ニュースレター号

[71号] 混沌つづく韓国政治、文在寅の起訴、南北関係は‘ウォーミングアップ’開始

 サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。韓国の徐台教です。韓国では今の時期、天気予報で「녹음이 짙어지다(ノグミ チトジダ)」という声が多く聞こえてきます。

 直訳すると「緑陰が濃くなる」というもので、植物や葉が生い茂り日陰が多くなるという意味と、緑色自体が濃くなるという意味を兼ねているように思います。意訳すると春爛漫となりましょうか。もうすぐ韓国で二番目に美しい5月となります。ちなみに1位は10月です。

 尹錫悦氏が4月4日に罷免され、昨年12月の非常戒厳から続いた落ち着かない状況もひと段落かと思いきや、すかさず大統領選挙が始まりました。法律で60日以内に行うと決められているためで、6月3日投開票、当選者は4日から勤務開始となります。

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●混沌つづく韓国政治

 今は二大政党の中で予備選が行われています。

 最大野党・共に民主党では、直前まで代表だった(立候補するので辞任)李在明(イ・ジェミョン、61)、韓国最大の自治体・京畿道(キョンギド)の現役知事で文在寅政権で企画財政部長官兼経済副総理を務めた金東兗(キム・ドンヨン、68)、そして故盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領最後の秘書で「進歩派の嫡子」と呼ばれる元慶尚南道知事の金慶洙(キム・ギョンス、57)の3人であらそわれています。

左から李在明、金慶洙、金東兗。『ヘラルド経済』より引用


左から李在明、金慶洙、金東兗。『ヘラルド経済』より引用

 予備選は巨大政党だけあって、全国を回る形で行われています。これまで中部の忠清圏、南東部の嶺南圏と二箇所で開票があり、合計で李在明氏が89.56%と圧倒的な得票率で独走しています。まあ共に民主党は李在明さんで決まりでしょう。あと二箇所残っていますが結果は変わりません。4月27日に李在明さんが候補となる予定です。

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 一方の与党・国民の力の予備選は混戦です。

 11人が立候補し書類審査で8人に絞られ、さらに支持者プラス無党派層による世論調査結果を経て最終的に4人が争っています。

 医師免許を持ちながらIT企業を立ち上げ大富豪となり政治に身を投じた安哲秀(アン・チョルス、63)議員、尹錫悦氏の側近で同政権下で法務部長官そして非常戒厳時に与党代表だった韓東勲(ハン・ドンフン、51)氏、八〇年代の伝説の労働運動家でありその後政界入りし国会議員や京畿道知事を務めた金文洙(キム・ムンス、73)雇用労働部長官(立候補に伴い辞任)、同党の元代表で17年5月の大統領選本選で当選した文在寅氏に次ぐ2位に入った洪準杓(ホン・ジュンピョ、70)大邱市長(立候補に伴い辞任)となります。

左から安哲秀、韓東勲、金文洙、洪準杓。『メディパナ』より引用


左から安哲秀、韓東勲、金文洙、洪準杓。『メディパナ』より引用

 現在はテレビ討論が行われています。今日(25日)も生放送で韓東勲と洪準杓の二人が3時間以上にわたって討論するなど露出は多いのですが、二つの点で問題を抱えています。

 一つ目は、第一ラウンドで行った「クイズ(芸能)形式」の予備選の問題です。

 例えば「生まれ変わるとしたら、車輪とゴキブリのどちらが良いのか」といった具合です。車輪とゴキブリには同じ「바퀴(パッキ)」という音が入るので並べたのでしょうが、答える候補者たちも絶句していました。翌日の保守紙『東亜日報』には「ヘラヘラ笑っている場合か」というコラムが載りました。

 もう一つは戒厳と罷免をめぐる不協和音です。

 上記の4人のうち、尹錫悦による非常戒厳を批判している候補は安哲秀、韓東勲の二人だけで、金文洙はまったく悪びれず(この方は過去の経歴が信じられないくらいに極右化した政治家として有名です)、洪準杓は「ハプニング」といった見解です。「被害がなかったろう?本気じゃなかったんだ。国民に野党の横暴を知らせるだったんだ」という尹錫悦氏の主張と同じものです。

 つまり、党として尹錫悦氏がクビとなった今なお尹錫悦氏を切れずにいるのです。4月4日の憲法裁による罷免宣告を受け入れるとした韓国の市民は約8割にのぼることが世論調査の結果から分かっています。与党は今、予備選をやればやるほど「尹錫悦と変わらない」ということが浮き彫りになる悪循環に陥っています。

