ニュースレター号

[34号 J-5] 尹大統領新年特別対談まとめ、脱北民6000余人調査レポート紹介、コラム、韓国政治など

 サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。毎週金曜日のジャーナルをお届けいたします。

 韓国は今日金曜日から4日間、お正月(ソルラル)の連休です。陰暦のため毎年日にちが異なるのですが、今年のお正月(今は旧正月という言葉は使わなくなりました)は2月10日となります。

 カカオトークなどには新年の挨拶が飛び交っており、何やら1月からずっとお正月が続いている気分です。

 今号の目次です。

1.巻頭コラム:同僚を求める気持ち

2.読書体験:『北韓 経済・社会実態 認識報告書』(2024、統一部)

3.ショートニュース

(1)与党の韓東勲非常対策委員長のボランティア、「貧困を盗んだ」との指摘

(2)医大定員2000人増員、尹錫悦大統領の大勝負

(3)韓国政界の「第三極」4勢力が合併

4.番組紹介:尹錫悦大統領 新年特別対談(2月7日、90分)

5.あとがきに代えて

 それではごゆっくりお楽しみください。

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◎巻頭コラム:同僚を求める気持ち

 私がジャーナリストとして独立してから9年目になる。思えばその間ずっと一人で記事を書いてきた。媒体に寄稿する場合には編集者が付くとはいえ、そう頻繁にあるものではないため、基本的にはすべて一人である。リサーチし、アポを取り、取材に行き、記事を書き、記事を読める形にウェブにアップロードする。ひたすらこれを繰り返してきた。

 フリージャーナリストならば当然といえるこんな作業を決して嫌っている訳ではない。さらに寂しい訳でもない。しかしここ数年は「もったいない」と思うことが増えてきて、最近ではその想いを抑えきれなくなっている。

 在日コリアン3世であり、さらに南北関係をメインテーマに取材している私のような人物は韓国で珍しいため、取材上の様々なメリットがある。韓国政府により多くの在日コリアン留学生が北朝鮮のスパイとでっち上げられ死刑判決を受けた70年代とは隔世の感があり、諸先輩方には申し訳ない気持ちを常に持っている。その上で最大のメリットを挙げるならば「大家と呼べるような専門家が気軽に会ってくれる」というものがある。

 自己紹介の時から出自を明かすため、珍しがってくれるのか出会いに結びつくことが多いのである。そうやってこれまで少なくない元高官や国会議員、泰斗と呼べる専門家にインタビューすることができた。しかし、素晴らしい財産と言えるこんな経験を果たして一人占めしてよいのかと悩んでいる。

 とりわけ、世間には一度しかインタビューできない人物が存在する。元高官などが得てしてそうで、アポ取りの難しさや高齢などの理由から「最初で最後のインタビュー」というのが分かる場合には、ぜひ誰かと貴重な時間を分け合いたいと思うのだ。

 だから最近では常に、一緒に韓国で朝鮮半島情勢を取材できる人を探している。できれば同じ在日コリアンで、と考えるが無理は言わずどんな出自でも構わない。言論を通じて朝鮮半島の平和に寄与していく気持ちを持つ人物はいないだろうか。いったい誰に聞いているのかという話であるが、南北朝鮮でドラスティックな変化の兆しがある今こそ、その動きを共に追いかける同僚が欲しい。

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◎読書体験:『北韓 経済・社会実態 認識報告書』(2024、統一部)

 今週は書籍ではなく、韓国の統一部が2月6日に公開した『北韓 経済・社会実態 認識報告書』を見ていきます。これは2010年以降に統一部が行ったアンケートならびに聞き取り調査の内容を整理・分析したもので、対象となった脱北民は6351人にのぼります。調査項目は1100にのぼるとのことで、内容は多岐にわたります。公開直後から報告書の内容が韓国メディアで何度も報じられています。

 従来は3級機密であったものを一般に開放した背景について、金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官は「韓国の国民が北韓住民が直面している現実を理解し、これを改善するための努力と連帯に参加するきっかけになることを望む」と明かしています。金正恩政権の「正当性」を否定する目的があるということです。とはいえ、興味深い内容が多く紹介する価値は十分にあります。

