ニュースレター号

「北朝鮮人権」掲げ差別化はかる尹政権、南北軍事合意は風前の灯火、中東情勢と朝鮮半島など12トピック|第6号

サポートメンバー(有料会員)の皆さん、アンニョンハセヨ。

ニュースレター第6号をお届けいたします。今号は南北関係・朝鮮半島情勢を中心にお届けします。それにわずか数日で中東世界は一転してしまいましたね。どうしても朝鮮半島を中心に考えざるを得ないのですが、戦争の二文字が近づいてくるのを感じます。

今号の目次は以下の通りです。

  • 韓国から見た南北関係(1):統一・国防・外交、国政監査の資料から見る韓国政府の現状認識

  • 韓国から見た南北関係(2):正当性としての北朝鮮人権…金正恩政権下の「韓国人拉致被害者6人」問題が再点火

  • 韓国から見た南北関係(3):『9.19南北軍事合意』をめぐる陣営間の争いが激化、新任国防長官が本格参戦

  • 韓国から見た南北関係(4):ハマスとイスラエルの「戦争」が韓国に投げかけるもの

  • 朝鮮半島情勢(1):「北朝鮮は核を使えるように」米国が9年ぶりに『WMD対応戦略』を更新

  • 朝鮮半島情勢(2):朝鮮半島の平和を求める署名20万筆、米国務省に伝達

  • 朝鮮半島情勢(3):「現物」が動き始めたロシアと北朝鮮

  • 朝鮮半島情勢(4):大勢の脱北者が中国から北朝鮮へと強制送還

  • ショートニュース:「韓国を助けない」米国世論調査の衝撃/北朝鮮YouTubeの購読・寄付は「申告対象外」/「日本に過去を問わなかったように、南北問題も画期的に解きほどけ」著名宗教人・法輪和尚の一括/仮想通貨で2000億円、暗躍する北朝鮮のハッカー

  • あとがきに代えて:国防部から毎日届くお知らせメール

内容が多いのですが、いずれも重要なニュースです。小分けにしてごゆっくりお読みください。

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◎韓国から見た南北関係(1):国政監査資料から見る韓国政府の現状認識

 韓国では年に2回、各省庁の動向を概略的に把握できる機会があります。年頭の大統領への業務報告と、秋にある国政監査です。いずれも資料が公表され、各省庁が何をどう行おうとしているのか、行っているのかをデータと共に知ることができます。

 10月10日から国政監査が始まりました。24日間にわたって開催されます。さっそく南北関係や朝鮮半島情勢に関わる、統一部・外交部・国防部が作成した資料が公開されましたので、まずは軽いジャブという形で内容をかいつまんで紹介します。

・統一部資料

 まずは朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が持つ韓国への認識についてです。

 北朝鮮は韓国に対し強硬な基調を維持しているとしながら、(1)先制的・攻勢的な核使用の脅しを露骨に行っている、(2)当局・民間の区分なしに交流・接触の中断続く、(3)対南戦術として「国家性」を取り上げ「大韓民国」という表現を使用、としています。

 (1)は文字通り、核兵器が最前面に出てきている状況を指し、(2)は南北の交流が全く無いということです。(3)については韓国を同質性を持つ存在として認めず、距離感を置きながらも馬鹿にするニュアンスが込められています。

 次に対外認識です。

 (1)情勢悪化の原因を米国に転嫁し、非核化の意志がないことを表明、(2)韓米日の安保協力に対応し、中露との連帯を強め制裁回避を企図、(3)6年ぶりに国連安保理で開かれた北朝鮮人権問題に関する公開会議に抗議、(4)アジア大会など国際大会への参加を再開した、とまとめています。

独自の道を歩んでいるということになりますね。現状では南北朝鮮が全く交わっていないことが分かります。

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 距離感を見据えるこんな姿勢は、「韓国は今後、南北関係をどうするのか」という部分にもよく表れています。

尹錫悦政権の北朝鮮政策は22年8月に発表された『大胆な構想』というもので、今回の資料でも真っ先に紹介されていました。変わらずこの構想を維持しているということです。

中身は核を放棄するならば経済開発を支援するというもので、李明博(イ・ミョンバク、在任08年2月~13年2月)の『非核・開放3000』と似たものに思えます(同じ人が立案しているとされます)。

 ですが内実には立派な(?)差があります。

 それは「段階に合わせて」という表現が入っていることです。「まずは核廃棄」という北朝鮮の圧倒的な譲歩が前提になっていない点は現実的です。さらに、経済インセンティブ以外にも、政治・軍事面でのインセンティブが非公開ながらも提示された点も評価できます。

