ニュースレター号

銃声なき戦争「北朝鮮への『心理戦』」、中国の脱北者をどう保護するのか、日米韓vs朝露、書評コラムなど 全11トピック|第10号

サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。

ニュースレター第10号をお届けいたします。ようやくといった感じですが、いつもと変わらず続けていきます。

今号は南北関係・朝鮮半島情勢を中心にお届けします。パレスチナをめぐる戦争というか、イスラエルによるガザ地区への一方的な攻撃が止まらない中、朝鮮半島は嵐の前の静けさといった雰囲気です。何がトリガーになるのか分からない怖さがあります。

今号の目次は以下の通りです。

  • 韓国から見た南北関係(1):“食糧難”北朝鮮住民4人が船で韓国へ…「国防に穴」と批判も

  • 韓国から見た南北関係(2):『9.19南北軍事合意書』における北朝鮮の違反は3600件!

  • 韓国から見た南北関係(3):前統一部長官が北朝鮮に向けた拡声器放送禁止を「廃止」する法案を発議

  • 朝鮮半島情勢(1):銃声なき戦争「北朝鮮への『心理戦』」が前面に

  • 朝鮮半島情勢(2):中国による脱北民強制送還、何がどう問題なのか?

  • 朝鮮半島情勢(3):日米韓外相がロシアと北朝鮮を正面から批判

  • ショートニュース:朝中『新鴨緑江大橋』の開通はまだ?/「座視しない」韓国外交部長官がロシアに警告/「髪の毛」がつなぐ朝中貿易/北朝鮮の人工衛星発射、10月は無し?

  • 書評とあとがきを兼ねて:崩れゆく秩序

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◎韓国から見た南北関係(1):“食糧難”北朝鮮住民4人が船で韓国へ…「国防に穴」と批判も

 24日午前7時過ぎ、東海(日本海)の北方限界線(NLL)を越え韓国側に進入してきた小型の木造船を、海上で漁をしていた韓国住民が発見し海上警察に通報しました。

 捜査の結果、木造船に女性3人、男性1人と4人の北朝鮮住民が乗っていました。韓国政府は彼らを取り調べた結果「帰順の意思を表示した」と明かしました。

 「帰順」というのは聞き慣れない言葉かもしれませんが、未だに対立を続ける南北朝鮮において、相手の体制側の人物が自身の体制の優越性を認め身を任せるというニュアンスが含まれています。

 要は「脱北」です。これだけ見ると珍しいことではありませんが、韓国内では軍の対応のまずさが話題となりました。

 軍の発表によると、同日の午前5時30分に陸軍の監視レーダーを用い北朝鮮の木造船の姿を認めたものの、これが具体的に何なのかが分かったのは、午前6時30分でした。TOD(Thermal Observation Device、熱で識別する軍用サーマルカメラ)を用い木造船の姿形を識別したということでした。

 その上で、前述のように午前7時10分にようやく住民の通報を受け、これが北朝鮮から船であると分かったとのことでした。海上警察と海軍の高速艇が現場に到着したのは午前8時です。

 こうした説明に対し、軍の監視体制はどうなっているのかという批判が上がりました。ちょうどこの日、海軍本部への国政監査が行われていたことも火に油を注ぎました。

 北朝鮮の船であることが分かるまでに1時間40分もかかっている上に、小型船が見つかった地域が、東海岸の都市・束草(ソクチョ)市の東方10キロ、NLLの南方45キロ地点であることが知られるや、最大野党・共に民主党の議員が「軍の警戒作戦が失敗したのではないか」と指摘したのです。

 多数のメディアもこの論調に続きました。「目の前に来るまで気づかなかったのか」というお決まりの批判です。文在寅政権の時には同じような批判がありました。

 聯合ニュースでは「5月6日の晩、軍は西海(黄海)で北朝鮮漁船1隻がNLLに接近するのを捕捉し、NLLを越えてすぐに同船を確保した」と例を挙げ、なぜそれができなかったのを問いました。

北朝鮮から来た小型船を曳航する韓国艇。聯合ニュースより。


北朝鮮から来た小型船を曳航する韓国艇。聯合ニュースより。

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 こうしたメディアの疑問に対し軍は改めて「午前4時以前から東海上のNLL以北で特異な兆候があり、艦艇と航空機をNLL付近に投入し作戦を実施していた」と明かしました。知っていた、という言い訳です。

 また「東海上のNLLの東西の長さは400余キロにのぼり、数隻の艦艇では小型の標的を捕捉するのはとても難しい」と説明しました。

 韓国にたどり着いた4人については、韓国メディアの報道を総合すると、30代と50代の成人女性2人は親戚で、30代の女性は女児を連れていたそうです。操船していた30代の男性と女性たちとの間に血縁関係にないとのことです。

 当時の状況も興味深いものがあります。

 小型船にはじめて近づいた韓国漁船の船長に対し、30代男性は「ここはどこだ」とまず聞き、船長が「束草だ」と言うのを聞くと、小型船と漁船を綱で結んだ後、小型船に戻りタバコを吹かしたそうです。若い方の女性が「韓国の船はとても良いですね」と述べたとも船長は明かしています。なかなかシュールな光景です。

 脱北理由について、これまで明らかになっている情報を総合すると「食糧難」とのことです。

 統一部の金暎浩(キム・ヨンホ)長官は27日の国政監査の席でこの内容を認めつつ、「北朝鮮当局の宣伝と、住民の食糧難の現実には差がある」と北朝鮮で食糧難が広がっているという見方を明かしました。

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◎韓国から見た南北関係(2):『9.19南北軍事合意書』における北朝鮮の違反は3600件!