 報告書は下記統一部HPで誰でもダウンロードできます。要約版は24ページ、フルバージョンは248ページです。ここでは要約版を中心にその内容をグラフと共に紹介いたします。なお、各項目のタイトルは統一部の報告書をそのまま引用したものです。

(1)配給制の崩壊、無賃金「忠誠」払い

 上のグラフは『食糧配給の経験』の比率です。緑色が「配給経験無し」、青色が「配給経験あり」、灰色は「分からない」です。横軸は「脱北年度」で、左から「2000年以前」、「01~05年」、「06~10年」、「11~15年」、「16~20年」となっています。

 これを見ると食糧配給を受けていない割合は一定でしたが、16~20年の間に上昇していることが分かります。

 下のグラフは『職場での食糧配給および賃金支払い』支給の有無です。緑色は「食糧配給」、青色は「賃金支払い」を受けた人の割合で、赤色が「すべて無い」という人の割合です。これもここ20年間で「すべて無い」と答えた人の割合が増えているのが分かります。

 報告書では「北韓の公式の職場ではきちんとした賃金の支払いもないまま、情熱と忠誠心だけ強調し労働力を搾取することが日常的に行われている」としています。

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(2)増えた穀物生産量は農民ではなく当局と軍へ

 協同農場で生産された農作物がどのように分けられているのかという内容です。紺色が2011年以前、朱色が2012年以降(金正恩政権以降)です。左から「当局の収買」、「軍部隊への供給」、「農場員への分配」となります。2012年以降、軍部隊への供給が増えると同時に、農場員への分配が減ったことが分かるとしています。

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(3)幹部の収奪、賄賂の盛行

 円グラフは「家計の月収入のうち、幹部および政権に収奪された比率」と問うものです。左から「調査期間全体」、「2011年以前」、「2012年以降(金正恩以降)」となっており、オレンジ色の枠組は「家計の30%以上を収奪された」と答えた人々の割合です。これが2011年以前には32.8%だったものの、2012年以降には41.4%になったとのことです。

 さらに下のグラフは「賄賂を使った経験の有無」です。2011年以前には24.2%だったものが、2012年以降には48.3%になったとしました。16年~20年に限る場合54.4%にのぼるとのことです。

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(4)日常化した社会統制

 金正恩政権になった2012年以降、当局の監視と統制が強化されたというものです。

 上のグラフは「最近3~4年の社会監視および統制が強まった程度」を聞くもので、紺色が「とても強まった」、緑色が「多少強まった」です。上から「全体」、「2011年以前」、「2012年以降」となっていますが、大きく増えているのが分かります。

 下のグラフは「居住地で監視・家宅捜査を受けた経験」です。紺色が「居住地での監視」、緑色が「居住地での家宅捜査」を受けた割合です。年度が進むにつれ増加しています。

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(5)電気も暖房も「自力更生」

 慢性的なエネルギー不足を表す内容です。上のグラフは「家庭用電力供給時間」です。一日にどの程度、電力が供給されるのかで、単位は時間です。2000年以前は5.7時間だったものがその後低下し、16~20年でも4.3時間となっています。

 下のグラフの左は「家庭用電力の供給方法」です。国からの供給がない中でどのように電力を確保しているのかです。青色が「当局からの供給」、赤色が「自力確保」、黄色が「違法な方法」です。自力確保では16~20年に限る場合、蓄電池、太陽光パネル設置が9割を占めます。

 下のグラフの右は「居住住宅の暖房の燃料」です。時期は2012年以降で、最も多い紺色が「木(薪)」で、次に多い緑色が「石炭」となっています。いずれも自給自足とのことです。

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(6)法の網を避け「マイホームを工面」

 「北朝鮮では住宅は公式には当局の所有であり、法的には個人間での売買が禁止されている」中で、住宅の売買(利用許可証の売買)経験がある回答者の割合です。

 濃い青が「譲渡した経験」、水色が「譲渡された経験」、濃い赤が「販売した経験」、薄い赤が「買った経験」です。年度が進むにつれ取引が増えているのが分かります。報告書では「16~20年の間は46.2%にのぼる」と強調しています。

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(7)市場で生計を担う女性たち

 出勤を義務付けられる職場で男性(夫)が満足な配給や賃金を受け取れないことから、女性が市場で商売し生計を担っています。このことで、北朝鮮の家庭に変化が起きているようです。

