サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。
毎週金曜日のジャーナルは楽しんでいただけていますでしょうか。いくつか感想が届いておりますが(ご返信は順に行っています)、いったいどう読まれているのかもっと知りたいのでご感想などお送りいただけると嬉しいです。ジャーナルは内容を充実させながら、できるだけ長い間つづけていきたいと思っているのでよろしくお願いいたします。
さて、今号からは新しい取組として、南北関係や朝鮮半島情勢の一週間の動きをまとめたものをお送りします。あまり長くなりすぎないよう、簡潔に状況が理解できる形にしたいと思います。毎週水曜日に発行します。
これに伴い、ニュースレターには通し番号(今号は33号)と共に「朝鮮半島情勢号」を表す「K」を付けることにします。今号は「第33号 K-1」となります。
なお、金曜日のジャーナルは頭文字「J」を付けていきます。例えば今週金曜日号は「第34号 J-5」となります。
◎朝鮮半島問題の動き(~2月6日)
・最大の懸念「ビラ撒布」に反対する市民たち
ニュースレターを通じ何度も強調してきたように、北朝鮮の金正恩政権の自滅となる南北間の全面戦争というのは現実的にあり得ないという見解が専門家の間で大勢を占めています。一方で「全面戦に発展しない形での南北の局地的衝突」もしくは「偶発的は衝突」の可能性があるという声もまた多いのが現実です。
この指摘は、韓国の市民団体による北朝鮮への「ビラ撒布」がそのトリガー(引き金)となるという点までがセットです。住民に直接的な思想的影響を及ぼしかねないビラをとても嫌がる北朝鮮当局が、ビラを運ぶ大型風船をはじめ発射の「原点」をも砲撃するといった軍事的衝突が起こる可能性が指摘されています。
いわばこの「予想できる衝突」をどう防ぐのかが今後、尹政権に問われることになるのですが、住民の不満とくに軍事境界線に近い地域(いわゆる接境地域)の住民にとっては大きな不安となります。過去に実際に北朝鮮による「ビラ撒布への原点砲撃」があったからです。2014年の出来事です。
そんな中、住民と市民団体が合同で、軍事訓練ならびに北朝鮮へのビラ撒布を反対する集会を開きました。場所は、板門店そして北朝鮮へと続く国道一号線の入り口、坡州(パジュ)市の統一大橋です。これを報じた『ハンギョレ』によると、参加者たちは南北対話チャンネルがすべて途絶した中で『9.19南北軍事合意書』が無力化し軍事的緊張が高まっている点を指摘しながら「接境地域の衝突を助長する軍事訓練と北朝鮮へのビラ撒布を中断すること」を求めたとのことです。
ちなみに現在は北西風のため韓国から北朝鮮へビラを飛ばすことはできませんが、3月末から4月初頭にかけ南風に変わります。この時にビラ撒布が一気に増えます。
集会の様子を伝える日刊紙『ハンギョレ』の記事。同紙より引用。
・統一部/国防部長官の「暴走コンビ」
2月5日には、ソウル市内のホテルで韓国内の4大国策シンクタンクと統一部長官による座談会が開催されました。
この場で金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官による驚くべきひと言がありました。「新年に入り、わが政府は自由の北進政策を推進していくだろう」というものがそれです。ニュース記事で見て、一瞬目を疑いました。歴史上のものになったとばかり思われていた「北進」という言葉が、他でもない統一部長官から飛び出したからです。
「北進」よは韓国の初代大統領、李承晩(イ・スンマン、1875~1965)の代名詞的な存在です。北側に進撃する、つまり武力で南北統一を成し遂げるというものです。李承晩が退陣した1960年以降には使われてこなかった言葉が「自由」という単語と共に復活した訳です。
おそらくこれは、金正恩氏が朝鮮戦争を仕掛けた祖父・金日成の言葉「国土完整」を引用した「領土完整」という言葉を使っているため、これに反撃する目論見の下で敢えて「北進」を引っ張ってきたのだと思われます。とはいえ、明らかに戦争を想起させる言葉であります。
実際の戦争ではなく言葉で闘うのはまだマシと考えることもできるでしょうが、危なっかしくてとても正視に耐えません。