 ニュースレターで何度も引用しているイケイケの韓国の申源湜(シン・ウォンシク)長官が27日、国政監査の席で北朝鮮の『9.19南北軍事合意書』違反が3600件にのぼると発言しました。

 具体的な内容としては、「(西海[黄海]の)緩衝地域内での砲射撃違反が110余回あった」とし、さらに砲にフタをかぶせることや砲門の閉鎖措置違反が「3400余回、砲門数では6900門程度」あったと明かしました(聯合ニュースなど)。この二つを合わせて約3600件ということになります。

 申長官はこうした違反の証拠として「映像で撮影した」と述べています。また、監査院で『9.19軍事合意』について監査をするかどうか検討しているとし、今後、文在寅政権が同合意の北朝鮮側の不履行を指摘してこなかったことを問題視するような姿勢を示しました。

国防部の申源湜長官(右)。国防部提供。


国防部の申源湜長官(右)。国防部提供。

 現政権にとっては、とにかく文在寅政権を批判する姿勢が徹底しています。なぜでしょうか?

 それは韓国の保守陣営と尹錫悦政権にとって「文在寅政権が北朝鮮に弱腰だった」という指摘は、自身の正当性を証明するものとして受け止められているからです。現在のように北朝鮮が核の脅威を強める原因を文在寅政権の「傍観」が助長したという視点です。

 もちろん、北朝鮮が今のような強い姿勢を見せる背景には米国の立場も関係しているため、事情はより複雑です。しかしこれを敢えて単純化することにより、対立する進歩派を攻撃する材料としているのです。

 少なくとも来年4月の総選挙まで、こうした動きは活発に続くと思われます。

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◎韓国から見た南北関係(3):前統一部長官が北朝鮮に向けた拡声器放送禁止を「廃止」する法案を発議

 与党・国民の力の権寧世(クォン・ヨンセ)議員が21日、北朝鮮に向けた拡声器放送を認める法案を代表者として発議しました。同氏は前任の統一部長官です。

 この法は、ニュースレターでも度々取り上げている『南北関係発展に関する法律(通称:南北関係発展法)』を指すものです。

 同法第24条では、軍事境界線一帯での北朝鮮に向けた拡声器での放送、北朝鮮に向けた視覚媒介物(掲示物)の掲示、チラシなどの撒布を禁じています。違反時には3年以下の懲役または3000万ウォン(約330万円)以下の罰金です。

 権議員はこれらを全て削除した法案を発議したということです。

 背景には先月26日に憲法裁判所がこれらの条項に対し「表現の自由を過度に制限している」として違憲判決を下したことがあります(ニュースレター第3号で説明してあります)。

与党・国民の力の権寧世(クォン・ヨンセ)議員。バランスの取れたベテラン議員として知られています。同議員HPより引用。


与党・国民の力の権寧世(クォン・ヨンセ)議員。バランスの取れたベテラン議員として知られています。同議員HPより引用。

 進歩系日刊紙『京郷新聞』は26日付けの記事で前述の「違憲」判決後に、政府が別途ビラ撒布を規定する措置を講じていないことを指摘しています。

 軍事境界線付近での拡声器放送の「解禁」や、北朝鮮への情報流入行為を認めることは『9.19南北軍事合意』における「あらゆる敵対行為の禁止」を韓国側が違反することになります。この部分をなし崩しで進めることで、結果として同合意の廃棄につながるのではないかという見方もあります。

 権議員は京郷新聞のインタビューに対し「拡声器による放送は施設の設置に関する認可・許可でいくらでも統制ができるのにもかかわらず、刑事法で処罰するのは適切ではない」と見解を明かしています。

 また「軍だけでなく民間人も(拡声器での放送を)できるため、表現の自由と関連がある」と拡大解釈を避けるような意味合いで答えています。

 ですが、その真意は明確でしょう。後述する「心理戦」の一環です。

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◎朝鮮半島情勢(1):銃声なき戦争「北朝鮮への『心理戦』」が前面に