 しかし、落とし穴がありました。

 初めから「完全な非核化」の内容について南北で合意してこそ、対話が始まるというのです。さらに「対話(Dialogue)」は「抑止(Deterrence)」と「断念(Dissuasion)」という段階のあとにようやく訪れるとされ(3D戦略)、まずは北朝鮮が核開発を諦める決定を下すことが前提になっています。

 つまり、金正恩氏が「核を放棄することを心の底から決めました!」と表明し、それを韓国政府に納得してもらうことになります。北朝鮮が核開発を国の発展権とまで結びつける今、ハードルが異常に高いというのがすぐに分かります。対話は無いと見る他にありません。

10月3日、ドイツを訪れ「ドイツ統一の日」記念式に参加した金暎浩統一部長官。左はショルツ首相。統一部提供。


10月3日、ドイツを訪れ「ドイツ統一の日」記念式に参加した金暎浩統一部長官。左はショルツ首相。統一部提供。

 こんな中、統一部は別の方向から北朝鮮に対する「攻略」を進めようとしています。

 実は今、統一部が行っている活動の中で、最も重要なものが「統一の未来を描き直すこと」です。

 何やらとても良い事のように聞こえますが、実際は1994年8月15日に制定された『民族共同体統一方案』に沿って過去30年間、韓国が蓄積してきた南北関係のノウハウや哲学をリセットしようというものです。

 そしてその上に新たに何を打ち立てるのかを今、統一部が研究しています。

 キーワードを見ると「自由、人権、疎通、開放などの普遍的価値の具現」とあります。また、憲法4条に沿って「自由民主的基本秩序に立脚した平和的統一」を推進するとしています。

 統一部の他に新たな統一方案を作る政府組織として『統一未来企画委員会』が運営されており、見解を合わせたものを『民族共同体統一方案』30周年を迎える来年、発表しようというのです。

 その一部が韓国メディアによって、さっそく公開されました。

 なんと、「韓民族」と「南北連合」を取り除くいうのです。

 現行の『民族共同体統一方案』は和解協力→南北連合→完全統一という三段階統一論で「過程としての統一」を重要視するものでしたが、同じ民族であることを重要視せず、南北の人々や物資が行き来するという過渡期も考えないという風に、ガラリと変わることになります。

 これはつまり韓国による「北朝鮮吸収統一案」に他なりません。おそらく来年、この件について韓国で大きな議論が巻き起こるでしょう。「オールド保守・進歩vs新右翼(ニューライト)」という構図になる可能性があります。

 一方で尹政権はこんな大転換の正当性を「人権」に求めています。これは次の項で説明します。

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 その前に、簡単に外交部と国防部の業務報告資料も見ていきましょう。

 ・外交部

 朝鮮半島情勢と関連しては、外交部内の『北核外交企画団』と『平和外交企画団』の内容が重要でした。

 『北核外交企画団』では「北韓の核・ミサイル脅威に対応するための韓米日の共助」という表現が入り、過去の「韓米共助」からの更新となりました。

共助というのは文字通り、足並みを揃えるということです。尹政権の日本に対する認識がよく分かります。

 『平和外交企画団』では「韓米同盟を基盤にする我々主導の統一準備および、国際社会の統一韓半島ビジョンに対する共感・支持の拡散」という表現が印象的でした。

韓国主導の統一準備、というのは良く言うと北朝鮮に振り回されないということですが、うがって捉えると吸収統一への願望とも受け止められます。

 面白かったのが韓国と北朝鮮の外交分野での比較でした。

 韓国は修交している国が世界に192か国ある一方で、北朝鮮は159か国でした。南北朝鮮と同時に修交しているのは156か国でした。普段、日本や韓国から見る景色とは異なりますよね。ちなみに韓国と国交がない国は、北朝鮮の他にシリアとキューバです。

 また、在外公館の数を比較した統計もありました。これは韓国167、北朝鮮53で韓国が大幅に上回りました。

 次に、2030年までに原発10基を海外に輸出するという内容も興味深いものがありました。

 日韓関係については「未来志向の日韓関係」を構築したとし、具体的な成果として、▲日本によるホワイトリスト復元(7月21日)、▲GSOMIA(日韓の軍事情報包括保護協定)正常化(3月21日)、▲5年ぶりの日韓安保政策協議会開催(4月17日)、▲上半期日韓両国の往来400万人突破、などがありました。

