ニュースレター号

ビラが南北衝突の「起爆剤」に?北朝鮮核開発の世界最高権威が語る「米朝の失敗」、北朝鮮をめぐる韓国の最新世論など 全8トピック|第14号

(11月10日)サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。

 ニュースレター第14号をお届けいたします。今朝は私が住む金浦では気温が1度まで下がり、今も3度と一気に冬の気配となりました。また少し気温は持ち直すとしていますが、今年はまだやり終えていない大仕事があるので元気を出してやり遂げようと思います。

 今号は南北関係・朝鮮半島情勢を中心にお届けします。南北関係はやはり「ビラ=情報戦」が最前線です。今は時期的に小康状態ですが、いずれ揉めるでしょう。また、シグフリード・ヘッカー博士の議論がとても面白いのですが、これは今号だけでなく、じっくりと見て行くべきなので焦らずにいきましょう。

 今号の目次は以下の通りです。

  • 韓国から見た南北関係(1):「ビラ」をめぐり南北が舌戦

  • 韓国から見た南北関係(2):「北朝鮮をどう見ているのか?」政府機関『民主平和統一諮問会議』の最新世論

  • 韓国から見た南北関係(3):「金ジュエは後継者の可能性」統一部の金暎浩長官が就任100日メッセージ

  • 朝鮮半島情勢(1):ブリンケン米国務長官が訪韓「ロシアと北朝鮮の露骨な安保理決議違反に断乎対応」

  • 朝鮮半島情勢(2):「米は北朝鮮に外交か核開発かの片方を強要した」北朝鮮核開発に関する最高権威の一人、ヘッカー博士が韓国で講演

  • ショートニュース:日米韓のミサイル情報共有システムが月内に完成/米韓の北朝鮮人権特使が会見/韓国市民の脱北民への“微妙な”認識、78%が「会ったことがない」

  • あとがきに代えて:

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◎韓国から見た南北関係(1):「ビラ」をめぐり南北が舌戦

 またビラの話か!と思うかもしれません。ニュースレターで毎号ビラの話を取り上げているので当然です。しかしそれほどまでに、ビラの話は大事なのです。

 北朝鮮の不特定多数の住民はビラを通じ、金正恩氏を批判する国際的な論調に触れ、さらに韓国という国の存在を意識することになります。

 第10号で取り上げたように、北朝鮮は『反動思想文化排撃法』(20年12月)、『青年教養保障法』(21年9月)、『平壌文化語保護法』(23年1月)と韓国の影響力を遮断するための法律を立て続けに制定していますが、これは裏返すと韓国の影響力の浸透力の強さを示しています。

 それもそのはずで、韓国と北朝鮮はなんといっても言葉が通じますし、今や少しずつ弱まっているとはいえ「同じ民族」という感覚が噛み合った時に生まれる化学反応は、とんでもない潜在力を秘めています。

 南北の往来は関係悪化の上に新型コロナが重なり、ここ3年以上ゼロの状態が続いています。なんとか韓国の影響力を削ぎたい北朝鮮政府にとって、ビラは「境界」をやすやすと越えてくるので厄介です。

 既報のように、文在寅政権下の2020年にビラ撒布を取り締まれるよう改正された法律が憲法裁判所で「違憲」とされ、ビラ撒布はふたたび活性化の兆しを見せています。

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 そんな中、北朝鮮の国営朝鮮中央通信にビラ撒布を警告する記事が載りました。キム・ユンミという個人名で書かれたもので「『大韓民国』終末の『起爆剤』と作用するだろう」という物々しいタイトルでした。

 ちなみに「大韓民国」というのは今や北朝鮮では従来の「南朝鮮」よりも低い蔑称のようなものです。「ハイハイ、気取っちゃって」のような馬鹿にするニュアンスと同時に「君たちはもう他人だよ」という突き放す態度が含まれています。

 記事の核心は「反共和国ビラ撒布が『自由』や『人権』を掲げ『民間団体によるもの』と主張するのは欺瞞的な術策に過ぎず、傀儡輩党が計画し主導する反共和国心理謀略戦であるということだ」という一文に集約されます。

 暗号のような文章ですが、つまるところビラは韓国政府が飛ばしているというものです。実際のところ、ビラの資金は米国政府や各国機関、篤志家など多様であるため事実と異なるのですが、この指摘はとても重要です。