 上のグラフは「女性の市場活動が家庭内の女性の位相(地位)に及ぼした影響」です。青色が「何の影響も与えていない」、緑色が「位相が多少高まった側面がある」、紫色が「夫と位相が同等になった」、朱色が「夫よりも位相が高まった」です。2000年代以降、女性の地位が家庭内で高まっているのが分かります。

 下のグラフは「結婚当時の年齢」です。徐々に高まっているのが分かります。報告書では「女性の家庭経済の寄与度が高まった」ことが背景にあるとしています。

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(8)国営経済から私経済へと

 国営経済を維持してきた北朝鮮の市場化についての分析です。グラフは「経済活動に従事する者の割合」で、青色が「国営経済活動」、赤色が「私経済」活動、緑色が「国営+私経済」となります。私経済には商売、個人畑の耕作、密輸などが含まれるしています。国営経済と私経済が途中で逆転し、私経済がその後も上昇を続けているのが分かります。

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(9)「三代世襲」、「白頭血統」世襲に対する冷たい視線

 上のグラフは「金正恩の権力継承に対する否定的評価」です。2000年代に入り高まっていることが分かります。特に2011年(同年年末に権力を継承)以降では大きく上昇しています。横軸は「脱北年度」なので当然といえば当然ですが。

 下のグラフは「白頭血統による世襲に対する否定的評価」です。白頭系統と言うのは、金日成—金正日—金正恩に連なる家系のことです。これも次第に高まっているのが分かります。

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(10)厳しい取締りの中でも、こつこつと流通する外部情報の力

 最後です。上のグラフは家庭内の情報機器保有の現況です。紺色は「2011年以前」、うぐいす色は「2012年以降」です。左から「一般電話」、「携帯電話」、「CD/DVDプレイヤー」、「パソコン」、「MP3プレイヤー」です。拡大には目をみはるものがあります。なお報告書は「多様な情報機器が拡散しているが、これが情報の開放を意味するものではない」としています。

 下のグラフは「インターネット使用経験」です。赤色が「ない」、青色が「ある」、上から「全体」、「2011年以前」、「2012年以降」となりますが、いずれも極めて低いことが分かります。

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 以上です。北朝鮮の住民ができる範囲で必死に生きている様子が伝わってくるかのような調査結果でした。こちらは要約版からの引用でしたが、フルバージョンではより細かい項目が存在します。今後、折りに触れ紹介したいと思います。

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◎ショートニュース

(1)与党の韓東勲非常対策委員長のボランティア、「貧困を盗んだ」との指摘

 韓国ではお正月を控え、政治家が様々なパフォーマンスを行っています。定番としては、市場を訪れ商売人や市民と交流するものや、交通のハブであるソウル駅やソウル高速バスターミナルを訪れ帰省客に挨拶するものがあります。今年は4月に選挙を控えているだけあって、例年よりも気合いが入っている様子です。

 与党・国民の力の臨時代表を務める、韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長も例に漏れず活発に活動しています。

 8日、ソウル駅で挨拶を済ませたハン委員長は、ソウル東北部の中渓(チュンゲ)洞の開発が遅れた貧困な地域(タルトンネ)に向かいました。暖房代に事欠く住民達にストーブに使う練炭を配るためです。『聯合ニュース』や『KBS』によると、ハン委員長は「同党の青年党員50人と共にリヤカーを引き、険しい坂を上下しながら練炭を運び、その後は坂の上の家々に背負子と手で練炭を運んだ」とのことです。

 その映像と写真を見たのですが、私は正直「ドン引き」でした。ハン委員長の煤けた顔があまりにもやらせっぽかったのと、リヤカーを引く写真の笑顔にパフォーマンスとしての行動である点が透けて見え、直視できませんでした。何よりも政治に新たな風を吹き込むかと期待された韓東勲氏も、既存の政治家と何ら変わらないという失望がありました。

