ニュースレター号

[25号]「政治の素人」が再び与党トップに、未だ終わらない「梨泰院惨事」、ドキュメンタリーで見る韓国の超低出生率など全9トピック

(12月21日)サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。

 ニュースレター第25号をお届けいたします。ここ最近、発行が遅れていますが、週2回の発信は守っていきますのでご安心ください。年明けからは新たな企画と共に正常化させていきます。

 今号の目次は以下の通りです。

  • 韓国社会(1):老人貧困率「も」OECD加盟国中で最高に

  • 韓国社会(2):未だ終わらない「梨泰院惨事」…特別法の制定求め遺族が「五体投地」

  • [連載] 10部作ドキュメンタリーで見る韓国の超低出産 (1)0.78以降の世界

  • 韓国政治(1):与党を再度「政治の素人」が救うのか?韓東勲氏が非常対策委員長に就任へ

  • 韓国政治(2):勢力を増す新党『新しい選択』

  • ショートニュース:(1)「同性愛カップルにも祝福」ローマ教皇庁の決定に韓国カトリックは「慎重」、(2)共に民主党の宋永吉前代表が逮捕、(3)2024年への暗い展望?世論調査で判明、(4)強制動員被害者が日本製鉄と三菱重工業を訴えていた裁判で、原告勝訴が確定

  • あとがきに代えて:徐京植さん亡くなる

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◎韓国社会:老人貧困率「も」OECD加盟国中で最高に

 韓国では経済協力開発機構(OECD)の指標を通じ、自国の水準を他の先進国と比べて評価することが定着しています。韓国が劣るものが多いのですが、自国を客観的に眺める良い習慣だと思います。

 19日、OECDが公開した報告書『Pension at a glance 2023(一目で見る年金2023)』によると、2020年の韓国の66歳以上の老人人口における所得貧困率は40.4%で、世界ワーストとなりました。所得貧困率とは「中位世帯の可処分所得の50%以下」である所得層の比率を指します。

 『中央日報』によると、OECDの平均は14.2%で、40%を超えたのは韓国だけでした。ワースト2位はエストニア(34.6%)、同3位のラトビア(32.2%)でした。なお日本は20.2%、米国は22.8%でした。

 また『聯合ニュース』によるとアイスランド(3.1%)、ノルウェー(3.8%)、デンマーク(4.3%)などで低かったとのことです。

 韓国の統計に戻ると、男性34.0%に比べ女性の所得貧困率が45.3%と明らかに高い数値となりました。OECDでは「女性の老人は年金給与が少なく、期待寿命が長いため男性老人よりも貧困率が高い」としているそうです。OECD平均では男性11.1%、女性16.5%とのことです。

 韓国ではさらに高齢層になるほど所得貧困率が悪化しています。66歳~75歳の間では31.4%である反面、76歳以上では52.0%と半数を超えています。

 また、老人層の間での所得格差も高い数値となっています。韓国の66歳以上の可処分所得のジニ係数は0.376で高い数値となっており、また、韓国全体の0.331よりも高いため老人層でより所得格差が高い結果となりました。

 こんな韓国の老人貧困率の高さの背景には、年金制度が関連しています。

 『ハンギョレ』の2年前の特集記事によると、1988年に同制度をはじめて導入する際に「積立方式」が採用されたことで、当時の老人層や中高齢層(50歳以上)が年金をもらえなくなったとのことです。

 完全に年金を貰うには20年以上を積み立てなければならないのですが、それができないため、年金が足りずに貧困層となってしまったのです。

 これを証明するように、88年当時に中高齢層(50歳以上)だった層が老人人口になった2000年代になって老人貧困率が20%を超え、その後も高まり続けています。記事では当時、年金をすぐに支給する「賦課方式」を導入すべきだったとと説いています。

 政府は現在、毎月一定額を国が振り込む「基礎年金」といった公的年金の支出を拡大しており、少しずつ老人貧困率が下がっていましたが、尹政権になりふたたび上昇した形です。政府が対策を急ぐ必要があります。

 それにしても出生率に加え、老人貧困率も世界ワースト。韓国社会には解決すべき問題が山積みです。

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韓国社会(2):未だ終わらない「梨泰院惨事」…特別法の制定求め遺族が「五体投地」

