ニュースレター号

環境保護に逆行?使い捨て用品規制を「無期限延期」、公営放送KBSに新社長就任で大荒れ、政治のキーマンが登場など 全6トピック|第15号

(11月15日)サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。

ニュースレター第15号をお届けいたします。今号は一日遅れでの発行となってしまいました。お待たせして申し訳ありません。韓国社会・韓国政治をテーマにお届けします。

 13号でお伝えしたように、どうしても韓国メディアの話題は政治が中心となってきます。来年の総選挙まで5か月以上あるのに、この調子で続くのかと暗澹たる思いです。

今号の目次は以下の通りです。ごゆっくりお読みください。

  • 韓国社会(1):使い捨て用品の規制を無期限延期に…「ポピュリズム」か「自営業者の保護」か

  • 韓国社会(2):公営放送KBSに新社長就任、いきなりの強権発動に「占領だ」との指摘も

  • 韓国政治(1):またしてもキーマンに金鐘仁?李俊錫を積極的に後押し

  • 韓国政治(2):“若造め!”吠える「86世代」のリーダーと次期保守のスターの争い

  • ショートニュース:韓国社会を動かした小学校教師自死事件の捜査が終結/尹錫悦大統領を直撃、朝鮮日報の異色インタビュー

  • あとがきに代えて:YouTubeはじめました

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◎韓国社会(1):使い捨て用品規制を無期限延期…「ポピュリズム」か「自営業者の保護」か

 日本でも導入が進む「紙ストロー」ですが、韓国では法で定めていた「紙ストローの導入」を政府が無期限延期する大きな方向転換がありました。

 7日、韓国の環境部の次官は会見を開き、使い捨て用品規制の変更点を説明しました。

 要点は「ビニール袋」「プラスチックストロー」「紙コップ」において、代替品への切り替えを強制しないというものでした。

 韓国では再活用品法(リサイクル法)に従い、上記の品を使わないように規制することになっていました。今月23日までを啓導期間(予備期間)として、その後は取締りの対象になるはずでした。これが完全に棚上げとなったのです。

 環境部はその理由について一つ一つ説明しました。

 例えば「ビニール袋」の場合には自然で分解される生分解性のものや、政府指定の一般有料ゴミ用、さらに紙袋への切り替えが9割以上達成されたからとしています。

 今後は守らない店に罰金を課すのではなく「生活文化として定着させていく」としました。プロの公務員の作文だな、と思わず唸りました。

 次いで「プラスチックストロー」については“現場の苦労”を挙げました。

 代替品となる「紙ストロー」の価格がプラスチック製の2.5倍(プラは約1.5円、紙は4円程度)にのぼる上に、飲み物の味を落とし、すぐにグニャグニャになり使いづらいというものです。

 お店の現場では、コスト増と顧客のクレーム増に対応しなければならない二重の苦しみがあるとし、予備期間を延長するとしました。期限は今後決めるという、事実上の無期限延期です。

 最後に「紙コップ」についてもやはりコスト増を挙げました。何度も使える素材のコップを使う場合に、食洗機を設置したり人手で追加で必要になるという指摘です。

 政府は今後、紙コップを回収するシステムを整備し、切り替えに必要な費用を支援するとしていますが、いずれにせよ「規制」から「勧告と支援」への転換となりました。

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 食堂やカフェを営む自営業者たちは政府の発表を歓迎しました。

 全国コンビニ加盟店協会は7日に出した声明の中で「今回の決定が困難な環境にある小商工人(零細、小規模自営業者)の経営負担を緩和することを期待する」と明かしました。

 韓国フランチャイズ協会もやはり7日、書面で経営上の混乱を避けられた安堵の意を表明しました。

 一方で、紙ストロー生産業者たちは大きなショックを受けました。

 『京郷新聞』は予備期間の終了を見越し設備を拡大した工場を取材し、「政策による被害は政策を解決すべき」というオーナーの声を伝えました。

 さらにこのオーナーは「先月まで『(規制の)基調に変わりが無い』と言っていた担当者と、今月2日以降電話がつながらない」という事情も明かしています。

 青天の霹靂だったことがうかがえる内容です。

 記事で紹介されている別の紙ストロー製造業者では発表の翌日8日、11人の職員全員が退社したそうです。同社の代表は「猶予期間が決まっていれば『もう少し待ってみよう』と引き留められるが、無期限では涙をのむしかない」と語っています。