 なぜでしょうか。「ビラ撒布は交戦相手を無力化させる目的で行う高度の心理戦であり、戦争開始に先立ち行われる事実上の先制攻撃行為である」という一文が続くからです。

 やはりニュースレター10号で取り上げたように、韓国政府は北朝鮮への情報流入行為を「情報戦、心理戦」として捉えています。攻撃の一種ということです。このため、北朝鮮側のこの解釈がピント外れであるとは言い難いのです。もちろん、韓国が戦争を仕掛ける気はないので大いに拡大解釈ではありますが。

 記事では、これまでは法律で禁止されていたことを買って耐えてきたが、これからはもう耐えない、ビラを飛ばすならばビラを飛ばした原点だけでなく「傀儡の牙城」までも攻撃するという警告が続きます。軍事施設や重要施設を攻撃するよということです。

 さらに「新型コロナは韓国から飛んできたビラのせいで流入した」という過去の非科学的な理論まで持ち出して韓国を非難しています。

 その上で記事は「火花ひとつで爆発する一触即発の現在の情勢の中で、わが国家の存立と発展を悪辣にこき下ろす敵対的な心理戦が我々との接境地域で行われるとき、朝鮮半島で欧州と中東で起きた事態と同じ軍事的衝突が起きないという担保はない」と結ばれています。恐ろしい予告です。

 とはいえ、あくまで個人名で書かれた記事であり、政府の発表、特に対南関係を統括すると見られる金与正(キム・ヨジョン)氏によるものではないため、まだまだ警戒度は「低」といったところです。

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 さらに冬の間はビラ撒布に適していないという事情もあります。

 実際にビラを北朝鮮に送った経験の多い人物に聞いてみたところ「冬の間は北風が続き、ビラを飛ばすのに適した南風が吹くのは月に1~2度。それも不安定なため飛ばすのは難しい。うまく飛ばすためには3月まで待つ必要がある」とのことでした。

 このため、本格的にビラが問題となるのは来春ということになりそうです。来年4月には韓国の総選挙も控えており「北朝鮮との関係」が選挙の行方に影響を与えるようになるかもしれません。

それでも今回の朝鮮中央通信の記事は、改めて北朝鮮の立場を確認できたことで貴重(?)でした。

 なお、韓国の統一部はこの記事を受け「北韓へのビラ撒布は民間団体が韓国の憲法上保障された表現の自由に従い自発的に行う活動」と改めて表明すると共に、「北韓は軽挙妄動をやめるよう厳重に警告する」と反応しました。

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◎韓国から見た南北関係(2):「北朝鮮をどう見ているのか?」政府機関『民主平和統一諮問会議』の最新世論調査

 韓国市民は北朝鮮との関係をどう捉えているのか。韓国ではいくつかのシンクタンクで信頼できる調査が毎年行われており、私も以前から関連する記事を書いてきました。

 そしてそんな調査の一つがこの度公開されましたが、全く話題になっていません(笑)。なぜなら、既存のトレンドを再確認する内容だったからです。

 それでも参考のためまとめてみます。105ページに及ぶ報告書であるため、全てを取り上げることはできませんが、興味深い内容を抽出しました。

 なお、調査を行った『民主平和統一諮問会議(民主平統)』は大統領直属の統一諮問機関として、国内外に約22,000人の諮問委員を委嘱しています。南北統一を考える、世間に知らしめるための組織です。

 韓国では南北関係などの仕事に関わる際に欠かせないステップであり、社会的名士(?)のタイトルの一つとしても知られています。私も2018年から2年間、諮問委員をやりましたが、あまり意味を感じることができずその後止めました。

 今回紹介する世論調査の項目は、▲北韓とロシアの関係、▲韓米同盟の今後の方向性、▲憲法第4条の認知度、▲統一の必要性、▲統一の理由、▲北韓への認識、▲統一に最も大きな影響力を及ぼす国、▲安全保障状況の認識、となります。