今年3月、握手する尹錫悦大統領と岸田文雄首相。大統領室提供。


今年3月、握手する尹錫悦大統領と岸田文雄首相。大統領室提供。

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 ・国防部

 国防部の資料ではまず、最近の北朝鮮軍の動向として、▲核・ミサイル脅威の高度化に邁進、▲偵察衛星を開発する意志を持続的に表明、▲夏季訓練(7月1日~9月10日)終了で、今後は大規模訓練はなく収穫期の営農支援およびワタリガニシーズンにNLL(北方限界線)一帯での漁船取締りに集中、と整理しています。

 23年度の成果中心に説明される中、興味深かったのが『将兵の精神戦力の強化』という部分でした。

「明確な国家観・対敵観・必勝の軍人精神を確立」するために基本教材が全面改編され、「将兵および軍人たちに北韓の軍事脅威と人権の実情を正しく伝達」するために国防TVコンテンツを作り、戦争記念館(ソウル)の中に「北韓軍事挑発室」を新設したとしました。

 いずれも北朝鮮の脅威を強調するものですね。

 なお、日本については「北韓の核・ミサイル脅威の増加、中国の力による現状変更の試みなどに対し防衛力の増強および同盟国・友邦国との協力拡大を続けている」と見ています。

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◎韓国から見た南北関係(2):正当性としての‘人権’…金正恩政権下の「韓国人拉致被害者6人」の問題

 文在寅政権の北朝鮮政策には様々な評価があります。

 私は、朝鮮戦争を引きずる『板門店体制』の朝鮮半島を、平和体制へと転換させようとしたことを大きく評価する一方で、北朝鮮の人権問題へのアプローチを誤ったと見ています。

 そしてそのことが、文政権の北朝鮮政策への正当性を半減させることになってしまったと思っています。

 ※『板門店体制』という聞き慣れない言葉については以下の記事をご参照ください。

 どう「誤った」のでしょうか。二点あります。まず、北朝鮮の人権問題とは何かという点を韓国市民に説明することをしなかったことです。次に、国家として当然すべき自国民の保護を怠ったことです。

 このため、北朝鮮人権問題を韓国社会が正面から向き合うことができなくなってしまいました。今なお保守派の専有物のままです。

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 北朝鮮の人権問題をめぐる議論において最近、大きな動きがありました。

 統一部は8日、報道官名義で発表した声明の中で「わが国民6人が本人の意思に反し自由を奪われたまま北韓に長期間抑留されている」と明かし、北朝鮮に対し「人権問題に対し一抹の認識でもあるならば、これ以上、基本的な人権に関連するこの問題を無視してはならない」と呼びかけました。

 6人というのは、金正恩氏が権力の座についた2011年末以降、北朝鮮に身柄を拘束された韓国人の数です。この日はその中で最も抑留期間が長いキム・ジョンウク宣教師が北朝鮮・平壌で拘束されて丸10年にあたる日でした。

 同氏はスパイ活動などの嫌疑をかけられ無期労働教化刑(懲役)となり、他の5人のうち2人の韓国人宣教師も同類の嫌疑によ無期労働教化刑となっています。

 残る3人は北朝鮮を脱出し韓国に定着した後で北朝鮮により身柄を拘束されています。うち1人は現役の記者でした。

北朝鮮に抑留されている韓国人6人。朝鮮日報より引用。


北朝鮮に抑留されている韓国人6人。朝鮮日報より引用。

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 文在寅政権は5年間(17年5月~22年5月)、公式的に一度もこの6人の送還を求めてきませんでした。文在寅大統領は3度も金正恩氏に会いましたが、この6人についてはついに分からないままでした。

 生死をはじめ、どこにいるのか、健康状態はどうなのかなどの情報は今も分からないままです。情報が公開されていないだけというには沈黙の程が深すぎます。そもそも聞いていない可能性もあります。

 20年には新任の統一部長官候補が国会の人事聴聞会でこの6人について聞かれた際に「初耳だ」としらばっくれる事態まで起きました。

 あのめちゃくちゃなトランプ大統領ですら、北朝鮮との対話を始める前の18年5月に、北朝鮮に抑留されていた3人の韓国系米国人を米国へと連れ戻しました。

 今回、統一部が公式に6人の存在に触れたことで今後、この問題は「韓国人が関わる北朝鮮人権問題」として大きくクローズアップされていくでしょう。

 金正恩政権の態度と進歩派政権の態度が一緒になって批判される構図となり、尹政権がとみに喧伝する「進歩派=ニセの平和勢力」という主張の恰好の餌食となるはずです。

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 しかしこれは、進歩派政権が自ら招いた事態です。

 文政権は「南北政府間には体制への『相互不干渉原則』があるため北朝鮮人権問題に触れてこなかった」、もしくは「南北対話や平和体制への転換という大きな駒を進めるためには小さな駒は後回しにするしかなかった」と弁解するかもしれません。

