(12月17日としたい18日)サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第24号をお届けいたします。金曜日の発行予定が、日曜日の夜中となってしまいました。土曜日にあった市民講座を準備したり、取材に出かけたり、前号の遅れからずれ込んだりと、完全にペースを崩してしまい散々でした。お待たせしてしまい恐縮です。
今号の目次は以下の通りです。
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韓国から見た南北関係(1):韓国は今後5年間で防衛費約38兆円を支出…北朝鮮への対応に注力
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韓国から見た南北関係(2):統一部が韓国市民の総連や朝鮮学校との接触に介入
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韓国から見た南北関係(3):統一研究院『2024情勢展望』を読む(上)
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朝鮮半島情勢(1):トランプの発言が浮き彫りにした「金正恩への信頼」という視点
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朝鮮半島情勢(2):進化する韓国の「核のIQ」、北朝鮮のICBM発射はあるか
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朝鮮半島情勢(3):高まり続けるロシアと北朝鮮の結びつきへの警戒
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ショートニュース:(1)板門店に常駐する中立国監督委員会「判断ミスの危険が増加」、(2)韓国政府機関が北朝鮮の作況をまとめた報告書を発表
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あとがきに代えて:もはや北朝鮮政策は誰も問わない
◎韓国から見る南北関係(1):韓国は今後5年間で防衛費約38兆円を支出…北朝鮮への対応に注力
韓国国防部が12日、来年から5年間の軍事力の建設と運営計画である「24~28年国防中期計画(以下、5年計画)」を樹立したと明かしました。
ややこしいのですが、この「5年計画」は毎年作られています。つまり毎年、5年ごとの計画を立てるというもので、今年も(1)防衛力の改善、(2)戦力の運営、(3)部隊計画という三つの分野での計画が公開されました。
今年の5年計画で明かされた24年から28年までの防衛費は約349兆ウォン(約38兆円)。昨年樹立された「23~27国防中期計画」よりも17.3兆ウォン(約1兆8800億円)増加しています。なお、日本政府は23年から27年までの防衛費総額を43兆円としています。
「5年計画」の特徴は、▲北朝鮮の核・ミサイルに備えるための「3軸体制」および非対称型の脅威に備える戦力への投資、▲兵士および初級幹部の服務要件改善、▲常備戦力50万人の維持および戦略部隊の創設そして先端戦力運営に必要な人材の優先的な補強、の三つとなります。
この中で最も難しく、また韓国軍が最も力を入れている「3軸体制」について説明します。韓国の国防計画を説明する際に必ず出てくるものです。
これは朴槿恵政権時代(2013年2月~17年3月)に導入されたもので、北朝鮮の核や大量破壊兵器(WMD)脅威への対応策です。
具体的には、自衛権としての先制打撃を加える「キル・チェーン(Kill Chain)」、北朝鮮のミサイルを迎撃するための「韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)」、そして抑止のための「大量応酬報復体系(KMPR)」となっています。
要は、北朝鮮による攻撃の兆候がある際には「先制攻撃」を行い、それでも攻撃された時のために「迎撃態勢」を整え、そもそも攻撃されないように「抑止力としての戦力」を高めるというものです。
