サポートメンバーの皆さま、アンニョンハセヨ。無事に日本出張から戻って参りました。久しぶりのニュースレター発行となります。お待ちいただきありがとうございました。
これからふたたび最低週2回の更新(水曜日は南北関係・朝鮮半島問題、金曜日はジャーナル形式+韓国政治・社会)を続けていきますので、改めてよろしくお願いいたします。他に単発記事も出していきます。
今号の目次です
1.巻頭コラム:大阪での節目の講演会を終えて
2.韓国政治:混迷の韓国総選挙、曺国(チョ・グク)ふたたび
3.韓国社会:韓国における世界女性の日
4.ショートニュース
(1)ソウル市長が李承晩記念館の建立を公言、高まる反対機運
(2)深まる政府と医療界の対立、その本質とは
5.カルチャー:映画『破墓パミョ』〜抗日映画とのこじつけ〜
6.あとがきに代えて
それではごゆっくりお楽しみください。
◎巻頭コラム:大阪での節目の講演会を終えて
約ひと月ちかく「どうやろうか」と四苦八苦していた講演会が、今月2日、無事に終わりました。普段から在日コリアンの人権問題をはじめ多文化共生といった分野で活発に活動している、大阪の『コリアNGOセンター』さん主催「朝鮮半島のいまを読み解く市民セミナー」で講師を務めました。会場に約80人、オンラインで50~60人の方々が聞かれたようです。
会場の様子。コリアNGOセンターさんの写真を使わせていただきました。
私にとって今回の講演会は、単なる集会ではありませんでした。その間ずっと温めてきた内容を世に問う意味があったからです。それは「韓国は朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)を国として認めるべき」というものでした。
はて、と思われる方が多いと思います。韓国は現在、北朝鮮を国と認めていません。両国は1991年の『南北基本合意書』により「南北双方の関係は国と国との関係でない、統一を指向する過程で暫定的に形成される特殊関係であることを認める」としています。
過去のニュースレターでも度々言及してきたように、この枠組みの元となっている「南北は同じ民族で統一を志向する」という前提を、昨年末に金正恩委員長は否定しました。広義には1948年の南北両政府樹立時から、狭義には1991年から南北関係を規定してきた「統一」の終わりでした。
今回の講演会における私の主張は、いわばこうしたパラダイムの終わり、転換を受け(もちろん金正恩氏の主張が今後くつがえる可能性が小さいながらもあります)、次の30年を見通すものでした。
それではいったい、こう主張する根拠はどこにあるのでしょうか。私は講演会でその理由を四つ挙げました。
一つ目は「韓国がこれ以上発展できない」という点でした。南北分断の悪影響は韓国社会全体を蝕んでおり、南北の「対立」と「対話」を境界とする政治陣営の分断が固着したことで、政治の機能不全が起きているというものです。
二つ目は「このままだと戦争が起きる」というものです。南北両政府は現在、互いの存在を真っ向から否定し、対話の相手と認めていません。その先に何があるのかは、1948年の南北両政府樹立が1950年の朝鮮戦争につながった歴史が雄弁に語っています。
三つ目は「北朝鮮の人々の顔が見えるようになる」という理由からです。現在は北朝鮮イコール金正恩一族といった印象付けにより、そこに住む人々の顔が見えません。国と認め国交を持ちかけることそのヴェールを取り払う一定の効果が見込めます。
最後は「韓国が独自にできる唯一の板門店体制への挑戦」だからです。1953年7月に締結された朝鮮戦争の停戦協定は、今なお効力を維持し続け、板門店(軍事境界線)を南北冷戦の最前線とする国際秩序となっています。これは南北分断の上位構造であるため、韓国が壊すことは簡単ではありません。しかし一方で、韓国が北朝鮮を国と認めることを妨げるものではありません。北朝鮮を国として認めることは、強固な板門店体制に風穴を空ける効果が見込めます。
講演は1時間45分、その後に質疑応答が30分ほどありました。長丁場でしたが嬉しいことにほとんどの方が最後まで席を立たず聞いてくれました。
一方で、日本では非常に珍しい主張で、韓国でも少数の専門家だけが述べている内容ということもあり、いくつかいただいたフィードバックの中には賛否両論がありました。特に個人独裁の全体主義国家を国として認めるということの重さについては、今後も大きな議論が予想されるでしょう。いずれの意見の中にも傾聴すべき点が多く、一石を投じる意味を改めて感じるものでした。