 韓国の首都圏では18日から19日にかけて雪が降り、数センチ積もっている地域もあります。気温は日中も零下5度以下と真冬日が続いています。そんな中、息を飲む写真をインターネット上で見つけました。

国会前で「五体投地」を行う協議会の人々。ツイッター上で見付けた写真であるため出処を確認できませんでした。分かり次第追記します。


国会前で「五体投地」を行う協議会の人々。ツイッター上で見付けた写真であるため出処を確認できませんでした。分かり次第追記します。

 雪の上で寝そべっているように見える人々。梨泰院惨事遺家族協議会(以下、遺族会)の方たちです。

 日本では「梨泰院雑踏事故」とも呼ばれる「梨泰院惨事」は昨年10月29日、ソウル市内の繁華街・梨泰院(イテウォン)にハロウィンを祝うために集まった市民が、狭い路地で密集し押し重なることで起きた事故です。若者を中心に159人が亡くなりました。

 しかし事故から400日以上が経った今も、遺族や事故の被害者たちが満足する国の対応はありません。どういうことなのでしょうか。丹念に事故を追っている『京郷新聞』の特集を読んでみます。

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 まず、遺族会は寝そべっているのではなく「五体投地」という仏教式の礼拝を行っています。これは両膝と両肘、額を地につけて祈る行為で、最も敬虔な礼拝方法とされるものです。

 「五体投地」は国会前で行われました。協議会は今月14日から20日までを「非常行動期間」と定めています。とりわけ18日から20日にかけて朝10時29分に国会前の籠城テントを出て、約2時間半の間、国会周辺で行ったものです。

 目的は『梨泰院惨事特別法』の制定を国会に求めるためです。同紙によると同法の骨子は「惨事の発生原因・収拾過程・後続措置などに対し、独立的に真相究明調査を行う特別調査委員会を構成するもの」となります。

 同法は昨年6月30日に国会で野党4党の主導の下に「ファストトラック」案件となったため、12月20日からの国会本会議で採決が可能な状態になっており、協議会は早期の成立を求めています。その間は与党の反対で法案に対する議論も行われてきませんでした。

 このように、韓国内の一部に特別法に反対する意見がありますが「真相究明」という言葉が「ブラックホール」のようにキリのないものとして受け止められている向きが確かにあります。

 「真相究明」はどんな事故にも求められる一方で、激しい陣営間対立により政治への信頼が無い中では、遺族がその結果を納得して受け止めることが難しい分野でもあります。

 梨泰院惨事の場合には警察庁に設置された「特別捜査本部(以下、捜査本部)」が事故の調査を終えたという形になっているためなおさらです。

「梨泰院惨事」が起きた現場の路地。22年10月30日、事故の翌日に私が撮影したものです。


「梨泰院惨事」が起きた現場の路地。22年10月30日、事故の翌日に私が撮影したものです。

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 『京郷新聞』はこんな「なぜ真相究明が必要なのか」という問いに答える記事を書いています。同紙が捜査本部の記録をチェックしたところ、災難対応を司る行政安全部への捜査が形式的なものに終わっていることが分かったといいます。

 記事に引用された捜査記録からは、事故を「他人事」のように受け止めている、無気力で無責任な公務員の姿が浮かび上がります。韓国でよく使われる慣用句「魂のない公務員」そのものです。

 捜査本部は合計36人におよぶ行政安全部職員の調査を行ったものの、局長級一人を除いては幹部には聞き取りをせず、証言から明らかになった問題点に対してもそれ以上踏み込んで聞かないなどの問題点があったとします。

 背景には「刑事処罰を前提とする警察による捜査であるため、関連者は最大限防御的になる他になく、捜査する側も嫌疑の構成と関係のない話を深く聞く必要がない」(市民団体)という事情もあります。

 確かにここまで踏み込むと、なぜ広範囲な特別調査委員会が必要なのかが見えてきます。同紙はこれを簡潔にこうまとめます。

「災難管理にどんな問題があったのか、惨事が再発しないためには各機関の組織文化がどう変わればよいのかといった視点を(政府は)持てていない」。

 つまり「捜査」ではなく「調査」が必要だ、ということです。

 20日、国会では最大野党・共に民主党の李在明代表が「梨泰院惨事特別号は倒れた大韓民国のシステムを蘇らせようというもの。特別法を可決し惨事の真相を究明し責任者を処罰し、悔しい死の真実を明かすべきだ」と述べました。