環境NGO『緑色連合』は「環境部、使い捨て用品の規制を放棄」という声明を出しました。同HPをキャプチャ。


環境NGO『緑色連合』は「環境部、使い捨て用品の規制を放棄」という声明を出しました。同HPをキャプチャ。

 こんな被害を受けた業者たちは13日、環境部のオフィスがある世宗(セジョン)市の政府庁舎前で集会を開きました。「政府の言葉を信じたことを後悔する」としながら政府の決定取消や、生存を保障するための実質的な対策の必要性を訴えました。

 さらに国民に対して「国産の紙ストロー業者が倒産し産業が崩れる場合、その後には品質の低い輸入産ストローに依存することになる」と語りかけました。健康被害が起きるだろうということです。政府は「業者達への支援を考える」と発表しました。

 他方、韓国の代表的な環境保護NGOの『緑色連合』は7日、声明書を発表し「環境部が環境政策の責任を放棄した」と政府を強く批判しました。さらに「環境部は産業界の立場だけを代弁している」とも指摘しました。

 過去の世論調査で70%以上の市民がプラスチックの規制に賛成しているのにもかかわらず、そんな消費者の声を全く聞かなかったというのです。声明は「これ以上、尹錫悦政権に国民の環境権を任せられない」と結ばれています。

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 それではいったい、なぜこんな決定が下ったのでしょうか。

 政府が挙げた「自営業者の保護」の陰に「選挙用の政策」という顔が見え隠れするという問題提起が存在します。もしそうだとしたら、環境部を排除した形での何かしらの政治判断があったということになります。

 この点に関して今はまだ多くが明らかになっていませんが、いずれ明らかになるでしょう。

 最後に、様々な議論の中で目に止まったものを紹介して本項を終わります。

 それは「紙ストローを使うか使わないかが重要なのではなく、ストローを使わない文化が定着することが大切だ」という指摘です。

 つまり、代替品に焦点を当てるのではなく、環境保護という認識を持たせることが重要だというものです。

 なるほどな、と思うと同時に、既にこうした認識を多くの人々は持っていたのではいかとも感じました。各種世論調査ではプラスチックが過度に使われている、というような認識が多くを占めているからです。

 「世の中に逆行しているのでは」という批判が相次ぐや、環境部は8日に「今回の政府の決定は規制の一部を合理化したもの」と改めて立場を明かしました。

 しかし政府は環境保護という面からも、また環境保護の議論の中身までも後退させてしまったのではないかと思わざるを得ません。

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◎韓国社会(2):公営放送KBSに新社長就任、いきなりの強権発動に「占領だ」との指摘も

 13日、日本のNHKにあたる公営放送KBSの新社長に、朴敏(パク・ミン)氏が就任しました。韓国の保守紙『文化日報』で編集局長まで務めた記者出身の人物です。

 この朴社長の就任直後から、KBSは蜂の巣をつついたような大騒ぎになっています。

 夜9時のメインニュース『ニュース9』のアンカー、午後5時5分からの人気ラジオニュース『チュ・ジヌのライブ』のMCなどがその日にうちに交替させられたからです。

 さらに視聴率トップの時事番組『ザ・ライブ』は他の番組に差し替えられ、事実上の「廃止」となりました。

 いずれも視聴者への別れの挨拶もないままの急な降板でした。

 特に4年にわたり『ニュース9』のメインアンカーを務めた李昭政(イ・ソジョン)氏はいわば、KBSの顔の一人だった人物です。降板時には通常、視聴者に向けて1~2分の挨拶を生放送で行うのが恒例ですが、それすらもできない、文字通り異例の事態となりました。李氏が降板を知ったのは12日の晩だったそうです。