 「米国は共産諸国との国交正常化にあたり人権問題改善を条件としていない」という反論も可能かもしれませんが、自国民を放置した点では弁解の余地がありません。

 一方で、こんな文政権の失態により、保守政権は平和と核と人権を同一レベルの話に並べることが可能になり、「人権なくして平和なし」という理論を構築できるようになっています。南北関係における正当性を確保した形です。

 この行き着く先は金正恩政権の全否定であり、吸収統一の正当化であるのは、前項で見た通りです。

 このように、文政権が人権問題を疎かにしたことで、逆に南北間の対話の幅を狭めてしまいました。人権問題は人権問題として、正面から取り上げておけば良かったのに、と思います。

 なお、韓国の国防部は来年から予備軍を対象に北朝鮮の人権状況について教育を行うとしました。このように「人権」は尹政権が文政権と差別化するための恰好の材料となっています。

 北朝鮮人権問題は難しい上に陣営間の対立の最前線でありますが、本ニュースレターでは正面から取り上げていこうと思います。

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◎韓国から見た南北関係(3):『9.19南北軍事合意』をめぐる争いが新任国防長官が本格参戦

 前号のニュースレターでお伝えしたように、韓国で国防部長官が交代しました。新任の申源湜(シン・ウォンシク)氏は陸軍中将出身で、強い反共、反北朝鮮意識を持つことで知られています。

 そしてその期待を裏切らない(?)第一声を発表しました。

 『聯合ニュース』によると7日の就任式で申長官は「安全保障は『最善』ではなく『最悪』を、敵の『善意』ではなく『悪意』を前提に備えるもの」とし、「私たちの善意が北韓を変えることができるという信頼は、幻想に過ぎなかったことが立証された」と述べました。

 残された道は闘いしかないというような発言ですが、こうした現政権の幹部に共通するスタンスは『9.19南北軍事合意書』をめぐる議論の中でも遺憾なく発揮されました。

 韓国メディアによると申長官は就任式後の記者団との対話の中で「最大限早く、9.19南北軍事合意の効力停止を推進する」と述べました。廃棄には法的な手続きが必要ですが、効力停止は国務会議(閣議)で決められるとしています。

11日、韓国陸軍の『対火力戦遂行本部』を訪ねる申源湜国防部長官(前列左)陸軍中将出身の国会議員だ。過去の「反逆の文在寅の首を狩るのは時間の問題だ」という発言が任命過程で批判された。国防部提供。


11日、韓国陸軍の『対火力戦遂行本部』を訪ねる申源湜国防部長官(前列左)陸軍中将出身の国会議員だ。過去の「反逆の文在寅の首を狩るのは時間の問題だ」という発言が任命過程で批判された。国防部提供。

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 『9.19南北軍事合意書』、韓国では単に「軍事合意書」と呼ばれますが、改めて説明するとこれは2018年9月19日に平壌で南北の国防長官の間に締結されたものです。

 最大の特徴としては「全ての空間で敵対行為を中止する」というもので、「事実上の南北間の終戦宣言」とまで呼ばれました。

 さらに南北軍事境界線付近で敵対行為を中止する具体的な地域を設けました。地上は南北互いに5キロずつ、空中は同20~40キロずつ、海上は同40キロずつと定められています。

※下記はインターネット上で唯一、南北軍事合意書の全文が日本語で読める記事です。私が以前翻訳しました。

 しかしこれについて当時から、保守派を中心に「南北の軍事資産の力関係を考える場合には韓国の一方的な譲歩だ」という批判が絶えませんでした。韓国みずからが優位を捨ててしまったというものです。

 だから意味があるのではないか?と思うのですが、その後3~4年にわたって北朝鮮が核・ミサイルによる脅威を強めている上に、同合意の違反を繰り返している(17回違反したとされます)ことから、批判は次第に「軍事合意書の破棄」へと収斂しています。

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 そして現在行われている国政監査で、こんな破棄意見はピークに達しています。特に北朝鮮と向き合う統一部と国防部からでているのが特徴です。