統一部の金暎浩長官。「北朝鮮とは統一したくない」と常々主張してきた人物です。統一部より引用。
金暎浩統一部長官に劣らず過激なのが、申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官です。
こちらは先月24日、韓国空軍の17戦闘飛行団を訪ねた席で兵士たちを前に「万一、金正恩政権が戦争を起こす最悪の選択をする場合には、皆さんは『大韓民国を守る見えない力』として最短時間の内に的の指導部を除去し政権の終末を告げる先鋒になるべき」と述べています。
これにはさすがに北朝鮮側も反発しましたが、いずれにせよ“金・申コンビ”は早く交代させるべきと思います。危険です。
・行き場のない韓国世論
興味深い世論調査も紹介します。韓国の財閥企業SKの経営者を記念して作られた『チェ・ジョンヒョン学術院』が昨年12月15日から今年1月10日にかけて『韓国ギャラップ』社に依頼して行ったものです。
今月5日のシンポジウムで結果を発表したのですが、これによると「北朝鮮の非核化が可能か」という質問に対し41.4%が「全く可能ではない」、49.7%が「可能ではない」と答えたとのことです。合計で91.1%、かなり高い数値です。なお昨年の調査では77.6%が「可能ではない」としたとのことで、韓国市民の諦めムードが伝わってきます。
また「朝鮮半島有事の際に米国が核抑止力を行使すると見るか」という質問(よく分からない質問ですが)には「そうではない」60.8%、「そうだ」39.3%という結果でした。米国に対する不信が見て取れます。これにつながる設問としては当然「韓国独自の核開発が必要か」というものが続きますが、これについては72.8%が「必要だ」と答えたとのことです。
付け加えると、独自核武装の可能性は今も昔も「ゼロ」です。韓国が貿易で食べていく国である以上、NPT体制から脱退時に起きる国際的な信用低下に耐えて経済水準を維持することは不可能です。
ですが要求世論は高く無視できません。このため尹政権は昨年来、代案として米国に対し確実な「核による即時報復」の約束を取り交わし、その実行プロセスを確定し韓国が加わることを求め続けているのです。
それでも不安なのが現実です。このため保守系シンクタンクからは「米国の戦術核を韓国へと再配備すべき」という声が上がっています。1991年に南北非核化宣言を行う際にすべて撤去されたものを再び持ち込むことで、核抑止力が確実になるというものです。
世論調査結果を発表するチェ・ジョンヒョン学術院のシンポジウムの様子。同学術院HPより引用。
・迷走する韓国の統一構想
この他にもいくつかの気になるニュースがありました。
聯合ニュースは1月23日付けの記事で「尹錫悦政権の『新統一未来構想』の発表が遅れている」と報じました。同構想は1994年の金泳三政権下で発表され、歴代の韓国政府が公式的な統一方案としてきた『民族共同体統一方案』を変えるための「たたき台」の役割をすると見られてきたものです。
本来ならば昨年末までに発表され、それを元に今年、制定から30年を迎える『民族共同体統一方案』をも刷新すると見られてきました。しかし統一部が韓国メディアの記者団に対し「(新統一未来構想の)発表内容や形式、時期などはまだ何も決まっていない」と明かしたというのです。
たたき台がないため当然、次段階の『民族共同体統一方案』の刷新も先延ばしになるでしょう。
背景には昨年末の朝鮮労働党全員会議で金正恩氏が「北南関係はこれ以上は同族関係・同質関係ではない、敵対的な二つの国家関係、戦争中にある二つの交戦国関係」としたことがあると聯合ニュースは見ていますが、これは当然です。
現行の『民族共同体統一方案』は過去にニュースレターで何度も繰り返し書いてきたように、1980年代末から90年代初頭にかけて韓国社会の話し合いの下、国会で全会一致の合意の下で決められたものです。激しい政党間の対立は当時にもありましたが、それでも国家の命運を分ける統一政策の部分では社会の一致をみたわけです。
この原則に従うと今回、尹政権が政権独自の判断で同方案を変えようとしているのは、全く間違ったものの進め方をしていることになります。記事内には方案から「民族」の外すことも検討されているといいますが、皮肉にも金正恩氏の年末の発言が尹政権の動きを止めていることになります。