「5年計画」では北朝鮮への反撃(大量応酬報復体系)のための新兵器も列挙されています。同報道資料をキャプチャ。
特に力を入れるのが、南北朝鮮でちょっとしたブーム(?)となっている衛星を通じた偵察力の強化です。5年計画では「衛星の再訪問周期(同じ場所をいかに頻繁に撮影できるか)を画期的に短縮し監視の空白を最小化する」としています。
他にも迎撃ミサイルの開発・戦力化や、特殊部隊による北朝鮮の内部への浸透および打撃能力の強化などが挙げられています。
後者は有事の際にいわゆる「斬首作戦」、つまり金正恩氏など首脳部を無力化しするためのものとなります。
さらに北朝鮮のドローンやサイバー攻撃への対応策も具体的に挙げられています。北朝鮮の核・ミサイル開発と相まって、南北朝鮮が互いに軍備を増強する状況が浮き彫りになる内容と言えるでしょう。
◎韓国から見る南北関係(2):統一部が韓国市民の総連や朝鮮学校との接触に介入
既に日本でも一部で話題になっているようですが、韓国の保守政権の「ルーチン」とも呼ぶべき朝鮮総連系の在日コリアンに関連する圧力の存在が明らかになりました。
00年代以降の保守政権にはなかった形であるため、私の周囲でも「ちょっとひどい」という声が上がっています。
12日に『韓国日報』が伝えたところによると、韓国の統一部が先月から、過去に日本国内の朝鮮学校と接触した韓国の市民団体や映画監督に対し、経緯書の提出を求めたそうです。どんな風に出会ったのか、そしてなぜ統一部に事前に申告しなかったのかなどの経緯を提出せよと、数年前の活動まで遡っているとのことです。
???ではないでしょうか。背景には南北対立下にある韓国ならではの事情があります。
韓国の『南北交流協力法』によると北韓(北朝鮮)の住民と接触する場合には事前に統一部に申告し、承認される必要があるのです。日本の朝鮮総連の職員や朝鮮学校もここに含まれるため申告が要るということです。なお、予定にない接触の場合には事後の申告も可能です。
同紙の記事によると、朝鮮学校を支援する『朝鮮学校と共にする人々、モンダンヨンピル』は今年5月に京都市内の朝鮮学校を訪問したことで「警告」を受けたといいます。団体側は「急に知人に紹介された」と事情を統一部側に説明し、事後報告をしたにもかかわらず受け付けられなかったそうです。
さらに統一運動団体である『6.15共同宣言実践民族協同委員会』も日本で総連の関係者に接触をしたと事後申告をしたところ、過料を科されたと伝えました。
また、研究という学問上の理由から朝鮮学校コミュニティと接触しようとした韓国の大学院生にも接触を許可しないなど、統一部の動きを証言と共に列挙しました。
統一部の動きを伝える『韓国日報』12月12日付けの記事。同サイトをキャプチャ。
『韓国日報』の取材に対し、統一部は「秩序ある南北交流協力のための調査」と弁明しています。しかし、調査対象となっている人物たちは同紙に対し「南北交流を萎縮させるための言い訳に過ぎない」と反発しています。
前出の『南北交流協力法』によると、総連に所属していても韓国籍の場合には申告対象にならないそうです。記事内では「朝鮮学校の生徒の80%が韓国籍」だとし、統一部の過度の取締りに対し疑問を呈する日韓の関係者の声を伝えています。
統一部のこんな動きについては、同じ日に『ハンギョレ』や『ノーカットニュース』も伝えました。特に『ノーカットニュース』の記事では、日本軍‘慰安婦’問題に取り組む『正義記憶連帯』も統一部に接触申告を拒否されたと報じています。
同紙の取材に統一部は「北韓の相次ぐ挑発など厳重な南北関係の状況、わが人員の訪北を公開的に拒否することなどを考慮し、国民の安全と財産権の保護、離散家族の問題など必須的な事案を中心に接触を管理している」と事情を説明しています。
つまり、南北関係が悪いから総連とも会ってはならないという論理です。
他方、『ハンギョレ』の記事では専門家の「李明博政権や朴槿恵(パク・クネ)政権の時も、交流や協力を縮小させたり、(事件を)個別に取り締まりはしなかった。現政権は、政策と異なる活動を行う民間団体と個人を飼いならそうとしているようだ」という声を伝えています。
それでは尹政権はいったいなぜ、こんな事を行っているのでしょうか。それは、南北関係において北朝鮮に圧力をかけようとする際に「韓国ができること」がもはやほとんどないからです。
