サポートメンバー(有料会員)の皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第8号をお届けいたします。今号は南北関係・朝鮮半島情勢を中心にお届けします。南北関係は相変わらず「人権」一色で、好転の兆しは全く見られません。一方でロシアと北朝鮮は結びつきを極端に強めています。朝鮮半島情勢をめぐり、韓国の存在感はまったくありません。
今号の目次は以下の通りです。
-
韓国から見た南北関係(1):南北関係は「非正常の正常化」だけが目的
-
韓国から見た南北関係(2):問われる統一部の存在価値、今や北朝鮮人権問題追及の最先鋒に
-
韓国から見た南北関係(3):韓国が11月に独自軍事偵察衛星を打ち上げ
-
朝鮮半島情勢(1):金正恩氏とラブロフ外相が面談、続くロシアと北朝鮮の蜜月
-
朝鮮半島情勢(2):続々と明かされる朝露の「武器取引」
-
朝鮮半島情勢(3):日々強調されるハマスと北朝鮮の結びつき、その真意は?
-
朝鮮半島情勢(4):中朝の貿易額が3年8か月ぶり最大に
-
ショートニュース:『9.19南北軍事合意』破棄をめぐる騒動その後/今年韓国に入国する脱北者は約170人/脱北者600余人強制送還のその後/韓国当局が北朝鮮SNSアカウントの国内表示を遮断/米政府が6年ぶりに北朝鮮人権特使を任命/「核以外でまず対話を」米国の元高官が提言
-
あとがきに代えて:もっと書評を
◎韓国から見た南北関係(1):南北関係は「非正常の正常化」だけが目的
毎号お伝えしているように、尹政権下では南北関係の「再定義」が着々と行われています。
18日には『南北関係発展委員会』が開催されました。
これは『南北関係発展に関する法律』(2005年公布)に基づき、5年ごとに『南北関係基本計画』を立てるため委員会です。現在議論されているのは、2023~27年までの第4次計画となります。
この計画は、ちょうど政権の任期と重なるため、政権のカラーが色濃く反映されます。
統一部が公開した資料によると、この日審議された基本計画案は「韓半島の平和構築と南北関係の正常化」を目標に、▲北韓の非核化推進と韓半島の平和定着、▲原則のある南北関係の正常化、▲北韓人権および南北間の人道的問題の解決、▲北韓情報分析の強化、▲北韓・国際社会共に行う統一準備という5つの重点目標が提示されています。
ちなみに文在寅政権下で樹立された第3次計画(18~22年)は、目標として「平和と繁栄の韓半島」と「平和共存・共同繁栄」を掲げていました。
比較のために文政権下の7つの重点目標を書いておきます。
▲北核問題の平和的な解決および平和体制の構築、▲南北対話の定例化および制度化を通じた南北関係の再定立、▲南北交流の活性化・多様化、▲「韓半島新経済構想」の推進、▲人道的問題の解決を推進、▲北韓離脱住民(脱北者)の生活密着型定着支援、▲平和統一の共感帯拡散および統一力量の強化、というものでした。
尹政権下の第4次計画とはだいぶ毛色が異なるのが分かります。第4次計画の特徴は「正常化」という言葉に圧縮されています。
22年12月30日、慶尚北道の漆谷郡多富洞にある戦争記念館を訪ね黙祷する尹錫悦候補(当時)。朝鮮戦争期の韓国の最終防衛ラインだった同地では激戦となった。この日も尹氏は「必ず政権交替を成し遂げ、多富洞と同様にこの国の自由民主主義を確実に守る」と強い発言を行った。国民の力提供。
背景には尹錫悦大統領が持つ「文政権下の南北関係は非正常であったという認識」があります。
低姿勢で南北対話を「物乞い」し、『9.19南北軍事合意』で韓国の軍事的優位に足かせをし、人権問題も提起しないばかりか、朝鮮半島の終戦宣言など時期尚早のアクションを取ろうとしたことなど、すべてが打ち捨てるべき対象となっているのです。
「韓国の対北朝鮮政策は陣営ごとにあまりにも大きく変わり過ぎる」とはよく言われることですが、尹政権でも全く同じことが起きています。
