(11月29日)サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第19号をお届けいたします。今号は韓国社会・韓国政治をテーマにお届けします。書き切れないほどたくさんの出来事が起きていますが、重要と思えるものをいくつかセレクトしました。
今号の目次は以下の通りです。
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韓国社会(1):来年度の外国人労働者受け入れは37.5%増、政府政策の裏にある問題点
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韓国社会(2):男性を卑下?ゲームの女性キャラクターの「指の形」が社会問題に
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韓国政治(1):文在寅政権下の総理2人が、共に民主党に「直言」
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韓国政治(2):「総選挙で負けたら辞任すべき」保守紙で強まる尹大統領への圧力
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カルチャー:映画『ソウルの春』が大人気
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ショートニュース:(1)釜山EXPO誘致に失敗(2)金建希大統領夫人が法律違反?YouTubeメディアの「おとり取材」が話題に(3)あの人気俳優と人気歌手に麻薬反応は「なし」
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あとがきに代えて:二日続けてYouTubeに
◎韓国社会(1):来年度の外国人労働者受け入れが37.5%増、政府政策の裏にある問題点
韓国の出生率は0.78とOECD(経済協力開発機構 )加盟国平均1.52の約半分しかなく、世界最低です。過去10年の間に20兆円におよぶ対策を行ってきましたが効果はなく、人口減少はもはや避けられない現実です。
こんな事情とセットで語られるのが外国人労働者の受け入れです。
韓国の雇用労働部は27日、来年度の「雇用許可制」を通じた外国人労働者(E-9ビザ、非専門就業ビザ)の受け入れ数を、今年の12万年から37.5%多い16万5000人にすると発表しました。
さらに飲食店業、林業、鉱業という人材難が深刻な職種での雇用も拡大するとしました。
こんな事実について韓国メディア各紙は飲食業団体の「人手不足解消に期待」という声を淡々と伝えましたが、それで終わる話なのでしょうか。
釈然としないままいくつかニュースをチェックしていたところ、今月10日から14日まで、地上波テレビ『SBS』が午後8時のメインニュースで報じた「人手戦争、私たちは魅力的ですか?」という企画特集を見付けました。約15分にわたるこの特集をまとめてみます。
「人手戦争、私たちは魅力的ですか?」というSBSの特集のメインページ。同番組よりキャプチャ。
10日にはまず、足元の韓国での話から始まりました。
韓国で合法的に外国人労働者を雇用できるようにする「雇用許可制」が施行されて20年。少子化による人手不足が慢性化する中でもはや韓国で外国人労働者は欠かせない存在になっているといいます。
これは第17号で紹介した「熟練工が足りない」というドキュメンタリーの内容とも相通ずるものでしょう。
23年9月時点で韓国内に暮らす外国人は251万人。人口の約5%に達します。なお、日本は22年の統計で約307万人と人口の2.4%です。韓国の外国人比率の高さが分かります。
取材対象はネパール。理由は「雇用許可制」で韓国に来ている外国人のうち、ネパール人が最も多いからです。
現地に飛んだ番組製作者側は同国内で熱心に韓国語を学ぶ市民の様子や、韓国での経験を元にネパールで市長を務める人物にフォーカスを当て「コリアン・ドリーム」の一面を照らします。