李昭政(イ・ソジョン)氏は11月10日が最後の出演となりました。同日の放送をキャプチャしたものです。


李昭政(イ・ソジョン)氏は11月10日が最後の出演となりました。同日の放送をキャプチャしたものです。

 13日、新たなメインアンカーは『ニュース9』のオープニングで「これまで公営放送のアイデンティティを揺るがした政派性への論議を克服し、これから公営性を最優先の価値とするニュースプログラムを放送し、視聴者の信頼を回復するために努力する」と神妙な面持ちで述べました。

 直前で降板を知らされたのは『チュ・ジヌのライブ』のMCチュ・ジヌも同様でした。

 週刊誌『時事IN』記者だったチュ氏は李明博政権(08年2月~13年2月)時代に政権批判ポッドキャストのメンバーの一員として人気を博した人物で、李明博前大統領の不正に対する報道で知られています。

 最近のラジオではあからさまな政権批判は控えている印象でしたが、保守派からは目の上のこぶのような存在であることは変わりません。

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 しかしKBSの労組はこんな一連の過程が正当な手続きにのっとって行われていないと反発しています。

 同社の編成規約と団体協約では番組改編の際には担当の実務者と協議をすることになっており、緊急の編成変更の際には労組に通告する必要があるにもかかわらず、これらが無視されたという批判です。

 労組側は「今回の措置は放送編成の自由と独立を保障し、誰であろうと放送の編成に関し規制や干渉をすることができないと明示した放送法に反する」と主張しながら、法的な対応を取る旨を明かしています。

 韓国メディアによると、KBSの職員用のサイトには朴社長に対する内部からの批判の声が殺到し、一時接続が困難になるほどアクセスが集中したといいます。

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 朴敏社長は「マイウェイ」を貫いています。就任二日目となる14日にはソウル汝矣島(ヨイド)のKBSホールで国民向けの取材会見を行いました。

 その中で過去の『ニュース9』による誤報を一つ一つ例に挙げつつ、「過去数年のあいだ、不公正で偏っているという論議が絶えず、テレビとラジオで一部の司会者が一方的に片方の陣営の肩を持ったり、パネラーの選択が偏っていることが少なくなかった」としました。

 これは明言こそしないものの「進歩派寄り、共に民主党寄り」であったと批判するものです。誤報の例に挙げた4つのうち3つが保守陣営に関するものでした。

 朴社長はさらに「ファクトチェックを活性化させ、誤報が発生しないようにする」とし「公正性と信頼度の確保を最優先の価値とする」と強調しました。

 「今後は不公正な事例を容認しない」との発言もありました。

 「不公正で偏った報道で社会的な物議を引き起こした記者やディレクターは業務から即時に排除する」とし「責任を問う」と言明しました。

 朴社長はまた、経営上の問題を指摘しました。KBSはその間成長してこなかったとした上で「非効率的で放漫な経営により今年は800億ウォン(約90億円)の赤字が予想される」と述べ、自身と経営幹部が給料の30%を削減し、リストラも積極的に進めることを明かしました。

14日、記者会見を行う朴敏社長。KBSより引用。


14日、記者会見を行う朴敏社長。KBSより引用。

 一方、前述のアンカーの突然の交替には「適切な過程を協議して推進せよとしたが、その後どう進められたのか具体的には正確に分からない」と述べました。

 その後、質問を受け継いだKBSの報道本部長(現場トップ)は「既存のニュースの司会者たちには降板を丁重に通報した」と続けました。

 この日、公正な報道を約束した朴社長でしたが、その中身や基準を明確に示していないという批判も出ました。

 韓国の文字・放送メディアの労組が運営する「メディアを監視するメディア」である『メディアオヌル』は14日付けの記事で「KBSが作るべき公正性の基準は何か」という質問に対し朴社長が「公正の核心は正確性、均衡性、客観性」と原論的な立場を述べるにとどまったと指摘しました。

 同紙はまた、またこの日の会見が「質問は10個まで」と告知された中で行われ、その後は生中継が遮断された点を取り上げ批判しました。

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 朴敏社長に対しては、最大野党・共に民主党も反対姿勢を明確にしています。