書籍での刊行をお待ちください。朝鮮半島の未来をめぐる議論の叩き台を提供いたします。
講演会の内容は共同通信を通じ、日本の各紙やネットで配信されました。私が生まれ育った群馬県の地元紙『上毛新聞』にも掲載され、地元の同級生や知人から「見たよ」と連絡がありました。写真は上毛新聞のものです。
◎韓国政治:混迷の韓国総選挙、曺国ふたたび
いよいよ韓国総選挙まであと約一か月となりました。4月10日投開票です。選挙区も選挙制度も確定しました。選挙制度は前回選挙と同じ「準連動型比例代表制」となりました。
前回では「禁じ手」とされた衛星政党について、今回は巨大両党(与党・国民の力と第1野党・共に民主党)が公然と結成するなど、政治倫理の後退を如実に感じますが、いずれにせよ今は各党ともに、小選挙区で党の看板を背負って立候補する人物を決める「公薦コンチョン(いわゆる公認)」と呼ばれるプロセスを進めています。
韓国総選挙の見取り図です。男性政治家ばかりの男性選挙ですね。私が作成したものです。
いくつかの選挙区では早々と顔ぶれが決まり、大物同士のビックマッチについても韓国メディアが取り上げています。
例えば、仁川(インチョン)広域市の桂陽(ケヤン)区では、第1野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表と、与党・国民の力の元喜龍(ウォン・ヒリョン)元国土交通部長官が衝突します。
元氏は過去に済州特別自治道知事や国会議員を3期務めた保守陣営の大物政治家で、前回22年3月の大統領選挙では、李代表の土地開発スキャンダルを徹底追及するなど脚光を浴びました。
今回の選挙を次回大統領選挙の踏み台にしたい元氏と、同じく次回大統領選で必勝を期す李代表の争いは、ビックマッチの中でも筆頭と言えるでしょう。『韓国ギャラップ』社の最新の世論調査では、李在明45%、元喜龍41%と誤差範囲内での接戦となっています。
もう一つだけ例を挙げますと、京畿道(キョンギド)華城(ファソン)市があります。
ここでは、与党を飛び出し自身の党を作った若手で最大の知名度を持つ李俊錫(イ・ジュンソク)改革新党代表が、初当選に挑みます。38歳の李代表は過去3度、ソウルの地元で選挙に臨みすべて落選していますが、今回は有権者の平均年齢が34歳と若い地域で当選となるでしょうか。
現在まで同選挙区で3連勝中の共に民主党は、今回は韓国最大手の自動車メーカー『現代自動車』で社長を務めた孔泳云(コン・ヨンウン、59)氏を立てています。与党からはサムスン電子出身の人物の立候補が決まっており、興味深い三つ巴の争いとなります。
世論調査の結果は8日現在出ていませんが、改革新党は全国での支持率が5%以下と苦戦中である中、李俊錫代表の想いは並々ならないものがあるでしょう。同党の公薦管理委員長を務める「キングメーカー」こと金鐘仁(キム・ジョンイン、83)氏は7日、出演したラジオ番組の中で「李俊錫代表は今回も国会に入れない場合、政治的には生存することが難しくなるだろう」と述べ、奮起をうながしました。
・選挙の構図のおさらい
ここでいったん細かい話を離れ、全体を見てみましょう。選挙の構図についてです。
以前わたしは今回の選挙の見どころとして、「尹錫悦審判」、「政治改革」、「新たなアジェンダ(議題)」の三つを挙げました。今はどうなっているのでしょうか。
まず「尹錫悦審判」についてですが、今はこの部分は弱くなっています。理由は二つあります。
一つ目は医大定員増をめぐる政府と医療界の正面衝突の中で、尹大統領の支持率が少しずつ上がっているためです。下図にあるように『韓国ギャラップ』、『リアルメーター』社の調査でいずれも2月中旬と比べ支持率(国政への肯定評価)が高まっています。
『韓国ギャラップ』社の世論調査。赤線が肯定評価。2月5週目から上昇しています。肯定評価の理由はダントツ1位で「医大定員増」(28%)です。
こちらは『リアルメーター』社の世論調査。やはり2月4週目から40%台に突入しました。
