(12月14日)サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第23号をお届けいたします。発行が大幅に遅れてしまいました。お詫びいたします。
韓国では総選挙まで120日を切り、選挙ムードに全てが飲み込まれそうです。ですが実際には今な多くの社会問題が起きています。その一端を共有し、何かの役に立てていただければと思います。
今号の目次は以下の通りです。
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韓国社会(1):今年の四字熟語は「見利忘義」、5位までを解説
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韓国社会(2):発電所での死亡事故から5年、最高裁での無罪判決と母の「決意」
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韓国政治(1):総選挙まで4か月、活発化する政局
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韓国政治(2):薄れゆく尹大統領への政治的な期待感
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ショートニュース:(1)YouTubeプレミアムが1.5倍に値上げで「税金払え」の声、(2)定員増を前に医師協会が反発、総ストライキの構えも、(3)韓国軍「初級幹部の月給を中堅企業の水準に」、(4)大ヒット映画『ソウルの春』は左翼映画?、 (5)「開店休業」国家人権委員会に集まる批判、(6)韓国の大学で短期留学生20数人を騙して「強制送還」
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あとがきに代えて:韓国社会の伝え方
◎韓国社会(1):今年の四字熟語は「見利忘義」、5位までを解説
日本に「今年の流行語」や「今年の漢字一文字」があるように、韓国には「今年の四字熟語」があります。『教授新聞』が選ぶもので、2001年から続く年末の恒例行事となっています。
「見利忘義」の揮毫。『教授新聞』より引用。
今年の1位は「見利忘義」。1315票中396票を集めました。はじめて聞く言葉ですが「利を見るに義を思う」という『論語』の「憲問篇」にある「見利思義」に由来するそうです。意味は「利を見るに義を忘れる」という、なんとも情けないものです。
『教授新聞』では「国全体がみずからの利益だけを追いかける『修羅場』のような一年だった」と振り返っています。
また、この結果を紹介する韓国メディアの記事では「見利忘義」を選んだ理由が教授たちの口からいくつか語られています。
例を挙げると「高位の公職者が個人投資の利益のために職務を忘却している」、「韓国の政治家は正しく導くよりも自身が属した側の利益をより考える」といった具合です。政治のあり方を強く批判する四字熟語と言ってよいでしょう。
ちなみに昨年の四字熟語は「過而不改」でした。
「過ちを犯しても直さない」という意味で、やはり社会の指導層を批判する脈絡で選ばれていました。なんら進歩のない一年だった、とするのは言い過ぎでしょうか。
2位には335票を集めた『賊反荷杖』が選ばれました。これは過去に文在寅政権と安倍政権の間で日韓関係がこじれた際に、文大統領が日本政府を批判する脈絡で使い、一部日本メディアが「盗っ人猛々しい」と訳したことで波紋を呼びました。
実際の韓国語でのニュアンスは「居直り」といった程度のものです。尹錫悦大統領が何か問題がある場合すぐに前政権のせいにしたり、梨泰院での雑踏事故などの大惨事があった際にも自分で責任を取らない様子を想起し選ばれたとしています。
3位は「濫竽充数」、やはりはじめて見る四字熟語でしたが、能力よりも人脈やおべんちゃらで地位を得ている様を表すそうです。「政府が無能で、権力欲がある者たちで内閣を構成した結果、業績はなく強欲の結果が果てしなく広がっている」とまたまた手厳しいものでした。