 14日、同党の洪翼杓(ホン・イクピョ)院内代表(日本の国対委員長に相当)は党内会議の席で「朴敏社長が就任するや否や『KBS占領作戦』が一糸乱れず行われた。軍事クーデターを彷彿とさせる」と強い表現で批判しました。

 また、急激な人事を取り上げながら「朴社長の就任初日から編成規約と団体交渉違反行為が続いている」と指摘しつつ、朴社長に対し「法的・政治的な責任はもちろん、歴史的な審判を受ける日が来る」とし辞任を勧めました。

 第二野党・正義党も「占領軍の凱旋将軍のようだ」と朴社長の強権的な姿勢を正面から批判しました。

 他方、与党は朴社長に対し「公正な、放送としての本来の姿に戻ることを期待している」とエールを送りました。

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 改めて、韓国で大騒ぎとなっている一連の出来事をどう読み解くべきなのでしょうか?

 ヒントは韓国における政府とテレビ・新聞など言論メディアの関係の歴史にあります。

 最も知られているものが軍事クーデターで政権を奪った全斗煥(チョン・ドゥファン、在任80年8月~88年2月)政権下での『報道指針』です。

 これは文字通り「何をどう報道すべきか」を政府が定めたもので毎日各メディアに下達されました。

 後に公開された当時の資料を見ると本当に細かく「~~~は報じてはならない」「~~~はこの部分のみ報じること」などと指定があり、政府の介入の度合いがうかがえます。

 実際に全斗煥政権当時のニュースは「テンジョンニュース」と揶揄されました。夜の9時を知らせる「テン」の音と共にニュースが始まるや否や、全大統領の動静を伝えることから付いた不名誉なあだ名です。

 その後、1987年の民主化と共にこ放送法が整備され、政権の圧力は弱まりましたが、保守政権の際には言論メディアへの介入が露骨に行われてきました。

 特に李明博政権(08年2月~13年2月)、朴槿惠政権(13年2月~17年3月弾劾)の下で公営放送KBSとMBCへの介入はすさまじく、反発する職員の強制解雇も敢行するものでした。全面ストライキなどの長い闘いを経て文在寅政権下の18年になってようやく解決しました。

 この背景には、どの国にもあるように、自身に有利な報道をさせたい政府と、権力批判が仕事の言論メディアの宿命的とも言える緊張関係があります。

 今回就任した朴敏氏もまた、尹錫悦大統領との知己が知られています。そのため、来年4月の総選挙を控え、露骨に与党や政権に有利な報道をさせようという大統領側の魂胆が透けて見えるというのが、批判の根底に存在します。

 (私が以前書いた、当時の記事です。ご参考までに)

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 しかしここで必ず指摘されなければならないのは「なぜこうした介入が可能なのか?」という根本的な問いです。

 原因は制度にあります。

 韓国の公営放送KBSとMBCは双方ともに独自の理事会で運営されます。理事の任命権はいずれも、その上の政府組織である「放送通信委員会」が有しています。

 この「放送通信委員会」は5人の委員で構成されるのですが、この内2人を大統領が、1人を与党が推薦できるシステムになっているのです。その気になれば、政権側が影響力を行使することが可能なのです。

 李明博政権下が作られたこの制度こそが改革対象であるというのは、文在寅政権時代にもずっと指摘されてきました。

 私も上記の記事にあるように過去、KBSとMBCの「抵抗」を取材したことがありますが、結論は常に「制度を変えるべき」という点に落ち着きました。

 理事を5人から大幅に増やし、各界の人物が参加できるようにした上で、現在のような大統領直属機関でなく独立した機関に変えてこそ「公正な報道」が可能になるというものです。

 しかし「積弊清算」を掲げた文政権もこれを無視したことで(それどころかフェイクニュース根絶を掲げメディアへの締めつけを強めようとしました)、今なお同じことが繰り返されているのです。