 順番に並べておきましたので関心のある部分をお読みください。

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・北韓とロシアの関係

「あなたは最近の北韓とロシアの武器取引および軍事訓練の可能性など北露の密着についてどう考えますか」という質問に関する答えです。

北韓とロシアの関係。資料より筆者がキャプチャしたもの。以下同様。青が憂慮、緑が憂慮しない。


北韓とロシアの関係。資料より筆者がキャプチャしたもの。以下同様。青が憂慮、緑が憂慮しない。

 とても憂慮する:42.3% 多少憂慮する:29.1% 別に憂慮しない:20.5% まったく憂慮しない:5.4% 分からない・応答なし:2.7%

 総合すると憂慮71.4%、憂慮しない25.9%となりました。

 年代層の偏りに特徴がありました。19歳~29歳で63.3%、60代以上82.1%と、年代層が上がる程に憂慮という答えが増えていきました。

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・韓米同盟の今後の方向性

「今年は韓米同盟70周年になる年です。あなたは今後、韓米同盟がどんな方向に進むべきと考えますか」

韓米同盟の今後の方向性。青が拡大、緑が維持、黄色が縮小。


韓米同盟の今後の方向性。青が拡大、緑が維持、黄色が縮小。

 とても拡大すべき:29.5% 多少拡大すべき:14.8% 現在の水準を維持すべき:36.9% 多少縮小すべき:11.0% とても縮小すべき:5.0% 分からない・無回答:2.8%

 全年代層の中で19歳~29歳(56.5%)と60歳以上(53.9%)だけで「拡大すべき」が半数を超えました。最も少なかったのは40代(33.7%)です。50代(34.6%)と合わせ、この層が韓国のリベラル層であることが明確になっています。

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・憲法第4条の認知度

 「憲法第4条には『大韓民国は統一を指向し、自由民主的な基本秩序に立脚した平和的統一政策を樹立しこれを推進する』とあります。あなたはこれについてどれだけ知っていましたか?」

憲法第4条の認知度。青が認知。


憲法第4条の認知度。青が認知。

 とてもよく知っていた:16.0% ある程度知っていた:43.3% よく知らなかった」30.9% まったく知らなかった:9.5% 分からない・無応答:0.3%

 まとめると、認知していた:59.3%、認知していなかった:40.4%となり、憲法第4条がある程度知られていることが分かります。

「認知している」側の回答には男性(69.0%)、女性(50.0%)と性別差がややありました。

 また、19歳~29歳(44.6%)、30代(43.8%)という若者層と、40代(68.1%)、50代(65.1%)、60歳以上(68.3%)の差が顕著で年代差が認められました。

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・統一の必要性

「あなたは統一が必要だと考えますか?」

統一の必要性。青が必要。


統一の必要性。青が必要。

 とても必要だ:32.7% ある程度必要だ:34.2% 別に必要でない:22.0% まったく必要でない:10.0% 分からない・無回答:1.1%

 まとめると必要:66.9%、不必要:32.0%となります。

 23年の第二四半期から6.8%の下落となり、韓国メディアは「統一が不必要が過去最高になった」と騒いでいますが、これだけで何か判断するのは困難です。

19年第一四半期からの推移グラフ。茶が「必要」、橙が「不必要。


19年第一四半期からの推移グラフ。茶が「必要」、橙が「不必要。

 19年第一四半期からの推移グラフ(四半期ごと)を見ると分かるように、この設問への答えは一定の幅で上下があるのが分かります。

 不必要(オレンジ線)は20年の第二四半期にも31.4%となっています。そして同年6月16日に南北共同連絡事務所が爆破された後に、逆に下がっています。

 このように、全体としてその時々の南北関係に影響されながらも一定の幅で上下する数値ということです。今後「必要」が50%台に下がる場合や、「不必要」が35%を超えるなどの動きが起きる場合には、明確な変化と言えるでしょう。

 年代層では19歳~29歳(60.5%)、30代(58.8%)よりもそれ以上の年代が約10%ポイント上回りました。40代は71.3%に達します。

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・統一の理由

「あなたは統一をすべきである場合に最も大きな理由は何だと考えますか?」

統一の理由。


統一の理由。

 戦争の脅威の解消:32.9% 経済発展:26.7% 自由と人権の実現:14.7% 民族の同一性回復:13.6% 国際的な位相の強化:8.9% 分からない・無応答:3.2%

