ニュースレター号

人権問題が北朝鮮政策のど真ん中へ、住民を意識?北朝鮮で新しい選挙、韓国国防部の「本音」など 6トピック|第20号

(12月1日)サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。

 ニュースレター第20号をお届けいたします。私が住んでいる金浦は毎朝マイナス6度くらいとずいぶん冷え込んできました。ふと思い立って北朝鮮の天気を検索すると2日午前3時現在、平壌はマイナス6.6度、朝中国境の鉱山都市・茂山(ムサン)はマイナス19度でした。北側の人々もどうか暖かく過ごしていてほしいです。

 今号は南北関係・朝鮮半島情勢を中心にお届けします。衛星発射から約10日、南北関係は一旦は落ち着きを取り戻したかのように見えますが、その実は静かな緊張に覆われています。特に軍事境界線付近から嫌なニュースが聞こえてこないかと『聯合ニュース』の速報を伝えるアラートに少しおびえています。

 今号の目次は以下の通りです。

  • 韓国から見た南北関係(1):尹錫悦政権下で北朝鮮人権問題は「根本的・中心的問題」へ

  • 韓国から見た南北関係(2):韓国国防部が『9.19南北軍事合意』の全面破棄を要求へ

  • 朝鮮半島情勢(1):機能不全の国連に代わり、日米韓豪が北朝鮮への追加制裁案を発表へ

  • 朝鮮半島情勢(2):初の「反対」投票箱や複数候補者が登場…北朝鮮が地方人民会議代議員選挙を実施

  • ショートニュース:北朝鮮がバングラデシュとコンゴ民主共和国の大使館を撤収/[コラム紹介] 北朝鮮人権問題をどう位置づけるか

  • あとがきに代えて:南北衛星競争はじまる

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 本論に入る前に、今号のニュースレターの前提について整理しておきます。

 11月21日夜に朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が偵察衛星を発射したことを受け、韓国は翌日に『9.19南北軍事合意書』の一部効力停止を発表しました。

 他方、北朝鮮はこの対抗措置として「同合意書にこれ以上拘束されない」と宣言をした上で、同合意書に従い撤去済みだった南北軍事境界線付近のGP(監視哨所)を再建し重火器を持ち込みました。

『9.19南北軍事合意書』により撤去したGPを再建し重火器(無反動砲や高射砲)を持ち込む北朝鮮兵士。韓国国防部提供。


『9.19南北軍事合意書』により撤去したGPを再建し重火器(無反動砲や高射砲)を持ち込む北朝鮮兵士。韓国国防部提供。

 さらに、板門店で勤務にあたる兵士に拳銃を着用させるなど、やはり合意書以前への「復元」を着々と進めています。韓国も同様にGPの再建に取りかかっています。

 ひと言で、静かな緊張の高まりが朝鮮半島を覆っている状況です。この記事の時点から南北関係をふたたび追っていきましょう。

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◎韓国から見た南北関係(1):尹政権下で北朝鮮人権問題は「根本的・中心的問題」へ

 尹政権が北朝鮮政策の中心に全体主義下で抑圧される北朝鮮住民の人権問題を置き、自由民主主義体制の韓国の正当性を強くアピールしていることは、過去のニュースレターでも触れてきました。

 街中のデモで「大統領を火あぶりにせよ!」という横断幕を掲げても捕まらないという、韓国が圧倒的に優位に立つ民主主義を用いた圧力です。

 北朝鮮に厳重な人権問題が存在することもまた事実であるため、それなりに筋の通った立場となります。人権問題に口を閉ざした文在寅前政権との差別化の意味合いもあります。

 しかし最近になって、人権問題が突出している印象を強く受けます。人権侵害を根拠に、もはや北朝鮮の存在すら認めないという強い姿勢が目に付きます。

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 11月28日、ソウル市郊外で『民主平和統一諮問会議(民主平統)』の全体会議が開かれました。