二つ目は、第1野党・共に民主党で「公薦」をめぐる不協和音が起きているためです。李在明代表が公薦の過程で自身の派閥に近い人材を重用しているのではないかというもので、公認を受けられなかったベテラン議員が強く反発しています。一部は党を離れ、先に同党を離れた李洛淵(イ・ナギョン、71)元国務総理が結成した新党『新しい未来』と手を結んでいます。
李代表は表向き、公薦の偏りを否定しています。だが実際には、前回の大統領選挙で惜敗した原因を「共に民主党議員の頑張り不足」に求める李代表が、次回の大統領選(27年3月)に向けて、一人でも多く自身に近い人物を当選させようとしていると見る向きが強いです。
ですがこんな李代表の姿勢は「選挙を私物化している」と韓国メディアから袋だたきにあっています。
これにより世論は「尹錫悦審判」から「李在明審判」に変わりつつあるのですが、朝鮮日報・東亜日報・中央日報といういわゆる「朝中東(チョジュンドン)」という保守紙はもちろん、京郷(キョンヒャン)新聞・ハンギョレといった進歩紙まで李在明批判に加わっています。
ちょっと脱線するのですが、ここに韓国の言論環境の「怖さ」があります。保守紙は基本的に保守勢力(今では政府や与党)に甘いのですが、進歩紙は進歩勢力をも正面から強く批判します。進歩紙にとってみれば、職業倫理的に当然そうしているのでしょうが、結果として「袋だたき」の図式になるのです。
本論に戻ります。次に「政治改革」についてですが、この部分でも停滞が顕著です。国民の力と共に民主党という、両党で95%近い議席を独占する巨大両党制からの脱却がその核心だったのですが、第三極がまとまれないため、すっかり影を潜めてしまいました。
特に、李俊錫(イ・ジュンソク、38)と李洛淵(イ・ナギョン、71)という知名度のある政治家2人が世代を超えた共闘をすることで勢いが出るかと思われたものの、わずか数日で袂を分かち、逆に政治改革の難しさを印象付ける結果となりました。
李俊錫氏は前述したように自身の進退がかかった選挙であるため、政治改革どころではなさそうですし、李洛淵氏は矛先が尹錫悦政権ではなく民主党に向かっているため(「『新しい未来』こそが真の民主党である」と主張しています)有権者にとってはよく分からない図式となっています。今回の選挙では政治改革は難しいでしょう。
最後に「新たな議題」についてですが、まだ政策を議論する段階にまで選挙戦が進んでいない印象です。各党の公認過程が終わってからになりそうです。それでは間に合わないのですが。
一方で、総選挙をめぐる別の視点もあります。
特に2月26日に『中央日報』に掲載された金皓起(キム・ホギ)延世大学社会学科教授による「4.10総選挙を読む3つのコード」というコラムを参照してみます。韓国現代史や社会の分析で名高い専門家です。
金皓起(キム・ホギ)延世大学社会学科教授のコラム。中央日報よりキャプチャ。
金教授は今回の総選挙を3つの「局面史」という観点から読み解きます。歴史的な局面の転換期にあるという意味のようです。
一つ目は「民主化時代という局面史」です。これについては「民主化が今なお『コアバリュー(核心的な価値観)』なのか」と「86世代(1987年の民主化達成時に20代の大学生だった世代)が今なお主役なのか」という二点に分かれるとします。
金教授はこうした視点から世代交代すべしという「世代交代論」を持ち出します。今回の選挙を通じ、世代交代論がどう評価を受けるのかが知りたいとします。
二つ目は「ポピュリズムの時代という局面史」です。金教授は21世紀のポピュリズムの特徴を、20世紀型の人気迎合主義に加え、相手勢力に対する嫌悪と悪魔化が加わった「反多元主義的なもの」とします。
そしてこれが政治の両極化を強め、真実よりも信念を重視する「脱真実」の現象が合わさり陣営政治を完成させていると診断します。一方で21世紀型のポピュリズムには「既得権vs国民」という反エリート主義が肯定的に息づいているとします。
そして韓国では22年の前回大統領選から21世紀型ポピュリズムが姿を表したとし、保守陣営と進歩陣営が共に既得権を拒否し、アウトサイダー(尹錫悦、李在明)を大統領候補にしたと分析します。非常に納得のいく、分かりやすい説明です。
しかし今、この反エリート主義は姿を消し、嫌悪と悪魔化、政治の感性化というポピュリズムの陰だけが残っていると説明します。金教授は「このポピュリズムに総選挙でどのような判断が下るのかが気になる」と明かしています。素晴らしい着眼点だと思います。