ニュースは一方で、韓国での生活により運命が変わってしまったネパールの人々も取り上げます。
出稼ぎ先の韓国で亡くなった夫の話を聞きに、ネパールの田舎まで訪ねていきます。石材工場で働いていた夫は普段から腹痛を訴えていたものの、会社は放置しついに会社の寮で亡くなってしまったというのです。
そこで明らかになったのは「職場の変更」を認めない韓国の「雇用許可制」の問題でした。職場を変えるためには雇用主の同意が必要な上に、一か所の職場でずっと働いてこそビザ満了後ふたたび韓国で働く機械を得られるというのです。
このため雇用主が王様のようになり、雇用主がやれという仕事をやらざるを得なくなります。ひどすぎる制度です。
ムスリムに豚の内臓の掃除をさせたという事例や、説明もしないまま機械の修理をさせられ右腕を失った男性の話が出てきます。
外国人の労災死亡率は、韓国人の7倍にのぼるそうです。
雇用主への隷属を招く「雇用許可制」については、韓国の国家人権委員会も廃止することを勧告しているそうです。「劣悪な環境でも雇用主の同意がなければ働き続けなければならないという状況は、事実上の強制労働に近い」という解釈です。
この制度が20年も続いてきた…ということを私もまた知らずにいました。
13日には日本が例に取り上げられました。「韓国は日本に追い越されている…『安く?ではなく選ばれてこそ』変わった日本」というタイトルで、日本が韓国よりも先行している事例について豊富な取材を元に整理するものでした。
まずは介護施設。「親切でやさしい。日本人と全く変わらない」という91歳の日本人女性に続き、「介護福祉士の資格を取らないとここに長くいることができない。だから一生懸命に準備している」というミャンマー出身の技能実習生の言葉が紹介されます。
さらに日本が19年に12の職種に対する「特定技能ビザ」を導入するや、日本に流入した外国人労働者が3年間で80倍に増えたと紹介しています。私もよく知らなかったのですが、1621人から13万915人に増えたというのはすごいですね。
日本の特定技能ビザ1号取得者の数。SBSニュースを引用。
韓国との制度の差については、日本の「特定技能1号ビザ」の滞在期間は5年と、先に触れた韓国の「雇用許可制」の4年10か月と似ているものの、業種内で職場の異動が可能である点で韓国よりも優れているとしました。大きな差ですね。
また、家族を呼び寄せ一緒に住むことができる「特定技能2号ビザ」を建設・造船に限る現状から拡大しようという動きがあるとも言及していました。
『出入国在留管理庁』にも注目していました。韓国では最近、「移民庁」が必要であるという議論が起きていますが、それに通じるものです。
次いで、外国人と対象に生活、健康、金融問題の解決を手助けする日本企業2社のサービスが紹介されました。
日本国内では移民政策について「まだまだ」という批判がありそうですが、見てきたように韓国からは日本が良い事例として見られている部分があるというのは興味深いところです。
特集の最後はドイツでした。
8400万人という人口の4分の1が外国人である移民先進国です。出生率の低下と製造業中心であることから韓国と似ているとしながら、高度人材の受け入れを中心に扱っていました。
まずは韓国からドイツに渡った韓国人IT開発社が2年9か月で永住権を得たとし、その制度『EUブルーカード』を紹介します。
これは非EU圏出身の高度人材を対象とするもので、大卒で年間8200万ウォン(人材不足分野では6400万ウォン)を超える場合に永住権をくれる制度です。
一方、韓国では同じ高度人材への扱いが異なるとします。
同じIT開発の分野で働くドイツ人労働者や「5年滞在、8440万ウォン以上」という条件を満たせず永住権を申請できていない上に、485時間の授業を経て真剣に合格しなければならない「社会統合プログラム」が足かせになっているというのです。
ドイツがビザ発給の対象となる職業群。IT,製造、福祉になるかな。SBSをキャプチャ。
同プログラムは政治、経済、文化などを学ぶもので、これを5段階まで合格することが永住権の条件となっています。ハードルは高く数千万円の年俸を貰う高度人材も合格できずに韓国滞在を放棄することがあると言及されます。