練炭を配達するボランティアを行う韓東勲非常対策委員長。『THE FACT』より引用。


練炭を配達するボランティアを行う韓東勲非常対策委員長。『THE FACT』より引用。

 そんな中、1000回以上シェアされているFacebookの書き込みが目に入りました。ある評論家がハン委員長の姿を「貧困を盗んだ」と表現するものです。

 ハン委員長がリヤカーを引く写真と共に、以前ニュースレターでも紹介した朴婉緒(パク・ワンソ)の小説『盗まれた貧困』を引用しながら、「あの地域に住む人々は生涯一生懸命働いても、地域を出られない貧しい人々だ」とし、「そこに『タワーパレス(韓国で最も高価なマンションの一つ。ハン委員長の住居)』に住む韓東勲のような人物が突如あらわれ『恵まれない人々を助ける』という名目で貧困を盗んでいる」と批判したのです。

 そして「一時的に経験する『貧困』は自身がいかに立派な人間かを再確認する良い機会になる。韓東勲はこうした貧困経験を通じ、豊かなエリートとして生きていく自分自身をより誇らしく立派に思うかもしれないが。生涯をあの地域で生きてきた人々はより深い侮蔑感と羞恥、悲惨さを感じ、写真に撮られる道具や対象として転落した自分自身を責めるだろう」と続けたのでした。

 私が受けた印象もまさにこの通りでした。韓東勲氏の本心はもちろん分かりません。だが評論家の書き込みが多数シェアされているのを見ると、同じ思いを抱いた方が多かったようです。一方で政治家一年生として、ただ前例に従っただけと擁護することもできるでしょう。今はただ、韓国政治にまた一つ失望した出来事として記録しておきます。

「毎年練炭を寄付します」という国民の力のバナー。同党より引用。


「毎年練炭を寄付します」という国民の力のバナー。同党より引用。

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(2)医大定員2000人増員、尹錫悦大統領の大勝負

 韓国政府は6日、医大の定員を現行の3058人から2000人増員することを発表しました。

 06年から据え置かれてきたものを大きく変える背景について政府は、このままでは2035年に1万5000人の医師が足りなくなる点を挙げています。

 過去にニュースレター第9号でお伝えしたように尹政権は「国民の健康と生命に直結した、地方の必須医療の崩壊および地域間の医療格差」を社会的な課題と設定し、この改善に取り組んできました。

 『聯合ニュース』によると、韓国における2021年の医師数は人口1000人あたり2.6人で、OECD(経済協力開発機構)加盟国平均の3.7人に大きく満たないワースト2位です。

 各種世論調査で世論は8割以上が医師の増員を支持しているという結果もあり、今回の決定がうまくいく場合、尹錫悦政権の「レガシー(長く残る成果)」になる可能性があります。4月の総選挙を前に、誰もできなかった改革を現実にできれば低迷する支持率の反転上昇も見込めます。

 問題は医師団体の反対です。韓国最大の『大韓医師協会(医協)」はすぐに会見を開き、政府の決定を批判すると同時に「強行する場合には総ストライキも辞さない」と述べました。さらに『大韓専攻医協議会』も団体行動に参加すると明かしています。

 大統領室はこうした動きに対し「医療界も韓国の未来のために共に行動してほしい」と自制を呼びかけています。ストライキが行われる場合にはすぐに医療法に従い「業務開始命令」を出し、これに従わない場合には医師免許の剥奪という強硬措置に出ることもちらつかせています。医療界も辞表を書くことで同命令を回避するとしており、対立の機運は高まっています。

 一方、医師の増加だけでは地方間格差や必須医療分野の不足といった医療問題を解決できないという声も上がっています。

 政府としては、まず一歩踏み出し、そこから改革を重ねていく形が望まれるでしょう。与野党の協力が欠かせない分野であることは間違いありません。

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(3)韓国政界の「第三極」4勢力が合併

 正月連休の初日の9日、大きなニュースが飛びこんできました。

 巨大両党(国民の力、共に民主党)による政治の独占を打破すると政治改革を訴えてきた第三極の4つの勢力が合併し、来たる4月10日の総選挙で力を合わせることとなったのです。

 この日合併を決めたのは「改革新党」、「新しい未来」、「新しい選択」、「原則と常識」です。

 「改革新党」は李俊錫(イ・ジュンソク、38)元国民の力代表が24年1月に作った政党です。梁香子(ヤン・ヒャンジャ、56)議員率いる「韓国の希望」と既に合併を済ませています。