三つ目は「おひとりさま社会という局面史」です。22年の統計では全体の世帯のうち1人世帯は34.5%、750世帯を超えています。特に青年世代の個人的な性向(非婚を含め)が総選挙にどのような影響を与えるのかに注目するとします。
金教授が引用した『韓国ギャラップ』の調査によると、20代の45%、30代の31%が無党派層です。金教授は「この層の投票率や投票先、男女の投票先の差が今回の選挙の行方を決定する主要な変数である」としています。
コラムの最後で金教授は「総選挙には政策も、ビジョンも、時代精神も不在という危機的な風景がみじめに広がっている」と切り捨て、韓国は「政治の危機」に陥っていると診断します。同感です。
あと二つ、韓国総選挙における大きな動きをお伝えして、今回の記事を終わりたいと思います。
皆さんは2019年8月を覚えていますでしょうか。当時は、日本と韓国の外交関係が「史上最悪」と呼ばれていた時期ですが、韓国内では文在寅政権下で法務部長官に任命された曺国(チョ・グク)ソウル大教授をめぐる大混乱が起きていました。
曺国候補の任命に当時の尹錫悦検察総長が反発し、検察が曺氏本人と家族周辺を大々的に捜査しました。その様子は韓国メディアで逐一報じられ、曺国氏は結局、娘と息子の学業や学歴作りを不法に行った疑惑(業務妨害、文書偽造)や、青瓦台(大統領府)勤務時に監察をもみ消した疑惑などで起訴され、今年2月の二審で懲役2年の判決が出ています。
その曺国氏が3月3日、新党『祖国核心党』を結成しました。ちなみに曺国と祖国は韓国語で全く同じ発音のため、党名もまた二つの意味で受け止められる秀逸な(?)ものです。なお、英語ではKorea Innovation Partyです。
「3年は長すぎる!」というのがキャッチフレーズです。3年は尹政権の残り任期です。つまり、弾劾に突き進もうというのが同党の主張です。そのためには200議席が必要で、進歩派でそれは成し遂げようというものです。曺国氏のFacebookより引用。
同党は結成後から李俊錫氏に変わる台風の目となりました。
『韓国ギャラップ』の最新の調査(3月5日~7日)によると、全体の党支持率は6%で巨大両党に次ぐ3位、比例の投票先を問う設問でも15%と高い数値でやはり3位と、第三極の中心に踊り出ました。調査によっては比例投票先で20%を超えるものもあります。
高い人気の背景について、韓国メディアは「共に民主党に投票したくない進歩派層の受け皿になっている」という見方をしています。
曺国氏に対しては「検察のやりすぎ」という根強い同情論に加え、尹錫悦夫人の金建希(キム・ゴニ)氏の株価操作や収賄、論文剽窃などには微温的な検察への不満も相まって、票が集まる構図となっています。主要な支持者は「文派」と呼ばれる人々で、特に2019年の検察前デモの主力だった人々と見られています。当時書いた記事を貼り付けておくので余裕のある方はぜひどうぞ。
この勢いに押されてか、共に民主党の李在明代表は曺国代表と5日、会談を持ちました。この場で曺国氏は「民主党ができないことをやる」旨を明かし、尹政権の早期終息のため積極的に動いていくことを明かしています。
いわば祖国革新党が突撃隊長のような役割を果たすということで、尹政権の対極点にある曺国氏の「吹っ切れ方」によっては本当に選挙の結果を左右する存在になる可能性があります。今のままの支持率が続く場合、同党は5~10議席ほど獲得できる見通しです。
良いことづくしに見える曺国氏ですが、実情はそう簡単ではありません。例え国会議員になったとしても、大法院(最高裁)で二審判決が確定する場合には収監となります。
この懸念や指摘について曺氏は2月のラジオで「国会議員を一日だけやることになるのか、一年やることになるのか、差し戻しを経て三年することになるのか分からない」、「万一、国会議員の職を中途で辞めることになったら同志たちが受け継ぐもの」と述べ、強い意欲を明かしています。
もう一つの重要なポイントは、尹錫悦大統領の動きです。
尹錫悦大統領は連日、全国を回りながら「民生討論会」を開催しています。7日の『京郷新聞』社説によると、1月4日にこの討論会を初めて以降18回目開かれており、そこで尹大統領が地域バラマキ開発の青写真をぶち上げているのですが、これは「選挙への介入」ではないかという強い問題提起が行われています。
「あまりにも酷い選挙用の地方巡回、こんな問答無用の大統領はいなかった」という7日付けの京郷新聞社説。