4位は「塗炭之苦」で庶民の苦しい現状を表し、5位は「諸説紛々」とあれこれ構わず引用して報道する、節操のない言論メディアの弊害を批判するものでした。強く共感します。
◎韓国社会(2):発電所での死亡事故から5年、最高裁での無罪判決と母の「決意」
韓国社会には少子化をはじめ様々な問題がありますが、真の問題とは「問題であると認識されているものの、一向に改善される気配のない問題」ではないでしょうか。韓国で多発する労働災害死亡事故がこれに当たります。
韓国の産業災害死亡率はOECD(経済協力開発機構)諸国のうち、トルコやメキシコと並び世界最悪の水準です。具体的には22年の年間を通じ、事故で874人、疾病で1349人、合計2233人が亡くなっています。17年1952人、18年2142人と比べ減るどころか増え続けています。
背景には「危険の外注化」があります。大企業や公共企業が事故の危険が高い建設や工場施設管理といった仕事を下請けに丸投げするということです。労働者はそこで安全規則が守られないまま仕事に臨み、事故に遭うのです。
事故の責任を誰が負うのか。この議論に火を付けたのが18年12月11日に忠清南道(チュンチョンナムド)泰安(テアン)郡にあるテアン火力発電所で起きたキム・ヨンギュンさんの死亡事故でした。石炭運送用のベルトコンベアに挟まれ命を落とした24歳のキムさんの遺体は、見回り作業の途中の出来事で発見されるまでの約4時間のあいだ放置されたままでした。
2018年12月に亡くなったキム・ヨンギュンさん。「文在寅大統領、非正規雇用労働者と会って下さい」と書かれたプラカードを持っている。亡くなる2週間程前に撮影されたもの。公共運輸労組提供。
この発電所は韓国西部発電という公共機関が管理する国の施設であるにもかかわらず、守られるべき安全規則が無視されていました。キムさんは本来ならば二人一組でやるべき作業を一人で任され、夜6時から翌朝7時半まで休憩時間もありませんでした。事故が起きたのは午前3時20分過ぎでした。
本来ならば同僚が緊急停止スイッチを作動させ防げたはずのキムさんの死。その後明らかになったところによると、テアン火力発電所では2010年から8年間、12人の労働者が墜落など様々な事故で亡くなっていました。
労働者を人とも思わない凄惨な事故を前に、キムさんの母キム・ミスクさんが立ち上がりました。二度と息子のような事故が起きないようにと、労働災害における下請けと共に事業主企業の罰金や懲罰的損害賠償、そして刑事責任を問う『重大災害(企業)処罰法』の成立に尽力しました。
企業票を失うことを恐れた巨大両党の消極的な態度に対し、20年には国会前で29日間のハンストを敢行し命がけで訴えるなどし、ようやく22年1月に法律が施行されました。
しかし産業界は「連座制であり、過酷な懲罰である」(経済団体)とこれに強く反発していました。この結果、同法の適用対象から多数の死者を出している50人以下の企業が除外されることになりました。なお、22年に50人以下の企業で死者の80%が発生しています。
そして7日、韓国の大法院(最高裁)でキム・ヨンギュンさんの死亡事故に対し、事業主の韓国西部発電ならびに事故当時の同社代表に無罪判決が確定しました。『重大災害処罰法』を遡及して適用することができないというものでした。
裁判では13人が訴えられていましたが、下請け会社の社長と現場の所長にはいずれも執行猶予付きの判決が下りました。
進歩紙『ハンギョレ』によると判決後に「なぜ法廷が弱者を助けてくれないのか」と一度は崩れ落ちたキム・ミスクさんでしたが、周囲の助けを借りて立ち上がる際に「このまま負けてなるものか、ここで負けても別のところで勝つだろう」とつぶやいたそうです。同じ子を持つ親として、涙なしにはニュースを見ることができませんでした。
キム・ミスク氏は「どれほど大切に育ててきたのか分からない息子が、安全教育も受けられないまま就職してわずか3か月で死んでしまった。政治家も立場を変えて考えてみればよい」と語った。20年12月13日、ハンスト中に筆者撮影。