 前号でも紹介しました、今月13日に就任したばかりの米国国務省のジュリー・ターナー北朝鮮人権特使が重要な発言をしました。

 米国のジョージワシントン大学で行った講演で「北朝鮮に情報を流入させるための新たな戦略を開発する必要がある」と述べたのです。

 中身として「コンテンツ・キュレーション」と「伝達手段の開発」を挙げました。カッコイイ書き方ですが、要は「何をどう入れるのか」ということです。

 具体的には「海外にいる脱北者の観点を共有する」ものと「携帯電話のような新たな技術など」を用い北朝鮮の中に伝播させるというものです。

 また北朝鮮の『反動思想文化排撃法』を取り上げ、これが北朝鮮への情報流入におけるチャレンジ要因であるとしました。

 20年12月の最高人民会議常任委員会で採択された同法は、死刑までも掲げながら韓国文化を文字通り「排撃」することを強制している点が特徴です。

 一例を挙げると第27条や28条で「傀儡国(韓国)や敵対国(米国)の映画や録画物、編集物、図書、歌、絵、写真などを直接見たり聞いたり保管した者や流布したもの」に対しは5年以上10年以下の労働教化刑に処すとしています。

 第28条ではさらに「大量の敵対国の録画物、編集物、図書類」を流入・流布したり大勢に見せた場合には無期労働教化刑や死刑に処するとあります。録画物や編集物というのはドラマやドキュメンタリーやニュースのことです。

 また、第32条には「傀儡(韓国)式で話しをしたり文章を書いたり、南朝鮮の歌い方で歌を唄ったり、南朝鮮の書体で印刷物を作った者は労働鍛錬刑または2年までの労働教化刑に処する」ともしています。

 他にも北朝鮮は『青年教養保障法(21年9月)』、『平壌文化語保護法(23年1月)』を制定しました。

 金正恩政権としては、北朝鮮住民が韓国や海外文化から「自由に生きること」の具体的なモデルを見付け、これを真似ようとすることは体制への反逆につながるという危機感があるのでしょう。

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(中略)この先、約8500字はサポートメンバー限定となっております。「心理戦」の部分はこの先もずっと取り上げていくので、ぜひこれを機にサポートメンバーに登録してみてはいかがでしょうか。無料登録読者の方だけに、ニュースレター最後の部分を紹介します。

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◎書評とあとがきを兼ねて:崩れゆく秩序

 イスラエルによるガザ地区への一方的な攻撃が連日続いています。あれだけ米国を含む世界中の国が自制を求めても(米国は安保理決議案に拒否権を行使しましたが)、我関せず攻撃を止めないイスラエル政府を見ていると、国際秩序上で重要なルールが目に見える形で失われているなと感じます。

 イスラエルがやりたい放題できる背景には何があるのでしょうか。大統領選を控えた米政界への強い影響力はもとより、迫害を受けてきた歴史的背景から来る国民の覚悟、さらに誰も言いませんがどこかにある核兵器の存在などを挙げられるでしょう。

 そんなイスラエルの姿を見ていると、北朝鮮が素直な存在に思えてきてクラクラします。自国民に対しては苛酷な統制を続けていますが、少なくとも北朝鮮政府のせいで死んでいる他国の人間はいません。

 先日、映画『オッペンハイマー』を観てきました。韓国では8月15日に封切りされ、そろそろ終演となりますが、その間約329万人が足を運んだそうです。内容は「原爆の父」と呼ばれる『マンハッタン計画』を率いたオッペンハイマー博士が、原子爆弾を開発する過程で抱く悩み、広島と長崎への投下後に核兵器に抱く疑問、そしてついに核兵器に反対する姿などが描かれます。

 日本ではついに封切られることはありませんでした。理由はやはり被爆国として、素直に映画を観ることができないと誰かが判断したためでしょう。しかし映画は、十分に日本での公開に耐えうるという感想を私は抱きました。映画は人間の愚かさを扱っているからです。

 一度手にすると決して放棄できない核兵器は、今や金正恩氏の下にもあります。金正恩氏もまずこれを手放すことはないでしょう。何よりも「西側」に属するイスラエルがやりたい放題やっている今、「北朝鮮だからダメ」という論理が崩れていくのを感じます。まあ、それを言うなら米国はどうなんだという話ですが。

 私は今も、非核化を含む朝鮮半島問題について、対話での解決ができる、すべきと信じて記者活動を続けています。核と平和は交換できるという認識です。これは朝鮮半島や周辺国だけでなく、人類の叡智を結集するプロセスになる、否、なってこそ成功するものでしょう。

 しかしその土台が足元から崩れているのではないか。そんな事を、先月出たこの本、『人類が生んだ人類破壊ボタン、核武器のすべて』を読みながら考えていました。

 170ページあまりの構成で、核兵器の科学的な原理・構造から開発した学者たちの姿、反核運動やIAEAやNPTといった核非拡散秩序まで幅広く網羅しています。また韓国で出た本なので当然、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核問題にも触れています。 

 日本にも似たような本がたくさんあると思います。しかし本当に、厳しい時代になっていると感じます。戦争の痛みを知る韓国や日本が良い意味でブレーキになってほしいものですが…。

今号は以上です。たくさん周囲の方に紹介してください。お願いします!(徐台教)

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