 やはり対北朝鮮強硬派の金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官は11日、「9.19軍事合意は韓国の偵察資産の運用を過度に防いでいるという点で相当に不利な内容が入っている」としつつ、「(破棄は)様々な安保状況を総合的に検討し決定すべき」と述べました。

 これに対し、文在寅大統領を支えた最大野党・共に民主党の議員たちは、同合意の後で南北接境(互いに国でないので国境とは呼びません)地域での南北衝突の危険性が減ったと主張しています。「防護壁」という表現も出ました。

 また12日には合同参謀本部への国政監査の席で、キム・スンギョム議長(制服組トップ)が「(北朝鮮の)核・ミサイルの脅威が高度化している中で、9.19合意がいったいどんな機能を発揮しているのかに疑問がある」と発言しました。さらに、当時の北朝鮮の意図についても「和戦両面戦術であり、典型的な偽装平和攻勢であった」と断じました。

 実は尹政権の発足直後から、『9.19軍事合意』の破棄は時間の問題とされてきました。それでも南北関係における正当性の問題、つまり先に韓国側が約束を破るわけにはいかないという立場もあり、維持されています。

 いずれあるだろう第7次核実験が破棄のトリガーになるという見方もあります。

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◎韓国から見た南北関係(4):ハマスとイスラエルの「戦争」が韓国に投げかけるもの

 7日(現地時間)に、イスラム組織ハマスがイスラエルを急襲したことにより始まった、ハマス・イスラエル間の戦闘は13日現在、双方合わせて2500人以上の死者を出しています。

 ガザ地区へに対するイスラエル軍の爆撃は激しさを増し、地上侵攻も秒読みとされます。読者の皆さんもニュースに接するたびに悲しい思いをされているのではないでしょうか。

 韓国では今回の出来事において、ハマスと北朝鮮を重ねる論調が盛んに出ています。昨日12日、ヤフーニュースに寄稿したのでまだの方はぜひお読みください。貼り付けようと思ったのですが、長くなりすぎてしまうので…。

 韓国軍の制服トップが「北朝鮮がハマス式の戦術を活用した奇襲攻撃を行う」という予想シナリオを発表するなど、気分はもう戦争です。

 上記の記事にもありますが、ハマスが使用する武器の中にロケット発射装置など北朝鮮製のものが含まれているという問題提起が、米政府系メディアを中心に行われています。

 これに対し13日、北朝鮮の国営朝鮮中央通信は北朝鮮の「国際問題評論家」を引用し「根拠のないでっち上げ」と反論しました。

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 さて、次は朝鮮半島情勢です。

 内容がここまでで大分長いですが、ぜひゆっくりとお読みください。一週間かけて読んでいただいても良いと思って書いています。

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◎朝鮮半島情勢(1):米WMD戦略公開と北朝鮮の核政策

 米国防部は9月28日、『2023WMD対応戦略』を公開しました。WMDとは大量破壊兵器のことで、化学・生物学・放射性物質・核兵器を指します。

 『聯合ニュース』によると9年ぶりの更新となった文書の中で、米国は北朝鮮の核・ミサイル戦力について「北朝鮮の力量開発は、北朝鮮が物理的な衝突のどこかの段階で核兵器を使うことができる選択肢を提供する」と評価しました。

 また同じ9月の最高人民会議(国会に相当)で北朝鮮が核兵器の地位と核武力の使命を憲法記載を通じ法制化したことについては、「自ら宣言した核保有国の地位を再確認し、核の使用条件を定立し、非核化を拒否した」と改めて定義しました。

 米国の現状認識を知るためにはとても貴重な文書といえます。

「紛争において核兵器を使える」という表現のリアルさには驚かざるを得ません。これは「核兵器はあくまで交渉用」としてきた韓国の進歩派とは対照的な見方です。

 もちろん、他の場で米韓が公言しているように「核を使った場合に金正恩政権は終わり」なので、依然として使えないのは同様とも考えることもできますが、選択肢が広がっている点を無視することはできないでしょう。

 一方、北朝鮮は4日、米国の『2023WMD対応戦略』に反駁しました。国防省報道官による談話の中で、米国が北朝鮮に対し「持続的な脅威」と表現したことに対し強く反発しました。

 米国を「前世紀より北朝鮮を『敵国』と規定してきた世界最大の大量破壊兵器保有国」、「唯一無二の核戦犯国」と表現しながら「持続的な脅威」は米国にこそ似合う表現だとしました。