 反対を続ける与党に向けたメッセージですが、上述してきたような内容を踏まえ、もう少し別の言い方があったかもしれません。

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◎[連載]10部作ドキュメンタリーで見る韓国の超低出産(1)0.78以降の世界

 今や南北分断よりも重要な、韓国最大のチャレンジとなっている少子化問題。2022年の合計特殊出生率(※)「0.78人」という結果を前に、多角的な視点から考えてみようと作られたのが、韓国のNHK教育テレビにあたる『EBS』の10部作ドキュメンタリー『人口大企画―超低出生』です。

 タイトルにある通り、単純に出生率が下がっているというだけの話でなく、これが韓国社会のあり方にどんな影響を及ぼすのかに始まり、危機をどう乗り越えていくのかまで、問題に幅広くアプローチしている良いドキュメンタリーです。私は現在半分まで見たのですが、毎回別の司会者が登場する上に、きっちりと取材してあり飽きさせません。

 第一部『0.78以降の世界』は、1960年に6.16人、70年に4.54人、82年には2.06人だった出生率が、96年に1.57人と減ったことを現代史の動きを背景に振り返っていきます。70年にはソウルと釜山を結ぶ韓国初の高速道路が開通し、82年には韓国プロ野球がスタートします。また、96年には「産児制限政策が廃止」とナレーションがありました。

 ここで私は画面を止めます。「産児制限政策?ちょっと具体的に説明してよ」という思いからです。私も妻(5人きょうだいの長女です)を通じ聞いたことがありましたが、説明せよと言われるとできません。そこで少し調べてみました。

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 韓国政府系の経済シンクタンク『KDI(韓国開発研究院)』によると、60年代の韓国政府にとって産児制限政策は死活問題だったといいます。「たくさん産んで苦労せず、少し産んでしっかり育てよう」という標語の下で「3・3・35」運動を展開したそうです。「3人を3歳の年の差で産んで、35歳までに出産を終えよう」というもので、当時、保健所や「家族計画指導院」では無料で不妊施術(いわゆるパイプカットでしょうか)をしてくれたそうです。

 70年代には「娘と息子の区別をせずに二人産んでしっかり育てよう」に変わりました。これは男児を好む社会風潮に対するメッセージも込められていたそうです。

 80年代には「二人よりも一人」に変わりました。この時もまだ増えすぎる人口に対する危機感があったと、同研究所は記述しています。また、「しっかり育てた一人の娘がいれば十人の息子も羨ましくない」と男児を望む声に対し明確に「NO」を突きつけたとします。

 転機は83年にあったそうです。この時に出生率が「人口代替率」、つまり現段階の人口を維持できる「2.1」を下回ったためです。しかし政府はまた増加に転じるのではないかという考えの下、産児制限政策を進めたそうです。一方で男女の出生比は90年には男性116.5対女性100にまで増加しました。

 89年になりようやく政府は避妊事業を中断するなど産児制限政策を中断します。「1.57人」まで減った96年には人口政策の目標を「産児制限」から「資質の向上」へと転換しました。ややこしい言葉ですが、人口の質的な向上のために努力するという意味だそうです。当時「何か足りない一人っ子、満足する二人の子、安心の三人の子」という標語が作られたそうです。とんでもない変わりようですね。

 05年には出生率が1.08人にまで落ち込みます。この時すでに「子どもに受け継ぐ最高の遺産はきょうだいです」という標語が登場したそうです。

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番組タイトルです。番組をキャプチャしたもの。


番組タイトルです。番組をキャプチャしたもの。

 すでにお腹いっぱいという感じですが、ドキュメンタリーに戻ります。まだ始まって3分の時点です(笑)。

 司会者の未来学者ソ・ヨンドク教授は韓国社会の未来を決める最も重要な動因として「低出産・高齢化による人口構造の変化」を挙げて話を進めていきます。そして視聴者の理解を助けるために2020年に生まれた子どもを例に、未来をたどっていきます。

 まず2038年。18歳で大学に入る年齢になりますが、現在韓国にある190の大学のうち、100校が無くなっているとします。23年現在の全大学の定数は34万人。しかし38年に大学進学を望む者は15万人だという計算です。

