サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。
日本各地で暑さが例年より早く訪れているというニュースを見ましたが、韓国もずいぶんと暑いです。ソウルの気温は昨日(19日)、35度まで上がりました。私が住む隣の金浦市も連日の33度超えで愛犬のベリー君と共にはあはあと荒い息を吐いています。
例の本の仕事はまだ終わりませんが、粛々と進めています。もう少しなので朗報をお待ちください。焦燥感で倒れそうですが、終わりが見えます。
ベリー君です。首元に腫瘍ができ、手術で取り除きました。良性のようでしたがやや元気がありません。
●「朝鮮戦争で戦闘飛行」プーチン大統領の歴史的発言
そんな中ですが、世界を騒がせた朝ロ首脳会談に触れない訳にはいきません。憂慮されていた朝ロの結びつきがほぼ最悪の形で明文化された、と韓国の主流メディアは見ているようです。
本来、18日から19日にかけて訪問するとされていたプーチン大統領ですが、実際には19日の午前2時20分過ぎに平壌郊外の空港に降り立ちました。
ロシアメディアを通じ、滑走路横で手持ち無沙汰にウロウロする金正恩氏の映像が公開されていましたが、プーチン氏の相手を待たせる癖に例外はなかったようです。
19日午前2時過ぎ、平壌順安国際空港でプーチン大統領を出迎える金正恩氏。朝鮮中央通信より。
そして翌19日の正午過ぎから公式の歓迎式が平壌の金日成広場で開かれ、その後に拡大首脳会談、そして午後2時以降に単独首脳会談が開かれ、ここで両首脳は朝露の新たな条約に署名しました。
その後、両首脳は1945年に朝鮮半島で日本軍と戦い戦死した約4万7千人のソ連軍兵士を追悼する「解放塔」を参拝し、歓迎公演を経て晩餐を持ちました。
なお今回、プーチン大統領が「(朝鮮戦争時に)ソ連の操縦士が数万回の戦闘飛行を行った」と述べたことで、はじめてソ連が朝鮮戦争への参戦を公式的に認めるサプライズもありました。周知の事実でしたが、歴史的な発言です。
「解放塔」に参拝するプーチン大統領。朝鮮中央通信より。
●争点は「自動介入」条項
他方、外部の視線は、朝ロ間の新たな条約の内容に注がれました。
特に、有事の際の「自動介入」が明記されるのか否かという点が大きなポイントとなりました。朝鮮半島で何かしらの戦闘が起きる場合、そこにロシアが入ってくる根拠となり得るという理由からです。
19日に両首脳が行った会見で、プーチン氏は「本日署名した包括的同伴者(パートナーシップ)協定は、何よりも協定当事者のうち、一方が侵略される場合に相互支援する」と述べました。
これを根拠に、韓国各紙は論を展開しました。
通信社の『聯合ニュース』は、19日の記事では1961年にソ連と北朝鮮の間で結ばれ、ソ連崩壊後の96年に破棄された『朝ソ友好協助および相互援助条約(朝ソ同盟条約)』と比較した上で、過去には及ばないという見解を示していました。
19日の記者会見の様子。朝鮮中央通信より。
同条約では第一条で「一方がいかなる国家または国家連合から武力侵攻を受け戦争状態に直面する場合に、相手は遅滞なく自身が保有するあらゆる手段をもって軍事的およびその他の援助を提供する」としていたからです。
プーチン氏の発言と61年の同条約のトーンがやや異なることから、一線は越えなかったという論調が散見されました。「同盟」という言葉を使わなかった点も注目されました。進歩紙の『京郷新聞』、『ハンギョレ』も「準同盟にとどまる」という見解でした。
もちろん、00年に親善条約だった朝露間条約が24年ぶりに更新されたことについて最大限に警戒した上での見解です。誤解なきよう。
