サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。韓国の徐台教です。五月も半ばを過ぎてしまいましたが、いかがお過ごしでしょうか。
突然ですが朝鮮半島の複雑な問題を表現する言葉に「トリレンマ」というものがあります。ジレンマが二つの項目を両立させられないことを示すならば、これは三つの項目を示します。朝鮮半島の平和を考える場合、(米中を基本とする)国際秩序・南北関係の改善・韓国国内の政治的対立の全てを満たす解決策は無いという、その難しさを表現するものです。
私もまた、トリレンマの中にあります。書籍入稿前の仕上げ、大統領選の取材・報告、家庭での諸事の中で、日々選択を強いられていますが、それもあと数日の辛抱です(本当に!)。その後は大統領選とニュースレターを中心に再編していきます。
とにかく、今後はその間の遅れを取り戻すために短めのニュースレターを頻繁にお送りすることになります。冒頭に日付けをつけておきますので、少しずつでもお読みいただければと思います。
◎韓国大統領選の候補たち
5月12日に候補者登録を終えた韓国では、大統領選が本格的にスタートしています。連日、関連ニュースがトップに伝えられ、18日には主要候補による初のテレビ討論会も行われました。現在の主要候補は以下の4人です。
筆者作成。
実際には7人が登録しています。しかし18日、6番の候補が立候補を辞退したため6人で争われることとなりました。番号は議席数によります。3番が欠番なのは、議席12の祖国革新党が李在明候補に相乗りすると決め、独自候補を立てなかったためです。
それぞれの候補の特徴を簡単に記します。
・李在明:圧倒的な議席数を獲得した実績をひっさげ、僅差で尹錫悦に敗れた前回大統領選の雪辱を図る。貧困家庭に育ち弁護士となった背景と、代名詞だったベーシックインカム導入政策とで2010年代に持っていた左派的なイメージはなりを潜め、自らを中道右派と位置付け幅広い層の取り込みを図っている。
・金文洙:すったもんだの末に与党候補となった人物。韓悳洙(ハン・ドクス)前総理との一本化で揉めに揉めたが最後は党員が金文洙の手を上げた。80年代は伝説の労働運動家として名を馳せたが後に保守派に転向。その後、京畿道(キョンギド)知事を務めるなどし、2010年代には極右に。尹錫悦の戒厳についても候補となったあとようやく謝罪。
・李俊錫:最年少の40歳(韓国では大統領の被選挙権は40歳からとなっている)。22年3月の大統領選、同年6月の統一地方選において、党代表として国民の力を勝利に導いたが、尹錫悦により追い出されため世論的にはプラスの要因がある。庶民の家に生まれハーバード大を卒業と、韓国の能力主義を体現したような人物。男女の分断、弱者への容赦ない視点でアンチフェミニズムに染まる20代男性の支持を集める。分断の政治というSNS時代の申し子のような人物。
・権英国:一貫して路上の市民と共に過ごしてきた人権弁護士。労働者やセウォル号遺族の側に一貫して立ち続けてきた。ソウル大工学部を卒業を金属加工と銃弾・砲弾製造で有名な企業に就職するも労働運動を組織を解雇。徳島大学に修士留学し、その後司法試験に合格し弁護士となった。00年代後半からの社会問題の最前線に立ち続けてきた。24年から民主労働党の前身・正義党で代表を務め、党名変更後の今も代表を続ける。
街のあちこちに貼られている選挙ポスター。李在明氏のものを毀損する事件が何件がありました。私の家の近所です。
選挙日は6月3日ですが、事前投票は今月29日と30日にかけて行われます。前回の大統領選では2日間で36.93%の有権者が事前投票を行いました。今回も似たような数値になると思われます。なお、不正選挙(裁判を通じすべて否定されています)の陰謀論を主張する人々は本投票の呼びかけを行っていますが、その影響はないでしょう。
それでは選挙の動向はどうなっているのでしょうか。韓国では相変わらず毎日いくつもの世論調査結果が発表されています。これを参考にしましょう。
なお、調査はいずれも電話を用い行われますが、面接員が市民と直接対話する調査とARSと呼ばれる自動応答(番号で返答する形)では、結果が異なります。
概ね、面接調査では与党支持が低く出る傾向があります。これは非常戒厳を強行し後に罷免された尹錫悦氏の所属政党(尹氏は17日に同党を離党)の候補を支持することを、「後ろめたい」もしくは「別に言いたくない」と考える人々が回答を控えるためです。
面接調査の代表格『韓国ギャラップ』の最新の調査は以下の通りです。
筆者作成。AIにやらせましたがうまくいかず、結局エクセルで自作。
李在明氏は50%を超えています。安泰です。与党の金文洙氏の支持率に注目です。29%。続いては自動応答調査の代表格『リアルメーター』の最新調査結果です。