今年11月からブルーカードを取得できる職種を従来よりも拡大し、要求収入額も下げるドイツとの差が描かれます。
また、国だけでなく民間の積極的な役割も紹介されています。移民の受け入れに対する政治的な反対が存在するため、移民政策は時に後退や足踏みをするが、その度に学校や市民団体が政府の政策の隙間を埋めてきたというのです
余談ですが、ドイツの進んだ社会制度や社会の話に触れるたび、悲しくなります。私のメインの関心事である南北分断についても、ドイツの事例はたくさん言及されますが、そのいずれも現在の韓国では実現できていません。東西ドイツと異なり南北朝鮮は戦争を経験しているという歴史の違いがあるとはいえ、政治と民主主義の熟成度の差を突きつけられている気がします。
韓国政府の話に戻りましょう。
27日の外国人労働者受け入れ政策を発表する報道資料の中で政府高官は「来年の外国人材の導入規模の拡大は、内国人(韓国人)が忌避する人手不足の解消に大きく寄与すると期待する」とし「外国人材の迅速な導入と共に安定的な定着など滞在管理にも万全を期す」と明かしています。
依然として外国人材への狭い視野が目立つコメントと言わざるを得ないでしょう。今後も追っていきたいと思います。
◎韓国社会(2):男性を卑下?ゲームの女性キャラクターの「指の形」が社会問題に
韓国でにわかに理解しがたい騒動が起きています。
韓国のアニメ制作社「スタジオ・プリ」が韓国トップのゲーム開発会社「NEXON」のゲームを元に作った映像の中に登場した、ある指の形が発端となりました。
画像にあるように、日本では「ちょっとだけ」という言葉にでも置き換えられるような、小ささを示すジェスチャーです。
問題となったアニメの一部。左手が問題となった。同アニメをキャプチャ。
映像は23日に公開されたのですが、わずか0.1秒のあいだ表示されたこのシーンを見た男性たちが「男性嫌悪ではないか」として「NEXON」に抗議したのです。
背景には、韓国の一部急進的なフェミニストたちが数年前からこのジェスチャーを男性性器の小ささを卑下するものとして使っていたことがあります。
抗議者たちはさらに「スタジオ・プリ」で件の映像を作ったとされるアニメーターが自身をフェミニストだと明かし、SNSで女性を擁護する発言をしてきたことを根拠に挙げました。
これを受け「NEXON」側は26日の午前0時1分にYouTubeで公開されていた映像を非公開にしました。その上で「意図したものではないが、指摘されたような不快感を覚えさせた過ちを痛感しています」と謝罪したのです。
さらに「NEXON」は「スタジオ・プリ」が制作した他のゲームに使われている映像にも同様のジェスチャーが含まれていないかをチェックすると明かしました。数社がこの過程で「物議をかもし申し訳ない」と謝罪しています。
なお、制作にかかわったアニメーターは仕事を外され、自宅待機となった後、会社を辞めたそうです。
26日は日曜日でした。休日にもかかわらず「NEXON」側がいち早く反応したことは異例でした。
これに対し保守紙『中央日報』は「ゲーム産業は男性消費者の比重が大きいため、関連企業がいち早く、敏感に反応したようだ」と見立てています。
この指の形をめぐっては、21年にもコンビニブランド「GS25」の広告がやり玉に挙がり、撤回と謝罪に追い込まれたことがあります。
21年に公開され、謝罪と撤回を余儀なくされたウェブ広告。京郷新聞より引用。
進歩紙『ハンギョレ』は26日付けでこのような動きに対し「フェミ思想検証がスポーツ競技のように行われ、ゲーム会社もこれに同調している」と指摘しました。
同記事で専門家は「ゲーム会社は極端主義的で誇大な代表制を持つ少数の利用者の意見だけを聞いて請求に判断を下すことを繰り返し、特に弱者である下請け業者など外注労働者たちが安易な『損切り』のターゲットになっている」と批判しています。
一方、やはり進歩紙の『京郷新聞』は28日付けの記事「NEXONが指と戦うあいだ、女性たちは『殺害予告』と戦っていた」という記事を掲載しました。
今回の一件を受け、女性団体(女性の権利を守る市民団体)が記者会見を予告したところ、参加者たちの殺害を予告する書き込みが行われたというのです。