 この点で文在寅政権とは何だったのかという疑問を改めて提起することもできるでしょう。

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 長くなりすぎてしまったので、今回はここまでにしますが、朴敏社長体制となったKBSでは今後、李明博政権下のような人事への介入が行われ、これに反発する現場や労組との関係が紛糾するでしょう。

 朴社長は13日の就任式の際に「公営放送を個人や集団の理念、所信を実現する場所として考える人は今後、足場がなくなるだろう」と述べました。

 朴社長もまた、極右的な言説で知られる人物であり、このバランスをどう取るのかも見物です。国会での人事聴聞会の際に「放送への介入」をめぐる未熟な認識が露わになった点も、どう修正していくのでしょうか。新聞畑ひと筋の朴社長に放送メディアの経験はありません。

 KBSでは今後、これまで電気代に上乗せされていた受信料(毎月約280円)の分離徴収が本格化するにしたがい、記者が自由に身動きできる幅も減り、報道機関としての力は徐々に削がれる他にないでしょう。

 もう一つの公営放送へのMBCへの介入も今後、本格化すると見られ、政権への正当な批判をめぐるジャーナリズムの危機は、まだまだ続きそうです。

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◎韓国政治(1):またしてもキーマンに金鐘仁?李俊錫を積極的に後押し

 韓国政治に関心がある方なら金鐘仁(キム・ジョンイン)という名前を一度は聞いたことがあるかもしれません。

 1940年生まれの同氏は国会議員には5度当選し、政治歴40年近い大ベテランです。ドイツで経済学博士を取得し、33歳で西江大学の経済学部教授となった学者でしたが政界入りし、1981年には保守政党・民主正義党の国会議員となりました。

 その後、盧泰愚政権(ノ・テウ、在任1988~1993)下で保健社会部(現・保健福祉部)長官や経済主席秘書官という重任に就きました。 

 なお祖父は独立運動家で弁護士、さらに韓国の初代大法院長(最高裁判所長)を務め、党派にかかわらず広く尊敬を集める金炳魯(キム・ビョンロ、1888~1964)氏です。

 そんな金鐘仁氏には「経済民主化」という言葉が付いて回ります。

 少し横道に逸れますが面白い話なので説明してみます。

 1987年10月29日に公布された現行の憲法で、経済秩序の基本を定めた119条にはこうあります。

(1)大韓民国の経済秩序は個人と企業の経済上の自由と創意を尊重することを基本とする。

(2)国家は均衡ある国民経済の成長および安定と、適正な所得の分配を維持し、市場の支配と経済力の乱発を防止し、経済主体間の調和を通じた経済の民主化のために、経済に関する規制と調整を行うことができる。

 この中で第二項が意味するものは一般的に、自由経済の下では広がる他にない格差を是正し、特定の企業による市場支配に介入し、社会保障制度を整備するということものです。これをもって「民主福祉国家への理想を追求しているもの」と解釈する向きもあります。(以上、『今ふたたび憲法(ロゴポリス、2016)』を参照、未邦訳)。

 そして当時、この条文を作成したのが他ならない金鐘仁氏です。

 この「経済民主化」という概念は、格差が広がり続け、財閥企業による市場を占有しようとする行為が頻発する韓国で、昔も今も大きな共感を得ているものです。

 金氏の特徴はこうした広い視野やバランス感覚にあります。そして過去、これを選挙に大いに活用してきました。

 一例を挙げると2012年の大統領選挙をたたかう保守政党セヌリ党(現与党)の朴槿恵(パク・クネ)氏に対し「経済民主化」を公約に掲げることを助言しました。これにより朴氏が「開発独裁を敷いた朴正熙大統領の娘」というイメージを脱却するのに貢献し、当選に寄与したとされます。

 その政治歴は「華麗」のひと言です。

 2016年4月の総選挙時には、文在寅議員(後に大統領)によって、今度は進歩派政党・共に民主党(前与党)の選挙対策委員長となり辣腕を振るいました。結果、同党は総選挙で議席数1位となる勝利を僅差で手にしました。