一方の保守メディアには、かなり強い論調が見られました。
各社20日付けの社説を見ると、『朝鮮日報』ではプーチン氏に対し「韓国は朝露(本文では北韓・ロシアと表現)に対応する軍事手段を持っている」と書き付け、プーチンと金正恩の危険な取引を見過ごしてはならないと強調しています。
『東亜日報』では見出しに「準同盟」という単語を使いつつも、本文では「昨今の北-ロ関係は同盟以上の関係」と警戒心をむき出しにしています。そして「チンピラ国家同士の不純な結合は長続きしない」とし、ロシアとの関係を管理することを注文しています。
そして最後に『中央日報』ですが、故金日成氏が1950年6月に朝鮮戦線を起こす前に、モスクワを訪れソ連の軍事支援を得た歴史を紹介し、南北軍事境界線付近で北朝鮮軍が道路整備を行っていることも加え、軍事的緊張の高まりに警戒を呼びかけました。かなり遡る視点でした。
首脳会談を行う朝ロ首脳。朝鮮中央通信より。
●条文公開でメディアはヒートアップ
そして20日午前、朝鮮中央通信が『朝露間の包括的な戦略的パートナーシップ関係に関する条約』を全文公開したことで、議論はさらにヒートアップします。
注目されたのは第4条です。
同通信の日本語サイトの条文をそのまま引用します。(強調は筆者)
「双方のうち、一方が個別的な国家、または複数の国家から武力侵攻を受けて戦争状態に瀕する場合、他方は国連憲章第51条と朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の法に準じて遅滞なく自国が保有している全ての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」
文字通りの“自動介入条項”です。そうです、韓国が恐れていた内容があったのです。
ちなみに、国連憲章第51条とは、国連加盟国に対する攻撃が発生した際、個別的・集団的自衛権を認めるものです。北朝鮮は国連加盟国です。
20日の韓国社会の動きを見ると、まずは憤りから不安、そして沈静化へと進んでいく動きが見て取れました。
まず憤りと不安は、保守メディアを通じ拡散されました。
ふたたび『朝鮮日報』を見てみましょう。20日午後6時の記事です。同紙は専門家の意見を借りて、より詳細な分析を試みていましたが、その論調からは危機感がありありと見て取れました。
朝鮮日報の該当記事。「“脅威だけ受けても協力”…北・露、戦時でなくとも軍事支援の道を拓いた」とあります。同サイトをキャプチャ。
記事ではまず第4条の「遅滞なく」という言葉に注目しています。
これは前述した61年の朝ソ同盟条約と同様の表現ですが、米韓同盟の基礎となっている53年の『米韓相互防衛条約』にはない表現であることを強調しています。
韓国の保守派、またの名を米韓同盟派と言いますが、彼らが金科玉条とする同条約の第2条にはこうあります。
「締約国は、いずれか一方の締約国の政治的独立又は安全が外部からの武力攻撃によつて脅かされているといずれか一方の締約国が認めたときはいつでも協議する。締約国は、この条約を実施しその目的を達成するため、単独に及び共同して、自助及び相互援助により、武力攻撃を阻止するための適当な手段を維持し発展させ、並びに協議と合意とによる適当な措置を執るものとする」(外務省より)
過去のニュースレターにも登場した、メディアに引っ張りだこの専門家、朴元坤(パク・ウォンゴン)梨花女子大学北韓学部教授は両条約を比較しながら「文言だけ見る場合、北・露条約がより強力な形だ」とコメントしています。
記事では新条約の第2条、第3条も取り上げています。