同記事によると、討論回の形式は尹大統領が政府の開発計画を明かし、参席者がその政策に対する問題(実行へのハードル)を問い、政府関係者がそれに答えるというものです。「反対意見や異なる質問が出る余地はない」というもので、「一方的な宣伝ショーに過ぎない」と同紙は断じています。
同紙は「今すぐに行わない事業の発表を尹大統領がばらまくことは、誰が見ても『選挙に影響を与える行為』であり、これは公職選挙法の違反にあたる」と指摘します。
これはその通りだと思います。しかし、誰も止められないのが現状です。こうした動きが前述したような曺国新党への勢いにつながっていると見るべきでしょう。
総選挙まであと一か月。韓国メディアのほとんどは枝葉末節の政局報道ばかりで、選挙で社会がどのように変わるべきかという声は一向に聞こえてきません。尹錫悦審判は結構ですが、結局政治は何も変わらないという結果に終わるのではないか、社会はまたもやそのままではないかという懸念が両肩に重くのしかかってきます。
◎韓国社会:韓国における『世界女性の日』
3月8日は『世界女性の日』でした。韓国でもいくつかの催しと重要な記事がありましたのでいくつか紹介いたします。
まず、見過ごせないものとして英『エコノミスト』誌が発表した「ガラスの天井指数(grass-ceiling index)」があります。これはいわゆる、女性が働きやすい国のランキングとされるものですが、韓国はOECD(経済協力開発機構)29か国中、最下位の29位でした。ちなみに、2013年以降、12年連続のビリです。
韓国『ニュース1』の記事によると、今回の分析は男女間の労働参加率、賃金差、育児休暇利用の容易性といった10の指標を元に行われたとのことです。1位はアイスランドで、日本は27位でした。下記グラフにあるように、日本も韓国と並んでずっと28位の常連でしたが、今回順位をひとつ上げました。
英『エコノミスト』誌が発表した「ガラスの天井指数(grass-ceiling index)」。同誌より引用。
韓国女性の教育水準は29か国中27位、労働参加率も27位でした。さらに賃金格差は最下位の29位でした。管理職級での女性の比率は28位、理事会に参加する女性の比率も28位でした。また、議会に進出した女性の比率も27位でした。
なお20年~24年までの任期の国会議員のうち、女性は約19%です。
一方、父(男性)のための有給休暇は2位でした。同記事によるとエコノミスト誌では「日本と韓国はOECD国家の中で最も寛大な制度を持っている」と評価しながらも「家にいることを選択する(育児休暇を取る)父はほとんどいない」と指摘しています。
次はソウル都心・光化門(クァンファムン)で開かれた『韓国女性大会』についてです。今年39年目を迎えたこの大会は韓国女性団体連合が主催しています。
『アジア経済』の記事によると、大会の参加者は「2024年の韓国社会は依然として女性にとって不平等で不安定でしかない」とし「韓国の性別による賃金格差は27年間ずっとOECD最下位で、介護と家事は依然として女性の役割」と主張したとのことです。
その上で「女性に対する差別と暴力を根絶し、性平等実現のために国家と政治が解決すべき課題が今も山積している。尹錫悦政府が政策から『女性』、『性平等』を消している」と批判しました。
なお、別の統計によると韓国の性別の賃金格差は2022年に31.12%で、OECD加盟国の中で唯一30%を超えているとのことです。また、すべての上場会社の中で女性役員の比率が5.2%と、OECD平均25.6%に比べ遙かに低い現状となっています(KBSより)。
さらにこの日、ソウル市内のホテルで『国連女性機関(UN Women)』主催の記念大会が開かれました。
韓国メディア『女性新聞』によると「未来のために女性に投資せよ(Invest in Women: Accelerate Progress)」という副題で開かれたこの日の大会には、各国の駐韓大使や韓国の女性運動を牽引してきた人物たちが登壇し「女性に社会・経済・政治的に男性と同等に参加する機会が与えられれば、貧困は減り国家は繁栄する」(駐韓カナダ大使)と訴えました。
この記念大会でBBC韓国特派員ジーン・マケンジー氏が行ったスピーチも韓国メディアで大きく取り上げられました。