 金氏はその後また、20年4月の総選挙で敗れた保守政党・自由韓国党(現与党)に請われ党の再建に寄与しました。この時に、1980年の『光州民主化運動』の現場を訪れ、保守政党の代表として謝罪した姿は大いに話題となりました。また、22年3月の大統領選にも総括選対委員長として参加しました。

朴槿惠、文在寅、尹錫悦と直近の3人の大統領と関わりを持つことから金氏には「キングメーカー」という評価もついて回ります。

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 そんな金氏の「露出」が総選挙を約半年後に控えた今、ふたたび増えています。

 なお、記者にとっても金鐘仁氏は「記事になる」人物として知られています。あまり質問に丁寧に答えるタイプではないのですが、いかんせん与野党にまたがる政治経験が長いため重宝されます。

 最近の金氏は巨大両党ではない、第三地帯のメンターとしてメッセージを発信しているようです。

 特に過去に選挙戦を共に闘ったこともある李俊錫(イ・ジュンソク、38歳)国民の力前代表へのエールが目立ちます。何度もニュースレターに登場した、次回総選挙の「目玉」の一人です。

 13日に出演したラジオ番組では新党結成をちらつかせる李俊錫氏に対し「最も有利な地域を選ぶことが大事」とアドバイスを送る一方、敵を作り、ズバズバと物を言う李氏の政治スタイルに対しても「少しずつ言葉が柔らかくなるだろうし、正常的ないわゆる指導者の道を歩くと考えるため心配しなくともよい」と太鼓判を押しました。

 また、別の新党結成を進めている琴泰燮(クム・テソプ、56歳)元議員との連携を勧めるような発言も続けています。

 金鐘仁・李俊錫・琴泰燮の三人は10日、昼食を共にしたのですが、会合後、金鐘仁氏が記者団に対し「二人(李、琴)とも新しい政治勢力を作ろうとしており、指向するところが一致している。一緒にやるしかない」と語りました。

 前出の13日の番組では「二つの柱(李、金)ががっしりとあるならば、よりしっかりと力を受け止めることができる」と述べ、金氏自身については「政界に直接介入することは絶対にない」としつつも、その発言内容はまるで「第三極」の形成を積極的に後押ししようとしているかのようでした。

左から李俊錫、金鐘仁、琴泰燮。YTNより引用。


左から李俊錫、金鐘仁、琴泰燮。YTNより引用。

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 李俊錫氏は与党代表を務めたとはいえ、国会議員選挙に3度挑戦しいずれも敗れています。琴泰燮氏は議員経験は一度だけで、まだまだ「新人」の枠組みを出ていないため、金鐘仁氏の一連のお墨付きは大いに追い風となります。

 現に(?)世論調査会社『ハンギルリサーチ』の調査(11日~13日)によると、「李俊錫・劉承旼(ユ・スンミン、65歳)・金鐘仁」の新党が結成される場合、これを支持するとした回答は16.0%にのぼりました。

 同じ調査で与党・国民の力は31.0%、最大野党・共に民主党は32.0%でした。16.0%は大変な数字で、これは40議席以上を確実に獲得できるものです。特に18~29歳では22.3%と全年代層の中で最も高い支持を得ました。

 なお、劉承旼氏は、李俊錫氏が「大統領にしたい」と慕う政治家です。

 韓国に『ポリスコア』という、日付けごとに指定した政治家の記事の割合を調べてくれるサイトがあります。

最新の11月13日で見る場合、尹錫悦大統領19.01%、野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表9.51%に比べ、李俊錫氏は20.11%と大統領選を闘った二人を上回る注目が続いています。

 一方で、与党の一部では李俊錫氏を引き留めようという動きも続いています。「李俊錫に選挙の指揮を」という声まで出るほどです。

 こうした動きの中で、「キングメーカー」金鐘仁氏の後押しが続く場合、李俊錫氏の勢いはまだまだ伸びることになりそうです。

『ポリスコア』での尹錫悦大統領と李俊錫氏の記事の割合の比較。橙色が李俊錫氏。10月末から尹大統領を逆転しているのが分かります。


『ポリスコア』での尹錫悦大統領と李俊錫氏の記事の割合の比較。橙色が李俊錫氏。10月末から尹大統領を逆転しているのが分かります。

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◎韓国政治(2):“若造には負けない”吠える「586世代」のリーダーと次期保守のスターの闘い