 2年前からの四半期毎の推移を見ると、上位2つが1位と2位で入れ替わり続けています。いわゆる「鉄板」の理由と言ってよいでしょう。

 年代層別で見ると、19歳~29歳(48.2%)が「戦争の脅威の解消」という回答数の多さで突出していました。

 反面「民族同一性の回復」で19~29歳(6.7%)は全年代層のうち最低でした。「脅威」と感じるこの世代の北朝鮮に対する認識が浮かび上がると思います。

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・北朝鮮の認識

「あなたは北韓が私たちにとってどんな対象だと考えますか?」

北朝鮮の認識。青が協力、支援、緑が警戒と敵対。


北朝鮮の認識。青が協力、支援、緑が警戒と敵対。

 協力対象:30.7% 支援対象:11.3% 警戒対象:23.7% 敵対対象:24.3% 別に関係ない対象:7.8% 分からない・無回答:2.2%

 あえて分類すると、北朝鮮を協力・支援の対象とする比率が42.0%、警戒・敵対の対象とするのが48.0%となります。

 年代層別に見てみましょう。前項を補完するような内容です。

 19歳~29歳(54.1%)、30代(46.6%)の「男性」では「敵対対象」という回答の比率が他の年代層に比べて突出していました。これは徴兵制の影響が高いと思われます。

 また回答者が自身の政治的性向を「進歩」とした層では協力(49.6%)、支援(12.6%)でしたが、「保守」とした層では協力(17.7%)、支援(7.1%)でした。

 反対に「進歩」層では警戒(20.3%)、敵対(10.1%)でしたが、「保守」層では警戒(24.1%)、敵対(41.4%)でした。

 北朝鮮への認識が「進歩」と「保守」の両層の間で明確に異なることが分かります。これこそが韓国政治の分極化(両極化)の一因です。

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・統一に最も大きな影響力を及ぼす国

「あなたは米国、中国、日本、ロシアの中でわが国の統一に最も大きな影響力を及ぼす国はどこだと考えますか?」

国際関係の認識。


国際関係の認識。

 米国:57.8% 中国:29.7% ロシア:3.4% 日本:3.0% その他:2.6% 分からない・無回答:3.5%

 今こそ米国と中国の差は圧倒的ですが、実は17年の第四四半期には中国50.4%、米国39.3%でした。

 これは当時、トランプ米大統領と金正恩委員長が正面衝突していたためです。

 北朝鮮は南北関係においては「断絶」を選択しましたが、米朝関係については含みを未だ持たせており(トランプ大統領の再選を望むとの声も)、こうした認識から米国の役割への潜在的な期待が存在するものと思われます。

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・安全保障状況の認識

「あなたは私たちの安保状況に対しどう考えますか?」

安全保障情況の認識。


安全保障情況の認識。

 とても安定的だ:3.5% 安定的な方だ:42.7% 不安定は方だ:37.3% とても不安定だ:15.0% 分からない・無回答:1.5%

 やはりあえて分類すると、安定的46.2%、不安定52.3%となり、不安定と捉える比率が高いことが分かります。

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 長々と見てきましたが、全体的な特徴は「20代30代の若者層の認識が、40代50代とは明らかに異なる」という点にあります。

 むしろこの世代は60代以上の層と似た保守的な傾向を示すのですが、いみじくもこれは、南北関係に関する認識が「一周回った」ことを意味しています。

 逆に言うと、やや極論になりますが、南北の往来があり南北関係が最も良かった2000年代の10年間に20代30代だった世代を中心に、北朝鮮に対する同胞的なイメージが維持されているということです。

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◎韓国から見た南北関係(3):「金ジュエは後継者の可能性」統一部の金暎浩長官が就任100日メッセージ

 6日、統一部の金暎浩(キム・ヨンホ)長官が就任100日を迎え韓国メディアの記者団(クラブ記者です)代表たちと懇談会を持ちました。

 100日記念とか、学生カップルじゃあるまいしそんな区切りどうでもいいだろうと思うのですが、韓国では重要な記念日です。大統領はじめ主要政治家は必ずこの記念日を大事にします。

 会見の内容を入手したのでまとめてみます。

 金長官は就任後にたくさんの人と会う中で「安保をしっかり固めて欲しい」という点と、「人道主義的な民間団体の支援環境を作って欲しい」という二つの話を聞いたと振り返りました。