同紙によるとキム・ミスクさんはさらに「今は大法院の不当な判決により負けたように見えるかもしれないが、これからの歴史は(韓国西部発電の)キム社長に問題があると判断すると信じる。国民の皆さんにも申し訳ありません。力がないというのは、こんなにも悲惨なことなのです。これからは別の道で人を救えるように努力します」と述べました。
一方、『重大災害処罰法』の対象を50人以下の企業に拡大する時限が24年1月27日に迫る中、大統領室は猶予期間をさらに2年延長し、その間に政府の支援の下で安全対策を整備するという姿勢を明かしています。
これからもたくさんの労働者が現場で亡くなり続けることは火を見るより明らかです。ここに韓国政治の怠慢、そして韓国政治の主流がリベラルではないことが如実に表れています。金に狂った社会と言えます。
10日、キム・ヨンギュンさんの墓前で5周忌を追悼する小さな集会が開かれました。
『MBC』によると母キム・ミスクさんはこの場で「お前を守れなかった親として、良い結果を持って謝りたかったが、本当に申し訳ない。私たちのように誰かがやられないよう、死を防ぐ仕事を必ずやり遂げる」と語ったとのことです。
◎韓国政治(1):総選挙まで4か月、活発化する政局
来年4月10日投開票の総選挙を120日後に控えた12日、予備候補の登録が始まりました。これは小選挙区に立候補する人物が選挙監理委員会に申告するもので、登録後には選挙事務所の設立、たすき(本人と配偶者)の制作、名刺の配布が可能になります。なお、登録費用は300万ウォンです。
私の周囲でも数人が予備候補登録を終えたようです。そんな人たちはSNSのプロフィールを「誰なの?」と言わんばかりのキラキラの選挙用写真に変えていますが、同世代の人物の中には「韓国の40代が力を発揮する時」と述べる人物もおり、私もそうだよな、と力が入ります。
今こうしてニュースレターを書いているのは13日の夜23時です。遅れている!というのはさておき(おくな!)、今日一日だけで韓国の政界にはすさまじい動きがありました。まさに選挙選挙選挙、です。
ざっと動きを見ていきましょう。
まず与党・国民の力ですが、13日午後になって金起炫(キム・ギヒョン、64)代表が辞任しました。「党が直面しているすべての状況に対する責任は代表である自身のせい。これ以上、私の去就問題で党が分裂してはいけない」という理由です。
辞任は今月7日に活動を終えた同党革新委員会による「革新のためには指導部の刷新や尹大統領に近いベテラン議員の勇退が必要」という革新案を、金代表が無視している中で行われました。
辞任した与党の金起炫代表。尹大統領の影響をモロに受ける人物として知られていました。同氏Facebookより。
前日に党代表選で金代表とタッグを組んだ、やはり‘革新対象’の張済元(チャン・ジェウォン、56)議員が不出馬を表明したことから、金代表の去就に注目が集まっていました。
さらに「今のままではソウルの49議席中6議席しか取れない」という党内部の分析結果が広まったことも関係していると、韓国メディアは見立てています。「もう無理だろ!」という声に押し切られた形です。決断は尹大統領が下したものと見られます。
与党は今後、非常対策委員会体制に移行し、総選挙を闘うことになると見られています。候補としては、保守・進歩陣営をまたぐ政治経験を持つ、尹大統領の政治アドバイザーとされる金ハンギル(71)氏の名前が上がっています。
次に最大野党・共に民主党を見てみましょう。李在明(イ・ジェミョン、58)代表が強い影響力を保持していますが、党内のひび割れが次第に大きくなっています。
何よりも党の重鎮で、金大中・盧武鉉・文在寅に連なる正統派の民主党人士とも言うべき李洛淵(イ・ナギョン、70)元国務総理・元同党代表による「もはや手遅れ」という党への死亡宣言がありました。
同氏は連日韓国メディアに出演し、李在明体制下で硬直した共に民主党への批判を重ねています。そして13日、出演したニュース番組の中でついに「新年に党を作る」と宣言しました。