韓東勲氏。ソウル大→検察→留学と、文字通り韓国最高のエリート街道を歩んできた人物で、特有の癖のあるナルシシズムの持ち主です。徐台教撮影。


韓東勲氏。ソウル大→検察→留学と、文字通り韓国最高のエリート街道を歩んできた人物で、特有の癖のあるナルシシズムの持ち主です。徐台教撮影。

 現在の世論調査では上位3人、金文洙、韓東勲、洪準杓がダンゴ状態となっています。今後は党員50%、一般世論調査50%で順位を決めます。4月29日の発表時に過半数を超える候補がいない場合には上位二人で決選投票となり、最終的には5月3日の全党大会で候補が決まります。

 誰が残るのかまだ分かりませんが、唯一、万が一の可能性で李在明に勝てるとしたら韓東勲氏でしょう。しかし党内からは尹錫悦の戒厳を邪魔した「裏切り者」扱いされており、勝ち抜きは困難でしょう。それでももし韓東勲氏になるようならば大統領選はそこそこ盛り上がるでしょう。

 なお、同氏には約2億4千万円の寄付金上限に李在明氏よりも早く到達したことからも分かるように、強いファンダムがついています。李在明氏のファンダムの規模には叶わないでしょうが、それでも韓東勲氏には他の候補にはない新しさがあります。

 全てが荒削りで素人の域を出ない印象ではあります。一方で、尹錫悦を断ち切れという保守層の期待に最も応える存在ではあります。逆に言うと、最終結果で与党の現住所が分かると思います。ただ、現在の与党党員の中には最近になって加入した尹錫悦支持者が多いと言われています。

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 あっという間に2000字となっていまいました。「長すぎる」という声を多く聞くので、なるべく短くまとめます。

 現在の各世論調査では、李在明氏の支持率が40〜50%程度と、他の候補を圧倒しています。よほどのことがない限り、当選は確実でしょう。

 そのため、選挙の構図は「李在明vs反李在明」となっています。そして与党側の「最後の手段」として、韓悳洙(ハン・ドクス、75)総理兼大統領代行の出馬が取り沙汰されています。実務に明るい官僚というイメージが逆に新鮮な存在となっています。

 大統領不在の中で代行を務める人物であり、今回の大統領選を管理する最高責任者でもある人物です。尹政権下で唯一の総理であり、非常戒厳を防げなかったことから「共犯」とまで言われる中、今も出馬するかどうかを明かしていません。

 公務員の辞任の時限は5月4日であるため、いずれにせよ一週間ほどで結論が出るのでしょうが、節操がないという印象です。私は韓国政界を「大人不在」と評価していますが、韓悳洙氏もその説を強化する人物といえます。

 いずれにせよ「李在明vs反李在明」という構図は、政策論争にならないという点でとても問題があります。

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●文在寅氏の起訴

 4月24日、検察が文在寅元大統領を起訴したというニュースが飛び込んできました。収賄罪です。

 文在寅大統領在職時の18年7月から20年3月まで、娘であるムン・ダヘ氏の夫であるソ某氏が、タイにある韓国系の航空会社で働いていました。この時にダヘ氏もタイに移住したのですが、その期間に支払われた給料約1500万円と、住居費などの手当約650万円の合計2150万円が文在寅氏への賄賂にあたるというものです。

 検察の論理はこうです。文在寅、ダヘ氏、ソ氏が共謀し、航空会社に就職した。これにより文在寅氏が当時無職だった娘夫婦への生活費支援をする必要がなくなった。よって文在寅氏が利益を得たという話です。

 当時、この航空会社は共に民主党所属の政治家が所有するものでしたが、タイでの実績はないに等しいものでした。さらにソ某氏は航空業界の経験が全くない人物でありました。

 この政治家は18年3月に政府組織・中小ベンチャー企業振興公団の理事長に任命されており、これは娘夫婦への支援への対価ではないか、とも検察は見ているようです。なお、娘ダヘ氏の夫婦は現在は離婚しています。

文在寅氏と娘のムン・ダヘ氏。17年の写真です。ニューシスより。


文在寅氏と娘のムン・ダヘ氏。17年の写真です。ニューシスより。

 この嫌疑が成立するためには、文在寅氏が事前に娘夫婦と共謀したことが明らかになる必要がありますが、文在寅氏側は「事前に知らなかった」と明かしています。

 また、検察の書面捜査に応じており、4月末までに書面を提出する予定だったにもかかわらず、検察が起訴を急いだことで、進歩陣営には反発が広がっています。

 背景には、検察の「正義の選択的行使」があります。

 尹錫悦前大統領と金建希(キム・ゴニ)夫人に関するスキャンダルには目をつぶり、文在寅氏を攻撃していると受け止める層が多いのです。こんな目を意識してか25日、検察は金建希氏の株価操作加担疑惑の捜査を再開すると明かしました。

 韓国では「検察は選挙が近づくと『勝てる側』につく」とよく指摘されます。今回はなかなか判断がつきかねますが、検察が起訴を急いでいるという印象は拭えません。

 文在寅氏自身が「不当である」、「検察権の濫用である」と強く反発しています。法廷で争う構えですが、そもそも「李下に冠を正さず」という言葉があります。疑われるようなことはしないに限ります。