確かに、28日に韓国のツイッター(現X)では「殺害予告」というキーワードがトレンドになっていました。
記事によると警察の厳重な警備の下で会見は無事に行われたそうです。会見では「NEXON」に対し「自然極まりない指の動きが、特定の叙事のアイコンに成り代わり、これにパワハラ(下請けへの攻撃)が続き、企業(NEXON)がこれを承認した」と批判し、「笑い話のようだが笑い事では済まされない」と主張しました。
別の参加者はまた「(NEXONは)質の悪いユーザーの話にならない要求を聞くのではなく、労働者を保護すべきだった」と指摘しました。
この度の騒動について、日本でも起きているような、フェミニズムへの過度のバックラッシュと受け止める声が少なくありません。断乎とした会社の対応が必要だったように思えます。
◎韓国政治(1):文在寅政権下の総理2人が、共に民主党に「直言」
ニュースレターを通じ何度もお伝えしてきた、来年4月10日の「議員300人総入れ替え」総選挙。キリもない、意味も無い政局の話は避けたいので今回はいいかな…と思っていたところ、言及したい動きが二つあったので紹介します。
金富謙(キム・ブギョム、66歳)という政治家がいます。国会議員を4期16年務め、文在寅政権下で初代行政安全部長官と三代目国務総理を務めた大物で、陣営にとらわれないバランスの良い政治感覚と行政力で知られる人物です。
尹政権になってすぐの22年5月に政界を引退し、メディアに露出することが全くなかったのですが(私も書籍に関連しインタビューを申し込んだのですが、丁重にお断りされました)、今回、進歩紙『京郷新聞』とのインタビューに応じたのです。
金富謙氏の主張の核心は、選挙制度を決めきれない共に民主党への「一喝」でした。
「選挙制の話はこれまで生涯政治を続けてた最も重要な理由であり、民主党が決定的なカギを握っているものだから」とその背景を述べています。
同氏はさらに「政治の発展を可能にする制度が後退してはいけないという切迫感、後退を防がなければならないというのが民主市民の義務であるという考えから口を開いた。民主党の指導部が断乎とした姿勢を見せなければならない時なので、切に訴えたかった」と続けます。
金富謙元総理。総理室より提供。
これは一体、どういうことなのでしょうか。話はニュースレター第9号にさかのぼります。当時、共に民主党のホープ李誕熙(イ・タニ、45歳)議員のインタビューを引用しながら、同党が選挙制度をどうするか決めかねているとしました。
今なお(!)この議論は続いています。つまり、比例代表をどう選ぶかが決まっていないのです。
現在の「連動型(前回だけ準連動型)」を維持するのか、もしくは前々回(16年)の総選挙時の「並立(並列)型」に戻すのかで意見が割れています。
説明するとややこしいので(もちろん、決まった際には詳細に説明します)単純化してお話ししますと、「準連動型」は小選挙区での当選者数が少ない小さな政党が有利で、「並立型」は小選挙区での当選者数が多い巨大政党が有利になる制度です。
韓国国会の議員分布。筆者作成。
表にあるように、韓国では与党・国民の力と、最大野党・共に民主党の二党で約94%を占める二大政党制となっています。しかしこの弊害もすさまじく、果てしない政争の果てに世の中は一向に良くならない状態が続いています。
これにより市民が政治参加に意義を見出す「政治効能性」を失いつつあるばかりか、政治への嫌悪が高まっているという分析があります。これは極端なポピュリストや差別主義者といった政治勢力が登場する土台にもなるため、流れを食い止める必要があります。
そのためには新たな政治勢力に道を開く「準連動型」の続行が望まれるのですが、共に民主党は議席減につながるとこれを避けているのです。
ここまで読まれてもハテナ、だと思います。そうなんです、なぜ議席減につながるのかも説明しなければなりません。
20年4月の総選挙で「連動型」は試験的に「準連動型」として導入され、比例総数47議席のうち30議席にだけ票の獲得割合(%)に沿った議席が割り当てられることになっていました。
