。なぜなら、北朝鮮が核を完成させたことで韓国は強者でなくなってしまったからです。

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 1989年の冷戦終結から過去30年間通用した力関係が崩れたことで、南北関係は大きな転換点に差し掛かっています。

 この時に優位なのは保守派です。

 24日、韓国大統領直属の『民主平和統一諮問委員会(民主平統)』のシンポジウムがありました。

 聯合ニュースによると、基調講演で李明博政権(イ・ミョンバク、08年2月~13年2月)時代に統一部長官を務めた玄仁沢(ヒョン・インテク)氏は「『韓民族共同体統一方案』は寿命が果てた」とし「北韓の政権でなく北韓の住民に人権と自由を保障する統一を推進すべき」と述べました。

 このように保守は立場が簡単です。人権問題や民主化を建前に金正恩政権の打倒という目標を設定できるからです。

22日、国家航空宇宙技術総局(NATA)を訪問した金正恩氏。朝鮮中央通信より。


22日、国家航空宇宙技術総局(NATA)を訪問した金正恩氏。朝鮮中央通信より。

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 一方の進歩派は苦しいところです。「余裕」を元にした南北交流も、もはや金正恩氏が韓国との関係をまったく望んでいないため実現の望みは薄い中、代案の提示が求められます。

 しかしそれは簡単ではありません。いわゆる合理的な保守を巻き込んだ、とてつもない議論が必要です。そしてこのための時間稼ぎを可能にするのが『919南北軍事合意書』でした。

 同合意が南北関係の枠組みを最後の砦とばかりに維持してくれていましたが、これが今回無くなったことで、進歩派は野に放り出されることになりました。

 この部分こそが、衛星発射と南北軍事合意書の死文化が南北関係にもたらす最大の影響ではないかと私は思います。

 次に、代案についても書きたいところですが、長くなりすぎたので今日はここまでにします。

 これが書きたくて時間がかかってしまいました。

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◎あとがきに代えて

 発行が一日以上遅れてしまいました。年末に向けて仕事が溜まってきているので、気合いを入れ直して日付けを守っていきます。

 今号は「ショートニュース」をお送りすることができませんでした。いくつかお伝えしいニュースがあるので、これは次回の南北関係号で合わせてお送りします。

 それにしても皮肉なものです。

 ウクライナ戦争により、韓国の軍需産業もポーランドなどへの輸出で特需を迎え、北朝鮮もロシアへの砲弾輸出で特需を迎えています。南北が互いに戦争で儲けている形です。

 これをどう受け止めるべきでしょうか。

 前出の統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)研究委員は「他の国と異なり、南北は常に戦争に備えているため、兵器や砲弾の供給が迅速にできるということだ」と説明してくれました。臨戦態勢を70年続けているこということです。その通りです。どっと疲れが押し寄せました。

 今朝はマイナス5度でした。日本も(といっても広いですよね)寒波と聞きました。寒さにお気をつけください。
 ニュースレターの存在を、SNSなどを通じ知人やご友人にお知らせ下さい。ありがとうございます!(徐台教)

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