 ここで教育専門家が出てきて説明してくれます。大学の生き残りには、▲規模、▲生徒の選考度、▲選考度プラス評判という三つの要素がある中で、この基準を当てはめる場合に順に39、63、53の大学が38年に生き残るとします。半減どころか、3分の1以下になるということです。

 いずれの場合にも、首都圏など特定地域の大学だけが残り、大田(テジョン)市や済州(チェジュ)特別自治道では大学がなくなるとします。高等教育の多様性が弱まり、萎縮すると警鐘を鳴らします。

しかしこれ以前に問題がありました。20年生まれの子どもが小学生となる28年までに、全国で2103校が廃校になるというのです。

 番組内で説明がなかったので教育部のサイトで別途調べたところ、22年の小学校の数は6163校。なんと3校に1校が廃校になるそうです。

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 次いで「兵役」の話です。なお、番組の名誉のために書いておくと、番組では20年生まれの男女をモデルケースにしています。そのうち兵役は男性に当てはまるという理解です。

 男性人口は20年生まれが20歳となる40年に、現在より10万人減ります。

 国防部の国防改革室長による番組内での説明によると、韓国は現在軍事費が世界10位である一方、軍事力は世界6位だといいます。10位と6位のギャップを徴兵制による豊富な兵力が埋めているとのことですが、これが成り立たなくなる可能性が高いというものです。

 代案としてドローンなどの無人兵器や先端科学技術が考えられるとはしますが、結局これも活用する人材が必要であり、兵士の質と水準が重要と説きます。過去に「愛国ペイ」と揶揄された安月給で若者に犠牲を強いてきましたが、できるだけ予算を確保していると力説していました。

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 そして「経済」の話に向かいます。向かった先はソウルから南西部に2時間ほど離れた忠清北道(チュンチョンプクト)の陰城(ウムソン)郡。ここは外国人の比率が14.7%と韓国内で最も高い自治体だそうです(全国平均4.1%)。

 様々な国から来る5000人の移住労働者は、働き手であると同時に地域経済を活性化させていると説明します。

 このような「生産人口の減少」という話は、過去のニュースレター第17号で公営放送KBSのドキュメンタリー『熟練工の消滅、製造業がたおれる』を通じ詳細に説明したように広く知られており、韓国経済に暗い影を投げかけています。今を100%とすると、2045年には70.2%に、2070年には46.5%になるという展望です。

 しかし番組でソウル大学の経済学部教授は「今後15~20年間は労働力は不足しない」という見解を明かします。この辺りから番組の主張が見えてきます。「未来は変えられる」というものです。

 カギは女性と壮年層がいかに働けるようにするのかにあります。この層が今よりも働ける環境になる場合、45年には88.2%の労働力が確保できるというのです。特に高年齢層が今後、若者の高学歴就業者の空白を埋められるかが重要になるとします。

生産可能人口が今後どう推移していくのかのグラフです。2050年には2020年よりも約1300万人も減ってしまいます。番組をキャプチャ。


生産可能人口が今後どう推移していくのかのグラフです。2050年には2020年よりも約1300万人も減ってしまいます。番組をキャプチャ。

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 最後に「年金」の話となります。このままでは2057年に年金基金が底をつく中、著名専門家が出てきて「年金改革を10年以内にすべき」と説きます。

 具体的には所得の9%という年金積立額を引き上げる必要があるとします。68年から73年生まれの第二次ベビーブーム世代は650万人。毎年100万人以上が生まれたこの世代を、毎年25万人も生まれない子ども世代が負担するからです。

 年金改革は過去のフランスなどと同様に、社会的に大きな衝撃をもたらすものになるため、歴代の韓国政権も手を付けられませんでした。尹政権もまた、三代改革分野に含め意欲を見せていますが、実際には遅々として進んでいません。

 ですが番組では明るい話題もありました。

 全国の10代から70代まで500余人に直接調査したところ「働く世代が年金を追加で負担すべき」には賛成62.4%、反対37.6%、「年金受領者が金額を少なく貰うように調整すべき」賛成55.4%、反対44.6%と、各世代が公平に負担を受け入れるような結果となったというのです。

 このように番組では「絶望するには早い。未来はまだ開いている。今の努力により未来が決まる」(ソウル大教授)というメッセージを強く押し出していました。「システムを変える意志」があればまだ未来は変えられるというものです。