『民主平統』とは、2万人を超える諮問委員が統一を促進するために活動する大統領直属の諮問機関です。

 名士による一種の名誉職の意味合いが強く、社交場のような雰囲気もあります。統一政策の方向性も時の大統領に大きく作用されるため正直、余り意味のある存在に思えません。

 以前にも触れたように私も文在寅政権時代に諮問委員を2年間務めました。しかし失望が大きく、再任を申請しませんでした。

 この日の会議では尹錫悦大統領が開会辞を述べました。人権問題への言及を見ていく前に、まずは北朝鮮観を見ましょう。

 余談ですが、尹大統領が就任して1年半になる今も「尹錫悦さんは北朝鮮をどう見ているのか」と聞かれることが多いのが事実です。

 これはおそらく、北朝鮮に‘どこまで’反感をもっているのか?という問いではないかと思うのです。その答えがここにあります。

11月28日、ソウル市郊外で開かれた『民主平和統一諮問会議(民主平統)』の全体会議に出席する尹錫悦大統領。大統領室提供。


11月28日、ソウル市郊外で開かれた『民主平和統一諮問会議(民主平統)』の全体会議に出席する尹錫悦大統領。大統領室提供。

 尹大統領は開会辞の中で「過去70年間、自由民主主義と共産全体主義が作り出す格差がどれほど大きいのか実際に感じた」と南北の体制の違いに触れ、「北韓の共産全体主義システムは活気のある市場も、発達した技術も、未来の人材も何も作れなかった。失敗した」と断言しました。

 これは文在寅大統領も述べていた「体制競争は終わった」という表現と一脈通じるもので、単語選びのセンスはともかく特徴のある視点ではありません。

 続いて「北朝鮮が核兵器を作り武力挑発を繰り返す理由は、これが全体主義の独裁権力を維持するための唯一無二の手段である」という見解を示しました。この辺りからオリジナリティ(?)が出てきます。

 そして過去に国際社会と北朝鮮との間に結ばれた「核と経済開発を交換する」様々な合意を挙げつつ、これらが一つでも実現していれば北朝鮮経済は今よりも発展していただろうと指摘しました。

 それにもかかわらず、北朝鮮は核を放棄しなかったとし、その理由は「核の放棄が究極には独裁権力を危険にさらすと考えるからだ」と見立てたのです。

 二度繰り返されたこの主張は、金正恩と核を一体視する考えに他なりません。さらに北朝鮮は核を捨てないだろうと確信していることが分かる発言です。

 尹大統領はまた「相手の善意に頼った平和は夢と虚像に過ぎないことを人類の歴史は証明している」とも述べています。

 そしてそこから「真の平和は圧倒的で強力な力と、私自身を守るためにいつでもそんな力を使えるという断乎とした意志により構築されるもの」という持論につなげていきます。

 この理論のカギは「北朝鮮は過去一度も核を放棄しようとしなかったし、これからもすることはない」という認識です。保守派の典型的なものと言えます。

 対する進歩派は「北朝鮮が核を放棄しようとしても米国がそれを信用せず積極的に後押ししなかった。やり方(例えば段階的、長期的な非核化)によってはまだ可能性はある」と考えるのです。

韓国の進歩派の中には金正恩との「ケミストリー」を願いトランプ再選を望む声も...。写真は共同取材団。


韓国の進歩派の中には金正恩との「ケミストリー」を願いトランプ再選を望む声も…。写真は共同取材団。

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 尹大統領はこんな認識の上に人権問題を論じます。

 「北韓の人権の改善なくして民主平和統一の道は見えません。私たちが指向する民主平和統一というのは、南北韓すべての構成員が自由を享受し、共に繁栄する統一です。自由、人権、法治が息づく、そんな統一大韓民国を成し遂げるということが、私たちの確固とした意思と努力が国際社会の呼応と指示を導きだせるでしょう」