同氏は新党について「私が関心があるのは(所属する)共に民主党をどうにかしようということではない」、「両党(国民の力と共に民主党)とも嫌いだという方々に代案を提示すること」と事あるごとに述べています。「第一党を目指す」とも主張しました。
今後は、後述する琴泰燮(クム・テソプ、56)元議員が代表を務める『新しい選択』や、商業高校卒業からサムスン電子の技術職の常務にまで登り詰めた現代韓国の立志伝中の人物・梁香子(ヤン・ヒャンジャ、56)無所属議員が代表を務める『韓国の希望』と連携するとみられています。しかし自らの勢力を持たない李洛淵氏がどこまで影響力を発揮できるかは未知数です。
『韓国の希望』の梁香子代表。お会いしたことはないのですが、ラジオなどで主張に触れる限り関心が湧く政治家です。
一方、李洛淵氏の新党結成に対し、共に民主党内では批判の声がかなりあります。特に、大統領選を1年後に控えた21年4月、ソウル市長、釜山市長ダブル補選に党規を強引に変えてまで候補を立て、惨敗したことがやり玉に挙がっています。
共に民主党に所属していた両市長がいずれもセクシャルハラスメントにより失職したため(朴元淳パク・ウォンスンソウル市長は自殺)、本来ならば同党は補選に候補を立ててはいけないのですが、これを強行したことで党の正当性を失ったという指摘です。こんな「党内でやることがあるだろう」という声には一定の説得力があります。
なお同党の李在明代表は、総選挙での推薦権をめぐり自身の影響力を強めるような形に党憲(党の憲法)を改定する一方、選挙制度でも多様性が保障される現状の「連動型」から巨大政党に有利な「並立型」へと回帰する姿勢を維持しています。こうした動きに反対する議員は一定数存在し、当分は党内の混乱が続くものと見られます。
最後に、いわゆる第三勢力と呼ばれる巨大両党に属さない政治勢力の動きが活発化しています。
まず新党『新しい選択』が11日に党の設立を完了しました。
代表は琴泰燮(クム・テソプ、56歳)元議員です。ソウル大法学部卒業後に司法試験に合格、検事と弁護士を務めたリベラルに分類される人物です。共に民主党議員を一期(16年~20年)務めたものの党の路線と合わず党を抜け、その後保守陣営に移るなど政治の可能性と革新を探り続けてきました。
さらに党設立に先立つ8日には、リベラル政党・正義党で前回選挙比例1位だった現役の柳好貞(リュ・ホジョン、31歳)議員をはじめとする正義党内の一部革新グループが合流し、形が整いました。
新党『新しい選択』を宣伝する琴泰燮代表。口座番号がありますが、特に同党を宣伝するものではありません。適切なイメージを探せなかったため、やむをえず同党のバナーを引っ張ってきた次第です。
琴代表と柳議員はこの際に党の目玉政策として「兵役から家事まで」のジェンダー平等を目指していくと発表しました。
韓国の男性に課せられている徴兵の義務を女性にまで広げる一方、男性に育児休暇を全面的に取り入れるというものでノルウェーを参考にしたものだそうです。「ジェンダー平等をより明らかに、全面的に成し遂げてこそ低出産の問題も解決する」としています。
ニュースレター21号でも紹介したように、韓国の合計特殊出生率は2022年は「0.78」、23年第三四半期には「0.7」と世界ワーストの数値を更新し続けています。
こんな非常事態とも言うべき状況について同党の琴代表は「最近の学界の議論を見るに、中途半端なジェンダー平等が超低出産の原因」という指摘が多いと述べています。
今はまだ宣言に近いものですが、今後政策として具体化される場合に韓国社会の注目を呼ぶ可能性があります。
もっとも、このような方策は選挙の度に登場しては破棄される実現可能性のない「季節物」だという批判も存在します。さらに、ノルウェーは社会的なジェンダー平等の上に男女が兵役の義務を果たしており、韓国とは順序が逆であるとの指摘もあります。
しかし低出生率が来年の総選挙の争点の一つになる他になく、その起爆剤となる可能性はあります。