 さらに核兵器をはじめとする「共和国の武力」について、米国の軍事戦略と挑発行為に対する「最も圧倒的で持続的な対応戦略として対処する」と位置づけ、‘反射’とも言うべき方法で反論しました。

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◎朝鮮半島情勢(2):朝鮮半島の平和を求める署名20万筆、米国務省に伝達

 『停戦70年韓半島(朝鮮半島)平和行動(Korea Peace Appeal Campaign)』という運動があります。

 朝鮮戦争勃発から70年となる2020年に発足したNGO(非政府組織)の連合体で、「韓国戦争(朝鮮戦争)を終わらせ休戦から平和に向かおう」を合い言葉に、3年にわたって日本を含む世界各地でキャンペーンを行い、20万6629筆の署名を集めました。

 そして同団体の代表団はこの署名を国際社会に伝えるべく9月に訪米しました。10月4日には国連韓国代表部と国連事務局に、そして10日には、米国務省東アジア・太平洋担当局にそれぞれ署名を提出しました。

 同団体が活動の中で主張してきたのは、▲敵対を止め、南北・米朝関係を改善しよう、▲韓国戦争(朝鮮戦争)を終わらせ平和協定を締結しましょう、▲核兵器も核の脅威もない韓半島と世界を作りましょう、▲制裁と軍事脅威ではない対話と協力で葛藤を解決しましょう、▲韓米日の軍事協力を中断し、韓半島・アジアの平和共存を実現しましょう、▲軍備競争の悪循環から抜け出し、市民の安全と環境のために投資しましょう、といったものです。

 いかがでしょうか。

 あまりに理想的な内容に映るかもしれません。しかし現実として、同団体が掲げる内容が実現しない限り、朝鮮半島と東アジアの平和は永遠に訪れません。

 そのカギを握るのは米国であることは自明です。米国が70年にわたって休戦状態にある朝鮮戦争を終わらせると決断さえすれば、「米朝国交正常化=朝鮮戦争の平和協定締結=北朝鮮の非核化完了=安保理制裁解除」という同時ゴールに向けて進むことができます。

 なお、このゴールは北朝鮮の主張ではありません。05年の6者協議の合意案、歴史上もっとも完璧な朝鮮半島問題の解決策とも呼ばれる『9.19合意(18年のものとかぶってややこしいですが、05年も9.19合意でした)』でも同様の内容が示されていました。

 非核化は平和と共にやってくる、よいう認識の転換が必要でしょう。

 一方で20万筆という数値は思ったより少ないとも思います。分断から戦争、冷戦から新冷戦へと朝鮮半島の対立が70年以上になる中、朝鮮半島の平和をイメージすることが難しくなっていることを表しているような気がします。

署名を米国務省に提出した停戦70年韓半島(朝鮮半島)平和行動(Korea Peace Appeal Campaign)』の活動家たち。同団体提供。


署名を米国務省に提出した停戦70年韓半島(朝鮮半島)平和行動(Korea Peace Appeal Campaign)』の活動家たち。同団体提供。

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 ◎朝鮮半島情勢(3):「現物」が動き始めた?具体性増すロシアと北朝鮮の関係

 6日、米シンクタンクCSISは、運営するメディア『Beyond Parallel』を通じ、朝露国境の北朝鮮側・豆満江駅に停車する73両の貨物列車の写真を公開しました。10月5日に衛星で撮影したもので、ロシアへの武器輸出ではないかと分析しました。

 記事によると、73両という数は過去5年間にわたり同じ場所で撮影された写真の中で「前例のない多さ」だとしています。

 車両の数は金正恩委員長とプーチン大統領が首脳会談を行った9月13日の5日後から増え始めているという内容もあり、ロシアとの何らかの合意によるものという見方が広がっています。

 前号でも伝えたように、北朝鮮からロシアに向けて大砲の輸出が始まったという米CBSニュースの報道もありました。予断を許さない状況と言えるでしょう。

 韓国の砲弾をウクライナが使い、北朝鮮の大砲と砲弾をロシアが使う。いったい何が起きているのだろうという感じです。対話の場で出会ってほしいものです。

 一方、ヤフー個人ニュースで、国際報道に強い記者である高橋浩祐さんが12日に発表した記事によると「ロシアが直近の3か月で1867トンの小麦粉を送った」とのことです。

 また「7月になってロシアは北朝鮮への石油供給を前月比約5倍に増やした」とし、「7月にはロシアのショイグ国防相が平壌を訪問し軍事協力を話し合っていた」と指摘しました。