 前者は保守派の要請、後者は進歩派の要請として象徴的なものですね。

 そして「12月中に北韓人権ロードマップを発表する」と明かしました。これは尹政権下の統一部が、核心課題として掲げる北朝鮮人権問題にどう取り組むのかを網羅する内容になるとされます。

 さらに「その次には北朝鮮人権報告書と北韓経済社会実態報告書の発刊が続く」としました。韓国政府が持つ北朝鮮内部情報は断片的にしか公開されないのですが、まとめて公開するようで、内容が気になります。

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 9日には『統一研究院』より北朝鮮の主要10都市の工場・企業所、市場、新規建設事業、高等教育機関の内容とその場所を地図入りで説明する資料集が発刊されましたが、一気に北朝鮮内部情報をオープンするのでしょうか。恐らくは「北朝鮮の社会や経済は青息吐息」という基調になるでしょうけれど。

『統一研究院』の資料集の一部。非常に手の込んだ資料集でした。


『統一研究院』の資料集の一部。非常に手の込んだ資料集でした。

 また、5月と8月に北朝鮮が二度打ち上げに失敗している軍事偵察衛星について、北朝鮮メディアが明かした10月発射が遅れている点を指しては「判断が難しい」とし、「ロシアからの技術支援を受けている情況はある」と背景を明かしました。

 金正恩氏の娘、金ジュエの後継者説については「可能性は開いている。後継者になる可能性も排除できない」としました。16度も公開の場に連れ出したことを「世襲をするという意志を内外に見せつけるため」と読み解きました。

 そしてその背景として「それほどに北韓内部の情況が良くないのでは」と疑問を提示ししました。「体制を維持するためには成果が必要だが、それが不足しているので娘を登場させている」という政府の見立てです。そうかもしれない、と思わせるコメントでした。

 また今月5日、北朝鮮の『労働新聞』が11月18日を『ミサイル工業節』に指定したと伝えましたが、金長官はこれも金ジュエと関連があるとしました。

 既に各メディアで指摘されているように、この日は昨年北朝鮮が『火星17型』ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を行った日です。

 同時に、金正恩氏がはじめて金ジュエを公の場に連れ出した日でもありました。金長官は双方に意味を見出していました。

 それにしても「4代世襲」というのは、もはや王朝ですね。そうならないことを心底願います。

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◎朝鮮半島情勢(1):ブリンケン米国務長官が訪韓「ロシアと北朝鮮の露骨な安保理決議違反に断乎対応」

 米国のトニー・ブリンケン国務長官が9日から10日にかけて訪韓しました。

 9日だけで尹錫悦大統領、朴振(パク・ジン)外交部長官、趙太庸(チョ・テヨン)国家安保室長と面談(会談)しました。韓国でそれなりに大きく報じられたので見てみましょう。

 大統領室によると、尹大統領は同長官と昼食を共にした席で「北韓・核問題、ウクライナ戦争と共に中東情勢の不安の中で米国のリーダーシップがより重要になっている時点」と述べました。

 そして「韓国は米国の同盟国として核心価値を守護し、規則に基づく国際秩序を強固にするために、米国と緊密に共助する」と続けました。

9日、大統領官邸でブリンケン長官と握手する尹錫悦大統領。大統領室提供。


9日、大統領官邸でブリンケン長官と握手する尹錫悦大統領。大統領室提供。

 これに対しブリンケン長官は「米国の対外政策の主眼点はインド・太平洋地域に合わせてある」とし、「(インド・太平洋)域内の核心である韓国との同盟そして戦略的パートナーシップをより強固にしていく」と答えました。

 また「日韓関係と日米韓関係の新たな進展を導いた尹大統領のリーダーシップに敬意を表する」と繰り返し明かしたそうです。

 イスラエル・ハマス戦争において、韓国は独自の外交判断を全く行っていませんが、この日の尹大統領の発言からもそれが見て取れます。

 今、ガザ地区をめぐり起きている複雑で深刻な出来事を「中東情勢の不安」としか表明できない韓国外交の中身の無さが浮き彫りになりました。

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 続いて9日午後、ブリンケン長官と朴振長官は韓米外相会談を持ちました。