すでに日本でも大きく報じられているように、韓国の2023年の出生率は「0.72(ソウルは0.55)」にまで落ち込みました。マケンジー特派員は韓国の低出生率について一年間取材を続け、これを詳細に分析する記事を書いていたことから、登壇となったようです。日本語記事は下記リンクを参照ください。
『ニューシス』によるとマケンジー氏はこの日、その間の取材で出会った女性たちの話をしながら、韓国の女性が出産を避ける理由について「韓国で母になるということがどんな事なのか、その現実を知って出産を諦める。現実を知ることが出産をさえぎるならば、変えるべきはまさに現実」と指摘したそうです。
マケンジー氏はさらに「彼女たちが望むのは、政府からのより多くの支援ではなかった」とし、「より柔軟な勤務時間、配偶者も共に育児をし、家庭と仕事のうちどちらかを選択しなくてもよい現実の変化を望んだ」と語ったとのことです。いずれも素晴らしい指摘だと思います。
一方この日、他にもソウルや全国でいくつものイベントが行われました。
特に韓国労総(韓国労働組合総連盟、民主労総に次ぐ二大労組のひとつ)主催の『3.8女性ストライキ』がいくつかのメディアで取り上げられています。
『メディアオヌル』紙によると、主催側はこの日、▲性別賃金格差の解消、▲介護の公共性の強化、▲働く者すべての労働権の保障~雇用安定と非正規職の撤廃、▲妊娠中止に対する健康保険の適用、流産誘導剤の導入、▲最低賃金引き上げを訴えたとのことです。
なお、北朝鮮でも3月8日「国際婦女節114周年記念中央報告会」が開催されました。
朝鮮労働党機関誌『労働新聞』が9日に伝えたところによると、崔龍海(チェ・リョンヘ)国務委員会第1副委員長は記念報告の中で「女性たちが最も大切にする尊厳と権利を守り、温かく抱いてくださり、最も誇らしく満たされた生活を与えてくれる偉大な親(金正恩)を奉ることこそが、わが朝鮮女性における最大の幸運であり栄光だ」と述べました。
北朝鮮の「国際婦女節114周年記念中央報告会」の様子。労働新聞よりキャプチャ。
また8日の同紙社説では「敬愛する総秘書同志(金正恩)を社会主義大家庭の親として高く奉り生きることこそ、わが女性たちの最も大きな幸運で最大の幸福だ。すべての女性は敬愛する総秘書同志に対する絶対的な忠誠心を確固とした信条と受け止め、党中央にしたがい革命の一本道、愛国の一本道をしっかりと受け継がなければならない」と説いています。
なんのことやら、です。
◎ショートニュース
(1)ソウル市長が李承晩記念館の建立を公言、高まる反対機運
先日のニュースレターで取り上げた李承晩大統領(在任1948年~60年)を称賛するドキュメンタリー映画『建国戦争』。観客100万人を超えましたが、ネット上では「チケットの写真を送ってくれたら払い戻しします」という右派団体の書き込みが見られ、文字通り「動員」となっています。
そんな中、呉世勲(オ・セフン)ソウル市長が2月23日、議会で「李承晩記念館が建立されるべき」という質問に「はい」と答え、その場所としてソウル市内の「松峴(ソンヒョン)広場」が候補に上がっていることを明かしました。
この広場は、光化門を東に数百メートル行った所にある、仁寺洞(インサドン)の入り口に位置する地域で、過去、植民地時代は朝鮮殖産銀行の社宅として、また解放後には米国大使館の官舎として使われてきた土地です。長らくフェンスで覆われていましたが、2022年に一般開放され、今は綺麗なお花畑となっています。
呉市長によると、李承晩記念館建立記念委員会(李承晩大統領記念財団)はすでに現地の踏査を済ませているようです。「市民的な共感の形成」を前提としながらも検討が進んでいることがうかがえます。呉市長は「どの場所が最も適しているのか本格的に議論する時が来た」とも明かしています。
こんな呉市長の発言を受け、反対の声が高まっています。特に熱心なキリスト教信者であった李承晩大統領の時代に様々な介入を受けた仏教界(曹渓宗)は公然と反対しています。
記念館の建立自体に反対なのか、それとも松峴広場での建立に反対なのか、様々な立場ありますが、呉世勲市長の中には李承晩記念館を次期大統領選への足場としたい思いもあるのでしょう。
私のところにも知人から反対運動の署名を求めるメッセージが来ました。私自身は功過をきちんと記した記念館ならば(過が圧倒的に大きいと考えています)松峴広場ではない、どこか別の場所に作ってもよいと思います。