なお、会議の冒頭で金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官は「政府は北韓の挑発には断乎として対応する一方、秩序ある交流協力を推進し、相互の互恵的な発展を成し遂げていく」と述べました。
一方で北朝鮮に対しては「北韓は民生(庶民経済)を悪化させ、みずから孤立を招く間違った行動をやめ、開いている対話の門に一日も早く戻ってくる決断を下す必要がある」とも述べています。
次項で少し見ていきますが、このような立場では対話の可能性はゼロになります。
第4次計画は今後、政府内部で議論され、年内に公表される見通しです。
◎韓国から見た南北関係(2):問われる統一部の存在価値、今や北朝鮮人権問題追及の最先鋒に
本ニュースレターには頻繁に統一部の話が出てきます。しかし、日本に住む皆さんは「いったい何をする部署なのか」イマイチ感覚が掴めないのではないでしょうか。
韓国だけに存在する統一部(日本メディアでは勝手に統一省と名前を変えて使います)はHPでその任務について「統一および南北対話・交流・協力・人道支援に関する政策の樹立、北韓情勢の分析、統一教育・広報、その他に統一に関する事務を管掌する」と説明しています。
その歴史は朴正熙(パク・チョンヒ)政権下の1969年に設立された『国土統一院』から始まり、1990年の統一院、そして98年から統一部となりました。
特に90年から98年までは統一院長官は副総理も兼職する(現在は経済企画部長官と教育部長官が副総理を兼職)重要なポジションでした。当時、冷戦終結と共に北朝鮮との緊張緩和、さらに吸収統一への期待が進んだことが関係していていました。
統一部の23年度予算は1兆4,358億ウォン(約1600億円)ですが、この中の約1兆2,000億ウォンは南北協力基金として目的のある基金となっています。簡単に言うと南北交流がない限り執行されない予算です。
通常業務のための一般会計は2233億ウォン(約250億円)に過ぎません。職員600人あまりの小さな組織です。
なお、北朝鮮との関係改善や交流の他に、もう一つの主要業務として韓国に定着する北韓離脱住民(脱北者)の定着支援があります。
そんな統一部の来年度予算が1兆1087億ウォン(約1230億円)と22.7%も削減されたと、今年8月に話題となりました。
しかし実際は南北交流基金で27.9%の減額となった影響によるもので、一般会計2,345億ウォンや事業費1,706億ウォンは少額の増加(事業費は6.0%増)となっています。
さらに、事業費の15%近くにあたる260億ウォンを北朝鮮人権問題に使うとしています。具体的には『国立北韓人権センター』の建立(25年完成)し、世界に北朝鮮人権問題を知らせる「ハブ」の役割を果たすとしています。
統一部の金暎浩長官。過去には韓国民主化運動における闘士の一人でした。統一部提供。
過去のニュースレター(第6号など)でも言及してきたように、尹政権は対話と交流による共存共栄からの長期的な統一という韓国政府が過去30年一貫して維持しててきた統一方案を、破棄・変更しようとしています。目的は‘短期的な’吸収統一に他なりません。
さらに尹政権下で南北対話は、金正恩氏が非核化の意志を世界に納得させてはじめて始まるものとして位置づけられています。当然、交流はその後に行われます。その実現可能性は極めて低く、統一部の仕事は無いも同然です。
長官の金暎浩氏は政治学を専攻する大学教授ですが、北朝鮮に対しては強い姿勢を一貫して維持してきた人物として知られています。著書では「北朝鮮とは統一したくない」と、北朝鮮の全体主義体制への嫌悪感を隠さずに表現しています。
先に触れた南北関係発展委員会で金長官は「秩序ある交流協力を推進する」と発言したと紹介しました。
しかしその後、18日に聯合ニュースとのインタビューで人道的な対話を先に提案するのかについて聞かれた際には「答えることが難しい問題」とし「国際的な共感帯の形成と協力の努力を行う」と述べるに留まりました。対話をしない、ということです。