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 例えば大学については、▲全ての大学の入学定員を3%減縮、▲国公立大学の優先的な維持、▲私立大を選好度ど評判を基に生存させる、という3つの努力をする場合、190校のうち114校が生き残ることになるそうです。

 確かに、前号でもお伝えしたように韓国社会には徐々に諦めが広がっています。いくら政府がお金をつぎ込んでも改善が見られないため「何をやっても無駄」というものです。

 これに対し、具体的な例を挙げて「まだやれる」ことを示した点で秀逸な番組でした。

 しかし残念なことに、今日の時点でこの番組の再生数は18000程度。見るには決済が必要で今後もこの内容が広まることは期待できません。

 そうなると政治の役割が大きくなりますが、どうでしょうか。

 総選挙まで120日を切る中、後述するように政治勢力は「自党の利益」「自身の当選」だけを目的に、何一つ生産的な議論をしていません。政治を見ると「本当に変えられるのか?」と思わざるを得ません。悲惨な現実です。

 いずれにせよ、最後までドキュメンタリーを追っていきます。次回は「結婚・出産・養育費用分析プロジェクト」です。お金の話なので面白いですよ(笑)

 最後に一つ。番組の冒頭で「0.78」人という数値について「戦争などの特殊な状況を除いては非正常」と述べていましたが、朝鮮戦争が終わっていないことはどう影響しているのかなとふと疑問に思ったことを書き添えておきます。

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◎韓国政治(1):与党を再度「政治の素人」が救うのか?韓東勲氏が非常対策委員長に就任へ

 政界にとても大きな動きがありました。

 13日に「党の分裂を防ぐため」金起炫(キム・ギヒョン)代表が辞任した与党・国民の力では、来年4月の総選挙まで党の代表となる非常対策委員長の人選をめぐって激論となっていました。

 そして21日午前になって、韓東勲(ハン・ドンフン、50)法務部長官に決まったことが明らかになりました。本項ではこのサプライズ人事について考えてみようと思います。

22年5月、法務部長官に任命された際の尹大統領と韓東勲長官。大統領室提供。


22年5月、法務部長官に任命された際の尹大統領と韓東勲長官。大統領室提供。

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 まず、22年3月の大統領選挙を思い起こしてください。

当時、最大野党の保守政党「国民の力」の大統領候補だった尹錫悦氏には、26年間の検事としてのキャリアがあるだけで、政治経験はまったくありませんでした。韓国の大統領選で有力候補が政治の素人というのははじめてのことでした。

 そんな人物がなぜ、伝統ある保守政党の代表になれたのか。それは「他の人物では与党(当時)の李在明(イ・ジェミョン)氏に勝てない」という切迫した事情があったからです。

 国民の力は17年3月に弾劾された朴槿惠大統領が所属していたセヌリ党を母体としています(17年2月からは自由韓国党に改名)。一度韓国社会から「ダメ出し」をくらった存在であることから、独自の力では大統領選に勝てる見込みがなく、文在寅政権で検察総長を務めた人物(検察総長就任時には野党だった同党が人事聴聞会で猛攻を加えました!)を引っ張ってきたのです。

 今となっては当たり前のように受け止めていますが、これはすごいことで、当時、韓国政治に詳しい専門家に聞いたところ「韓国の政党は長い転換期に入った」という返事が返ってきました。

 つまり、87年の民主化以降、韓国政治を支配してきた文法が通じなくなったということです。政治経験のない尹錫悦と、民主化運動の経験がない李在明の争いは象徴的でした。

 この専門家はまた、「国民の力という政党はアイデンティティを再建する時期に入った」としながら、政党の再建には三つの段階が必要だとしました。

 一つ目は「政治エリートを補充するプール(集団)」を探す必要がある。二つ目は、リクルートされて充員された政治エリートたちが共有する「政策的なビジョン」が必要になる。そして三つ目として、このビジョンに共鳴し応える「支持者の集団」がつながる必要がある、というものでした。

 そんな視点から見る場合、国民の力は尹錫悦氏に代表される検察勢力と、李俊錫(イ・ジュンソク、38歳)氏に代表される若い保守世代と共に、政治エリートを補充する一つ目の段階にあるというものでした。

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 韓東勲氏もまた検察勢力、検察エリートです。

 1973年生まれで、尹大統領と同じソウル大学法学部に在学中の1995年に司法試験に合格。その後3年間を軍法務官として勤務した後、2001年5月から法務部長官に就任する22年5月まで検察ひと筋でした。