今や本来の南北交流という目的を外れ、北朝鮮を攻撃する最先鋒に立っている統一部がなんとかアイディアを絞り出した末に見付けたのが、韓国の市民活動に圧力をかけることだという図式です。
これが総連への間接的な攻撃につながるかは分かりません。朝鮮学校への財政的な支援を問題視するならば、そのような捉え方もできなくはないでしょう。
しかしそれはもはや「仕事のための仕事」に過ぎないのではないかと思います。どんな意味があるのかは、統一部の職員自身が分かっていると思います。
一方で憂慮されるのが、私のような韓国内に住む在日コリアンの立場です。
もし私に朝鮮学校に勤める知人がおり、たまにメッセージのやり取りなどを行っているとしましょう。もしその人物が朝鮮籍(付言するとこれは朝鮮民主主義人民共和国籍ではありません)ならば、私も即アウトになります。いいですか、あくまで「もし」の話ですよ。
今年8月の与党の集会で、「最も重要なのは理念だ」と力説する尹大統領。KBSニュースをキャプチャ。
こうした動きは全て、強い「反共」アピールを続ける尹大統領の一存、尹大統領への忖度から来ているのは明らかです。
そもそも尹大統領は、南北関係の停滞を「理念の対決」に置き換える大いなる勘違いをしています。
南北の理念は1948年に互いの政府が樹立して以降、一度たりとも同じだったことがありません。南北の対決を煽る時代を経た上で、80年代から南北は韓国側の体制競争での勝利を基に対話を繰り返してきたのです。
尹大統領がこれを知らないのか、それとも理解できないのか、敢えて無視しているのかは分かりませんが、今回の一件は70年代以前の強い「反共政治」を彷彿とさせるものです。尹政権の前時代性を露わにしたと言えるでしょう
『韓国日報』の続報によると、統一部も各紙の批判を受けて、少し躊躇するような態度を見せているようです。ともあれ、今後さらに総連との接触への圧力が強まるのか注意して見る必要があるでしょう。
◎韓国から見る南北関係(3):統一研究院『2024情勢展望』を読む(上)
ニュースレターで何度も取り上げている国策シンクタンク『統一研究院』が、来年24年の情勢展望を発表しました。もう年末ですね…。
報告書は80ページと長いもので、▲韓半島情勢、▲国際情勢、▲北韓情勢、▲南北関係という4つのパートに分かれています。
分量的に一度にすべて紹介するのは難しく3回に分けてお送りします。今回はまず「韓半島(朝鮮半島)情勢」の23年の評価と、24年の見通しについてとなります。
◎韓半島情勢の23年評価
北朝鮮核問題における膠着局面がより強固になり、問題解決のための環境がより悪化した。既存の南北間の「行き詰まり」と米朝間の「膠着」に加え、韓・米・日vs中・露・朝の「新冷戦的秩序」が加わり、同問題の構造的な硬直性が強まった
さらに、03年に6者協議が始まって以来、20年ぶりにロシアと日本が朝鮮半島に関与を始めた。
これにより北朝鮮核問題で解きほどくべき結び目が多くなり、非核化に必要な費用と時間が増える可能性がある。どちらかの勢力の圧倒的な勝利よりも、当分の間は熾烈な勢力の競合が予想され、対話の成立と対話を通じた妥協の可能性を期待できない構造となった。
また、23年は南北韓が互いに国際関係の影響に積極的に対応し、韓半島の情勢を主導しようとした一年だった。
韓国は米国とのワシントン宣言を牽引し、日本とも果敢な関係改善を通じ、日米韓3国安保協力を強めた。北韓は伝統的な中朝関係に加えロシアとの軍事協力を加え中露朝の連帯体制を構築している。
これは究極的には北韓が核開発という欲望を放棄せず、韓国が過去よりも積極的に情勢を主導しようとしたためだ。
今年8月、米キャンプ・デービッドで会見する日米韓首脳。韓国大統領室提供。
◎韓半島情勢の24年の展望
23年の韓半島情勢に影響を与えた行為者(国)、背景、構造といった要素がすべて継続して作動し続けるものと見られる。
そこに米国の大統領選と、中国が韓半島情勢への影響力を強めるかどうかが関係してくる(後述)。
統一研究院のレポートにある図を翻訳したもの。筆者作成。
上記の図で考える場合、24年の情勢は「A」の局面になる可能性が有力だ。北韓の「挑発」が続く限り韓米日の強力な対応は自然と不可避になるため。