 既に見てきたように、尹大統領の頭の中は「全体主義=人権侵害=核=金正恩」となっています。この図式によると「北朝鮮の人権問題は金正恩がいる限り変わらない」となります。

 つまり金正恩は打倒する対象であることが分かります。そこにはもう対話が入る余地がありません。

 翌29日には、尹錫悦政権の外交安保政策に多大な影響力を持つ金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室1次長が、民間シンポジウムでの祝辞で北朝鮮人権問題に言及しました。

 『聯合ニュース』によると、金次長は「北韓の人権は北朝鮮政策の本質」と言い切り、さらに「私たちの対北韓政策は、人権を考える対北政策にならなければならない」と述べたとのことです。

 このように、尹政権における北朝鮮人権問題に対する発言のトーンは上がる一方です。

 もはや北朝鮮人権問題は「議題の一つ」ではなく、北朝鮮という国の正当性を認めない「根本的問題」となりました。衛星発射による軍事的緊張の高まりの傍らで、南北は完全に折り合わない時代を迎えています。

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◎韓国から見た南北関係(2):韓国国防部が『9.19南北軍事合意』の全面破棄を要求

 韓国国防部は11月30日の定例会見で、『9.19南北軍事合意書』への正直な(?)思いを明かしました。

 きっかけはある記者の質問でした。

 要約すると「韓国政府は北朝鮮による衛星発射の翌日に1条3項のみ効力停止し、その後は合意に『拘束されない』(これを記者は全面破棄と表現)とした北朝鮮が一つ一つ起こすアクションに相応の対応をしている。しかし相応措置をとるならば、北朝鮮と同じように全面破棄すべきでは?」というものでした。

 これに対し国防部は何度か記者とやり取りする中で「南北軍事合意が軍事作戦に様々な制限をかけると今まで継続して説明してきたし、必要ならば全面的な効力停止も必要ではないかと、関連機関に意見を明かしてきた」と認め、「全面破棄が望ましいのか」とさらに聞く記者に対し「そうだ、必要だ」と明言しました。記者の見事な質問でした。

 申源湜(シン・ウォンシク)長官が今年10月7日に就任して以降、韓国国防部の勢いは恐ろしいものがあります。北朝鮮に対する戦意をむき出しにすることが、軍の士気を維持し抑止力を高める効果があると信じているようです。

 南北間で偶発的な衝突の可能性が高まる今、こんな国防部の姿勢が吉と出るか凶とでるのかは、遠からず分かると思います。

「力による平和、精鋭先進強軍」。最近、国防部が新たに作ったバナーです。国防部提供。


「力による平和、精鋭先進強軍」。最近、国防部が新たに作ったバナーです。国防部提供。

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◎朝鮮半島情勢(1):機能不全の国連に代わり、日米韓豪が北朝鮮への追加制裁案を発表

 11月21日の北朝鮮による衛星発射を受け、27日(現地時間)米国の国連本部で国連安保理の公式会議が開かれました。

 『聯合ニュース』によると会議で国連政務・平和構築局(DPPA)の中東・アジア・太平洋局長は「安保理決議は弾道ミサイル技術を利用した北朝鮮のいかなる発射行為も禁止している」と改めて強調しました。

 また、発射過程で存在した北朝鮮の危険行為も指摘しました。

 「日本の海上保安庁に発射を事前に通報したものの、国際海事機構(IMO)と国際民間航空機構(ICAO)または国際電気通信連合(ITU)には発射を告知しなかった」というものです。

 特にIMOは会員国(北朝鮮も会員国です)に対し、船舶の航行の安全に影響を及ぼす軍事訓練などを実施する際には前もって知らせることを義務づけていますが、北朝鮮はこれを守りませんでした。いくつかの民間分野に被害を及ぼす可能性があったとうことです。