韓国内では4月に総選挙を控えていることもあり、南北関係の今後をどうするのかの対話が全く行われていません。まずはじっくりと政党間、陣営間で対話することが大事です。
・米韓、日米韓軍事協力
最近になって、北朝鮮による巡航ミサイルの発射が続いています。1月24日、28日、30日、2月2日と立て続けに「発射実験」を行っています。
背景について韓国国防部は「武器開発のための性能試験の目的」と判断している一方、今回のような出来事は「これまでに無かった」とし、分析を急いでいます。2月2日のミサイルについて北朝鮮は「超大型戦闘部の威力試験」としており、これについて韓国の専門家は「核弾頭を載せられると見せつけるもの」と分析しています。
こんな北朝鮮のミサイル発射情報を日米韓で共有することについての記事もありました。
きっかけは読売新聞2月4日の記事でした。記事は「1月14日の北朝鮮のミサイル発射では、対策強化策として日米韓3か国によるレーダー情報の即時共有が初めて実施された」と伝えています。昨年12月に共有システムが完成して以降、はじめての「実戦」となったものでした。
一方で同記事では「死角となる水平線の先で韓国軍が捉えた情報が即時に共有された結果、早期にレーダーの照準をあわせやすくなり、追尾開始が早まった」としながらも、着弾時に追い切れなかったと明かしています。
これに対し聯合ニュースが翌日5日に関連記事を出す中で「北朝鮮の核・ミサイルの脅威は高度化・先端化し続けており、これを抑制する韓米日3国の対応もこれに合わせより綿密になる必要がある」としました。なお、米国防部は探知失敗を言明せず「具体的に言及しない」と答えています。極超音速ミサイルの探知は難しいようです。
朝鮮中央通信は1月29日、前日に金正恩氏が潜水艦発射戦略巡航ミサイルの試験発射を指導したと報じた。写真は労働新聞より。
日韓の軍事協力については週刊誌『週刊朝鮮』にも興味深い記事がありました。
日本の著名議員の補佐官が韓国に頻繁に訪問していて、どうやらその背景には『日韓相互軍需支援協定(ACSA)』に向けた日韓の水面下の調整があるのではないかというものでした。
ACSAは現在のGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の次ぐ目標として日韓で兼ねてから言われてきたことで驚きはないのですが「日韓がACSAに向けて動いているかもしれない」という記事が主流メディアに出たことで、一部で評判となっているようです。
記事ではさらに日本が昨年末に防衛装備3原則を改定したことを取り上げ、日韓が共同で世界の武器市場に進出することも考えられるとしており、今後この分野での議論が高まるきっかけになりそうな記事でした。
・核戦争における韓国の役割
軍事協力の分野では、2月1日に『聯合ニュース』が行った米韓NCG(核協議グループ)の米側代表への書面インタビューが興味深かったです。内容の中心は当然、米韓の核抑止力の運用過程を実際にどう高めていくのかというもので、これに対し米側は「具体的には明かせない」との姿勢で一貫しており大きな意味はありませんでした。それでも特記すべき三つの内容を抜粋して翻訳してみます。
――米国の核作戦時における韓国軍の役割は何か
昨年4月、尹錫悦大統領の訪米時、米国は核脅威のシナリオに対する米韓同盟の対備態勢を強めるために、韓国の当局者たちに核抑止に対する教育と訓練を提供することを約束した。この過程のうち一つは昨年11月に米国で成功裏に開催された。さらに駐韓米軍や米韓連合司令部に配置された軍は危機または紛争時に戦略的な抑制作戦を支援する活動に対し定期的に訓練を行う。米韓は韓国のすべての先端能力を米韓同盟連合防衛態勢に適用する方案をNCGおよび別の会議を通じ検討している。ここには韓国の新たな戦略司令部の能力と企画活動を米韓連合司令部と連携するための米国との協力が含まれる。
――北朝鮮は先制核打撃の可能性も排除していない
米国の対北朝鮮抑止戦略は(北朝鮮の)核兵器、化学武器、ミサイル、在来式能力が提起する脅威を認知している。我々は韓国と緊密に協力しあらゆる状況に対する対備態勢を整え準備している。特に金正恩政権が核兵器を使う場合、恐ろしい結果があることを我々は(北朝鮮への抑止)戦略で明らかにしている。