 「新しい未来」は李洛淵(イ・ナギョン、70)共に民主党元代表(元国務総理)が率いています。

 また「新しい選択」は元議員の琴泰燮(クム・テソプ、56)氏が率いる政党で、第二野党・正義党内の革新勢力も一部合流しました。

 さらに「原則と常識」は共に民主党内の革新勢力の集団となります。

4勢力合併を伝える『ハンギョレ』。右から李俊錫、李洛淵、琴泰燮。


4勢力合併を伝える『ハンギョレ』。右から李俊錫、李洛淵、琴泰燮。

 4つの勢力は今後『改革新党』という名前で選挙に臨むことになります。共同代表は李俊錫、李洛淵、選対委員長には経験豊富で知名度が最も高い李洛淵氏が選ばれました。また、党の最高委員は各勢力が1人ずつ推薦するとのことです。

 韓国の通信社『ニューシス』によると、合併の発表後、李洛淵協同代表は「大韓民国を検察の暴走と防弾の泥沼に沈めた、無能で堕落した巨大両党の独寡占政治をぶち壊す」と明かしました。これは尹錫悦、李在明両氏を強く批判するものです。

 以前の記事でも書いたように、4月の総選挙のテーマは「尹錫悦政権の審判(評価)」、「政治改革」、「新たな議題設定」の3つです。このうち「政治改革」が一歩前進したことになりますが、急ごしらえとなる今回の取組がうまくいくのかに注目です。

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◎番組紹介:尹錫悦新年特別対談(2月7日、90分)

 お正月を控え、尹錫悦大統領による新年特別対談が放映されました。日本のNHKにあたるKBSで今月4日に録画されたもので、インタビュアーは同社夜9時のメインニュースで男性アンカーを務める、パク・チャンボム氏でした。

 先に結論から言うと、評価は散々でした。そもそも、記者たちが自由に質問できる一般的な記者会見を1年5か月も開いていない尹大統領の臆病で非常識な行動への批判が社会に幅広く存在します。その上で、対談そのものの内容がひどかったということでいわば「二重の批判」となっているものです。

 対談映像は上記のYouTubeリンクからすべてご覧いただけます。途中、普段は見られない大統領室の案内などもあり面白い部分もありますが、そんなものどうでもいいからしっかりお話しくださいという感じですね。

 内容は▲政治行政、▲経済、▲社会、▲未来、▲外交安保、▲地方時代という6つのテーマに分けて行われました。本記事では全体の流れをざっくりとなぞりながら、日韓の外交関係や北朝鮮との南北関係についてなど、ニュースレターと関連がある部分をさらに抜き出して見ていきます。

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 対談は大統領室に前から始まります。パク氏は「ドアステッピング」について尋ねます。いわゆる日本でいう「ぶら下がり」というもので、毎朝大統領室に出勤する尹大統領に記者が質問もする制度です。就任後、鳴り物入りで取り入れたのですが、22年11月に中止しました。テレビ局MBCの記者が踏みこんだ質問を行い大統領室と揉めたことが原因です。この経緯は、ニュースレター30号で紹介した『記者遺憾』という本の解説で詳しく触れています。まだお読みでない方はぜひどうぞ。

 パク氏は「ドアステッピングを中断して記者と会わなくなったが、気分はどうですか。楽ですか、それとも寂しいですか」と、いきなり訳の分からない質問を投げかけます。ここで私はずっこけました。そんな「お気持ち」を聞いてどうするのでしょうか。すでにお分かりかと思いますが、一事が万事、今回のインタビューの質問はこんな「表面をさらりとなでる」ものばかりでした。

 パク氏がインタビューを通じ大統領といい意味で対決するのではなく、ただ準備された原稿を読んでいるという形です。尹大統領は「毎朝の発言が夕方になるまでニュースを飾り、各政府部署のメッセージが伝わりにくくなったために止めた」という旨の返答をしながら、「言論(韓国ではメディアをこう呼びます)と接する機会を少しずつ作っていく」と述べるにとどまりました。

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 場所を執務室に移し大統領の机の前にある小さな札がクローズアップされます。英語で「The BUCK STOPS here!」と書かれています。これはトルーマン米大統領(任期1945~53)の執務室にもあったもので、尹大統領は「すべての責任は私が負う。責任はここで終わる。最終決定権者であるということ」とこれを解説し「トルーマンが原爆投下を決め、朝鮮戦争の参戦決定も迅速に行ったが、普段からこの言葉を好んでいる」と明かしています。