「A」の矢印のどこからか始まり、そのまま進んでいくか、もしくは途中で三日月型に「B」の局面へと旋回する二つのうち一つになる。
しかし北韓は核の高度化のための安定的な環境を最大限確保する目的で、残る軍事的挑発の需要(兵器開発)を果敢に行う強い危機造成戦略をもって中国とロシアを3者連帯に縛り付けておこうとするため「B」になる可能性は低い。
「A」となる場合、対話局面に進む可能性も低い。20年前の6者協議で仲裁役に回った中国と、5年前に仲裁役を自任した韓国が反対勢力にそれぞれ属していて、これに変わる域内の行為者が構造的に不在なため。
結論として24年にも非核化対話の再開を展望するのは難しい。
さらに、24年には非核化対話の主体である米国と北韓が対話に大きな関心がない可能性が高い。
米国では北韓の核の脅威減少を目標とする軍備統制(arms control、国家間の合意により互いの脅威を減少させるもの)を議題とする米朝対話を説く声もあるが、バイデン政権はその必要性を認めていない。
米国は限りある外交資産を東欧と中東の安定、台湾問題の管理に集中させるとみられる。北韓の核問題は大統領選のためにならない。
一方の北韓も24年には対話再開が必要ないと判断し徹底して米国を無視することが有力。現在の情勢では北韓は対話の再開により得られる利益は不確実で少ないが、核能力を高める場合の期待の効用は永久的で確実と判断している。
◎政策提言
・情勢の「B」局面の旋回を政策の基本方向に設定
24年に「A」局面で『安全保障のジレンマ(ある国家が安全保障の不安から軍備を増強する場合、相手国も軍備を増強し、これが繰り返されることで結果的に互いに安全保障が悪化するというジレンマ)』が強まる中、対話の再開自体を目標とするのは北韓に対し過剰な譲歩をすることにつながったり、北韓の意図を過小評価する余地が生まれてしまう。
このため、対話の再開を急ぐよりも、韓国に有利な方向で非核化対話の枠組みが形成されるよう、情勢の構造と戦略環境そのものを変えることに注力することが望ましい。
韓国政府はできるだけ「B」局面への情勢転換を政策の方向として設定することとなる(中・露・朝の協力を弱めるということ)。
このためには韓・米・日の安保協力を韓国が主導的に強め、中・露・朝の連帯形成を積極的に妨害し遮断すること。
具体的には、▲米韓同盟をより強化し中露の戦略的理解を刺激する必要(過度の北韓への入れ込みは米国の干渉が増すだけという認識を与える)、▲日韓安保協力が両国の国内政治問題でふたたび損なわれる状況を警戒、▲中国が露朝の協力に積極的に参加できないようにする、という三つの戦略的努力が必要。
特にバイデン政権に「韓国の要求に十分に応えた」と思わせてはならない。また、日韓は互いの選挙(4月韓国総選挙、9月総裁選もしくはその前の衆院選)が日韓協力に及ぼす影響を遮断するために互いの努力が必要。
23年には韓国の専制的な決断が両国協力を牽引したため、24年は日本の積極的な応答が当然必要となる。
11月に米スタンフォード大で座談会に臨んだ日韓首脳。23年に7度の首脳会談を行うなど活発に交流した。支持率は共に低いが。
・北韓の軍縮(disarmament)活用戦術に幻惑されてはならない
米国では北韓の非核化に対する悲観論が出始めている。
完全な非核化を短期間に一気に達成するのは不可能であるため、いったんは北韓の核能力の増強を遮断し、米国と同盟国に対する脅威の水準を下げた後で北韓との対話を通じ段階的に非核化を進める趣旨の、いわゆる軍備統制的な解決策が浮上している。
これを「非核化の過程」と捉える向きもあるが、北韓はこれを「軍縮」と捉え、この過程で韓国内のTHAAD(高高度迎撃ミサイル)配備、米韓軍事訓練の中断、核の傘の撤廃、在韓米軍の撤収も要求するだろう。
そしてこれを韓半島の平和の条件と評価するだろうが、北韓のこの目論見を阻止する必要がある。
韓国はバイデン政権が「北韓が要求する軍縮論を米国が受け入れることは無いし、北韓の完全な非核化という米国の目標に変わりはない。北韓との交渉と対話を推進する過程で韓国政府と異見はない」という点を対外的に発表できるよう要求する必要がある。
いったん引用はここまで!