バイデン大統領は韓国と韓国の国民に対する防衛公約が持続的で鉄のようであることと、韓国に対する北朝鮮のいかなる核攻撃にも迅速で圧倒的で断乎とした対応で立ち向かうことを確言している。金正恩政権が核兵器を使った後で生存できるシナリオはない。
――北朝鮮の核に対する対応に関連し、日米韓3者協力の次元における日本の役割は
我々は日米韓3国協力の強化が北韓の核・ミサイルの脅威を効果的に抑制する傍ら、必要な場合これに対応し、インド・太平洋地域の平和と安定を強めることにおいても必須であると考える。
米国は北朝鮮だけでなく中国とロシアの核・ミサイルに対する憂慮が増大していることを認知している。米国は域内の安保環境の変化に対応する方式で抑止力を強めるために努力している。
引用はここまでです。
この他にも米側代表は北朝鮮がロシアへの戦争協力の代価として「弾道ミサイル生産装備の材料、先端技術を含む軍事的な支援を受けようとしている」と述べています。さらに、ロシアがウクライナで北朝鮮の弾道ミサイルを使っていることを改めて認め、これが「核武器の運搬体系を完成させようとする北朝鮮に重要な技術および軍事的な洞察力を提供している」と明かしました。
・北朝鮮の脅威はグローバルな問題
せっかくなのでもう一つインタビューを紹介して今号を終わろうと思います。
米国務省で北朝鮮政策を総括するチョン・パク(Jung H. PAK)対北高位官吏(次官補級、名前が北朝鮮担当特別代表から変更になった)のもので、やはり韓国の『聯合ニュース』がオンラインで行ったものです。記事は2月4日に配信されましたが、質問は21個におよびとても全てを紹介しきれないので、いくつかだけ抜粋します。
まず北朝鮮の見方については、ロシアとの関係において過去と最も異なると評価します。続いて「米国はいつ最後に北朝鮮に対話を提案したのか」という質問には「定期的に行っており、すでに何度も行った」としながらもその時期は明かしませんでした。
「米国の対話の提案が本気だということを北朝鮮に伝えるよう努力したか」という質問には「当然だ」としながら「北朝鮮が外交を望まないという決定をした」と答えています。
また現在、北朝鮮がロシアと中国以外には国境を閉ざしていることを挙げ、各国外交官がふたたび北朝鮮に戻れることを希望すると述べています。
チョン・パク(Jung H. PAK)対北高位官吏のインタビューを伝える聯合ニュースの記事。同サイトより引用。
付言すると年初から北朝鮮はロシア・中国との外交を活発に行っています。1月14日から19日にかけては北朝鮮の崔善姫(チェ・ソニ)外相がロシアを訪問し、16日にはプーチン大統領とも面会し、経済・技術など多様な分野での協力事業の活性化を進めるとしました。1月25日には外交部副部長を団長とする中国外交団が平壌を訪れています。
インタビューに戻ります。面白かったのは「バイデン政権の北朝鮮政策が『戦略的忍耐』であるという評価に同意するのか」という質問でした。オバマ政権の8年の無為と同じではないかという質問ですが、これに対し「北朝鮮の態度変化を黙って待っていたことはない」と強くNOと述べています。米国がどんな評価を嫌っているのかが表れていますね。
さらに「バイデン政権がウクライナと中東戦争のために北朝鮮に集中する時間と資源が足りないという憂慮がある」という質問には、「関心を減らしていない」としながら以下のように答えています。
「ロシアと北朝鮮の協力強化が北朝鮮の脅威をグローバルな問題にした。もはや北朝鮮の問題は欧州の戦争とも関連している。そして北朝鮮の問題はインド太平洋地域だけでなく、全世界的にとても重要になった。欧州の同盟とパートナーの食糧とエネルギー安保、主権と領土保存の原則、非拡散体制に影響を与えるためだ」
こうした認識が改めて語られると、朝鮮半島問題の難しさが分かります。非常に興味深い一方で、ため息がでるインタビューでした。
◎あとがきに代えて
いかがでしたでしょうか。このような形を基本に今後、毎週水曜日に南北関係、朝鮮半島情勢のニュースをお伝えしていきます。シンクタンクから出ている各種レポートのまとめなども今後増えていくと思います。ライフワークとも言える分野なので、疎かにはできません。ご期待ください。(徐台教)