反対運動の署名と共に送られてきたイメージ。
(2)深まる政府と医療界の対立、その本質とは
こちらは日本でも大きく報じられていることでしょう。政府が発表した医大定員を現行の3058人から2000人へと増員する案をめぐり、医療界の反発が続いています。
研修医のほとんどは今も医療現場を離れたままで、政府は医師免許停止(一部の中心人物には免許剥奪もあると見られています)まで含む強い対応で臨んでいます。何よりも尹錫悦大統領が一歩も引かない状況です。
医療現場はギリギリの対応が続いています。現場に残った専攻医(研修医の次の段階)や医師・医大教授たちが非常勤務体制でなんとか重症患者への対応を続けていますが、一般救急患者への対応不足は目立ち、それすらも研修医の離脱が2週間以上続いていることで「限界」という報道が毎日続いています。
そして今、医療現場を支えているのは看護師たちです。以前から看護師の業務内容の中に本来医師がすべき診療補助行為が混ざっており、このことが社会問題となっていました。
現場の医師が不足する今、この傾向はさらに拡大し、看護師たちからは違法行為への加担と、過度の責任を求める風潮に批判の声が上がっています。政府はこれを受け、看護師の医療行為における権限を大幅に増やす措置を発表しました。余談ですが「結局、男性エリートの尻拭いを女性がしているんだな」と感じました。
現在の対立は、医療界と政府双方が譲らない状況となっており、長期化する見通しです。その背景について、進歩紙『京郷新聞』と保守紙『東亜日報』に興味深いコラムがあったので引用します。
まず今月6日の京郷新聞コラム「‘総選挙用の医療大乱’、結者が解之せよ」では、医療大乱が三週目になり、研修医に次いで一般医(専門医)や医大教授の辞職などが広がり「真の混乱はこれからだ」という懸念が広がっているとします。
そして昨年夏まで、医療界と議論していた政府は「500人増員」のライン提示していたのに、それが尹大統領が支持率上昇を狙って「2000人」を提示したとします。そのおかげで政府をめぐる雑音がすべて陰を潜め、この事案は選挙における「孝行息子」であると見ています。
韓国の四字熟語に「結者解之」というものがあります。問題を作ったものが解決せよというもので、政府がいったん引くべきと読み解けます。
次に7日付けの『東亜日報』コラムを見ます。「なんとしても医師の屈服を望むならば」というタイトルです。
コラムではやはり、研修医以外の医師たちが現場を離れつつある現状を指摘しつつ、このことが「破局に突き進む医療界と政府の葛藤(衝突)の本質を象徴している」と見立てます。地域医療と必須医療の再生と高齢化する医療集団へ「輸血」という名分は既にないという視点で、政府は既に失敗したというものです。
一方でコラムは、研修医がなぜ現場を真っ先に離れたのかを問うています。
ビック5と呼ばれる大病院ではいずれも、研修医を重労働させることでしか維持できないシステムになっているとし、政府が十分な医療「酬価(報酬)」を計上していないことがそもそもの問題にあると指摘します。同じ手術でも報酬が日本と数倍の差があるとしています。
経営が成り立たないから、専攻医をこき使うという韓国医療界の悲惨な構造については、これまでも多く指摘がありました。ビック5病院を「貪欲な集団」と見るのか、専攻医までを含め「被害者」と見るのかにより、事態への解釈は大きく異なりますが、韓国の医療システムが抱える爆弾が弾けたという点では一緒でしょう。
コラムでは政府の強硬な姿勢を批判しつつ、今回の結果がどうなろうが、既に韓国の医療システム、すなわち「世界がうらやんだ高水準で安い韓国の必須医療」は崩壊する道に入っているとします。
一方で各紙ともに医療現場の混乱、とりわけ患者へのしわ寄せを例に引きつつ「患者を人質に医者が権利を主張するのは世界でも韓国だけ」と、医療界にも厳しい視線を注いでいます。
仲裁できる人物や集団が不在となる中、今後この問題がどうなるか、誰にも見通すことができません。混乱は選挙(4月10日)後まで続くとの指摘もあります。
本当に大変なことになりました。
◎カルチャー:映画『破墓(パミョ)』~‘抗日映画’とのこじつけ〜
韓国映画界にまたしても大ヒット作品が登場しました。
『破墓(파모、パミョ)』という見慣れない単語をタイトルにしたもので、2月22日の封切り後から半月で700万人(9日現在)を動員しています。