 韓国一の市民団体と言える政策提言NGO『参与連帯』が作り更新し続けているリスト「検察出身高位公職者+検事・検察捜査官の外部派遣の現況」を見ると、今年11月14日時点で182人の検察勢力が政府の内部に存在します。

リスト「検察出身高位公職者+検事・検察捜査官の外部派遣の現況」の中にある票。上から順に「検事・検察公務員出身の長官・次官級と大統領室の高位公職者」23人、「法務部所属および法務部派遣検事(検察出身を含む)」67人、「国会など外部に派遣された検事」48人、「法務部と外部に派遣された検察捜査官」28人、「検察出身の公共機関の役員」18人、合計182人となっている。参与連帯はこうした人物に対して「行政の現場を監視する役割もあるのでは」との見解を示している。


リスト「検察出身高位公職者+検事・検察捜査官の外部派遣の現況」の中にある票。上から順に「検事・検察公務員出身の長官・次官級と大統領室の高位公職者」23人、「法務部所属および法務部派遣検事(検察出身を含む)」67人、「国会など外部に派遣された検事」48人、「法務部と外部に派遣された検察捜査官」28人、「検察出身の公共機関の役員」18人、合計182人となっている。参与連帯はこうした人物に対して「行政の現場を監視する役割もあるのでは」との見解を示している。

 ここでもう一度、検察勢力の筆頭であり、やはり政治経験ゼロの韓東勲氏が与党の非常対策委員長という重職に就くことの意味を考えてみると、韓国の保守はもはや完全に「検察頼り」になりつつあるということが分かります。

 一方、若者世代を代表する李俊錫氏は新党結成を公式化させており、こちらは離れていくことになります。

 尹政権で要職についていた人物たちのうち、少なくない数が来年4月の総選挙に出馬します。この中に検察出身の人物がどれくらいの数になるのかはまだ分かりませんが、おそらく多数を占めるでしょう。

 見てきたように韓国の保守政党は検察勢力という新たな集団が主導することになりますが、それでは一体どんな政治を行いたいのでしょうか?

 これが全く見えないのが問題なのです。上述した政党再建プロセスのうち、第二段階の「政策的なビジョン」が全く無いままの状態が続いているということです。

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 韓東勲氏は保守陣営の次期大統領候補として最も人気がある人物です。最新(12月5日〜7日)の韓国ギャラップ社の調査では、16%の支持を得ており、19%で1位の李在明氏に次ぐ人気ぶりを見せています。

 一方で国政の全般についてどんな識見を持っているのかは全くの未知数です。何度も繰り返しますが政治の素人です。

 このような視線を意識してか、19日に国会に出席した韓東勲長官は非常対策委員長職のオファーを受けるか聞く記者団に対し具体的な話はないとしながらも、「世の中の全ての道は、はじめ道ではなかった。多くの人が共に歩けば道になるもの」という魯迅『故郷』の一節を引用し答えました。

19日、国会で記者団に囲まれる韓東勲氏。着こなしが話題になったことも。SBSより引用。


19日、国会で記者団に囲まれる韓東勲氏。着こなしが話題になったことも。SBSより引用。

 前述したように国民の力は韓国の伝統ある保守政党です。

 尹錫悦氏に続き、ふたたび素人を党の看板に据える動きの背景には既存政治への不満世論が作用しているのも事実ですが「ビジョンなき政治」の横行には首をかしげざるを得ません。

 なお、今回の人事の背景には、韓東勲長官を片腕と頼る尹大統領の意向があるのは明らかです。

 保守紙『朝鮮日報』をはじめ、保守層の一部では「与党の危機を招いた尹大統領が非常対策委員長を選ぶのはおかしい」という論調がありましたが尹大統領が押し切った形です。

 いずれにせよ「素人」韓東勲氏は今後、これまでよりも大きな注目を集めることになるでしょう。「(韓国政治という)地獄にようこそ」という声もある中、本ニュースレターでも続報をお伝えしていきます。

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◎韓国政治(2):勢力を増す新党『新しい選択』

 総選挙まで120日を切り、各党の動きが活発になっています。特に第三極、第三地帯と呼ばれる巨大両党以外の領域では、既存政治への不満層を取り込むために「より大きなテントを作るべき」という声が上がっています。