長かったでしょう。もっと簡略にまとめても良かったのですが、それでもどういうロジックなのかをお見せしたかったため引用しました(実際はこの数倍あります)。
『統一研究院』の主張は、来年2024年の対話は難しいので、韓国としては中・露・朝の結びつきを弱めることに注力する一方、韓米日の連携を強め、最終的に「韓米日vs北朝鮮」という3対1の形に持ち込もうというものです。
文在寅政権時代に保守派の人々は「韓国は仲介者・仲裁者ではなく当事者だ。文在寅は米朝の間で何をやっているのだ」と批判していましたが、韓・米・日関係を韓国が主導するとことで、当事者性を維持する戦略を提案しているようです。
これはこれで「なるほど」と思う一方で、上記の「軍備統制」と「軍縮」のくだりでは非常に大きなジレンマが生まれると思います。完全な非核化も結局は段階を踏んで行われるものだからです。
これは後段のトランプ氏の発言に絡めて取り上げてみようと思います。
◎朝鮮半島情勢(1):トランプ氏の発言が浮き彫りにした「金正恩への信頼」という視点
13日(現地時間)、米政治専門紙『POLITICO』が「Trump considers overhauling his approach to North Korea if he wins in 2024(トランプ大統領、2024年に勝利すれば北朝鮮へのアプローチの見直しを検討)」という記事を配信しました。
内容はズバリ、「トランプ氏は北朝鮮に核兵器を保有させ、新たな爆弾製造をやめるために政権に財政的インセンティブを与える計画を検討している」というものでした。
分かりづらいので言い直すと、北朝鮮に核プログラムを「凍結(現状のまま停止する)」させ、その対価として米国「北朝鮮への経済制裁やその他の援助の緩和」を与えるというものです。
トランプ大統領はすぐに「でっち上げだ」と反応しましたが、この発言は実は大きな意味を含んでいます。
『POLITICO』の該当記事をキャプチャ。
それは北朝鮮が非核化を行う長い長いプロセスの間で「凍結」という段階は必ず必要になり、それに対価を与える必要も同様に出てくるということです。
以前のニュースレター(20号や22号)でお伝えしたように、金正恩政権下で北朝鮮の非核化が行われるとしたら、それは段階的なものになる他にありません。理由は簡単です。そうでなければ金正恩は絶対にハンコを押さないからです。「一度に全てを非核化する」というのは物理的に不可能ですし、金正恩にとっては自殺行為に他なりません。絶対にないでしょう。
つまり、前項で触れた「軍縮」または「軍備統制」の段階や、トランプ氏が言う(言ったとしたらですが)「凍結」とそのインセンティブという過程を通る他にないのです。
言い換えるとしかるべき段階で金正恩を「信頼」する必要が出てくる訳ですが、いったいそれが可能なのかという問いを、いみじくもトランプ氏は投げかけているのです。
現時点では「NO」でしょう。文在寅時代の金正恩でしたらまだ「YES」の可能性があったかもしれません。
もちろん、信頼に代わっていつでも米朝関係を元の圧力状態に戻せるという可逆性(スナップバック)を非核化過程に当てはめることで、非核化を牽引することはできるかもしれません。
しかしそんな状況になるまで金正恩氏が追い込まれるには、相当長い期間にわたる国際的な孤立が必要となります。『統一研究院』のレポートにあるように、韓国政府はこれを実現させようとするでしょうが現時点ではなかなか難しいでしょう。
いずれにせよトランプ氏は今回、意図はしていなかったでしょうが、なかなか本質的な点を衝いたと思います。
◎朝鮮半島情勢(2):進化する韓国の「核のIQ」、北朝鮮のICBM発射はあるか
米国で15日(現地時間)、米韓NCG(核協議グループ)第2次会議が行われました。米韓NCGとは今年4月にワシントンで行われた米韓首脳よって設置が決まったものです。
これはひと言で、米韓同盟を超パワーアップさせる目標を持ったものです。
具体的には、米国による拡大抑止(米国が韓国に対し米本土と同様の水準の核抑止力を提供すること)を強化すると共に、核および戦略計画を討議し、核非拡散体制に対する北朝鮮の脅威を管理するためのものとされています。
今年7月に韓国で行われた第1次会議に次いで開催された今回の会議には、韓国から尹政権の安保政策を一手に握る金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第一次長が参加しました。
同日に発表された共同声明には、尹政権とバイデン政権のお決まりの文句である「米国および同盟国に対する北朝鮮のいかなる核攻撃も受け入れることできず、金政権の終末に帰結するだろう」という内容が入りました。