そのまま行けば正義党など左派政党の躍進につながり、政治に幅が生まれたはずですが、巨大両党は掟破りの「比例専門の衛星政党」を作ったのです。
先に作ったのは未来統合党(現国民の力)で、共に民主党もこれに続き泥仕合となった訳です。議席の誘惑とはかくも強いものかと愕然とした記憶があります。
今回の選挙も同じ連動型になる場合、衛星政党を作らないということは確実に議席減が見込まれるということです。
今回、前出の李誕熙議員のような共に民主党の改革派は「衛星政党は作らないと党論で採択せよ」と盛んに声を上げています。
議員50人がこれに同調したものの、李在明代表の立場は異なり、いまだ党内の完全な支持を得るに至っていません。ここに大物・金富謙氏が登場してきた訳です。
ふたたびインタビューに戻ります。
金氏は「まず衛星政党を防がなければならない」とし「院内最大政党が、他のことは強行処理(採決)しながら、なぜこの問題に引きずられるのか。国民の力が並立型への回帰を主張しても、民主党だけでもしっかりした原則を守るべき」と主張します。
金氏は過去、地域主義に風穴を開ける目的で、保守の牙城である大邱(テグ)市長選と国会議員選に進歩人陣営の候補として挑戦し、2度苦杯をなめたものの3度目の正直で当選する「離れ業」を見せた人物でもあります。
損をしてでも正道を行くことが大切だと説いている訳です。正直、今の時代では骨董品のような政治家です。
金氏はさらに連動型の導入について「地域主義を超え国民の信頼を受ける政党になろうという意志だった」とし、「しかし衛星政党を作ったのは政治への不信をみずから招く許せない退行だ。政治に対する国民の期待、効用性が落ちたため社会的な葛藤が増幅した」と、政治の現住所への厳しい認識を示しました。
共に民主党の李誕熙議員。週刊誌『時事IN』をキャプチャ
金氏のインタビューは「党よりも政治全体を考えよ」という立場で一貫しています。
先に民主党が衛星政党を作らないという法律を国会で可決させれば(単独で可能)与党もこれに乗らないはずはないとし、あくまで大義を説いています。勢力が大きな党が、先に不利な選択をしろというハッパです。
正論はバンバンと続きます。
「国民の政治的な意志を集めるのに失敗した巨大政党が反省し始めたのが選挙制改革ではなかったか。(連動型が)曺国(チョ・グク)新党や李俊錫(イ・ジュンソク)新党に有利だとしても大したことではない。二桁の議席を持つ第3党、第4党があってこそ、巨大政党も良い政治のために競争できるはずだ」という言葉からは、金富謙らしさが存分に伝わってきます。
他にも尹政権への評価などがあったのですが、特別引っ張ってくる必要は感じなかったので、引用はここまでにしておきます。
金富謙氏の発言は結局、韓国政治の発展のために民主党が犠牲になれるかという点を浮き彫りにさせました。
現在の共に民主党の基盤は、故盧武鉉大統領が作ったものです。同氏また、金富謙氏に先駆け保守の牙城の釜山に挑戦し落選を続けた人物として知られています。その後の政治人生でも「大義のために政治的に不利なことでも敢えて行う」という姿勢は続きました。
金富謙氏も、そして「自身の小選挙区を捨て不利な地域に出馬する」と宣言した李誕熙議員も受け継ぐこの気概が、今の共に民主党にあるのでしょうか。
「現実的な選択」として並立型への回帰または、連動型を維持しつつ衛星政党の設立という、全く逆の道に行こうとする李在明代表の政治感覚が問われる局面です。
もう一つの発言は、李洛淵(イ・ナギョン、70歳)氏によるものです。5期20年の国会議員経験と、全羅南道知事を1期務めた上に、文在寅政権下で初代国務総理を安定的にこなした、やはり大物です。
22年3月の大統領選に際し、党内予備選で李在明氏の対抗馬と目されましたが大差で敗れ、大統領選後に渡米しました。
今年6月の帰国後は政治活動を再開するも、特に存在感を発揮できずにいたところ今回、爆弾発言を行いました。
28日、ソウル市内で同氏が所属する勉強会「連帯と共生」が主催する「大韓民国、危機を超え新たな道へ」というフォーラムが開かれました。
基調演説に臨んだ李氏は尹錫悦政権を「1987年の民主化以降、最悪の政府として記録されることになる」、「理念に取り付かれ時代に逆流している」と存分に批判しながら、返す刀で共に民主党を正面から批判したのです。以下、該当部分を引用します。