このインタビューで金長官は、南北交流協力が止まった原因について「北朝鮮内部の状況が関係している」とも述べています。新型コロナにより退避した国連組織が戻ろうとしても、北朝鮮が受け入れていない点も同様に解釈しているようです。
また、最近になって統一部が韓国の人道支援団体に北朝鮮当局と接触する許可を下していない点については、「接触対象がこれまで統一部が知っている組織や人物でない」とその理由を述べています。
そんな中、統一部の現在の仕事は、北朝鮮人権問題の提起を通じた北朝鮮への圧力強化が主となっています。
やはり金長官が率先して動いています。
17日にエリザベス・サルモン国連北韓人権特別報告官や、北朝鮮事情に明るいデビッド・アルトン英国上院議員と相次いでオンライン面談を行い、中国による脱北者の強制送還などについて論じました。
同じ日にはまた、新任の米国務省のジュリー・ターナー北朝鮮人権担当特使と面談し「韓米日の首脳は北朝鮮人権の増進のための協力を強めることで合意し、同時にはじめて自由で平和な統一韓半島への支持を表示した」と改めて強調しました。
今後、米韓は『北朝鮮人権協議体』を6年ぶりに再稼働させるとしており、北朝鮮人権問題における統一部の役割はさらに高まると見られます。
ジュリー・ターナー北朝鮮人権担当特使と面談する金暎浩長官。統一部提供。
一方で、「北朝鮮人権問題は統一部の業務から切り離すべきだ」という声が従前からあります。
人権問題の提起を嫌う北朝鮮政府の特徴を考える場合、人権問題は外交部が提起し、統一部は南北関係改善に集中すべきという理由からです。しかし今となってはそれも後の祭りで、今や人権問題こそが統一部が寄りかかる最後の柱となっています。
統一部は19日にも韓国メディア向けのバックブリーフィングで、金正恩一家がいかにぜいたく品を輸入しているかを細かく説明し、記事化させました。独自の情報収集能力は非常に弱いので、国家情報院などから提供された情報でしょう。
統一部は今やその目的を逸脱し、金正恩政権を攻撃する最先鋒になっています。尹政権で「対北支援部」と名指しされた汚名をすすごうとする余り、本来の姿を見失っています。
そしてもう一つの業務の柱である国内脱北者の定着支援は、移民の管理を行う行政安全部に移管せよという声がこれまた以前からあります。
統一部はつまり、その存在価値を次第に失いつつあると言えます。
統一部廃止論は、李明博政権(08年~13年)から絶えず出ています。
保守政権は金氏政権の崩壊からの吸収統一という「願望」を持つためですが、文在寅政権下では「南北関係部」とすべきという意見がベテランの丁世鉉(チョン・セヒョン)元統一部長官から出ました。
理由は「南北統一という難しい期待を国民に抱かせるのではなく、現実を見よう」というものでした。
統一部は今年7月、職員の15%にあたる80人をリストラしました。さらに次官には統一部内部からの昇進という従来の慣例を破り、外交官を据えました。
このままでは廃止され、別の部(省)と合併するような話が具体性を帯びるかもしれません。そうなると、過去数十年にわたって培われてきた南北対話のノウハウは全て失われます。
◎韓国から見る南北関係(3):11月に独自軍事偵察衛星を打ち上げ
16日に国会で行われた防衛事業庁の国政監査の席で、オム・ドンファン防衛事業庁長が韓国軍独自の偵察衛星を11月に発射する予定であることを改めて明かしました。
これは2018年から始まった「425事業」と呼ばれるプロジェクトの一環です。同プロジェクトは北朝鮮への監視体制を強めるために、25年まで軍事衛星5基を軌道に乗せるというものです。
11月に打ち上げられるのは、この1基目で、電磁光学(EO)、赤外線(IR)装備を搭載したものです。
打ち上げはスペースX社のファルコン9ロケットを用い、米国で行われる予定です。
北朝鮮は今年2度の軍事衛星発射に失敗しています。韓国が先に成功するのでしょうか。