 会議では米国のグリーンフィールド国連大使が「安保理は国際平和と安全保障を維持する任務を付与されている」と述べ「北朝鮮はその権威を弱めている」と言及しました。

 また「常任理事国であるロシアと中国が北朝鮮の安保理決議違反を糾弾する意思がない」という旨の指摘も行いました。

 韓国政府の発言もありました。ファン・ジュングク国連大使は当事国の立場として参加し「北韓の挑発的な行動は、もはや地域的な問題ではなくグローバルな問題だ」とし、その一例としてウクライナ戦争において、北朝鮮がロシアに弾薬を供給している点を挙げました。

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 一方、北朝鮮のキム・ソン国連大使もこの日の会議に出席しました。キム大使は「現在5000個以上の衛星が地球軌道を回っているのに、なぜわが国の人工衛星に対してだけ問題視するのか」と述べました。また、衛星発射が安保理決議違反という指摘については「全的に拒否し受け入れられない」と強い姿勢を示しました。

 キム大使はさらに衛星発射の背景に米国からの圧力があるとしました。「このような(米韓、日米韓訓練など)米国の脅威が無かったならば、わが国も偵察衛星ではなく通信衛星など民間用衛星から発射しただろう」と、発射の原因を米国が提供しているという「防衛権」の主張を持ち出し正当性を主張しました。

 この日の安保理会議は、北朝鮮を糾弾する声明の発表や決議案を採択することなく終わりました。

 国連に代わって北朝鮮に制裁を行うことを発表したのは、日米韓そして豪州の4か国でした。トニー・ブリンケン米国務長官は11月30日(現地時間)の会見で、調整の下、4か国がそれぞれ北朝鮮への制裁は行うと発表しました。なお、こうした形の制裁は初めてである旨を同長官は明かしています。従前は日米韓が「連鎖的な独自制裁」を行っていましたが、豪州が加わった形です。

トニー・ブリンケン米国務長官。国務省提供。


トニー・ブリンケン米国務長官。国務省提供。

 これを受け、韓国外交部は1日、独自制裁の内容を発表しました。「北朝鮮の衛星開発および関連物資の調達、弾道ミサイルの研究・開発などに関わった北韓の個人11人」が対象となります。

 人工衛星の発射を行った北朝鮮の『国家航空宇宙技術総局』からはリ・チョルチュ副局長をはじめ4人が入りました。11人のうち10人は韓国が「世界ではじめて」制裁対象に含めた人物とのことです。

 米国は朝鮮貿易銀行ウラジオストク代表のソ・ミョンと北朝鮮のハッカー組織『キムスキー』を、日本もやはり『キムスキー』を指定しました。なお、韓国は上記のいずれも今年6月に制裁対象に含めていました。

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 国連を巡っては、北朝鮮も黙っていませんでした。

 11月30日に北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)党中央委員会副部長は談話を発表し、米国が「意味のある対話」や「平和的解決」を望むのならば、「平壌からわずか500~600キロ離れた南朝鮮の港に途切れることなく出没する戦略的目標がどこから、なぜ来たのかを明確に解明すべき」と述べました。これは釜山に寄稿した米空母や米原潜を指すものです。

 このように米国は表向き対話を望んでいるが、一方で強権と専横を振りかざす「両面的な立場」があると指摘しました。そしてこれが朝鮮半島の平和と安定を破壊しているという見方を示しました。

 そして「主権国家の自主権はいかなる場合にも交渉の議題になることはない」とし「だからこそ私たちは米国と対面することは起きない」と断定しました。

 北朝鮮は現在、ロシアへと軍需物資を提供する戦争特需の中にあります。少なくとも短期的には制裁を気にする必要はなくなり、朝鮮半島問題における国連の役割は低下し続けるでしょう。

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◎朝鮮半島情勢(2):初の「反対」投票箱や複数候補者が登場…北朝鮮が地方人民会議代議員選挙を実施

 11月26日、北朝鮮全土で地方人民会議代議員選挙が実施されました。日本や韓国に置き換えると地方議会選挙に相当します。19年7月以降、約4年ぶりに行われ、2万7858人が選出されました。