「第一野党の民主党は長いあいだ守ってきた価値と品格を失い、内外に向けた敵対と憎悪の暴力的な言動が乱れ飛んでいる。(中略)過去の民主党は内部の多様性と民主主義という免疫体系が作動し様々な問題を取り除き健康を回復してきた。しかし今はリーダーシップと極端な支持者の影響でその免疫システムが壊れた。(中略)その結果として民主党は道徳的な感受性が弱まり、国民の心に鈍くなった。政策やビジョンを出す活動が弱くなり、どうにか政策を出しても司法問題に隠れてしまう」
李洛淵氏ならではの老練な(回りくどい)言い回しですが、これは一から十まで共に民主党の李在明代表に向けた言葉です。
李洛淵元総理。同氏のFBより引用。
しかし韓国各紙によると、同氏はフォーラムの終了後「私党化の問題は残念」と強い発言を重ねました。
さらにこれに続く「李在明代表により私党化されているということか」という記者の質問には「残念に思う。道徳的な感受性が弱くなり、党内民主主義が抑圧されているのはリーダーシップと無関係ではない」と答え、共に民主党が李代表の強い影響化にあるという見解を明かしています。
帰国から5か月後の満を持した批判ですが、李在明代表は反応を見せていません。
李洛淵氏は基調演説の中でさらに選挙制度については「連動型」の維持を求めました。政治の両極化(分極化)を克服するためと、多党制を具現するためというのが理由です。
このようにいみじくも、文政権下で総理の重責を務めたベテラン二人が相次いで李在明代表に圧力をかける事態となりました。
李洛淵氏の政治的な影響力は限定的という見方が強いですが、金富謙氏の発言は有権者に響くでしょう。久しぶりに政治家らしいインタビューを見たような気がします。
30日、共に民主党は選挙制度に関わる議員総会を開きます。果たしてどんな結論になるでしょうか。
◎韓国政治(2):「総選挙で負けたら辞任すべき」保守紙で強まる尹大統領への圧力
見てきたように野党も揉めていますが、いま最も窮地に追い込まれているのは尹錫悦大統領かもしれません。
連日、同じ保守陣営からのコラムを通じた「口撃」にあっています。
21日の『朝鮮日報』に、金大中(キム・デジュン、84歳。元大統領と同姓同名)同紙元主筆が「4月総選挙の貸借対照表」というコラムを寄稿しました。
金氏は総選挙について「事実上、尹錫悦大統領に対する国民の中間評価であり、李在明共に民主党代表に対する信任投票だ」と位置づけました。
そして国会の過半数(150議席)を与党が獲得する場合、尹大統領はようやく実質的な政権交替を成し遂げることになり、逆に民主党が勝つ場合に「尹政権はそれ以上機能することはないのはもちろん、存在することすら難しくなる」と断じました。
さらに後者の場合、民主党による大統領への攻撃が強まり、政局は混乱を極めると予測し「尹大統領に愛国心があるならば任期を口実に難局を放置しないだろう。私たちはふたたび大統領選挙を行う事態に直面する」と書いています。負けた場合、尹大統領は辞任すべきというものです。
これは尹大統領と保守層への「ハッパ」と言えるものですが、文章の圧が強いため、悲壮感すら感じさせます。金大中氏は現在の『朝鮮日報』の「顔」の一人です。現政権に強い影響力を持つとされる同紙の厳しい現状認識がうかがえます。
21日、訪問先の英国で歓迎式に臨む尹大統領。隣はチャールズ3世。
他方、27日付けの『韓国日報』には大学教授出身の李相敦(イ・サンドン、71歳)元議員のコラム「来年の総選挙が単純ではない理由」が掲載されました。
同議員は過去、現在の与党に連なるセヌリ党で非常対策委員を務めるなど保守政界では知られた存在で、バランスの取れたいわゆる「合理的な保守」の一人に分類される人物です。
このコラムでもやはり「民主党が過半数を超える議席を占める場合、尹錫悦政府は倒れる可能性が高い」と言及しています。
前掲のコラムと同様、与党と大統領に対するハッパという意味合いもあるのでしょうが、ややトーンが暗い点が気になりました。
