ニュースレター号

[36号 J-6] 投票日まで約50日、韓国総選挙の「第三極」に危機 ほか(縮小版)

 サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。本来ならば先週金曜日(16日)にお送りすべきだった36号を大幅に遅れてお届けします。

 弁明の余地がないのですが、非常に厳しいスケジュールの中にいます。書籍の原稿と講演会(3月2日)の用意などで余裕がまったくありません。2月いっぱいはニュースレターの規模を縮小する他になく、読者の皆さまには大変申し訳ありません。3月からは通常のボリュームに戻りますので、今少しだけお待ちください。

 いま、私の頭の中には「韓国は歴史の試験台に立たされている」という考えで一杯です。昨年末からの金正恩氏が矢継ぎ早に繰り出す「統一は終わった」論や韓国を取り巻く安全保障上の危機、国内の政治状況の分裂という幾重もの課題をどう乗り越えていけるかという問題意識です。そしてその答えは「歴史の中にある」と確信しています。

 約80年の分断の歴史をどう見直し、そこから何を学ぶのか。これをせずに現在の危機を乗り越えることはできないでしょう。そんな話を今後はしていきたいと思います。

 大きなことを言いましたが、今号の記事は一本のみ、4月10日投開票の韓国総選挙の情勢を更新するものとします。

 大切な選挙のはずですが、今のところ「議席数のゆくえ」以外の見どころがなかなか浮上せず、韓国メディアの報道も政局の追っかけがほぼ9割と面白くありません。低調な選挙です。

 このため、昨年の時点では尹政権への怒りから「60%を超える」とされていた投票率も、もう少し下がるのではないかという見方も出てきています。なお、新型コロナ下で行われた20年4月の総選挙の投票率は66.2%で28年ぶりの高投票率でした。

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◎韓国総選挙、「第三極」に危機

 韓国総選挙については、入門編となる記事を1月31日に書きました。まだ未読の方はお読みいただきたいのですが、実は2週間が経った今も構図に大きな差はありません。「尹政権審判」、「政治改革」、「新たな議題の設定」という3つの点が選挙を眺める構図となります。

 そんな中今日は、韓国の週刊誌『時事IN』の総選挙特集を紹介します。これをお読みいただければ総選挙全体に対する理解がより深まると思います。同紙は韓国のリベラル系週刊誌で、調査報道やあるイシューの展開を継続的に追い続けるといった点で定評があります。

 引用するのは2月3日にお正月合併号として発売されたやや古いものでして、第三極4勢力の合併(2月9日)など最新の情勢を反映していないのですが、大枠を捉えるに適した特集です。最新の情勢を私が補完していくことにして見ていきましょう。

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 ・政権審判

 まずは「政権審判選挙なのか」という部分です。聞き慣れない「審判」という単語は、尹政権に評価を下すことを指します。

 22年5月に発足し任期5年のうち約2年を終えた尹政権に対し、与党を選ぶことで「応援」するのか、それとも野党を選ぶことで「NO」を突きつけ政策転換を迫るのかを、投票を通じ有権者が表現するということです。

 この際に押さえておきたい重要なポイントを記事は指摘しています。それは「政権審判」という枠組が必ずしも与党に不利にはたらくものではないということです。

 2000年以降に6度行われた総選挙のうち、00年、04年、08年、12年、20年と5度にわたり、与党が過半数の議席を獲得し勝利しているからです(与党が負けた16年も1議席差でした)。

 しかし今回の選挙では与党が不利な形勢にあるというのが大勢の見方です。

 記事が引用している『韓国ギャラップ』の調査(1月23~25日)では尹大統領の国政遂行に対する肯定評価31%、否定評価63%でした。施政への否定評価の高さが目立ちます。なお、同社の最新の調査(2月13日~15日)では肯定評価33%、否定評価58%と数値は評価は固定化されています。尹大統領への低い支持が、与党の足を引っ張るという形です。

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 記事ではまた、政党支持率と否定評価の高さの「差」についても説明しています。同じ『韓国ギャラップ』社の調査項目にある「政党支持率」を見ると与党・国民の力36%、最大野党・共に民主党35%となっており、一見すると矛盾しているように見えるからです。

 この現象が実際の選挙とどう関連するかについて、記事では「戦略投票」という単語を用い説明しています。「有権者は支持政党にだけ投票する訳ではない」というもので、選挙の情勢や死票を回避する心理によって投票先を決めると説明しています。

 韓国の政治地形は「3:3:3」と言われます。保守3,進歩3,中道3です。いわゆる中道層(無党派層)がどう判断するのかが選挙の結果を決めるということです。次項で説明するように、第三極(第三勢力)が食い込む余地もここに生まれてきます。

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・第三地帯(第三極)の突風は吹くか

 「現在、政権審判論に同意する人々が半分を超えるが、調査をすると有権者の4人に一人程度が与党だけでなく野党も審判したがっている。こんな『与野党同時審判論者』が今回の選挙のキャスティングボートを握っている」

 記事に引用されている専門家の指摘です。これこそが今回の選挙の隠れた主テーマであると私も考えます。

 こんな世論を受けて『韓国ギャラップ』では1月23日~25日の調査から、「与党候補が多く当選すべき」という政権支援論、「第一野党候補が多く当選すべき」という政権審判論に加え、「二大政党ではない第三地帯(第三極)の候補が多く当選すべき」という質問を付け加えたそうです。