 朝鮮中央通信によると、投票率は99.63%に達しました。海外に滞在していたり海上にいることで投票できなかった者が0.37%、棄権した者は0.000078%だったとのことです。

 同通信はまた、金正恩氏が北朝鮮東部の咸鏡南道(ハムギョンナムド)で投票する姿を報じました。

 今回の選挙にでは2つの変化がありました。

 まずは「反対」票を入れるための箱が登場したことです。

 金正恩氏が投票している写真には、同氏が票を入れている緑色の「賛成」票のための箱の隣に、赤い「反対」票のための箱が見えます。

26日、咸鏡南道(ハムギョンナムド)を訪れ投票する金正恩氏。朝鮮中央通信より。


26日、咸鏡南道(ハムギョンナムド)を訪れ投票する金正恩氏。朝鮮中央通信より。

 実際に反対票を投じた人はどれくらいいたのでしょうか。

 朝鮮中央通信は選挙結果について、道および直轄市での代議員候補については賛成99.91%、反対0.09%、市および区域・郡の代議員の選挙では賛成99.87%、反対0.13%であったと伝えています。

 もう一つの変化は、選挙過程にありました。

 北朝鮮は今年8月30日に「各級人民会議代議員選挙法」を改定しました。条文はまだ公開されていないのですが、これにより、2人の代議員候補者の中から「選挙者会議」を通じ住民が候補者を選ぶ形に変わったというのです。いわば予備選挙の登場です。

 もっとも、この際の住民は一般住民ではなく一種の住民の代表者となっています。

 整理すると今回の選挙は「労働党が決めた候補に無条件賛成する方式」から、「複数から選ばれた候補に賛成と反対票を投じる方式」に変化したということです。

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 専門的にはどう見るべきなのでしょうか。国策シンクタンクの『統一研究院』が選挙翌日の27日に発表したオンラインレポートを見ていきましょう。

 レポートではまず北朝鮮における選挙について、「伝統的に労働党が提示した任務を忠実に遂行できる人物を選出する制度であり、党により資格審議を終えた人物を住民達が承認する制度であり、候補者に対する賛成・反対投票で行われ全人民が義務的に参加しお祝いする一種の『祝祭の場』である」と位置づけています。

 その上で今回の選挙における特徴を三つ挙げています。

 

 一つ目は投票率の低下です。

 4年前の19年7月21日に行われた同じ選挙では最終投票率が99.98%だったものの、今回は99.63%と減少しました。

 北朝鮮当局はこれを「他国に行っていたり、遠くの海に出て仕事をしている選挙者(有権者)たちは参加できなかった」と説明していますが、レポートはそんな状況は以前も同様だったと断じます。

 そして投票率の低下の背景に「北朝鮮当局が管理できない住民達が微細ではあるが増加した」と見立てているです。
 どういうことでしょうか。

 レポートによると、北朝鮮は伝統的に選挙を通じ住民の居住実態を確認するとします。

 具体的には、当局が作成した選挙者の名簿を元に、行方不明者や許可無く居住地から移動した者を追跡する一方、住民も存在を示す意味合いをもって投票を行ってきたとします。

 また、病気などで投票できない人については、家まで選管と投票箱がやってくるシステム(移動投票)も存在します。

 同様のシステムを今回も行っているはずで、その上で投票率が低下したという点に着目している訳です。

 私はここまで読んで「敢えて減った分をなぜ北朝鮮当局が公開したのか?」という疑問が湧きますが、この説を受け入れるとする場合、減少した0.035%はいったい何人にあたるのでしょうかも考えてみました。

 北朝鮮の現時点での正確な人口は分かりません。韓国の統計庁や国連の最新の統計を見ると2500万強といったところです。この中で選挙権を持つ17歳以上の数は、0~14歳が人口の19.8%という韓国統計庁の統計にしたがい、16歳までを約23%と見積もる場合、77%となります。