「総選挙は与党に対する中間評価というよりも、大統領に対する中間評価という意味が大きいが、大統領がこの点をしっかり認識しているのか分からない」と悲観的です。
李元議員のコラムは、韓国政治のレベルの低さを嘆きつつ「このままでは有権者が大挙棄権する可能性もある」と結ばれます。
尹大統領の支持率は30%前半で推移しており、なかなか上がらないためこの心配も当然と言えるかもしれません。尹大統領はこの危機を大統領室の強化で乗り切ろうと考えているようです。政策室を復活させ、高官の入れ替えもあると韓国各紙は報じています。
◎カルチャー:映画『ソウルの春』が大人気
韓国で今、大人気の映画『ソウルの春』。22日の公開以降、7日間で270万人近い市民が劇場に足を運んでいます。私もさっそく観てきましたが、いや~、面白かったです。
映画の背景は1979年10月末から12月12日までです。
同年10月26日に朴正熙大統領が腹心の金載圭(キム・ジェギュ)中央情報部長に暗殺されたことにより生まれた権力の空白の中、自らの保身のために全斗煥(チョン・ドゥファン、劇中ではチョン・ドゥグァン)保安司令官は軍内の私組織『ハナ会』を動員し12月12日にクーデターを起こします。
これに対抗するのが、イ・テシン首都警備司令官(当時のチャン・テワン同司令官がモデル)です。実直な軍人のイ司令官はクーデターを鎮圧するために奔走します。もっとも、史実通りに映画でもクーデターが成功するのですが、説明調のそう単純な映画ではありません。
映画ポスターです。
この点、まるで見てきたかのようにクーデターを再構成し、フィクションも織り交ぜながら歴史を作品へと昇華させたキム・ソンス監督の手腕が光ります。敢えて登場人物を実名に近い仮名にし「自由に動かす」(キム監督)ことで作品に娯楽性を増しています。
実際に「没入度が半端じゃなかった」という映画評がよく目に付きます。
ファン・ジョンミン、チョン・ウソン、イ・サンミンといった当代の名優の演技と、クーデターという緊迫した状況、さらに豊富なグラフィックと字幕を用い、クーデターの状況を観客が視覚的に理解できるようにした点がうまく作用した結果でしょう。
韓国の現代史を扱った映画は、『タクシー運転手』や『1987』など秀作がいくつもあります。本作『ソウルの春』を通じ、韓国人の多くも知らないとされる「12.12クーデター」の夜を追体験することで、観客は民主主義への想いを新たにするのではないでしょうか。
また、韓国の大手映画館は予約者データを元に、20代30代の予約が40代50代よりも多いとしています。スマホの活用度による偏差の可能性もありますが、韓国で民主主義への想いが再生産される過程を見ているようで興味深かったです。
キム監督は韓国紙とのインタビューの中で「クーデター勢力の勝利の歴史で記録されてほしくなかった」と本作へのモチベーションを明かしています。それではどう記録されるのでしょうか。ご覧になればきっと分かるでしょう。
日本ではいつ公開されるのか分かりませんが、この人気ならば遠からず、となりそうです。
ファン・ジョンミンの全斗煥は、怪演という言葉がぴったりでした。
◎ショートニュース
(1)釜山EXPO誘致に失敗
日本・韓国時間(余談ですが、たまに「韓国の時差は?」と聞かれます。日本と朝鮮半島に時差はありません。本来ならば30分朝鮮半島が遅いのがちょうど良いらしいです)29日未明に発表となった2030年のEXPO開催地。有効票165票のうち119票を集めたサウジアラビア・リヤドに決まりました。韓国の得票数はわずか29票。3位ローマは17票でした。
これを受け29日午前、尹大統領は「全ての責任は私にある」というメッセージを発表しました。サウジアラビアへの支援を行うことも明かしました。
それにしても腑に落ちません。韓国政府やメディアが盛んに「もはや混線」と書き綴っていましたが、あれはいったい何だったのでしょうか。
今回の一件からは、▲尹錫悦大統領にまともな報告が上がっていない、▲韓国政府はまともに票読みができていない、▲韓国メディアはまともに取材をしていない、という3つの教訓を得ることができました。
(2)金建希大統領夫人が収賄?YouTubeメディアの「おとり取材」が話題に