第2条の「全地球的な戦略的安定」という言葉について、文在寅政権下で国家情報院の幹部を務めた進歩派の専門家による「核保有国の間で『核による均衡』を表す表現」という見解を引用しています。北朝鮮の核を認めるとも取れる解釈です。
これ以上の深堀りはないので気になるところですが、これは今後、シンクタンクからのレポートなどで明らかになるでしょう。
そして第3条では「一方に対する武力侵略行為が強行されうる直接的な脅威が生じる場合」という文言が注目されています。
この場合にこの脅威を除去するために「協力を相互提供する」というのですが、この脅威がどこまでの範囲を指すのかということです。
『朝鮮日報』では、米韓連合訓練を「侵略行為が行われる脅威」とすることもできるのではと例を挙げています。
他にも、人工知能や平和的原子力といった技術や農業、教育などあらゆる分野での交流と協力が掲げられています。これまでになかった朝露の結びつきが明文化された点で大きな脅威とする論調です。
●韓国政府は「ウクライナへの武器支援」カードを取り出すも比較的冷静
他のメディアでも「朝鮮半島の有事の際にロシアの介入が可能になった」という視点からの指摘が相次ぎました。
この時の「有事」という表現には様々な状況が含まれるでしょう。
南北朝鮮は現在、互いに先制攻撃を行う可能性を秘めています。
北朝鮮は政権首脳部が脅かされると判断する場合、韓国に核を用いた先制攻撃ができるよう核ドクトリン(核の運用方針)の整備を終えています。一方、韓国では北朝鮮の核使用が迫る場合に先制攻撃(キルチェーン)を行う「3軸体系」を整えています。
ロシアの自動介入があるとするならば、捉え方によってはキルチェーンが無効化されたと見ることもできるでしょう。
20日午後、会見を行う張虎鎮(チャン・ホジン)国家安保室長。ニューシスより引用。
肝心の韓国政府の対応ですが、この日午後に4項目にわたる「政府声明」を発表しました。情報が出切った後の対応です。
各項目は、▲朝露の条約締結に厳重な憂慮を表明し糾弾する、▲朝鮮戦争とウクライナ戦争を起こした北・露が起こりえない国際社会による先制攻撃を仮定し軍事協力を約束するのは無責任な詭弁である、▲ロシアによる北韓への軍事支援は国連安保理決議違反であり常任理事国であるロシアがこれを破る事は韓・露関係に否定的な影響をもたらす、▲政府は断乎として対処し、韓米日協力をより強める、といった内容でした。
また、この席で張虎鎮(チャン・ホジン)国家安保室長がロシアと北朝鮮に対する新たな独自経済制裁の内容を明かすと共に「ウクライナに対する武器支援問題を再検討する予定」と述べました。これまで砲弾の間接支援にとどまっていた韓国が殺傷武器の支援に踏み出すという警告です。
一方で、韓国政府は完全に強硬とは言えない「余白」も残しています。
KBSによると韓国政府高官が「場合によってはロシアから直接説明を受ける」と述べるなど、ワンクッション置いている状況です。
韓国政府はまた、先の第4条にある「ロシア連邦の法に準じて」という点を根拠に「完全な自動介入条項とは言えない」という立場も明かしています。つまり、レッドラインは超えていないという判断で、これが比較的冷静な対応につながっているようです。
なお、KBSによるとロシア連邦法では「外国に軍事支援を行うには上院の過半で賛成を得なければならない」とされているそうです。
改めて整理すると、一部の専門家とメディアはヒートアップしましたが、このように政府の抑えた反応が出たことで、いったん落ち着きを取り戻している状況です。条約の内容が現実に履行されるには時間がかかるという認識もあるようです。
◎韓国政府の「責任」はどこまで?