防衛事業庁のパンフレット。韓国政府は2027年までの短期間に「国防科学技術7大強国への跳躍(21年世界9位→27年同7位)」、「武器システムの迅速獲得期間の短縮(21年12年→27年5年)」、「防衛産業の規模の倍増(20年17.9兆ウォン[約2兆円]→27年40兆ウォン[約4兆4000億円])」という野心的な三つの目標を掲げています。
◎朝鮮半島情勢(1):金正恩氏とラブロフ外相が面談、続くロシアと北朝鮮の蜜月
北朝鮮とロシアの国交樹立75周年を迎え、18日から19日にかけてロシアのラブロフ外相が訪朝しました。同氏は19日に北朝鮮の崔善姫(チェ・ソニ)外相を会談を行う一方、金正恩委員長と接見しました。
どんな話が交わされ、公開されたのでしょうか。
韓国メディアが伝えたロシア外務省の会見によると、19日(現地時間)の外相会談でラブロフ外相は「双方はアジア太平洋地域の状況悪化を招く米国のヘゲモニー政策に対抗する断乎さを強調した」とのことです。
また、「地域(韓半島と東北アジア)の問題の政治・外交的な解決に対する双方の意志と、域内の緊張緩和のために共通の努力を傾ける姿勢を確認した」としています。
ヘゲモニー政策というのは、米国が覇権を維持するために行う行動のことを意味します。半導体開発における優位を確保するため、中国の締め出したことを考えれば分かりやすいでしょう。
注目される双方の交流については「新型コロナのパンデミックの余波を克服することによる両国の交易量の増大に重点を置いた、実質的な分野での協力の活性化方案にも特別な注意が傾けられた」としています。
基本的に、北朝鮮とロシアの関係は「書き直し」が行われていると見てよいでしょう。
9月13日にロシアで行われた朝露首脳会談以降、新たに、そして急スピードで関係が構築され直されているということです。
一方、20日の朝鮮中央通信によると「(両国の)国家間の関係を新時代と現情勢の要求に合わせより高い段階へと高め、経済・文化・先進科学技術など書く分野での双方の交流と協力事業を、政治外交的に積極的に推し進めるため、実践的な方向と方図を具体的に討議した」とあります。
この記事には「共同行動を強化する」という注目する表現がありました。どの分野で、というと「朝鮮半島と東北アジア地域情勢をはじめとする様々な地域および国際問題」とのことです。
北朝鮮が今や明確に中国よりもロシアと接近しているのが分かる内容です。
外相会談では2024~25年までの交流計画書も締結されたとします。一過性の関係ではなく、両国の結びつきはさらに強まっていくでしょう。
ラブロフ外相と接見する金正恩委員長。朝鮮中央通信より引用。
それでは、金正恩氏はどんなメッセージを送ったのでしょうか。
やはり朝鮮中央通信によると、金正恩氏は「ラブロフ同志」を接見した際に「朝露首脳会談で成し遂げられた合意を忠実に実現し、安定的で未来志向的な、新時代の朝露関係の百年の大計を構築し、その威力で二つの国の福利を増進させ、強大な国家建設の偉業を協力に推し進めようとする党と共和国政府の確固不同な立場を披瀝」したとのことです。
また「親善の情があふれる和気藹々とした雰囲気」で行われた面談では朝露両国が「複雑な地域および国際情勢に主動的に対処し、共同の努力で全ての方面で『双務的な連携』を計画的に拡大すること」が語られたとのことです。
こうした内容をどう理解すべきでしょうか。
それは朝露は明確に「韓日米」との対抗軸を打ち出しているということです。米韓が北朝鮮との対話を行わなければ、朝露の接近はさらに強まり、取り返しのならない事態になるでしょう。
◎朝鮮半島情勢(2):続々と明かされる朝露の「武器取引」
朝露の共通点としては、独裁的な政治体制や軍事力に頼る外交、情報の不透明性などがあります。軍事分野の協力が主になる所以です。
そして首脳会談からわずか一か月の間に、現実的な朝露の武器取引の実態が続々と明らかになっています。
13日、米ホワイトハウス国家安保会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報担当調整官は会見で、北朝鮮が9月と10月に1000基以上のコンテナでロシアに軍事装備と弾薬を提供したと発表しました。