 その結果は、順に33%、33%、24%。

 直前の調査(1月9日~11日)で政権審判論51%、政権支援論35%だったことを考えると「第三地帯の政党が政権審判論の相当部分を吸収している」と記事では分析しています。面白いですね。

 ちなみに『韓国ギャラップ』では2月16日にこの項目における、最新の調査(2月13~15日)結果を発表しています。これによると、「与党」36%、「最大野党」31%、「第三地帯」18%でした。

 同社では調査結果の中で、18~29歳の第三地帯への支持が1月の調査での40%から、2月の調査で29%に下落した点に注目しています。

 これは李俊錫(イ・ジュンソク、38)氏率いる「改革新党」が2月9日に他の3つの第三勢力と合併した事の影響と見られます。反フェミニズムや能力主義といった強い主張を通じ若者男性からの強い支持を得ていた李俊錫氏が、政治的に対照点にあると見られていた共に民主党の「顔」の一人、李洛淵(イ・ナギョン、70)元総理と手を組んだことに対する失望があるのではないかと推察できます。

 一方で上記結果(2月調査)を別のくくりで見ると、与党候補が当選すべき36%、野党候補が当選すべき49%となります。依然として与党不利は変わらず、野党が多様化するものと読めます。

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 それでは実際の選挙で、第三勢力はどこまで票を得られるのでしょうか。

 陰暦の正月連休を控えた2月9日午後に「第三勢力が合党」というニュースが文字通り韓国社会を覆いました。元与党代表の李俊錫が率いる「改革新党」、共に民主党で国会議員を一期(16~20年)務めた琴泰燮(クム・テソプ、56)率いる「新しい選択」、李洛淵率いる「新しい未来」、そして共に民主党を脱退した革新派の「原則と常識」の4集団が一つにまとまりました。

改革新党の最高委員たち。聯合ニュースより引用。


改革新党の最高委員たち。聯合ニュースより引用。

 名前は「改革新党」とし、共同代表は李俊錫・李洛淵、選対本部長は李洛淵という枠組みでした。支持基盤や政策、政治家としての経歴もバラバラな集団が「既得権の両党体制を放置する場合、韓国の未来がない」(9日の記者会見)という一念で合体しました。

 上述したような約20%の「与野党同時審判論者」の票を狙ってのものです。

 その後、各社の世論調査を見ると「改革新党」への支持は4%(韓国ギャラップ、13日~15日)、6.7%(リアルメーター社、2月15日~16日)と低調な出だしです。世間はあまりこの「劇的な合体」に呼応していないことが分かります。

 伸びしろに期待といきたいところですが、逆に同党内に存在する不協和音が表面化する機会が増えています。特に、政策面のリーダーシップをめぐり、李俊錫・李洛淵両陣営の間で対立が激化しています。

 19日午前に行われた最高委員会議では両者の間に大声でのやり取りがあり、李洛淵氏ならびに同陣営の最高委員は退場し、結果として李俊錫氏が政策のイニシアティブを取ることになりました。李洛淵側の反発は極限に達しており、決裂寸前といった具合です。

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 同党の強みは前述したように、議席数の95%近くを占める巨大両党体制への閉塞感を感じている人を取り込むことです。李俊錫氏が古巣の国民の力と尹錫悦大統領を、李洛淵氏が同様に共に民主党と李在明代表を批判することで活路を開けるはずですが、そんな期待に添う姿を見せられていません。

 また、李俊錫氏は19日の講演会で「私たちの基盤は世代」と述べるなど、若者世代に焦点を合わせ政策を立案するようなをニュアンスを明かし、同党の存在価値(伸びしろ)とのチグハグさが徐々に顕在化してきています。

 『時事IN』の記事ではある専門家が李俊錫氏について「若く新しい政治に対する期待感を抱かせ国民の党の代表になり、はっきりと多くの長所を見せた。しかしその後、党から無理矢理追い出され対立する過程で、尹大統領と安哲秀(アン・チョルス)議員に向けた数多くの毒舌と非難、呪いに近い言いがかりをつけることで、政治指導者としての評価が下がった」と評価しています。こうした側面があることは否めないでしょう。ネット上での発言は感情的で、子供じみた印象を払拭できていません。

 同記事ではまた李洛淵氏についても「過ぎ去った世代」であると断じています。

 このように「改革新党」は前途多難です。

 一方で、左派政党の正義党と緑の党が合体した「緑色正義党」や前回総選挙で21万票を集めた「女性議党」といった第三勢力の躍進は望めない状況です。

 さらに「進歩党」や「新進歩連合(前:基本所得党)」などのリベラル系少数政党はすべて、共に民主党の衛星政党である「民主改革進歩連合」にまとまる見通しの中、「巨大両党制の打破」が可能な勢力は「改革新党」しかないのもまた事実です。

 このまましぼんでしまうのか、もう一度まとまるのか見守りたいところです。

カギを握る李洛淵(左)と李俊錫の両共同代表。時事ジャーナルより引用。


カギを握る李洛淵(左)と李俊錫の両共同代表。時事ジャーナルより引用。

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◎あとがきに代えて:明日のYouTubeをご期待ください

 なんとも消化不良の記事となってしまいましたが、ここ数日で「改革新党」の情勢は大きく動きそうです。続報をお伝えしていきます。

 他にも韓国内や南北関係ではいくつかの大きなニュースがあります。これは明日(2月20日)晩に配信されるYouTube番組『徐台教の韓国通信』(デモクラシータイムス)で取り上げてコメントする予定です。

 配信後に改めてリンクをお送りいたします。それではまた次号でお会いいたします。ありがとうございます。(徐台教)

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