 会談後の会見でブリンケン長官はロシアと北朝鮮の軍事協力について言及しました。

 露朝を「双方向の関係」としながら「北朝鮮がロシアにウクライナ侵略用の軍事装備を提供しているだけでなく、ロシアが北朝鮮の軍事プログラムのために技術的な支援を行っていると見ている」と明かしました。

 ニュースレターでも何度か取り上げてきましたが、ロシアが北朝鮮に与える「見返り」は常に話題になります。

 ブリンケン長官も「憂慮している」と述べるにとどまっているのですが、それが衛星打ち上げ技術なのか、食糧や物資なのかはまだ正確に分かっていないようです。

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 やや脇道に逸れますが、北朝鮮がロシアに提供する物資の中に「SRBM(短距離弾道ミサイル)が含まれる可能性がある」という指摘が韓国内から挙がっています。

 きっかけは『聯合ニュース』の軍事専門記者でした。この記事によると韓国政府の消息通は5日、北朝鮮によるSRBM支援の可能性いついて「多様な出処を総合する場合に相当な根拠がある」と明かしたということです。

 北朝鮮のSRBMは現在、KN-23(北朝鮮版イスカンデル)、KN-24(北朝鮮版エイタクムス)、KN-25(超大型放射砲)の3種類があるとされます。

 記事ではSRBMが渡ったと確信できる具体的な根拠を示していません。ですがニュースレター第12号で紹介した国家情報院の「10月中旬に北朝鮮が武器の運用法の伝授のために放射砲専門家を主として構成された代表団をロシアに派遣した情況を入手した」という報告に注目しています。単なる砲弾提供なら人は動かないだろうという推理です。

 さらに「win-win」の関係にも注目います。

 ロシアにとっては泥など野地の上でも発射できる北朝鮮のSRBMが役に立つし、北朝鮮としては実戦に投入しテストできる長所があるとしました。SRBM提供は「北朝鮮の方が積極的」とまで書いています。どうでしょうか。

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 外相会談に戻ります。他に中国の役割についての言及がありました。

 ブリンケン長官は「中国はこの地域の安定を重視するが、北朝鮮こそが最も大きな不安定の原因」という見方を示した上で、「中国が影響力を発揮し、北朝鮮が無責任で危険な行動から足を洗うよう建設的な役割をすることを期待する」と述べました。

 この会談ではイスラエル・ハマス戦争についての言及もあったようです。

 朴長官は「人道的目的の一時交戦中断が必要だという点を再確認した」とし、ブリンケン長官は「韓国がリーダーシップを発揮し、ハマスを糾弾しパレスチナに人道支援を迅速に支給したことに感謝する」と述べました。

 なお韓国政府は10月19日、イスラエル・ハマス戦争の被害を受けた民間人を支援するために200万ドルを支援すると明かしています。

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 9日には三つ目の会合として、ブリンケン米国務長官と韓国の趙太庸(チョ・テヨン)国家安保室長と面談がありました。似たような話の繰り返しなので割愛します。

 中東、ウクライナ再建、ロシアと北朝鮮への対応、日米韓の緊密な疎通がキーワードでした。

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◎朝鮮半島情勢(2):「米は北朝鮮に外交か核開発かの片方を強要した」北朝鮮核開発に関する最高権威の一人、ヘッカー博士が韓国で講演

 米国のニューメキシコ州ににロスアラモス研究所という施設があります。1942年に建設され今なお運営中の、米国の核兵器研究の総本山とも言える場所です。

 日本未公開ながらも世界的に話題となった映画『オッペンハイマー』の主人公であり、「原爆の父」「アメリカン・プロメテウス」と呼ばれるロバート・オッペンハイマー博士が初代所長を務めた場所としても知られています。

 その研究所で1985年から97年まで5代目所長を務めたのが、シグフリード・ヘッカー博士(80歳)です。

 ヘッカー博士は2004年から2010年までの7年間、毎年北朝鮮に招かれ、核施設を訪問しました。さらに北朝鮮の外交官や核専門家達と交流した経験を持つ、世界有数の北朝鮮の核開発についての専門家です。

著書『核の変曲点(原題:HINGE POINTS: An Inside Look at North Korea’s Nuclear Program)』。韓国で10月末に発売されたばかりです。原語では22年5月に出ています。筆者撮影。