 ちなみに、この札は上記のエピソードを聞いたバイデン大統領から送られたものです。ホワイトハウスの木を切って作ったそうです。「どんだけ米国が好きなんだ?」とひとり言が飛び出したのは内緒です。

 とまあ、こんな調子で書いてるとキリがないので次にいきます。

 物価と保育の問題をなぞった後で、低出生率について聞きます。韓国の23年度の合計特殊出生率は「0.70(暫定値)」と世界でダントツ最下位です。尹大統領はこれについて「1.0を目標にする」としながらも「韓国社会が過度な、または不必要な競争にあまりにも多く振り回されているのではないか。もう少し家庭を重視し、ヒューマニズムに立脚した価値を持って生きなければならないという観点からアプローチしようと努力している」と述べました。

 …。次にパク氏は国務会議(閣議)が行われる部屋に案内され、嬉しそうに大統領の椅子に座ります。本当にどうでもいいシーンですね。

「The BUCK STOPS here!」と書かれた文字版。執務机の上に置いてあります。同映像よりキャプチャ。


「The BUCK STOPS here!」と書かれた文字版。執務机の上に置いてあります。同映像よりキャプチャ。

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 話題は経済に移ります。ここでは31号の冒頭コラムでも取り上げた、やはり韓国が世界ワーストとなっている労働災害死亡者について触れています。事業主に刑事責任を問う『重大災害処罰法』を50人以下の事業者にまで適用する猶予期間をめぐり与野党の間で意見の相違があったのですが、尹大統領が「猶予を伸ばすべき」という立場でした。パク氏は改めてこの立場について聞いています。

 尹大統領は「処罰の水準がとても高く責任の範囲が広いため中小企業がこれを受け入れるのはとても難しい。経営が悪化し倒産する場合には多くの労働者が職を失うため、事後処罰よりも予防を強化する方向に時間の余裕を持とうということだった」と述べています。さらに国際的な要件悪化を挙げながら、企業側の立場に立ち続け、猶予すべきという立場を繰り返しました。

 次に政治の話に移ります。

 最大野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表になぜ一度も会わないのか、それは李代表が裁判を抱えているからかとの質問です。これについては「まずは与野党の指導部が会うべき」とかわします。また、最近になって「支持を撤回した」と大々的に報じられた与党の韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長の評価を聞く質問には「小さな出来事を挙げて判断すべきではない」とかわしました。

 20%後半から30%台と低迷を続ける支持率についての質問もありました。これには「世界的にも支持率というのは上下するもの」という旨の話をしながら「当選時の支持率と似た水準にまで戻すためには成果が必要だと考えている」と述べました。当選時の得票率は48.56%です。

 最大野党・共に民主党の李在明代表、そして与党の裵賢鎮(ペ・ヒョンジン)議員と相次いだ「政治テロ」の背景を問う質問には「手段と方法にかまわず、嘘を通じてでも相手をねじふせようとする政治」が背景にあるとし、「選挙を前に私たちが理性を取り戻し、反知性主義から抜けだそうという話がどこまで通じるか分からない」と述べました。他人事のようですね。

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 その後は、大統領室のかけられた大統領の写真(外遊時の写真に加えなぜか子どもの時の写真もあります)を見ながら歓談し、「国民のほとんどが賛成しているので止める時が来た」と犬食禁止法の話をした後で、金建希(キム・ゴニ)夫人の話に入ります。

 31号で取り上げたように、一昨年9月、米国に住む統一運動家の牧師が金建希氏に高級ブランドのバッグ(約30万円相当)をプレゼントした際の映像が昨年11月にある左派系YouTubeチャンネルによって公開されました。受け取った金建希氏の行為は、現行の法律では3年以下の懲役もしくは3000万ウォン以下の罰金にあたるものです。

 この件と過去に株価操作に加担し3億円近い利益を得た疑惑に対しては世間の関心がとても高く、大統領が記者からの鋭い質問をおそれ記者会見を避ける理由とも言われてきました。