「米国は韓国に対する北朝鮮のいかなる核攻撃にも、即刻的、圧倒的、決定的な対応に直面することを再度強調した」とダメ押しもありました。
こうした表現は韓国にとって重要で、韓国内の核武装論者たちを沈静化させる役割もあります。
NCGではさらに、▲危機時および戦時の核協議の手続き、▲核および戦略企画、▲韓米の核および在来式統合、といった実質的な協議が深まっていることを評価したということです。
15日(現地時間)に米ワシントンで行われた第2次NCG。左から二人目が金泰孝第一次長。大統領室提供。
より具体的な内容は、米国で金泰孝次長が韓国メディアに説明しました。
テレビ局『SBS』の16日の報道を引用すると、韓国政府は今回の協議の結果を「これまでは北韓が核攻撃をする場合、米国が勝手に核の報復をしてくれるものだったが、これからは米韓がはじめから一緒に考え練習し、実行するものに変わる」と表現したそうです。
そして来年8月の米韓連合訓練の際にこんな「核の作戦シナリオ」を導入する計画で、そのための指針書をまず作ると金泰孝次長は述べています。
さらに「核危機の際に米韓両国の首脳が迅速かつ安全に通話するための核専用携帯装備」が既に両国首脳に渡されているそうです。
こんな情況について金次長は「簡単に言って、韓国側の『核のIQ』が高まり続けていく」と整理しました。
なお、金次長は14日(現地時間)に米国で「12月にも北韓がICBM(対李韓弾道ミサイル)を発射する可能性があると考える」と明かし大きく話題になりました。さらに「弾道ミサイルは韓米間の拡大抑止の検討対象」であるとも述べ、強い対応を示唆しました。
実際にICBMが発射される場合、現在は一部効力停止となっている『919南北軍事合意書』の白紙化を韓国が宣言する可能性もあります。何かしらの強い対応があるでしょう。
金次長はまた、韓米日が北朝鮮のミサイル警報情報を共有するシステムが完成段階に迫っているとも述べました。米国防部も同日に「年内に稼働」と明かしています。
そんな中、本ニュースレターが完成間近となった17日23時過ぎ、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したとの一報が入り、慌てました。
どうやらICBMではなかったようですが、北朝鮮は国防省の報道官談話を通じ、前述したようなNCGの結果に触れながら「露骨な核対決宣言」とし米韓を「強く糾弾する」としました。
◎朝鮮半島情勢(3):高まり続けるロシアと北朝鮮の結びつきへの警戒
韓国では引き続き、北朝鮮とロシアの軍事分野を中心とした結びつきの強化を警戒する声が、あちこちから出ています。
韓国の国会は8日、「ロシアと北韓の間の武器取引および国連安保理決議に違反する武器技術協力の中断を求める決議案」を可決しました。参席議員152人(定数300,現在298)のうち138人の賛成でした。
内容は、▲北韓とロシアが進めるいかなる武器取引も即刻中断することを求める、▲ロシアが安保理常任理事国であるにもかかわらず隣国の主権を侵害する違法な戦争を続けるために、自らが賛成した安保理決議を正面から違反し無視する北韓政権から武器と軍需品の支援を受けるのは矛盾しており、世界平和と均衡を深刻に脅かしている、といったものです。
また、韓国の情報機関『国家情報院』は12日、「北韓が最近、ロシアへの労働者派遣を推進する動きがあり関連動向を注視している」と明かしました。『聯合ニュース』が伝えました。記事にはこれ以上の具体的な内容はありませんでした。
ウクライナ東部のドンバス地方に北朝鮮労働者を派遣するという話は、ロシアがウクライナに侵攻した22年の夏にも持ちあがったことがあります。国連制裁決議案の違反となりますが、実現する場合に北朝鮮は外貨を稼ぎ、ロシアは安価な労働力を手に入れる「win-win」の取引となります。
他方、時間は前後しますが米シンクタンク『CSIS』が運営する北朝鮮専門サイト『Beyond Parallel』では今月8日、北朝鮮の東北部の羅津(ラジン)港を10月10日から11月30日まで約2か月間にわたって定点観測した詳細な記事を写真付きで公開しました。
すごい記事ですね。ニュースレターを続けてこんな記事を書けるようにならなければなりません。
記事では過去、北朝鮮からロシアへの軍需品移送を行っていると特定されたロシアの船が観察されたと明かしています。
また、コンテナが数百から千個あまりまで増減し、船舶の移動も盛んなことから「分析された8枚の衛星画像では、ナジン港の3か所の輸送コンテナの数と船舶の活動が常に変化しており」、「羅津港がここ数週間、非常に高いレベルの活動を処理していることは明らか」と結論付けています。