琴代表は13日のラジオ出演で「30議席(10%)獲得」を目標に掲げ、「これが実現する場合に韓国政治は対話と妥協が必要となり、大きく変わる」とビジョンを示しました。
新党『新しい選択』は17日に共同結党大会を開く予定です。
この他にも、台風の目として李俊錫(イ・ジュンソク、38)前与党代表の存在感も依然として大きなものがあります。
韓国のラジオの政治番組を私はしょっちゅう聴くのですが、「李俊錫氏が新党を作り、与党の外側で保守票を掘り起こした後で、来年4月の総選挙の前に与党と電撃的に合併し、その効果を最大限に生かす」というドラマのような(?)シナリオを語る現役議員もおり、政局の話題には事欠かないといったかたちです。
◎韓国政治(2):薄れゆく尹大統領の政治的な期待感
選挙に向けた動きが活発になる傍らで、尹錫悦大統領は精彩を欠いています。支持率は各社共に30%中盤で横ばいが続いていますが、11月のEXPO誘致失敗以降、明らかに存在感が薄れたというか、世間からの期待を失った感があります。
まず、21号のニュースレターでも少し触れましたが、EXPO誘致失敗後にはじめて釜山市を訪れた際に、失態がありました。
この日、尹大統領は大規模な懇談イベントを開催し釜山市の人々を労うと共に、政府による同市への継続的な経済支援を約束した後、地元の『国際市場』を訪ねました。そうです、韓国現代史を描いた映画『国際市場で逢いましょう』の舞台となったあの市場です。
そこでトッポッキという甘辛くお餅を煮た韓国人のソウルフードをはじめ、ピンデトッ(韓国風お好み焼き)などを食べたのですが、周囲には韓国のサムスン、LGのオーナー会長、SK、ハンファ(韓国火薬)の副会長といった韓国財界の人士がずらりと並ぶ異様な光景でした。
国際市場でトッポッキを食べる尹大統領と財閥企業の幹部たち。左から二人目がサムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)会長。大統領室提供。
尹大統領は評判通りの健啖家ぶりを発揮するかたわら、周囲の財界人士にも食べ物を分けるなど存分に楽しむ様子でしたが、これを韓国各紙が冷ややかに報じたのです。
日ごろから尹大統領に批判的な進歩紙『ハンギョレ』は社説「ともすれば企業の総帥を取り巻きにするのが‘市場経済’なのか」の中で、これを「前例のないこと」と厳しく断じました。
理由は、この日の懇談イベントに釜山市に関連する与党議員も参加したからで、企業のオーナーたちが釜山市への投資を約束することは、結果として与党の公約にお墨付きを与えることになるというものです。
さらにこれまで尹大統領が、海外日程の際にも必ず財閥企業のオーナー級の人士を同行させてきたとし、これは企業にとって迷惑ではないかとも指摘しました。「韓国の現代史では政治と大企業の度を過ぎた癒着は、常に不正腐敗につながってきた」という鋭い批判もありました。
そして保守紙『朝鮮日報』もやはり社説で取り上げました。この日、市場での「買い食い」に同行した企業の総売上は1000兆ウォン(約110兆円)を超え、いずれもグローバル市場で熾烈に競争する企業であるとしながら、「大統領に呼ばれたらいの一番に駆けつけなければならないのが韓国の実情だ」とため息(?)をつきました。
さらに前出の『ハンギョレ』と同様に、経済イベントだけでなく今や政治イベントにも財閥総帥が動員されていると批判しました。
このように、韓国の代表的な保守・進歩紙が歩調を合わせ批判する点から、いかに今回の尹大統領の行動が非常識だったのかが分かります。
そうでなくとも、財閥企業の絶大な存在感(昨年、上位4大財閥が韓国企業全体の売上の約55%を占めた)が示すような、民主政治と財閥独占経済が共存する社会の形はどう考えてもいびつです。
歴代の大統領は全てこれを正すのではなく自身の政治に積極的に活用してきました。さらに財閥企業も大統領との関係を経済的にプラスに変えていく構造が存在します。こんな姿は昔も今も代わりません。