著書『核の変曲点(原題:HINGE POINTS: An Inside Look at North Korea’s Nuclear Program)』。韓国で10月末に発売されたばかりです。原語では22年5月に出ています。筆者撮影。

 著書『核の変曲点(原題:HINGE POINTS: An Inside Look at North Korea’s Nuclear Program)』で当時の北朝鮮側の狙いを「自身が信じるに値する核抑止力を持っていることをワシントンに納得させるという主目的があった」としています。

 北朝鮮は北朝鮮でヘッカー博士を利用したかったということでしょうが、ヘッカー博士も一筋縄ではいかない人物です。世界で唯一の経験と言えますが、前掲書を通じ当時の経験を余すこと無く語っています。

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 そのヘッカー博士が訪韓し、7日、記者会見と講演を行いました。私は泣く泣く行けなかったため、『聯合ニュース』など韓国メディアの記事を頼りに再現してみます。

 北朝鮮の外交については「金正恩氏は米国と関係正常化をこれ以上は追及せずに、中国とロシアと手を結ぶ決定を下したものと見える」と見立てました。

 そして北朝鮮とロシアの結びつきについて「とても悪いニュースだ」しながら「北朝鮮が独自に幾何級数的に自らの核兵器庫を増やすことは難しいが、ロシアが助けるならば話は変わる」と述べました。

 「5年前や2年前にもこうした心配はしなかった」と前置きし、「今こんな憂慮を提起するのはロシアがこれ以上、責任ある核保有国ではないため」と指摘しました。

 北朝鮮が非核化交渉に応じるかどうかについては「ネバー・セイ・ネバー」という言葉を引用しながらも、短期的には悲観的な視点を示したそうです。

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 ヘッカー博士はまた、過去の米政府が北朝鮮の非核化に失敗したと指摘しました。

 実は今、私も前掲書を読み始めたところなのですが、ヘッカー博士は冒頭から北朝鮮の「二重経路戦略(dual-track strategy)」について言及しています。

 これは北朝鮮が「外交」と「核開発」の二つの路線を同時に進めてきたというものです。

 ヘッカー博士はこれにより北朝鮮が過去30年間「どちらか一つの路線での失敗に備え、冷戦以降の国際体制の変動と、自国の権威主義的国内政治に内在した危険を減らすことができた」と分析します。

 そして「どちらの路線でも成功する可能性を開いておき、米国との取引でこれがもたらず柔軟性をよく活用し、金氏政権は自国と体制の長期的生存をある程度保障してもらおうとした」とします。

 つまり、時には核開発の速度を遅らせることで、米国と外交的な解決を計るための合意の道が開いてきたというものです。

 ここからが面白いところなのですが、ヘッカー博士は「しかしワシントンの焦点はただ非核化に向けられていた。最初から平壌に対し外交か核開発かの両者択一を強要し、政治的な中間地帯をなくしてしまった」と切り込んでいきます。

 そして「米国の政治指導者と政策立案者たちは、政治的・イデオロギー的な偏見を決定的な分析より優位において決定した」と指摘するのです。

 北朝鮮が核廃棄を放棄した現在にいたる責任の一端は米国にあるという理論です。過去の時間を「ワシントンも平壌も幾度の機会を無駄に流してしまった」と総括します。

 まだ本を全部読んでいないので結論を下すのは簡単ではないのですが、この日の講演の主題も、このような本の主題に拠るものでした。

 それは「北朝鮮の核プログラムを中止させようとした米国側の努力が、北朝鮮の度重なる外交的な合意違反のせいで無駄になったという不動の信心」に疑問を持つということです。

 「北朝鮮だけが悪いのではない」という視点は、実は韓国の進歩派にとっては珍しいものではありません。特に1994年の『米朝枠組み合意』や2005年の6者協議による『9.19合意』が文言に沿って進んでいたならば、今とは全く違った未来になっていたと見る向きは今なお失われていません。

 もちろん米国だけのせいでなく、北朝鮮の立場も並行して考えなければなりません。

 そのためヘッカー博士の本は550ページもあるのですが、「新冷戦」の時代を迎え、北朝鮮がいち早くそこに飛び込み中露に近づく未来に活路を模索している今こそ、一度立ち止まって考える必要があると言えるでしょう。