米CSISが公開した写真。同サイトよりキャプチャ。


米CSISが公開した写真。同サイトよりキャプチャ。

なお、金正恩氏は最近、10月12日の朝露修交75周年を記念し、プーチン大統領に祝電を送ったと北朝鮮の朝鮮中央通信が伝えました。

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◎朝鮮半島情勢(4):中国から大勢の脱北者が北朝鮮に強制送還

 11日、韓国の人権団体が「9日午後8時に脱北者600人が北朝鮮に一斉に強制送還された」と明かしました。北朝鮮と国境を接する遼寧省と吉林省の5つの地域から送還されたとしています。

 また、北朝鮮が国境封鎖を解いた8月末からこうした送還は始まっており、これまで2600人が送還されたとも述べました。

 すぐに韓国では大きな騒ぎとなりました。同日、国政監査に臨んでいた金暎浩統一部長官は「事実関係を確認する」としました。

 そして13日、統一部はこの出来事が事実であると発表しました。

 その上で「その中に、脱北者、患者、犯罪者など、誰がどれほど含まれていたのかは正確に確認できない」としました。さらに中国側に遺憾の意を伝えたとしました。

 中国政府も立場を表明しました。『聯合ニュース』によると、中国外交部報道官は13日の定例記者会見で「中国は法治国家として、法律にしたがい不法移民者の管理を遂行し、安全で秩序ある出入国管理秩序を維持している」と述べました。

 さらに「中国は経済的な原因から中国に不法入国した朝鮮人(北朝鮮住民)に対し、国内法、国際法、人道主義を結合した原則を堅持し、適切に処理している」と続けました。

 胸が痛むニュースです。

 実は私は、人権運動家として活動していた04年から07年にかけて、今回の送還の舞台となった中国東北3省の農村を何度も訪れ、100人におよぶ人身売買で売られた北朝鮮被害者女性をインタビューしたことがあります。

 当時も今も中国のやり方は変わりません。実際に「国内法、国際法、人道主義を結合した原則」であるのです。

 圧倒的に女性が足りない農村の実情を考慮し、何事も起きない限りはその地域の中で生活するように見逃すことがありますが(人道主義)、いつ送還するかは分かりません。

 不法入国者であるとする権限が中国当局にあり、難民として認められないのです。人身売買という重大な犯罪の被害者であるため救出されることもありません。

 そうして、今回のような事が起きます。家族は離れ離れになり、送還された人々は北朝鮮で厳しい調査を受けるでしょう。

 これまで私はいったい何をしてきたのか。自己嫌悪に陥る出来事です。

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◎ショートニュース

最後にショートニュースです。肩の力を抜いて(?)お読み下さい。

・「韓国を助けない」米国世論調査の衝撃

 米国シカゴ国際問題協議会(CCGA)が4日に公開した世論調査結果(3242人が対象)によると、「北朝鮮が韓国を侵攻時に米軍が防御に臨むべき」という問いに対し、賛成は50%で反対が49%だったとのことです。

 なお、過去にも同様の調査が行われており、賛成はそれぞれ16年62%、20年58%、21年63%でした。明らかに下がっています。

 民主党支持層は57%が、共和党支持層は46%が賛成だったとしています。

 この結果についてCCGAは「同盟国を保護するための武力使用に対し、党派的な分裂がより深まっている」と分析したそうです。

 この記事を書いた『中央日報』は米国社会に対し韓国の状況を知らせる、世論形成のための外交が必要と主張しました。

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・北朝鮮YouTubeの購読・寄付は「申告対象外」

 YouTubeの数多い映像の中には、北朝鮮当局が運営していたと思われるものがあります。いくつかは閉鎖され、今どの程度あるのかは分からないのですが、こうしたYouTubeチャンネルに韓国人がどう接すればよいのかについて、ようやく判断基準が出ました。

 韓国には政府の許可なく北朝鮮住民と接触することが禁じられています(南北交流協力法令や国家情報院法が根拠)。北朝鮮住民と仕事などで積極的に「意思を交換」するには事前に申告しなければなりません。

 それではYouTubeはどうなるのか。「いいね」や「スーパーチャット(投げ銭)」といった行為は「接触」にあたらないと統一部が見解を示しました。国内の法律事務所に諮問を受けての公式の結果だそうです。

 しかし、これらの行為を繰り返し行ったり、チャンネル購読を宣伝したりといった行為は申告対象になるそうです。

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・「日本に過去を問わなかったように、南北問題も画期的に解きほどけ」著名宗教人・法輪和尚の一括