 パク氏はこれに対し「最近、たくさん議論を呼んでいるいわゆるこのパウチ、外国の会社のちっちゃなバックですね」と切り出しながら、「人々は警護に問題があるのではないかと話題にしている」としました。

 ずっこけの質問ですが、これについて尹大統領は大統領官邸に入る前の時期で警護を徹底できなかったとしながら「26年間司正の業務に従事した自分ならば(贈り物をした相手に対し)よりはっきりと断れたが、妻は様々な事情からそうできなかった」という旨の弁解をし、今後は気をつけると切り抜けました。

 また隠しカメラで撮影し、選挙を控えた時期にこれを公開するのは「政治工作」だとも述べました。そして尹政権になって廃止した「第2付属室」、つまり大統領の配偶者のスケジュールを管理する部署を復活させることを検討しているとも付け加えました。

 パク氏はさらに「この件で夫婦げんかはしなかったのですか」と訳の分からない質問をしていました。「していない」そうです。どうでもいいです。

尹大統領は引退した盲導犬を引き取って育てているそうです。これは立派。


尹大統領は引退した盲導犬を引き取って育てているそうです。これは立派。

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 この後、各国首脳からの贈り物を見ながら話題は次の外交へと移っていきました。

 まずは日韓関係からです。関係改善が進んだと持ち上げるパク氏に対し「日韓両国の企業人たちが両国の政治的な関係が正常化することを切に望んでいた」としながら、岸田首脳について「岸田首相にとって、私が最もたくさん会った首脳であり、とても正直で誠実な政治家という印象を受け、万事に真情性がある政治家であると見ている」と評価しました。「二人の間である合意や約束をする場合、それは必ず守る指導者であると見ている」とも述べました。

 そして昨年末から大法院(最高裁)での原告勝訴が相次いでいる徴用工裁判についての言及もありました。少し解説すると、これまで一審と二審で原告(徴用工被害者や遺族)が敗訴してきた背景には「時効」がありましたが、18年10月30日の大法院での判決が新たな時効の起点として設定されたことで、逆転勝訴が続いている形です。

 これに対して尹大統領は「司法部の最終審で出たもの」と判決を尊重しつつも、「これをどう解決していくか」という点を強調していました。日本企業の賠償判決をどう肩代わりすべきかというニュアンスですが、具体的な解決策を述べずに「未来に向けて進んでいる」と答えるにとどまりました。ただ日韓関係における「企業人の協力」を強調していることから、暗に日本企業が賠償金を肩代わりするための財団に協力してくれることを求めたものと受け取れます。

インタビュー当時の様子。右はパク・チャンボム氏。大統領室提供。


インタビュー当時の様子。右はパク・チャンボム氏。大統領室提供。

 韓日、そして韓米日の協力については「北韓の核の脅威」を挙げ、協力の重要性を訴えると共に「インド太平洋地域とグローバル地域において3か国が世界の平和と繁栄のために共同のリーダーシップを発揮するもの」と主張しました。米国との関係、特に今年11月の選挙でトランプ氏が当選する場合についての備えについては具体的な言及は避けつつも、昨年訪韓した米上院議員団の「大統領は変わっても議会はそのままだ」という発言を引用し「大きな問題はない」という旨で返答しました。

 中国との関係において、習近平主席の訪韓があるかという質問には、「韓中は相互尊重、規範に立脚する国際秩序、共同の繁栄といった土台を共にしている」とし、特に問題はないという見解を示しました。訪韓についての答えはありませんでした。さらにウクライナ、中東と戦争が続く中で、貿易大国の韓国の経済安全保障をどう守るのかについての質問には、トップ外交の重要性を指摘しながら大統領室内の国家安保室に経済安全保障を担当する第3次長を設置したことに言及しました。

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 そして北朝鮮についてです。年末年始にかけて金正恩氏が韓国を「交戦中の敵対国」と位置づけたことについて、「変化があることは事実だ。単一民族であるというところから、いわゆる2つの国家という原則に変更することがとてつもない変化といえるが、その基底に何があるのかは北韓が主張することだけでは判断できない」と述べ、「国家と国民の安全対策を備えるのがまず先で、北韓の主張に左右される問題ではない」としました。