一本の記事ではとてもまとめることができないので、今回はいったんここまでです。
北朝鮮とロシアの24年ぶりとなる新たな条約により「冷戦時代に回帰した」とする見方がある一方、もう少し様子を見る必要があり、その間に韓国政府が対中国・対ロシア外交を頑張るべきだという視点があります。
ここで一つ問題提起を行ってみたいのが、果たして北朝鮮とロシアが急接近し、新たな枠組みを作る過程において、韓国の尹錫悦政権の責任はなかったのかという点です。
進歩紙『ハンギョレ』は20日付けの社説で「尹錫悦政権の偏向的な価値外交が大きな影響を与えたことを否定できない」と指摘しています。ここでの価値外交というのは、敵か味方か、正しいか間違っているのかという「理念外交」のことを指します。
また、別の記事では「北韓とロシアは過去2年の間、警告を送り続けてきた」とも書いています。座して危機を煽ったという批判です。
19日、金日成広場で行われたプーチン大統領の歓迎式。朝鮮中央通信より。
私はこの問いに対して「影響は少なからずある」と考えています。
尹錫悦大統領は候補者時代から、北朝鮮を主敵とする認識や反共意識をむき出しにしてきました。
過去の保守政権が作りあげた『民族共同体統一方案』の第一段階である「和解協力」を無視し、対話の努力も全くしないまま北朝鮮に対しては抑止力強化の一辺倒で臨んでいます。
抑止力を高めるなというのではありません。これは進歩派政権でも必ず行ってきたことです。
しかし一方で常に、対話の努力を行い、いつ北朝鮮が対話に出てきてもよいように、いくつかのカードを提示し続ける必要があります。
尹政権はそれを怠ってきたのです。なぜでしょうか。
ヒントは、外交ブレーンの金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第一次長にあるようです。同氏は過去、李明博政権(イ・ミョンバク、任期08年2月~13年2月)でも外交安保のブレーンだった人物で、尹政権でも大きな影響力を持っているとされます。
その彼が19年に書いた本『彼らはなぜ正しい答えがあっても論争するのか』を、最近読む機会がありました。改めて彼の世界観を知りたかったからです。
過去のコラムをまとめた本でしたが、彼の信念は「原則のある一貫した外交」で、その基調は「米韓同盟をよく守る」というものです。
強力な米韓同盟は東北アジアの他の国(北朝鮮、ロシア、中国)にとっては気にいらないものになるが、逆説的に韓国がこうした国々と積極的な協力外交を行うテコになるとも主張しています。
金泰孝氏の著書。筆者撮影。
そしてこの路線から外れるもの、例えば米国に預けたままの戦時作戦権の還収や日本との歴史認識問題での軋轢、東北アジアでの均衡外交といったビジョンはすべて米国と日本にとって「不信」を招く元になるという視点です。
金泰孝氏はまさにこれを尹政権で実現しています。
朝鮮半島問題を対話で解決できるとは考えずに、国を守るために、ひたすら日米との結びつきを強めることを追求する外交の根拠が、同書には余すことなく書かれています。
先の『ハンギョレ』の社説では「外交ラインの交代」、つまり金泰孝氏の更迭を提案しています。私はこの点については現時点で変えるのは難しいとしても、もう少し弾力性のある外交を行える人物を補完すべきと考えます。
少なくとも、南北間のホットラインが全く存在しない現在の状況を変えられる程度に実力と柔軟性を持った人物が必要ではないでしょうか。
金泰孝氏は「外交には周辺国からも予測がつく一貫性が必要」と信じているようです。それが硬直性にならないことを願っています。
◎あとがきに代えて
朝鮮半島情勢が大きく動いています。
それでも「いたずらに不安がる必要はない」という声もあちこちから聞こえ、韓国社会は比較的冷静な雰囲気と言えるでしょう。
ですが、今の緊張状態をずっと続ける訳にはいきません。
日米韓vs朝中露のブロック化に反対するとされる中国とうまく付き合い、韓国が地域の緊張を弱めるような役割をしてほしいと思います。
私も早く、最前線に復帰できるよう頑張ります。書きたい書評もたくさんあり、うずうずしています。
それでは皆さん、くれぐれも夏バテにはご注意を。
最後に、6月15日にやると言って飛ばしてしまった文在寅回顧録のYouTubeライブですが、7月に必ず行います。遅れてしまい面目ありません。
また、先日公開された『徐台教の韓国通信』もぜひご覧ください。
いつもありがとうございます。(徐台教)