こんな尹大統領への批判ですが進歩紙はもとより、保守紙『朝鮮日報』のそれも最近になって鋭さを増し続けています。同紙のこの傾向は過去のニュースレターでも取り上げたことがありますが、今や完全に尹大統領を「調教」するかのような論調です。
圧巻だったのが11日付けのキム・ヨンス嶺南(ヨンナム)大教授のコラムでした。
10月の江西区長補欠選挙での与党惨敗と、11月のEXPO誘致失敗はいずれも「大統領の失敗」であり、その背景には「現場の声が大統領に届いていない」状況があるとしたのです。さらにイエスマンに囲まれ、聞くよりも話すことを好む尹大統領をズバリと批判しました。特に「59分」という不名誉なあだ名が登場したのにはニヤリとしました。
「59分」というのは、長官や大統領府の参謀が大統領に直接面談し報告や政策判断を仰ぐ際に、1時間の中で「59分」を尹氏が話す様を指すものです。
面談の主題に少ししか関連のない自身の検察時代の話を延々とするなどの噂を私も元高官から耳にしたことがあります。さらに大統領就任直後は「55分」だったものが、今や「59分」に悪化しました。その上、尹大統領は自身の気に入らない報告には怒りを露わにするとも言われています。
こうしたエピソードが笑い話で済まないのは、結局のところ尹大統領は長官や参謀の話を聞かないまま判断を下すことになるからです。そして失敗した、ということです。
コラムに戻ります。キム教授は新任の放送通信委員長候補に検察出身の人物(やはり21号参照)を選んだことや、オランダへの海外訪問(11日~15日)を取り上げ批判を続けます。
12日(現地時間)、ノルウェーでウィレムアレクサンダー国王夫妻との晩餐会に臨む尹錫悦大統領夫妻。大統領室提供。
特に尹大統領の海外訪問については「多過ぎではないか」という指摘が野党議員や新聞紙上で盛んに行われています。
報道専門チャンネル『YTN』によると、就任後20か月の間に尹大統領は16回の海外日程がありましたが、これは同じ期間の文大統領の15回と比べ多くありません。しかし「また海外か」という認識があるのは確かです。低い支持率が影響していると考えられます。
さらに海外訪問のための年間予算249億ウォン(約26億円)は早々に使い切り、今は追加で編成した予備費329億ウォン(約36億円)を使っていることもやり玉に上がっています。
コラムは「選挙で負けたら尹大統領の政治声明もなくなり、大韓民国の未来もなくなる」と大統領にエールを送る(?)内容で終わります。
◎ショートニュース
(1)YouTubeプレミアムが1.5倍に値上げで「税金払え」の声
Googleコリアが韓国で広告無しでYouTubeを視聴できる「プレミアムプラン」の価格を従来の9900ウォン(約1100円)から14900ウォン(約1650円)に値上げすることを発表しました。
私もこのサービスを利用しているのですが、12月8日にメールを受け取るや否や「ひえっ」と思わず声が出るほど大きな値上げでした。
これに対し『朝鮮日報』は11日付けの社説でGoogleは今年には入り同サービスを米国(13.99ドル=約2000円)、英国(12.99ポンド=約2300円)で共に値上げしたが、所得水準を考える場合に韓国での値上げ幅が大きいと批判しました。
さらに「YouTubeやNetflixなどグローバルな購読サービスは韓国のインターネット網をタダで使い莫大な利益を上げながらも税金はほとんど出していない」とたたみかけました。
Googleコリアの場合は「昨年は10兆ウォン台(約1兆1000億円~)の売上があったと推定されるが、韓国で納めた税金は169億ウォン(約18億円)」、Netflixはやはり7733億ウォン(約830億円)の売上があったにもかかわらず納税額は33億ウォン(約3億6000万円)だったそうです。
同紙は欧州やカナダなどの例を挙げ、このような「横暴」にブレーキをかける法と制度が必要だと訴えました。
(2)定員増を前に医師協会が反発、総ストライキの構えも
9号と17号で紹介した、06年から年間3058人のまま据え置かれている大学の医学部定員の拡大問題。実現すれば尹政権最大のレガシーになるとも言われていますが、医師の組合である大韓医師協会は強く反発しています。