 そして「いずれにせよ、単一民族であろうが2つの国家だろうが、大韓民国を今まで70余年あまり、共産主義に赤化しようとしているのに変わりはない。そのために在来式の武器を開発し、それでは勝てないと核を高度化して韓国を脅かしている」との見解を示し、これに対処することが必要と述べました。

 尹大統領は1月31日の中央統合防衛会議の席で「北韓政権は全世界で唯一、核の先制使用を法制化した非理性的な集団。常識的な政権ならば核を放棄し、住民達が生きる道を考えるが、北韓政権はひたすら世襲全体主義政権を維持しようと突き進んでいる」と発言しています。

 この真意を問う質問には「ならば理性的な集団だと考える人たちが韓国にどれだけいると思いますか?」と問いを返しながら、上記の同じ脈絡から改めて「合理的で理性的でない勢力」と北朝鮮指導部を言及し、「そういう勢力であるという前提で韓国の安保をよりしっかり構築しなければならない」と述べました。

インタビューの様子を別角度から。パク氏にやや同情してしまいます。大統領室提供。


インタビューの様子を別角度から。パク氏にやや同情してしまいます。大統領室提供。

 北朝鮮が核を持っていることを強調する質問については、「韓米軍事同盟は核を基盤とするものに格上げされた」と答え、これをより具体化することを韓米両国が進めていると明かしました。世論の6~7割が必要性を認める独自核武装については「決心すれば時間はかからない」としながらも「国家運営を総合的に判断しNPT(核不拡散条約)を徹底して遵守することが国益によりかなう」と述べました。

 南北首脳会談を行う意志を問う質問については、金大中(00年)、盧武鉉(07年)、文在寅(18年)という過去の3人の大統領による南北首脳会談は「なんの成果もなかったと見る他にない」とし、政治ショーとしての首脳会談はやらない旨を明かしました。さらにトップダウンではない、実務の積み重ねの上に首脳会談があるとの見方を示しました。

 さらに「北韓の住民へのメッセージはないか」という質問には「北韓の住民は韓国の憲法上、大韓民国の国民だ。そしてこの方達が最低限の人間としての尊厳を守るための支援を私たちが提供しなければならない。現実的には脱北民に対する配慮と支援がそれにあたり重要だと考えている。人道支援的な支援ができるならば北韓住民たちの劣悪な生活が改善することに寄与したい」と明かしました。

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 ようやく終わりです。

 最後の「どんな大統領として記憶されたいか」という質問には「子どもを大事にした温かい大統領、科学技術の発展を通じ未来に備えた大統領という印象を持ってもらえれば」と述べ、「どこまでやれるか分からないが」と付け加えました。

 長々と見てきましたが、ひと言で非常に退屈なインタビューでした。

 それは私が尹錫悦大統領を支持しないというような短絡的な理由ではなく、インタビューに深みが全く存在しないためです。全ての質問にいわゆる「更問い」が存在せず、質問者のKBSアンカーパク氏も完全におべんちゃらモードであり(これは半分は仕方ないでしょうが)、やってもやらなくとも良い対談だったといえるでしょう。

 野党や進歩派メディアでは金建希夫人のバッグ受け取り事件に関する謝罪が無かったこと、つい数日前の1月31日に、再調査を命じる関連法案に尹大統領が拒否権を行使したばかりの梨泰院惨事(雑踏事故)に関する言及がなかった点など、批判が相次ぎました。

 大統領の顔色を明らかにうかがい、広報インタビューの片棒を担いだKBSに対し公営放送としての立ち位置を問う声も上がり、問題の残る特別対談となりました。なお、KBSは昨年11月に社長が政府よりの人物に代わっています。その事情は15号で詳しく説明しています。

 韓国では「ソルミンシム」という言葉があります。「お正月の世論」とでも翻訳できる言葉で、三々五々集まった家族や親戚が政治の話をする際にどのように評価されたかというものです。今回の対談も話題に上るでしょうが、あまりよい評価を受けないのではないかと思います。

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◎あとがきに代えて

 お正月の連休ということもあり短くまとめようと思ったのですが、書き始めたらすらすらと長くなりました。大統領の特別対談は日本語でここまで説明している記事はないので、紹介できて良かったです。それではまた次号でお会いしましょう。周囲の方々にぜひ本ニュースレターをオススメください。ありがとうございます。(徐台教)

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