 重要な議論なので少しずつ読み解いていきます。

今週8日には『ふたつのコリア』で有名なロバート・カーリン氏とシグフリード・ヘッカー博士が競演する豪華講演もありました。映像がいずれ公開されるものと思われます。北朝鮮核問題の段階的な解決をどう計るのか、という話です。


今週8日には『ふたつのコリア』で有名なロバート・カーリン氏とシグフリード・ヘッカー博士が競演する豪華講演もありました。映像がいずれ公開されるものと思われます。北朝鮮核問題の段階的な解決をどう計るのか、という話です。

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◎ショートニュース

(1)日米韓のミサイル情報共有システムが月内に完成

 これは読売新聞の記事でした。文字通り、北朝鮮のミサイル情報を即時に共有するシステムが月内に完成するというものです。同記事によると「日韓両国のレーダーシステムを米国経由で連結する仕組み」とのことです。

 韓国メディアによると、日米韓の国防相は今月13日に予定されている米韓安保協議会(SCM)の前に会合を持つ可能性があるとされます。この場でシステム完成が発表されるかもしれないと予想されています。

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(2)米韓の人権特使が会見

8日、米ワシントンDCで韓国外交部のイ・シンファ北韓人権国際協力大使(高麗大教授)と、米国務省のジュリー・ターナー北韓人権特使が記者懇談会を開きました。

『聯合ニュース』によるとこの席で両者は、中国政府による脱北者の強制送還に反対する共同声明を準備していると明かしました。

また9日、国連のホームページに今年の国連総会における北朝鮮人権決議案の草案が公開されました。『聯合ニュース』によると今年の文面は中国政府が同国に滞在する脱北者を強制送還したことが明らかになったことを意識したそうです。

具体的には「すべての会員国が根本的な強制送還禁止の原則を尊重することを強く求める」と従来の表現を受け継ぎながらも、「特に(北朝鮮との)国境間の移動が再開した点を考慮する際にそうなる」と言及されているようです。この「国境間の移動の再開」がキーワードのようです。

韓国も深く作成に深く関わったこの人権決議案は、国連総会で「コンセンサス」という非投票の形で採択される見通しです。

なお、中国に滞在する脱北民の法的な地位については第10号で詳しく取り上げています。未読の方はどうぞ。

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(3)韓国市民の脱北民への“微妙な”認識、78%が「会ったことがない」

 本号で紹介した『民主平和統一諮問会議』が、脱北民に対する認識調査を別途発表しました。

 『北韓離脱住民に対する認識調査』というもので、10月20日から22日にかけて韓国の19歳以上の成人男女1000人を対象に電話面接で行われました。

 資料を入手できなかったので韓国メディアの報道を整理しますと「脱北民に会ったことがある、もしくは交流している」と答えた比率は21.3%だったそうです。78.5%は会ったことすらないということです。

 また、今年6月末まで韓国い入国した脱北民が3万3981人という情報に対しては、「思ったよりも多い」43.2%、「思ったよりも少ない」16.7%、「思ったものと似た水準だ」14.4%、「考えたこともない」24.1%だったそうです。

 次いで「脱北民に関心があるか」という質問には「関心がある」54.4%、「関心がない」44.7%だったとのことです。

 そして「脱北民が南北の社会文化の統合と統一の助けになる」とした回答者は64.6%でした。

 日常的に付き合いがある私などは驚く結果ですが、韓国の人口は約5200万人であるため、脱北民の割合はわずか0.06%に過ぎません。脱北民に出会ったことことがない人が圧倒的に多い現実に納得できなくもありません。

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◎あとがきに代えて

 お知らせなのですが、次号からは少し記事の分量を減らそうと考えています。記事の質を担保するためと、書評や映画評、コラムや韓国内の素晴らしい調査報道の紹介など記事に幅を持たせていきたいからです。

 記事の配信方法についてですが、小分けにした方が良いという意見もいくつか届いています。

 私自身がメルマガやニュースレターが頻繁に届くのがあまり好きではないので、今の形でも良いかなと思っているのですが、より多くの読者を獲得するにはもっと分かりやすい見出しが必要という意見も納得です。もう少し考えて決めたいと思います。

 今日は母が久しぶりの日本旅行から帰ってくるため、これから空港です。それではまた来週!ありがとうございます!(徐台教)

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