『SBS』によると11日、同協会は14万余人の全会員に対し、総ストライキへの賛成意志を問うアンケートを始めました。期限は17日ですが、賛成意見が多いからとすぐにストライキに突入する訳ではないとのことです。今は政府との対話を優先する構えです。
また、同協会はアンケートとは別に、17日にソウル都心で「総決起集会」を予定しているそうです。
他方、尹政権はこれまで他業種の労組などに対してきたのと同様に「違法な集団行動に対しては法と原則により厳格に対応する」と明かしています。
(3)韓国軍「初級幹部の月給を中堅企業の水準に」
BTSの全員が入隊するなど、日本でもにわかに(?)韓国の兵役義務制度に対する関心が高まっているようですが、韓国軍初級幹部の給料を上げると発表しました。
10日、『SBS』テレビなど韓国メディアが報じたところによると、韓国政府は27年までに少尉や下士の給料を15~30%引き上げる計画とのことです。
引き揚げ率は前線で警戒任務にあたる者と、一般部隊で勤務する者の間で異なります。
警戒任務部隊の場合、少尉の年俸は現状の3900万ウォン(約430万円)から5000万ウォン(約550万円)に、下士は同3800万(約420万円)ウォンから4900万ウォン(約540万円)へと30%上昇します。
一般部隊では少尉が3400万(約370万円)ウォンから3900万ウォン(約430万円)と15%上昇します。
賃上げの背景には「自負心を持って軍に勤務し、社会的に尊重される文化を作る」(国防部長官)の意向が作用してるとされますが、低賃金でなり手が減っているの実情があります。
記事では「初級幹部の給料の値上げは中級幹部以上の給料値上げを圧迫する影響がある」とも見立てています。
(4)大ヒット映画『ソウルの春』は左翼映画?
韓国で「12.12事態」と呼ばれる、79年12月12日に全斗煥(チョン・ドゥファン)保安司令官が起こした軍事クーデター(正確には軍事反乱)をリアルに再現した映画『ソウルの春』。11月22日の公開以降、22日連続で観客動員数1位を記録し続け、750万人を突破しました。「このまま1000万人の大台を目指す」と出演陣は露出を増やしています。なお、韓国の人口は約5200万ですので、1000万という数の多さが分かると思います。日本でいうと、約2500万人が同じ映画を観るということになります。
次々に新作バナーが発表される楽しさもあります。また、チョン・ウソンをはじめとする出演俳優が100回以上も舞台挨拶を行っていることも話題です。チョン氏はこれについて「劇場に来てくれてとてもありがたいから」という旨の発言をしています。
一方で、笑えない状況も起きています。映画が話題になるにつれ団体で鑑賞する学校が増えているそうですが、保守団体が『ソウルの春』を「左派に偏向した歴史歪曲映画」と規定し、学校に抗議する事態となっているそうです。
中道紙『韓国日報』によると、著名極右YouTubeチャンネル『カロセロ研究所』と極右組織・自由大韓護国団は13日、ソウル市内のA中学校の前で集会を開いたとのことです。10人あまりの参加者は「歴史歪曲映画に学生の動員を中断せよ」などと声を上げたそうです。
同紙によると、これらの団体は団体鑑賞した学校のリストをネット上で公開し、支持者の電話抗議や教育庁への申告などの攻撃を煽っているそうです。
一方で、記事では生徒達が集会の参加者に向かって「うるさい」「歴史の歪曲をしないでください」とやり返しているそうです。痛快ですね。
なお、映画は権力を奪いに行く全斗煥と、それに立ち向かう軍人の衝突を中心に展開していきます。このため、「反乱から国を守ることこそ、保守ではないか」という指摘も多いのですが、まさにその通りでしょう。
事実、12月12日に慶尚南道(キョンサンナムド)金海(キメ)市で行われた、当時全斗煥の反乱軍に抵抗し命を落とした金五郎(キム・オラン)中佐の追悼式には、著名保守政治家である劉承旼(ユ・スンミン)氏が参席しました。