 2500万で考える場合には1925万人。内0.035%というのは約6,730人になります。どうでしょうか、統制が弱まったと考えたいですが…。

投票場で歓迎される金正恩氏。朝鮮中央通信提供。


投票場で歓迎される金正恩氏。朝鮮中央通信提供。

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 二つ目は、これまでの選挙とは異なり、地域住民が参加する選挙者会議を通じ、最終候補者を決定するなど「人民参加の重視」があるという指摘です。これは冒頭で見た通りです。

 レポートによると、北朝鮮当局では今回の選挙を準備する過程で11月になってずっと金正恩氏が掲げるスローガンである「人民大衆第一主義」を強調してきました。 

 その上で最終候補者を決める過程で、地域住民が参加する選挙者会議が行われたというのですが、過去の選挙ではこうした住民参加を公式に確認することはできなかったそうです。初めての試みはあったということです。

 「推戴と祝賀」という北朝鮮における選挙の特徴上、結果として複数の代議員候補者が登録(立候補)することはなかったとはいえ、これは「北朝鮮当局が民心を探ろうとする意志の表れ」とレポートでは評価しています。

 背景には大々的な労働力の動員と統制による住民達の不満が存在し、これに対する対処の意味合いを持つとしています。

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 三つ目は、新たな代議員の選出を通じ地方幹部たちの責任感を高めようとする動きがあったとします。

 選挙を通じ、金正恩氏はイルクン(党の活動家、幹部)に「非常な事業能力と情熱、身を捧げる力を発揮することを要求する」と述べています。

 レポートではこの背景に「過去10年にわたる金正恩政権による平壌中心の政策のために、中央と地方の間の格差が大きくなったことがある」としています。

 さらに「政府が最先端の戦略武器の開発と国防力の強化に全力で集中する状況で、地方は困窮に耐え犠牲となりながら中央を支援しつつ、地方の多様な問題を解決しなければならない」と地方に課せられたひどい(!)状況に触れています。

 その上で、今回の選挙は、こんな任務を遂行できる地域単位の幹部を選ぶ事業だったとレポートはまとめています。

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 ここまではいわば、北朝鮮の発表を元にした外側からの分析です。

 しかし大切なのは実際に北朝鮮で今回の選挙がどう変わり、それを住民がどう受け止めたかです。

 これについて興味深い内容を、北朝鮮内部報道を専門とする日本の『アジアプレス』が11月24日と29日の二度にわたって報じていました。

 詳しくは実際に読んでいただきたいのですが、少しだけ内容を引用します。

 同紙は24日の記事を通じ、北朝鮮の北部・両江道(リャンガンド)で11月4日に行われた「予備選挙」について伝えています。2人の候補者のうちどちらかに○を付ける方法を用い、秘密投票で行われたそうです。

 当時の住民の反応については「驚くものではなかった」と意外な内容を伝えていました。

 その背景には「昨年(2022年)から、単位(組織や機関)に問題が生じたり、責任者の仕事に不正あったりすると、すぐ別の人間に変えるようになったのだが、その際に投票を何度もしてきたからだ」という現地住民のコメントにあるように、幹部に対する扱いの変化があったとのことです。

 続く29日の記事では実際の投票の様子を伝えています。

 気になる「反対箱」についてですが、「(部屋に入ると)先に賛成箱があって間隔を空けて反対箱がある構造なので、とても反対に入れられるような雰囲気ではありませんでした」と住民によるリアルな証言がありました。

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 最後に、一連の「変化」について、韓国の統一部はどう見ているのでしょうか。統一部が韓国メディアを対象に行った非公開の会見の様子を各紙が伝えています。

 これによると変化の背景について統一部は「大衆がみずからの意志を十分に表明したかのように見せるため」と解釈しています。

 さらに「反対箱」については「こんな方式の公開投票が自由な民主国家から見るといかにおかしいものに映るのかという認識すら持てないまま、労働新聞に写真を掲示したこと自体が残念だ」と散々な評価でした。

