ニュースレター号

【番外編】近況報告ならびに文在寅前大統領の回顧録についての雑感

 サポートメンバーの皆さま、アンニョンハセヨ。韓国の徐台教です。私は現在、仁川(インチョン)市内の小さなホテルでいわゆる‘缶詰め’環境を作り、本の執筆を進めています。

 本の内容は南北関係に関するもので、過去6年にわたって取材を続けてきたものです。昨年に一度あらかた書いたものを最新の情勢を反映させながら、その後に得られた知見も合わせ完成に近づけています。

 缶詰め環境をあと数日つづければ完成となります。その間はニュースレターに代えて、こんな近況報告をお送りしてみようと思います。

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 先ほど「新たな知見」と書きましたが、そこにはいくつかの新刊本も含まれます。中でも先週5月18日に発刊された文在寅前大統領の回顧録『辺境から中心へ』はかなり興味深い内容です。

『辺境から中心へ』。もっと良い翻訳タイトルがありそうですが...。


『辺境から中心へ』。もっと良い翻訳タイトルがありそうですが…。

 対象は外交安保分野に限られるもので、文政権5年の間で国家安保室の秘書官(平和軍備統制秘書官、平和企画秘書官)、さらに外交部第一次官として同分野の中枢を担った崔鐘健(チェ・ジョンゴン、50)を対談相手に、文前大統領がかなり細かく当時の状況を振り返る読み応えのあるものとなっています。

 本文は648ページ。さらに紙も上質なもの使っているせいか、まるで「鈍器」のような造りです。

ようやく第一部を読み終えての感想は「現職の時にもっとこの本の内容にあるようなことを、市民にかみ砕いて説明すればよかったのに」というものです。

 記者会見の少なさという面からは、今の尹錫悦大統領は飛び抜けているとしても、文在寅大統領も十分に批判を受けるに値しました。同じ進歩派の盧武鉉・金大中という二人の大統領とは比べものにならないほど少なかったのです。

 そうでなくとも朴訥な人柄もあり、その政策、とりわけ北朝鮮や朝鮮半島問題へのアプローチは玄人以外にはよく分からない部分がありました。

 さらにそんな「間隙」を『朝鮮日報』といった右派(南北関係では極右)メディアに衝かれ、いらぬ社会的な緊張を招いてしまいました。もっとも、これは政府のせいだけではありませんが。

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 回顧録『辺境から中心へ』は、下記の目次写真にもあるように第一部は文政権の代名詞的存在である朝鮮半島問題解決のための外交、具体的には朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)との関係、対米関係の背景が詳細に扱われ、第二部では国防、報勲、多者外交、対日という項目ごとの内容で構成されています。

目次です。第一部は「決断の瞬間、運命のあの日」、第二部は「誰も揺るがすことのできない国に向かって」となっています。


目次です。第一部は「決断の瞬間、運命のあの日」、第二部は「誰も揺るがすことのできない国に向かって」となっています。

 第一部だけ読んだ状態ですが、▲これまでオフレコの形で記者たちの多くが知っていたことと、▲噂レベルであったが今回確認されたもの、▲まったく知られていないもの、という形が散りばめられ、宝箱のような印象でした。

 例えば、18年4月の南北首脳会談を機に文大統領と金正恩氏の執務室間に備え付けられた直通電話を使おうと、文大統領が持ちかけた際に金正恩氏が「執務室には週に一、二回しかいないからメールでやり取りしよう」と文大統領に提案したという話などは初耳でした。

 結局、直通電話もメールも一度も使われないままでしたが、同時いかに親密な(?)やりとりがあったのか、改めて驚く内容でした。

 本書には日本メディアでも既報の通り、当時の安倍政権に対する辛辣な内容もあるようですが、これはまだ読んでいないので判断は保留しておきます。

 それにしても文在寅さんは、元より読書家で知られ、さらに本人が引退後に書店を経営しているだけあって、常識的な知識人であるという印象です。

 現役時には物足りない部分がありましたが、こうして一つ一つ記録に残す作業を見ると、真摯な姿勢には頭が下がります。

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 一方でこの本を読みながら印象深かったのが、文在寅氏は「この次」を明確に見据えているということです。

 この本は韓国社会に向けて、次にいつか訪れる南北関係改善のチャンス――おそらく最後になる――をどう迎えればよいのかの指南書ともなっているように私には受け止められました。

 もっとも、それがどんな形で来るのか分かりませんし、来ない可能性もあるでしょうけど…。

 その内容からも日本で岩波書店さんなどで翻訳されると思いますが(大統領当選時の回顧録は岩波さんから出ました)、出す際にはきちんとした解題(解説)が必要でしょう。

 これは進歩―保守の対立(さっそく韓国メディアではそう矮小化されています)いう小さな脈絡で読むには惜しい一冊で、より大きな枠組みからの読み解きが求められる一冊だからです。

 ぜひとも私が書いてみたいですが、その前に自分の本を完成させろというオチです。

本は贈呈を受けました。巻頭には文在寅大統領による「わが国民はいつでもより遠くまで行ける底力を持っています」というサインがありますが、贈呈本のために特別に書かれたものかどうかは分かりません。


本は贈呈を受けました。巻頭には文在寅大統領による「わが国民はいつでもより遠くまで行ける底力を持っています」というサインがありますが、贈呈本のために特別に書かれたものかどうかは分かりません。

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 今日はここまでです。お代を頂いているのに、対価としてのニュースをお伝えできず心苦しいですが、引き続きよろしくお願いいたします。

 また、お詫びの一貫として、来月6月15日(土曜日)の午後5時から1時間ほど『辺境から中心へ』の内容を紹介し解説するYouTubeライブを行います。

 現時点で会員の方はすべてご視聴いただけ、ライブ後にもアーカイブとして残しておくのでいつでもご覧いただけます。ぜひご期待ください。視聴するためのアドレスなどは追ってお知らせいたします。

 それではまた、次回のニュースレターでお目にかかります。ありがとうございます。(徐台教)

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