12日、追悼式で発言する劉承旼氏。同氏Facebookより引用。
(5)「開店休業」国家人権委員会に集まる批判
日本と韓国の大きな違いについて、国家人権委員会の有無を挙げる場合が多々あります。金大中政権下の2001年11月に発足した同委員会は、独立国家機関としてこれまで韓国内の人権実現に寄与してきました。人権侵害の被害を受けた人物が陳情すると、これを調査した上で勧告案を出すという業務の形になります。
しかし尹錫悦政権になって、人権の擁護と推進という役割を果たせていないと、進歩紙『京郷新聞』が10日付けの社説と特集記事で指摘しました。同日は世界人権宣言記念日でした。
社説によると、8日、韓国の人権団体は記者会見を開き、同委員会の運営がメチャクチャでこれにより「失望した人権侵害の被害者が人権委員会に陳情することを諦める状況まで起きている」というのです。
特に二人の人権委員がひどいと記事では伝えています。彼らは所属する委員会で一人でも反対する場合に陳情を棄却できることを利用し会の進行を妨げる一方、性的マイノリティを嫌悪する表現を人権委の決定案の草案に入れるなど、その人権意識が問題視されているそうです。
同紙はこの状況について「国民の人権増進には目をつぶり、任命した大統領と与党の立場だけを擁護している」と批判していまし。
保守政権時に国家人権委員会が力を失うのは昨日今日の話ではないですが、なぜこんな事が繰り返されるのか、果てしない徒労感があります。
(6)韓国の大学で短期留学生20数人を騙して「強制送還」
韓国で歴史あるリベラルな大学として知られる韓神(ハンシン)大学で、外国人留学生を強制的に帰国させる事件が起き、大きな騒ぎとなっています。
11日、単独で第一報を報じた『ハンギョレ』によると、事件が起きたのは先月27日のこと。京畿道(キョンギド)烏山(オサン)市にある同校キャンパスの語学堂(韓国語学校)で学んでいたウズベキスタンからの留学生23人は「外国人登録証を受け取りに行く」とう名目でバスに乗せられ、仁川国際空港から飛行機で帰国させられたといいます。
当時、バスには警備会社の職員が乗り込み、学生たちの携帯電話を押収したとされ、強制力を伴う帰国であったことが分かっています。寮に荷物も置いたままでした。ビザ満了期間は12月20日前後だったそうです。
大学側はこんな措置を取った理由について、1000万ウォン(約110万円)以上を常に維持しなければならないが残高証明を確認したところ、大多数がこれに満たなかったためと説明しています。
『ハンギョレ』には「留学生が離脱し不法滞在者になる場合、今後留学生を募集する過程で不利益をこうむる点を憂慮した」と明かしています。
大学側はさらに、語学堂の授業料は「本人の同意の下で出国した」という書類にサインする場合にだけ返金するとしています。
一連の大学側の主張に対し、ネット上では「学生達を予備犯罪者扱いしている」と批判が相次いでいます。
学生達を帰国させる過程で違法な行為がなかったのか、地元の警察が捜査に乗り出しています。
◎あとがきに代えて
火曜日に妻の祖母が亡くなり、葬儀のため地方に滞在せざるを得なかった関係で発行が大幅に遅れました。
今号から始めるはずだった、全10部作の低出生率ドキュメンタリーのレポートは次号から始めます。
私のメインの取材テーマである南北関係と朝鮮半島情勢を扱う金曜日号(明日ですね!)は内容に悩むことはないのですが、今号のような韓国社会・韓国政治を扱う号は、どんな主題を選ぶのかいつも悩みます。
もっと色々な韓国の社会問題を日本と共有し、さらにそれを日本社会の問題と重ね合わせることで、新たな解決策や解決に向けた力を得ていくような日韓社会の関係を目指したいところですが、いつも力及ばずです。
いずれにせよ、どうやってより良いニュースレターを作っていくのかを模索しながらの形になります。とはいえ、お金をいただいているので試行錯誤ばかりする訳にもいきません。年末に向けてじっくりと考え、来年1月からはより良い形をお見せしようと思います。
それではまた次号で!ありがとうございます。(徐台教)