 一方で検察のこの動きは大きなハレーションを引き起こすことになりそうです。そうでなくとも共に民主党の各候補は予備選の中で検察改革を訴えていました。

 その骨子は捜査権と起訴権の分離で、さらに公訴維持のための組織を作るなど、検察の力を細分化することにあります。大統領候補筆頭の李在明氏も、検察とは悪縁があります。今回の一件は確実にこんな検察改革の動きを加速化させるでしょう。

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●南北関係は‘ウォーミングアップ’開始か

 起訴の知らせからひと晩明けた25日、渦中の文在寅氏がソウルの国会議事堂の敷地内にある国会図書館に姿を見せました。

 板門店宣言七周年の記念式典に参加するためでした。上記の文氏の発言は式典に参加する前、禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長を訪問した過程で出たものでした。

 『板門店宣言』とは18年4月27日に文在寅・金正恩両氏が板門店で首脳会談を行った際に発表されたもので、非核化と朝鮮半島の平和体制への転換を進めることで合意しました。ご存知のように2020年以降、この動きは途絶えたままです。

 主催は金大中財団、盧武鉉財団、韓半島平和フォーラム、そしてフォーラム・サウィジェという4団体でした。いずれも進歩派人士が集合している組織です。

 この日は、いつものように(?)故金大中(キム・デジュン)大統領の時代から南北関係改善を支えてきた人々が勢揃いしました。林東源(イム・ドンウォン)、丁世鉉(チョン・セヒョン)、李鍾奭(イ・ジョンソク)、金錬鉄(キム・ヨンチョル)といった歴代統一部長官も出席し、さらに金大中大統領の最側近の一人で、95歳の権魯甲(クォン・ノガプ)共に民主党顧問も元気な姿で登場しました。

式典に参加者たち。前列左から権魯甲、金貞淑(キム・ジョンスク、文在寅氏の夫人)、文在寅、禹元植、丁世均(チョン・セギュン、元国会議長)。徐台教撮影。


式典に参加者たち。前列左から権魯甲、金貞淑(キム・ジョンスク、文在寅氏の夫人)、文在寅、禹元植、丁世均(チョン・セギュン、元国会議長)。徐台教撮影。

 式典は特に具体的な内容があったというよりも、「尹錫悦大統領が罷免され、これから再び平和がはじまる」というメッセージを発信する点に重きが置かれていました。

 文在寅氏はメインスピーチの中で尹錫悦政権の3年を「反動と退行の時間」と位置づけ、経済・財政・民主主義・平和・南北関係すべてにおいて失政が続いたと厳しく批判しました。

 さらにこれは、尹錫悦個人の失敗でなく「集権勢力(保守勢力)」の失敗であると強調しました。

 「古い理念と古い世界観、古い安保観と古い経済観が幾重にも総体的な国政の失敗を招いたという教訓を忘れてはならない」という指摘です。その頂点に昨年12月3日の非常戒厳がある、ということです。

 そしてこれからの韓半島(朝鮮半島)は平和の道に進むべきとし、対話の再開を訴えました。米国と日本が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との対話の意思を明らかにする中、韓国もこれに続くべきとしました。また、尹錫悦政権下で効力停止となった18年9月の『南北軍事合意書』の復元が必要とも述べました。

 来たる6月15日には2000年に金大中・金正日両首脳が行った史上初の南北首脳会談と『6.15共同宣言』から二五周年を迎えます。これに合わせ具体的な南北関係改善のロードマップを発表すると主催側は述べました。

 この時には新政権が発足しています。今回のような集まりに私は欠かさず顔を出しますが、進歩派の南北関係専門家グループは今なお進歩派内に影響力を持っています。盧武鉉政権下で国家安保の要職を担った李鍾奭さん(66)が李在明政権が生まれる場合、ふたたび要職に就くという噂もあります。引き続き報じていきます。

式典開始前に対話する丁世鉉(左)と李鍾奭両氏。いずれも統一部長官を務めた南北関係の専門家だ。徐台教撮影。


式典開始前に対話する丁世鉉(左)と李鍾奭両氏。いずれも統一部長官を務めた南北関係の専門家だ。徐台教撮影。

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 ●あとがきに代えて

 今の私を支配しているのは本です。書籍です。皆さんに笑顔でお知らせできるまでもう一歩の所まで来ているのですが、そこで作業が停滞しており刻苦の時間を過ごしています。

 あと少しなので良いお知らせをお待ちください。その後はニュースレターに全力投球していきます。発行が遅れているにもかかわらず、支持を続けてくださるサポートメンバーの皆さんに深く感謝いたします。5月中旬からは大統領選の報道を深堀りしていきます。今後ともよろしくお願いいたします。皆さんの安寧を願ってやみません。ありがとうございます。(徐台教)

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