船舶を用いロシアに移された物資が、列車でウクライナ国境から290キロ離れた黒海沿いの都市ティホレツクにある弾薬庫に運ばれたことを衛星写真を通じ明かしました。
韓国国防部もこの情報に太鼓判を押しました。16日、中身について言明はできないとしながらも物資について「砲弾数十万発に相当」と述べています。
17日、米シンクタンク『戦略国際問題研究所(CSIS)』が運営する北朝鮮専門サイト『Beyond Parallel』は8月末から現在まで、朝露両国間で少なくとも6度の武器取引があったと衛星写真を用い主張しました。北朝鮮の羅津(ラジン)港とロシアのドゥナイ港を行き来する船舶で行われているというものです。
同様の内容は14日に、英シンクタンク『王立合同軍事研究所(RUSI)』と、米メディア『NK News』が発表し、15日にも米政府系メディア『VOA(Voice of America)』が伝えています。
米政府が公開した北朝鮮とロシアの武器取引の様子。
このように、北朝鮮がロシアにせっせと物資を渡しているのですが、その対価に対する注目が高まっています。
聯合ニュースによると17日、インドネシア・ジャカルタで日米韓の北朝鮮核問題代表(日本は外務省のアジア大洋州局長)が会合を持ちました。
この場で米国のソン・キム米国務省対北朝鮮特別代表(インドネシア大使を兼職)は「ロシアが武器と軍需品の対価として何を提供しているのか深く憂慮する」と明かすと共に、「このような広範囲にわたる軍事協力は、グローバル非拡散体制を弱め、安定と安全保障をおびやかす」と批判しました。
日米韓は今後、歩調を合わせ対ロシア独自制裁を行うとの見方もあります。
一方、ロシアのペスコフ報道官は17日、ロシアと北朝鮮の武器取引を「証拠がない」と否定し、北朝鮮との協力について「主権であり、誰にも干渉されない」と強調しました。
なお、北朝鮮とのあらゆる武器取引は国連安保理決議1874号(09年6月)により禁止されています。
◎朝鮮半島情勢(3):連日強調されるハマスと北朝鮮の結びつきの真意は?
ガザ地区に対するイスラエルの強硬な封鎖と攻撃に対する憂慮と批判が高まる中、同地区を実効支配するイスラム組織ハマスと北朝鮮の結びつきが連日のように韓国で取り沙汰されています。
特に注目されているのがトンネル技術です。ハマスがガザ地区の地下に構築したとされる全長500キロにも及ぶ地下トンネル網に、北朝鮮のノウハウが転用されているというものです。
17日には米政府系メディア『RFA(Radio Free Asia )』がイスラエルの安全保障分野の民間団体代表のインタビューを掲載しました。
トンネル技術は北朝鮮からレバノンの武装組織ヒズボラへと伝授され、ヒズボラからハマスの下へと技術が伝わったという内容でした。
この団体は21年の報告書で、14年に北朝鮮の『朝鮮鉱業開発貿易会社』がヒズボラに1300万ドル(約20億円)の契約でトンネル掘削に関する技術と資材を提供したとしています。
これが事実なら「間接的な影響」となりますが、韓国軍はハマスと北朝鮮の関係について一歩踏み込んだ発言をしました。
17日に複数の韓国メディアが合同参謀本部の高官を引用し報じたところによると、ハマスは北朝鮮から武器、戦術教理、訓練など様々な分野でつながっているということでした。
対戦車武器RPG-7や、ハマス隷下の武装団体で使う122ミリ放射砲弾などが北朝鮮製であり、また、ハマスがイスラエルに対し行った奇襲作戦の特徴も北朝鮮の攻撃予想と似ているとしました。特にパラグライダーを使った奇襲などがそれに当たるとしました。
しかし、直接の証拠は提示せずに、途中からは「ハマスの攻撃を北朝鮮が活用する可能性がある」という話に変わるなど、やはり「間接的な影響」の域を出ないものでした。
現段階では「直接の結びつき」があるかどうかは依然として分かりません。武器などはいくつかのルートを経てハマスの手に渡った可能性が高そうです。