さらにおなじみ、韓国統一部の金暎浩(キム・ヨンホ)長官は「北韓とロシア間の武器取引と軍事技術協力が行われる情況がある」と12日にソウル外信記者クラブで行った会見で再度明かしています。
9月に露朝首脳会談が行われて以降、韓国の対露外交に強い立場で臨む一貫性があります。
最後に、15日に国家情報院傘下の『国家安保戦略研究院』が発表したレポートの中にある「最近の露朝軍事武器取引の波及効果」を紹介して終わります。
四つの波及効果の一つ目は、北朝鮮製の武器を望む国家が増えるだろうというものです。北朝鮮の武器は多様で性能も低くないとし、中東やアフリカなど内戦を行う地域が名乗り出るとしています。
二つ目は、北朝鮮の外貨獲得量が増え、体制維持費用をまかなえるようになるというものです。
三つ目は、国際社会の対北朝鮮制裁網がほつれる可能性が高いというものです。実際にこの傾向は9月に露朝首脳会談以降出ているとします。
最後の四つ目は、北朝鮮がこれまで持っていなかった技術を手に入れるということです。戦術核弾頭および多弾頭技術、特に長距離ミサイルの大気圏再進入技術をロシアの支援で確保する場合、朝鮮半島と東北アジアの情勢を危険にするとします。
レポートでは「これらの波及を遮断する必要がある」とまとめています。
◎ショートニュース
(1):板門店に常駐する中立国監視委員会「判断ミスの危険が増加」
11月21日の北朝鮮による偵察衛星発射を受け、翌日に韓国が『9.19南北軍事合意書』の一部効力停止を発表しました。
さらに北朝鮮は同合意にこれ以上拘束されないと明かし「中止したすべての軍事的措置を即時回復」するとし、実際にこれを進めています。
中でも同合意により重火器の撤去はもちろん、拳銃の携帯もなくなった板門店で北朝鮮側兵士の再武装が話題になりました。
現状はどうなっているのでしょうか。10日、『聯合ニュース』が中立国監督委員会のスウェーデン代表とスイス代表にインタビューした内容を伝えました。
なお、同委員会は南北が停戦協定を遵守しているのかを監督するためのもので、国連軍側にスウェーデン・スイス、北朝鮮・中国側としてポーランドとチェコが存在しましたが、後者の2国は90年代に北朝鮮により追い出されました。
このインタビューは7日に行われたとされ、スイス代表は「判断ミスの危険、偶発的な事故の危険が少しずつ大きくなっていて、この方向に進む場合、我々の仕事はより大変になり忙しくなる」と述べています。
一方、スウェーデン代表も「軍事合意の目的は、停戦協定を進展させることだった」とし「緩衝地帯が無い場合、当然危険は大きくなる」と指摘したとされます。
(2)韓国政府機関が北朝鮮の作況をまとめた報告書を発表
韓国の農村振興庁が15日、『2023年度北韓食糧作物生産量の推定結果』を発表しました。これによると北朝鮮の23年度の「食糧作物」の量は482万トンで、昨年を31万トン上回りました。
内訳は、コメ211万トン、トウモロコシ170万トン、ジャガイモ・サツマイモ58万トン、大麦・小麦22万トン、大豆19万トン、その他2万トンとなります。いずれも今年は増加しました。
農村振興庁の関係者は、生産量増加の背景に「良い天候」があるとしていますが、これがストレートに北朝鮮住民の食糧事情の解決につながる訳でないことを、押さえておく必要があります。
◎あとがきに代えて:もはや北朝鮮政策は誰も問わない
現在時刻は18日午前5時45分です。一つだけあとがきを書いて終わります。
日曜日(17日)の午後、私は韓国の国会に行ってきました。前号で取り上げたリベラル系の新党『新しい選択』と、やはりリベラル政党正義党から分かれた『三番目の権力』が合体する結党式があったからです。
国会内の小規模な会議室に200人あまりが参加するコンパクトなものでした。細かいレポートは次号で書きますが、一つ驚いたのが政策を発表する際に「北朝鮮政策、南北関係のビジョン」に1ミリも触れなかったことです。
「保守」と「進歩」の対立を止揚するために作られた新党だからこそ、この問題に答えるべきだと思ったのですが、もはやそういう時代ではないようです。本当に北朝鮮というのは今の韓国社会にとって「もはや他人」と言って良いでしょう。分かっていたことですが。
それでは皆さん良い一週間のスタートを!今週はキッチリ曜日を守りお送りします。サポートメンバーが少しずつ増えていますが、まだまだもっとたくさんの方に読んでいただきたいです。ぜひ周囲の方にお知らせください。
また、ご質問や取り上げて欲しいテーマも常時募集しています。そうそう、今週火曜日に撮影したデモクラシータイムス『韓国通信』のアドレスを貼り付けておきます。お時間ある時にぜひご覧下さい。
ありがとうございます!寒さにお気をつけて。(徐台教)