 そんな動きの一つとして、17日に新党『新しい選択』と、第二野党(6議席)『正義党』内の革新組織『第三の権力』が合併しました。

 23号でもお伝えしたように『新しい選択』の共同代表は琴泰燮(クム・テソプ、56歳)元議員です。

琴泰燮(クム・テソプ)共同代表。筆者撮影。


琴泰燮(クム・テソプ)共同代表。筆者撮影。

 ソウル大法学部卒業後に司法試験に合格、検事と弁護士を務めた中道左派に分類される人物です。共に民主党議員を一期(16年~20年)務めたものの党の路線と合わず党を抜け、その後保守陣営に移るなど政治の可能性と革新を探り続けてきました。

 この日は日曜日でしたが、私も国会で行われた結党式に顔を出してみました。参加者は200人ほどで、記者は10数人と思ったよりも少なかったです。

一方で、ゲストスピーカーは豪華でした。

過去に朴槿惠、文在寅、尹錫悦の3氏と政治的に関わりを持つなど「キングメーカー」の異名を持つ、現在の韓国で最も長く多彩な政治経験を持つ金鐘仁(キム・ジョンイン、83)氏をはじめ、総選挙の台風の目である李俊錫(イ・ジュンソク、38)氏、そして別の新党『韓国の希望』を率いる梁香子(ヤン・ヒャンジャ、56)氏などが勢揃いし、それぞれスピーチしました。

金鐘仁氏。筆者撮影。


金鐘仁氏。筆者撮影。

 三者のスピーチからは、現在の巨大両党制への問題提起、とりわけ「尹錫悦か李在明を強制的に選ばされる状況」に政治への不信感が広がっているという危機感がひしひしと伝わってきました。

 もっとも、李俊錫氏についてはその分断を作ってきた張本人であるため、簡単に「そうですか」とはいかないのですが。

李俊錫氏。筆者撮影。


李俊錫氏。筆者撮影。

 また、政策委員長による政策発表の場では興味深い数値「27%」も出てきました。

 これは2016年の総選挙の際に、今はなき政党『国民の党』が獲得した比例票の得票率とのことです。当時、安哲秀(アン・チョルス)氏を立てた同党は、湖南(ホナム)と呼ばれる韓国南西部の全羅南北道、光州広域市を席巻しました。そして今、「27%」は世論調査で無党派層の数と一致するというのです。

 同委員長はこれを「偶然ではなく必然」と表現し、「相手が嫌いだから」仕方なく党を支持する「イヤだ」の政治を「いいね」の政治に変えていこうと訴えていました。

 琴共同代表はこの日「一人の(指導者)の決断と統治哲学に依存する政治は過ぎ去って久しい。皆が膝を付き合わせ力を合わせ、みなが声を上げる政治をすべき。対話と党論、譲歩と妥協が日常的に存在する政治を始めるべき」と訴えました。100%共感できる言葉です。

 さらに「次回の総選挙で30議席を得て、韓国政治を根本的に変える橋頭堡を作る」という同党のビジョンを改めて語ると共に「27年の大統領選挙では集権に挑戦する」と大統領選に臨むことも明かしました。

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◎ショートニュース

(1)「同性愛カップルにも祝福」ローマ教皇庁の決定に韓国カトリックは「慎重」

 ローマ教皇庁が18日、同性愛カップルに対し「祝福」を与えることを認めたというニュースは、韓国でも大きく報じられました。

 同性愛婚が法的に認められないなど、性的少数者への理解と社会的な制度の整備が遅れている韓国社会での反応はどうでしょうか。

 『朝鮮日報』によると、天主教(韓国カトリック)ソウル大教区では19日、「婚姻と関連する状況において『カトリック教会の教えを離れる状況にある者たち(再婚など)や‘同性カップル’に対する祝福の場合、公開的もしくは婚姻を暗示する形態の祝福は不可とすると明示されている』と説明したそうです。

 さらに「カトリック教会が教える婚姻は‘一人の男性と一人の女性の結合’」であるとし「しかし、適切な状況の下で婚姻に際し通常的でない状況にある者達に対しても、様々な前提条件を確認した後、祝福が可能であるという事実を提示したところに今回の宣言文の意味がある」としました。