このため、尹政権はハマスと北朝鮮の姿を重ね合わせるような、大衆向けの一種の心理戦を行っていると見るのが妥当でしょう。
韓国の合同参謀本部ホームページ。
◎朝鮮半島情勢(4):中朝の貿易額が3年8か月ぶりに最大に
18日に発表された中国の海関(税関)総書によると、9月の朝中貿易額は2億1,653万ドル(約320億円)でした。うち、輸入は1億8,874万ドル(約280億円)、輸出は2,779万ドル(約40億円)です。
聯合ニュースなどによると、前月比13.3%、昨年同月とでは107.7%の増加で、北朝鮮が新型コロナにより国境を封鎖(20年1月)する以前の19年11月と比べる場合、88.9%の水準とのことです。さらに、20年1月以降、最大規模でもあるそうです。
また、米国の北朝鮮専門メディア『38ノース』は衛星写真を用い『新鴨緑江大橋』の開通が迫っていると報じました。行き来する車両が増加したというものです。
朝中貿易の8割とも9割とも言われる貿易ルートである中国の遼寧省・丹東と北朝鮮の新義州市を結ぶ橋は2014年に完工したものの、開通には至っていませんでした。
開通する場合には圧倒的な物流の増加が見込まれるため、注目です。
◎ショートニュース
(1)『9.19南北軍事合意』破棄をめぐる騒動その後
第6号でお伝えした内容の続きです。
金暎浩統一部長官は18日、前出の聯合ニュースとのインタビューで「北韓に重大な挑発がある場合、政府は『9.19南北軍事合意』の問題を再検討し、適切な対応措置を出す他にない」と明かしています。
申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官の「すぐに効力停止を」という主張には「より大きな国家戦略的な次元からの考慮されるべき」と一線を引いています。
これが現段階での政府の立場も総括と言えそうです。つまりは先に韓国が動くことはなく、現状維持が続くということです。妥当な判断です。
ウクライナ戦争に続き、中東でも紛争が活性化しつつある中、韓国社会に「9.19合意の破棄はさらに緊張を高める。今やる必要があるのか」という声が盛んに上がっていることが背景にあります。
(2)今年韓国に入国する脱北者は約170人
やはり金暎浩長官は今号で何度か触れた聯合ニュースとのインタビューで、23年の脱北者の入国者が170人ほどになると明かしています。昨年は67人でした。
内訳について「海外駐在の貿易関係者、外交官やその子どもがいる。教育など子どもの問題がエリート層の脱北に大きな影響を与えている」と発言しています。
ピーク時の2011年(2706人)と比べ十分の一にも満たない数ですが、今後増え始めるのかに注目です。
(3)脱北者600余人強制送還のその後
韓国の韓悳洙(ハン・ドクス)国務総理が18日の韓国記者団との会見で、9月23日にアジア大会開幕式出席のために訪れた中国・杭州で習近平主席と会談した際に「重要で心配な問題だと伝えたことがある」と明かしました。
また、18日(現地時間)には国連総会の一般討議の席で、韓国の国連大使が「命がけで苦しい旅程に臨んだ脱北者が強制送還される状況を目撃し、恐ろしく、悲痛だ」と述べ「国際社会はこうした行動(強制送還)を容認してはならない」と主張しました。
この問題には、中国に強制送還禁止原則(「難民協約」や「拷問よび残酷で非人道的な屈辱的待遇や処罰の防止に関する協約」)の遵守を求める側面と、送還された者たちを捜査する過程で、北朝鮮が拘禁や拷問を行うことをやめさせるという二つの課題があります。
中国では現在も数百人の脱北者が送還の危険に直面していると言います。来週、韓国トップ級の専門家が集まる関連シンポジウムがソウルであるので、また報告します。
(4)韓国当局が北朝鮮SNSアカウントの国内表示を遮断
韓国の情報機関、国家情報院が北朝鮮が運営するとされるX(旧ツイッター)の2つのアカウントが、韓国内で表示されなくなるようX社に要請しました。