 政治の季節に突入した韓国では、あちこちでバトルが起きています。

 今回の主役は、宋永吉(ソン・ヨンギル、60歳)元共に民主党代表と、尹錫悦大統領の最側近の一人で検察出身の韓東勲(ハン・ドンフン、50歳)法務部長官です。

 『法律新聞』は11日付けの記事の中で、宋永吉氏が今月9日の出版記念会で韓東勲法務長官を名指しした上で「こんな生意気な奴はそうはいない。若造が国会に来て(国会議員)300人、自分よりも人生の先輩であるばかりでなく、検察の遙か上の先輩まで嘲り、侮蔑している。そんな奴をこのままにしておけない」と語ったと伝えました。

 『朝鮮日報』は13日付けの記事で宋氏のこんな態度について「『私以外にはできる人が居ない』という86世代に特有の中心的な思考」と表現すると共に、「86世代の清算論」につながるものとして強く批判しました。

 86世代というのは、以前は「386世代」と呼ばれていた韓国の政治的グループの名称です

 広義には60年代生まれで、80年代に大学に通い民主化運動に邁進した世代(集団)を指す言葉であり、政治的には2000年前後に若くして政界入りした進歩派の政治家グループを指します。

宋永吉氏。21年3月、筆者撮影。


宋永吉氏。21年3月、筆者撮影。

 中でも宋氏の経歴は際立っています。名門・延世大学の学生会長を務め学生運動の先頭に立ち、卒業後に労働運動に身を投じた上で司法試験に合格し弁護士となり、37歳で国会議員となりました。

 5度25年間の国会議員、大年・仁川(インチョン)市長、与党代表まで務めた世代のトップランナーというべき大物政治家です。

 そんな人物が50歳の人物に「青二才」という言葉を使ったことで、保守紙の『朝鮮日報』がここぞとばかりに食いついた形です。

 私は実際、韓東勲長官特有の人を食ったような口ぶりも褒められたものではないと思いますが、それを批判する宋氏の態度もまた褒められたものでは到底ありません。

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 韓東勲長官もやられっぱなしではありませんでした。

 すぐに声明を発表したのですが、これまた強烈でした。

 「宋前代表のような人たちが幼い頃に運動圏(学生運動)をした経験ひとつで、社会に生産的な寄与も特段しないまま、少なくとも数十年かみずからの手でお金を稼ぎ一生懸命に暮らす大部分の市民たちの上に道徳的に君臨してきた」としたのです。

 さらに「宋前代表のような方達は、あえて道徳的な基準で順位を付けるならば、大韓民国の国民全体の中で最も後ろになるはずだが、こうした方達が一生懸命生きる多数の国民の上に君臨し、訓戒してきたことが国民の立場としては悔しいもので、正すべきものと考える」と付け加えました。完全に売られたケンカを買った形です。

 なお現在、宋永吉前代表は2021年に自身が党代表に当選した際の党大会の過程で、30人の同党議員に賄賂が渡った疑惑の中心人物の一人として、検察の捜査を受けています。この辺の関係も二人の舌戦に作用しています。

 韓氏の発言を受け、宋氏もやり返します。14日に出演したラジオで「こんな風に法務部長官をカッコ悪く務める長官ははじめて」と述べ、43億ウォン(約4億7000万円)と公開された韓氏の財産の多さまでやり玉に挙げながら、「怒りが募らないはずがない」とトーンを高めました。

韓東勲法務部長官。ソウル新聞より引用。


韓東勲法務部長官。ソウル新聞より引用。

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 こうなると逆に韓東勲長官の株が上がるのではないかという指摘がSNSで散見されます。

 まさにその通りで、最新の韓国ギャラップの「将来の政治指導者」を聞く調査(調査期間11月7~9日)で韓東勲氏は最大野党・共に民主党の李在明代表(22%)に次ぐ14%となっています。