 長々とみてきましたが、北朝鮮の選挙に起きた小さな変化を取るに足らないものと受け止めるのか、それとも小さいながらも重要な変化と見るべきか、答えをすぐに出すのは難しいでしょう。

 改定された選挙法によると、今回の方式は今後、北朝鮮の国会議員選挙にあたる最高人民会議の代議員選挙にも適用されるとのことです。同選挙は来年3月に行われます。

 今後も注目すべきポイントであるのは間違いありません。

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◎ショートニュース

(1)北朝鮮がバングラデシュとコンゴ民主共和国の大使館を撤収

 ニュースレター12号で言及したように、北朝鮮は「国家の外交的な力量を効率的に再配置」するため、各国の大使館を閉鎖しています。

 そんな中、新たにバングラデシュとコンゴ民主共和国(旧ザイール)の大使館が閉鎖されたことが分かりました。

 『聯合ニュース』によると、これにより先月以降閉鎖された北朝鮮の在外公館は、ウガンダ、アンゴラ、スペイン、ネパールの各大使館と香港総領事館を合わせ7か所に及ぶとのことです。

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(2)[コラム紹介] 北朝鮮人権問題をどう位置づけるか

 今号の中で、尹政権が北朝鮮人権問題を行き止まりの問題、つまりその解決こそが全てといった形でアプローチしている姿を紹介しました。

 しかし『統一研究院』の徐輔赫(ソ・ボヒョク)研究委員は『ハンギョレ』に寄稿したコラム「平和・人権・発展を調和させた対北朝鮮政策を樹立すべき」の中で別の視点を示しています。

 徐研究委員は人権の改善が平和と経済発展にどうつながるかについての、統一研究院による研究結果を元にポーランド、ベトナム、コロンビアなどの例を挙げています。

 その上で朝鮮半島は「どれか(の事例)を取捨選択するよりも朝鮮半島の現実と未来志向的な価値に適した事例を峻別し、その示唆点を導き出すアプローチの方が望ましい」としながら、▲朝鮮半島の未来を統合的かつ長期的な観点から設計しつつ、段階的にアプローチする総合計画を樹立すること、▲人権に基づいた統一朝鮮半島というビジョンのもと、多様な対北朝鮮政策を調和させ、国内外の支持を拡大すること、▲三つ目に、批判と支援・協力などバランス良く柔軟なアプローチを通じて政策の効果を極大化させることの三つを示唆点を強調しました。

 具体的な案としては北朝鮮人権法を人権・平和・発展の好循環という目的に沿って改正するというものです。

 その意は「北朝鮮の人権改善と朝鮮半島の平和定着、そして南北関係の発展を相互に調和させて推進し、その結果が北朝鮮住民の尊厳ある暮らしに寄与するよう努める」という点にあります。

 いかがでしょうか。理想的ではありますが、同じ人権を議題にするにも別のアプローチがあることが分かります。

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◎あとがきに代えて

 ニュースレターを書いているさなかの2日午前3時20分に、「韓国初の偵察衛星を搭載した宇宙発射体『ファルコン9』発射」という『聯合ニュース』の速報が飛び込んできました。韓国軍独自の偵察衛星がついに打ち上げられ、朝鮮半島は南北二つの国が衛星発射競争を行う時代となりました。

 それにしても週に一度南北関係についてまとめることで、見えてくるものがありますね。

 尹政権は北朝鮮政策の幅がどんどん狭くなる一方、北朝鮮は逆に余裕すら感じられます。制裁を続ければ白旗を振って対話に出てくるという図式が完全に崩れた今、韓国ができることは多くありません。

 しかし焦りは禁物。今は偶発的な軍事衝突が起こらないよう管理することが何よりも大切です。

 ニュースレターもついに20号です。100号くらいまで続けていけば何かが変わると思います。今号は以上です。それではまた次号でお目にかかります。(徐台教)

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