これにより、韓国内から該当アカウントに接続する場合には「保留アカウント」と表示されるようになりました。アカウントでは北朝鮮の女性が平壌などでの日常生活を紹介していました。
尹大統領は大統領選をたたかう当時、北朝鮮とメディアの相互開放を行うとし、韓国で先に北朝鮮メディアを見られるようにすると明かしていました。
韓国の体制への自信は完全に揺らぎ、「共産全体主義」の浸透を完全に遮断しようとしています。皮肉ですよ。
保留対象となった2つのアカウント。
(5)北朝鮮は先進国並みの低い出産率
聯合ニュースなどによると、韓国の統一部が「北韓は低所得国家群に属するものの、低出産と高齢化に直面している」と評価したそうです。
国連人権基金の『世界人口展望2022』では北朝鮮の合計出産率(妊娠可能な年齢の女性1人が産む子女の平均)は1.79人となっているそうで、北朝鮮のような低所得国平均4.47人や中下位所得国の平均2.55人よりも低いものだったということです。高所得国1.57人や中上位所得国1.53人などと近い数値です。
この原因について統一部は「女性の非公式部門での経済活動の増加」を挙げています。
職場の月給では数キロのコメも買えないといういびつな経済構造の中で、女性が市場での小売業や品物の仲介といった仕事をすることで生計を支えている北朝鮮特有の事情があります。
また65歳以上の公人の比率は12.2%とされ、2028年には高齢社会(老人人口14%以上)、2039年に超高齢社会(同20%以上)になるとのことです。
なお、この話の出処は毎週2度、統一部報道官により行われる「バックブリーフィング」です。外国メディアは入れません。
(6)米政府が6年ぶりに北朝鮮人権特使を任命
米国の国務省が13日、ジュリー・ターナー氏を北朝鮮人権特使に任命しました。『北朝鮮人権法』に基づき設置される大使級の同ポストは、6年間空席のままでした。
同特使は16日から19日にかけて韓国を訪れ、金暎浩統一部長官や朴振(パク・ジン)外交部長官などと面談しました。18日、ソウル市内で会見を開き「北朝鮮に人権改善の圧力をかける活動家の声をより増幅させる『増幅器(amplifier)の役割を果たす」(聯合ニュース)と述べました。
(7)「核以外でまず対話を」米国の元高官の提言
『聯合ニュース』によると、ロバート・アインホン元米国務省非拡散・軍縮担当特別補佐官は18日(現地時間)に米国で行われたシンポジウムで「私たちはある程度の時間、北韓が本当に関心を持たない非核化のアジェンダ(議題)を一方に片付けておかなければならない。その代わりに両者、3者、6者など多様な方式の信頼構築の疎通を通じ、偶発的な武力衝突の危険を減らすことができる」と述べたそうです。
同氏は90年代から北朝鮮との交渉に関わってきたベテランです。
偶発的な武力衝突こそが今、もっとも危険視されているものです。
韓国は一歩も引かないことが予想される上に、北朝鮮は通常戦における核使用に伴うハードルをすでに撤去し関連準備をすべて整えています。偶発的な衝突が取り返しのつかないエスカレーションを招く危険はゼロではありません。
同氏の主張は北朝鮮の核の容認につながるという世論があり実現は難しいでしょう。しかし、現在の危機を緩和させるためには、こうする他にないと思います。
◎あとがきに代えて:もっと書評を
今号はニュースレターを発行してはじめて、発行予定日をまたいでお送りすることとなってしまいました。画像を添付せずにテキストだけで送ることも可能だったのですが、前号のように二度お知らせを送るのはいけないと思い、画像を添付した完全体をお送りすることにしました。
南北関係はそうたくさん動きがある訳ではないので、どうしても毎号、似たような形になっていきます。前号でも書いたように、ようやく週2回のペースに慣れてきたので、今後は書評にもっと力を入れていきます。
いまは『北韓の核覇権』という本を読んでいます。社会主義国家における核開発の経路を丁寧にたどった力作です。