 肯定的な受け止めですが、まだまだ壁は高そうだとも感じます。一つの変化のきっかけとなることを望みます。

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(2)共に民主党の宋永吉前代表が逮捕

 18日晩、最大野党・共に民主党の宋永吉(ソン・ヨンギル、60)前民主党代表の身柄が拘束(逮捕)されました。

 容疑は21年3月から4月にかけて同党の代表選が行われる中で、同僚の国会議員や地域の党本部長20人に現金6650万ウォン(約730万円)をばら撒いたというものです。また、別に違法な政治資金7億6300万ウォン(約8300万円)を受け取った疑惑もあります。

 現在は共に民主党を脱退しているため、現在まで同党はコメントを出していません。しかし宋永吉前代表は李在明現代表に自身の選挙区を受け渡すなど近い仲とされます。

 有権者の中で共に民主党がクリーンな政党だと思う人はもはやほとんどいないかもしれませんが、また一つ道徳的な面で同党はダメージを受けたと言えます。

 なお、宋前代表は逮捕後も検察の呼び出しを拒否しています。20日には弁護人を通じ「どこにいても検察に屈服しない」というメッセージを出しています。

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(3)2024年への暗い展望?世論調査で判明

 韓国の市民は、来年にどんな展望を抱いているのでしょうか。『韓国ギャラップ』社が興味深い世論調査を行ったのでシェアしてみます。

 12月12日から14日にかけて18歳以上の1002人に聞いた調査によると「今後一年間の韓国の景気展望」では56%が「悪くなる」と答え、「良くなる」の18%を大幅に上回りました。「(今年と)似ている」という答えは22%でした。

 「今後一年間、家計が今と比べどう変わるか」を問う質問には「良くなる」15%、「悪くなる」32%、「似ている」51%となりました。

 最後に「今後一年間の国際紛争が現在に比べどうなるか」では、「増える」52%、「減る」13%、「似ている」27%となりました。

 全体的にあまり明るい展望を抱いていないのが分かります。私の感覚とも一致しています。

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(4)強制動員被害者が日本製鉄と三菱重工業を訴えていた裁判で原告勝訴が確定

 ニュースレターをリリースする直前の21日午前11時頃に飛び込んできた一報です。

 日本による植民地時代の1944年から45人にかけて三菱重工業に、そして42年から45年にかけて日本製鉄に動員された強制動員被害者とその遺族が両社に「不法行為による損害賠償」を訴えていた裁判で21日、大法院(最高裁)は被告企業の上告を却下し原告の勝訴を確定しました。

 争点は時効が成立するのかという点でした。

 この日大法院が配布した報道資料によると、最高裁は18年10月のいわゆる「徴用工判決」つまり「強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれないという法的な見解が最終的に明確になった」ことを経てはじめて、「(被告が)客観的に権利を事実上行使できなかった障害が解消された」という立場を示し、時効は成立しないと判断しました。

 勝訴が確定したことで賠償金の支払いなど今後の行方が気になりますが、これは追って報じていきます。

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◎あとがきに代えて

 今号はずいぶん長いあいだ書いていました。本来発行するはずだった19日火曜日のお昼に徐京植(ソ・ギョンシク)先生が亡くなったという話を聞き、言葉にできないほどショックを受けたことが関係しています。

 在日コリアンという立場を土台に、人間としてどう生き、そして社会と心をどう守るのかという点を常に静かで優しく、そして力強く問い続けてきた方です。私もその著書やコラムなどから少なくない影響を受けました。

 特に、51年生まれの徐先生は私の父(50年生まれ、昨年没)と一つしか年齢が違わない上に、父が長い間患う中で私と知的な会話ができなくなっていた関係から、知的な面における父のような存在だと勝手に思い込んでいました。実際にお会いして話をしたこともありますが、とても楽しい時間だったことを思い出します。

 こんな個人的な想いに加え「社会がまた一人、大人を失った」というショックが重なり、訃報から2日が経つ今も悲しみが消えません。19日の晩にちょうどソウルで在日コリアンの先輩方との忘年会があったのですが、人目もはばからず涙を流しながら飲み倒しました。

 すでに沢山の方がSNSなどで哀悼の意を表しているのを見ても、故人の存在の大きさを感じずにいられません。これから日本の出版社で追悼特集などが組まれるかもしれません。ぜひ関心を持ってご覧いただけれたらと思います。

 社会に何を問うのかという気持ちを、忘れずにいたいものです。ありがとうございます。(徐台教)

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