このペースは昨年末にやはり大ヒットし通算1300万人を動員した『ソウルの春(서울의 봄)』を大幅に上回るもので、どこまで数を伸ばすのかにも注目が集まっています。
私も日本出張から戻った後、すぐに観に行ってきました。点数は私は90点くらい。私の数十倍映画を観ている妻は70点くらいと言っていましたが、これはまあ、好みの問題でしょう。
映画ポスター。
『破墓』というのは、墓を破壊するということです。
登場するのは風水師(韓国語で地官)、葬儀師、ムダン(巫堂)と楽士の4人です。遺された家族に害を及ぼすお墓の問題を解決するこの人々たちが、米韓で財を成した富豪一家から受けた依頼を解決するお話しとなります。
「明堂(ミョンダン)」という言葉があります。「良い所」という意味ですが、韓国人にとってお墓を明堂に作れるのか否かは大きな問題で、そんな共通認識が映画の基となっています。
若きムダンを演じるキム・ゴウンや、安定の(?)チェ・ミンシクの好演技もあり、140分が長く感じない、人気の高さが頷ける作品でした。
しかし本作は、何か書こうとするといわゆる「ネタバレ」になってしまうため、観ていない方に説明するのが難しいです(笑)。
映画の構成は前後半で大きく分かれます。前半はいわば導入部と言える「依頼解決の物語」である一方、後半はいわば「世直し」のような体裁を帯びてきます。そしてこの後半部の内容が韓国で「抗日」または「反日」と話題となっています。
ネタバレにならないギリギリの線で説明すると、物語にはある特殊な目的を持った棺が登場します。そして、それは例えるならば過去1997年に撤去された朝鮮総督府の建物のような存在として扱われます。
大日本帝国による植民地支配の象徴であった総督府の建物を使い続けるのか、それとも撤去するのかについて、韓国では当時議論がありました。金泳三(キム・ヨンサム)大統領が撤去を決めましたが、その際に総督府の建物が「日」の形をしており、風水の面からも朝鮮王朝や民族の「気」や「脈」を封じ込める役割をしているという主張が存在しました。
本作でもこのようなモチーフが使われていることから、これを解決する過程が「抗日」もしくは「反日」という印象で語られる背景となっています。
こんな議論を煽ったのが、以前ニュースレター32号でご紹介した韓国初代大統領・李承晩をひたすら美化するドキュメンタリー映画『建国戦争』のキム・ドクヨン監督です。
キム監督は2月26日、自身のFacebookに「抗日独立?ふたたび反日主義を煽る『破墓』に左派たちが押し寄せています。『建国戦争』に脅威を覚えた者たちが『建国戦争』にフタをしようと、『破墓』で意趣返しをしているのです」と書き込みました。
両方の作品を観た上で言うと、キム監督の主張は正直、訳が分かりません。
『破墓』は単純な娯楽映画であり、別に日本がどうたらという話では全くないからです。『破墓』に出てくる日本は、いわばアイコンとしての日本に近く、実体を持ったものではありません。
一方で、キム監督の発言からは韓国の反共・極右派が持つゆがんだ社会観が垣間見えます。先に紹介した『ソウルの春』に対する右派(極右)の「左派映画」との批判にも相通じる部分があります。
それは、映画界が左派に乗っ取られているという認識です。ヒット映画に対し「左派映画」のレッテルを貼る行為は、『パラサイト』や韓国歴代最高ヒット作で李舜臣を主人公とする『バトルオーシャン』の際にもありました。
単純に作品として優れているから市民が観に行っているだけなのに、その理由をイデオロギーの偏りに求める稚拙な見方と言う他にありません。これは韓国の映画ファンを馬鹿にする行為とも言えます。「右派映画だからではなく、単純につまらなそうだから観にいかないだけ」という話です。
一方で『破墓』の人気の裏には、ニュースレターで前述してきたような韓国社会や政治への「行き詰まり」へのストレスがあるとする見方もあります。これは私も共感するものがありました。スッキリしたい心情が多分にあります。
『ソウルの春』の日本公開はネット情報によると、2024年の5月以降とされます。その次にようやく『破墓』となるでしょうが、日本でどう受け止められるのか楽しみです。
◎あとがきに代えて
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