27日、韓国の左派系YouTubeチャンネル『ソウルの声』が「尹錫悦大統領の就任後、金建希が高価なバッグを受け取った!」という動画を公開しました。
29日現在、30万回が再生されているこの動画の背景は昨年9月。
当時はまだソウル市内のマンションに住んでいた大統領夫人の金建希(キム・ゴニ)氏は、同じマンションにある自身の事務所を訪問した米国系韓国人のA牧師から高価なバッグ(300万ウォン、約33万円)をプレゼントされ、断りつつも受け取ります。このシーンは、腕時計型の隠しカメラで撮影されました。
この動画が公開されるや、野党の共に民主党は「カバンを今も持っているのか、なぜ牧師と会ったのかなどを大統領室は明かすべき」と攻勢に出ました。他方、与党側は「おとり取材だ」と批判しています。
バッグを受け取る金建希大統領夫人(奥)。該当動画をキャプチャ。
大統領室は29日までこの質問に答えていません。バッグは返却用の倉庫に保管されていると伝える韓国紙もありますが、返却されていないのは確かなようです。
韓国には『請託禁止法(キム・ヨンラン法)』と呼ばれる法律があり、一度に100万ウォン(約11万円)以上、もしくは年間300万ウォンを超える金品を受け取ってはならないとしています。金建希夫人はこの法に抵触する可能性があります。
そして28日、『JTBC』テレビはこの動画に出演したA牧師をインタビューした記事を報じました。
同氏は撮影は計画したものであることを認めた上で目的について「(金建希氏による)人事への介入や請願の聞き入れ、または国政への介入などの姿が撮影できる場合、それを使って指摘しようと思い撮影した」と明かしました。隠しカメラやバッグはすべて『ソウルの声』側が用意したものとも述べました。
『ソウルの声』はチャンネル登録者数119万の人気チャンネルで、民族派やラディカルな進歩派としての主張を普段から行っています。
昨年の大統領選前には、金建希氏との7時間に及ぶ通話内容を公開しました。金建希氏は名誉毀損罪で『ソウルの声』を訴え、今は裁判が進んでいます。
なお、「おとり取材」という批判に対し『ソウルの声』側は「『おとり取材』はその危険性や非倫理性よりも、国民の知る権利が顕著に高い場合に認められる」と返事をしています。
世界に類を見ない(?)突撃取材。どう決着するのか想像が付きません。
(3)人気俳優と人気歌手に麻薬反応は「なし」
11月に入り、韓国社会を大いに騒がせた、人気俳優の李善均(イ・ソンギュン、48歳)と、人気歌手G-DRAGONこと権志龍(クォン・ジヨン、35歳)両氏の麻薬疑惑。
警察が大々的に捜査に着手したものの、両氏ともに国立科学捜査研究院による精密検査の結果「陰性」が確定し、約ひと月経った今も捜査に進展が見られません。
これについて進歩紙『京郷新聞』は28日付けの記事で、別に物証が出る場合には検査とは別に起訴まで進む場合があると別事件の事例を挙げつつ、「内偵の段階で事件が知られたことに対する警察の無念さを感じる」と伝えています。
もしこのまま不起訴になるような場合、警察は信頼を損ねることになります。当初、麻薬使用を認めた李善均氏も今では「麻薬ではなかったかもしれない」と前言を翻しています。
◎あとがきに代えて
丸一日以上遅れての発行となりました。仕事のスケジュールが重なったことが理由ですが、これでは問題なので調節しながら火曜・金曜を厳守していきます(そうした方がニュースもまとめやすいです)。
今週は火曜日に『デモクラシータイムス』、水曜日に『ポリタスTV』と、人気YouTubeチャンネルに続けて出演しました。
番組では主に、北朝鮮による衛星発射とその後の南北関係と、11月23日にあった元‘慰安婦’被害者が日本政府を訴えていた裁判の勝訴判決について語りました。
本来ならば今号、裁判の内容が入らなければなりませんが、多くの人に読んでもらいたい内容なのでヤフーニュースに配信することになると思います。読者の皆さんにもその際はお知らせするのでお待ちください。
ソウル近郊は今日(水曜日)も雪がちらつくなど、0度を下回りだいぶ寒くなってきました。日本の天気は地域によって異なるでしょうけれど、皆さまもどうかご自愛ください。ありがとうございます。(徐台教)