 他の保守派のあらゆる政治家よりも高い数値で、これだけ見る場合、保守派の次期大統領候補の筆頭となります。もっとも次の大統領選は27年3月とまだ先です。現在の数値は「知名度」くらいにとどめておくのが正しい読み方でしょう。

 余談ですが、私が通う、街の小さな美容院の女性オーナーも韓東勲氏の大ファンです。「無駄なことを言わず、常に理知的な部分がよい。かわいくてしょうがない」とのことです。

 検察の力を政治の力に変えようとする尹錫悦政権において、それを実行する韓東勲長官もまた「法の恣意的な運用」という批判を免れることはできません。

 このような問題を脇に置いたまま、人気投票のような政治報道が続いています。

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◎ショートニュース

(1)小学校教師の事件が終結

 本ニュースレターの創刊号でお伝えした「教権(教師としての権利)」を求める数万人の教師たちの闘いは、立法を通じ勝利に近づきつつあります。

 教師が一斉に立ち上がるきっかけとなったのが、今年7月にソウルのソイ小学校の教室内で起きた先生の自死でした。

 その原因の一つに生徒間のトラブルを解決する過程で加害者側の生徒の親からパワハラを受けた可能性が持ちあがるや、同じような経験を持つ教師たちが共感したのでした。

 事件の直後から捜査に当たっていた警察は14日「犯罪の嫌疑を見つけることはできなかった」と捜査を終了させました。

 『MBC』によると警察は「(教師は)昨年の赴任後に受けた学校に関連するストレスに加え、今年のクラス指導、学校業務、一身上の問題が重なり自死に至った」と判断したということです。

 しかし教師の組合は警察に対し「積極的な捜査をしなかった」と遺憾の意を表明し、再捜査を要求しています。さらに捜査結果とは別に亡くなった教師を「殉職」として認めるよう求めています。

 一方、遺族は15日に会見を開き、やはり警察の捜査に正確性が欠けていると批判しました。ネット上には亡くなった教師に同調する声が依然として多く、再捜査につながるのか注目されます。

(参考記事)

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(2)尹錫悦大統領を直撃、朝鮮日報の異色インタビュー

 今号の最後の記事です。尹錫悦政権を積極的にサポートする姿勢が目立つ保守紙『朝鮮日報』ですが、最近では支持率低迷にあえぐ政権に「喝」を入れるような記事が散見されます。

 13日に掲載されたインタビューはその最たるものでした。原子力研究所に勤めるキム・ジヒ(36歳)さんが正面から尹政権の人事や科学政策について批判したのでした。

インタビュー記事のキャプチャ。


インタビュー記事のキャプチャ。

 昨年の大統領選の際に尹錫悦候補の選対と、当選後の引き継ぎ委員会にも参加していたというキムさんは「選挙の時と今ではあまりにも違う」とし、人事や科学技術分野での予算案に疑問を呈しました。

 さらに「現場の声を伝えるルートがない」とも述べ、尹錫悦政権の風通しの悪さを浮き彫りにする発言もありました。政治的な主張ではなく率直な思いが伝わるこの記事は、ネット上で共感と共に多くシェアされています。

 私も近年まれにみる良いインタビューだったと思い紹介します。日本語には翻訳されていないので、ぜひ以下のリンクを翻訳してお読みください。『朝鮮日報』による尹政権の警告と受け止めることもできます。

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◎あとがきに代えて

 ニュースレターを始めて以降、はじめて発行が一日遅れとなりました。ややオーバーワークが続いていて、間に合いませんでした。今後は気をつけます。

 そして一つお知らせがあります。昨日14日から、YouTubeチャンネル『デモクラシータイムス』で新番組『韓国通信』を始めました。同じ在日コリアンの辛淑玉(シンスゴ)さんと共に、2週間に一度、韓国と朝鮮半島ニュースを紹介していきます。

 リンクはこちらです。

 文字に飽きた(?)方は一度覗いてみてください。ニュースレターではより深堀りした内容となっていますので、両方合わせてみるとより理解が深まると思います。

 それではまた次号でお目にかかります。ありがとうございます。(徐台教)

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