 韓国に『浄土会(チョントフェ)』という仏教宗団を率いる法輪(ポンリュン)和尚という人物がいます。とてもマイルドな人柄を持ち人生相談の名手としても知られ、テレビにも多数出演する一方で、北朝鮮への人道支援と脱北者への支援、そして平和運動を同時に行う規格外の活動家でもあります。

 その法輪さんが訪米先の米国で記者団と食事をした際に、上記の発言があったと記事になっていました。私も面識があるのですが「タブーを破る法輪さんらしいな」と思いました(ちなみに私は無宗教です)。

 これはまた別途どこかで書いてみたいのですが、このように「許す勇気が必要だ」という話を、南北対話を進める進歩派の中でもラディカルな方達がよくします。

 本当に強い存在は相手を許せる存在だ、というものなのですが、共感する考え方です。現実的には簡単ではありませんが…。

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・仮想通貨で2000億円、暗躍する北朝鮮のハッカー集団

 『聯合ニュース』などによると、米国国家安保会議(NSC)のサイバー・新技術担当副補佐官が6日、ブルームバーグ通信とのインタビューを通じ、北朝鮮当局が9月25日に金融業者・Mixinから1億5000万ドル規模の仮想通貨を盗んだと明かしました。

 この補佐官はまた、仮想通貨分析会社を引用し、北朝鮮が昨年1年間にハッキングで得た仮想通貨が16億5000万ドル(約2470億円)としています。

 一方、米政府系メディア『RFA(Radio Free Asia)』は、米国のブロックチェーン分析会社Ellipticが今月5日に発表した報告書で、北朝鮮のハッキング組織『ラザルス』が昨年7月から今年7月まで9億ドル以上の仮想通貨をマネーロンダリングした明かしたと報じています。

 同じ『RFA』は別の記事で、米グーグル傘下のセキュリティ会社の報告書を引用し、2020年以降に北朝鮮のハッキング組織が統廃合を行い部署間の協業を強めていると伝えました。

 このように北朝鮮は経済制裁の中でハッキングによる資金確保に注力しています。「韓国で優秀な人物はみな医者になりたがるが、北朝鮮ではみなハッカーになる」という韓国のネットの書き込みを見て、苦笑いが出ました。

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◎あとがきに代えて:国防部から毎日届くお知らせメール

 10月9日は、ビルマ(当時)ラングーンで、北朝鮮による全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領暗殺未遂から40年となる日でした。

 「北朝鮮は当時も今もテロ国家」という社説が『朝鮮日報』に載りましたが、私は過去に駐日大使を務めた羅鐘一(ラ・ジョンイル)さんの『ある北朝鮮テロリストの生と死』(集英社新書)が思い浮かびました。祖国に捨てられたテロリストの悲哀を描いた名作ノンフィクションです。読みやすいのでご興味のある方はぜひ。

 書評も映画評も書けていません。今のニュースレターの書き方がおそらく間違っているのだと思います(笑)。もう少しポップなものにしていけるように『型』を作ってみます。なんとなく輪郭は見えています。

 それにしても、韓国の国防部から毎日のように広報メールが来ます。やれ、どんな訓練をした、やれ長官がどこにいったというものです。私は外信記者クラブに所属しているので、リストにしたがって送られてくるのですが、驚くべきはその頻度です。

 文在寅政権の時には月に多くて2〜3度でした。軍事は機密が多く、秘密主義だった文政権は余程のことがないと外信にまで広報メールを配信しませんでした。軍事よりも南北関係に関心を持ってほしかった点もあったのでしょう。

 しかし尹政権はそうではありません。軍事こそわが強みとでも言わんばかりに、メールを送りつけてきます。ああ、これが今の韓国なのだなと、しみじみ思います。

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 最後にお知らせです。今号からニュースレターは有料化しました。最後まで読めるのはサポートメンバー(有料会員)の皆さんだけですが、その数が多くありません。100人までもう少しといった状況です(無料会員の方はその数倍います)。

 そこで有料会員の皆さんに「お金を払う価値がある」というのを宣伝していただくことをお願いしたいです。SNSなどで「良かった」とひと言書いていただくだけでも大きな助けとなります。

 来月からは他のYouTubeチャンネルとの企画も始まりそうです。こういったまとめ記事も出しながら、自分の取材をもっともっとできるよう、応援よろしくお願いいたします。

 ありがとうございます。コマッスムニダ。(徐台教)

干し鱈のおつまみ。当然今日の写真ではありません...。


干し鱈のおつまみ。当然今日の写真ではありません…。

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