以下同文。
こちらでは金文洙氏が35.6%と、電話応答よりも高く出ています。これは一般的な傾向です。李在明さんはいずれの調査でも50%を超えており、安泰です。
韓国の公選法では投票日の6日前から世論調査の結果発表を禁じています。今回は28日から出なくなりますが、それまで世論調査が次々に出てきます。金文洙氏がもう少し追い上げると思われますが、その際にも「どんな調査方法なのか」をチェックして見る習慣を持ちたいものです。
◎大統領選の見どころ:年代別投票先と保守の今後
見てきたように、大統領選はほぼ李在明氏の当選で確定です。2番手の金文洙候補と3番手の李俊錫候補が一本化する場合には1位と2位の差が縮まりますが、李俊錫氏は一本化を何度も否定しており、実現する可能性は低く、このまま三つ巴となる可能性が高いためです。
なお、私がイチオシする権英国氏は世論調査で有効な数値を得られていません(2%と出る調査もあります)。残念。
何があるか分からない、大統領選の一日は一か月に相当すると言われるほど政治的な動きが激しい大統領選挙ですが、今回ばかりは結果が見えているのが現実です。なぜか。それは選挙のきっかけを考えれば理解できます。昨年12月に非常戒厳を引き起こした尹錫悦が罷免されたことによる選挙です。与党候補の当選は考えられません。
それでは大統領選のどこに注目すべきでしょうか。私は「年代別の投票先と韓国政界(保守)の今後」という二つの点を見たいと思います。
・年代別世論の現住所は
先に20代男性は李俊錫氏への支持が高いと書きました。世論調査によっては20代男性の半数が李俊錫氏を支持するとする程です。この動きを含め、若者の投票先が多様化していることは、先の24年4月の総選挙でも明らかでした。
下記グラフからも(縦軸は上から20代以下、30代、40代、50代、60代、70歳以上、カラフルなほど投票先が分かれていると見てください)、それは分かります。
放送3社による出口調査で明らかになった年齢別投票先(比例)のグラフ。KBSをキャプチャ。
簡単に全体の傾向を表すと、20代と30代は既存の巨大両党ではない代案を探しており、40代と50代は非常に分厚い進歩派支持層であり、60代は進歩・保守が半々(以前は55歳までが進歩優勢でしたが年が経ち60代までが半々に)、70代は保守優勢といった形です。
これが実際にどうなるのか、これを専門家と共にじっくり分析してみたいと考えています。大統領選はその格好のチャンスとなります。22年3月の前回大統領選では約7万3000人が出口調査の対象となり、詳細なデータを提供しました。
前回大統領選での出口調査。左が李在明、右が尹錫悦。真ん中のそれぞれの項目は上から順に、男性・女性、20代・30代・40代・50代・60代以上、20代男性・20代女性、30代男性・30代女性〜となっています。
世代ごとの一般的な一般的な傾向として、20代と30代は「二大政党(巨大両党)下でも変わらない社会問題への苛立ち」、40代と50代は「盧武鉉への圧倒的支持」、50代60代は「民主化経験」、70代は「朴正熙への郷愁」という背景があると思います。
もっとも、それでは選挙当日まで何もしないということになってしまうので、そこまでは世論調査を精査していくことになります。
なぜかというと、韓国社会を総体として理解することが年々難しくなっていると感じるからです。さらに今回の大統領選は非常戒厳騒動の直後ともあり、さらにその傾向が強くなってしまいました。
低出生率や格差拡大といった社会問題を政治が解決できない現状がある中、尹錫悦の戒厳がその構図をぶっ壊してしまった部分(李在明氏が掲げる「内乱の収束が先」という論理)があり、より理解を難しくしています。
そんな中で、頼るべきはこの出口調査しかありません。本投票は年齢別の投票先が分からないからです。ただ、今回の大統領選では祖国革新党(議席数12)、進歩党(同3)、基本所得党(同1)、社会民主党(同1)という左寄りの党がすべて李在明氏に相乗りしたので、大雑把な傾向での理解にとどまるでしょう。
とはいえ、これが分かれば、日本社会との違いも分かるので、色々と面白いと思います。とにかく私は一馬力でできる、最大の韓国理解に向けて動くのみです。
・保守の今後
もう一つの注目は「保守の今後」です。伝統ある保守政党である与党・国民の力は現在、ひと言でボロボロです。保守出身の大統領が二人連続で罷免され、尹錫悦の罷免後も党は迷走を続けています。
金文洙氏と一本化を争った韓悳洙氏は官僚出身です。自前の候補者では李在明氏に勝てないからと、尹錫悦と検察勢力を「輸血」し勝利した前回の大統領選に続き、今回もまた外様を大統領候補に据えようとする情けない姿をさらしました。
このことからも同党は完全に「韓国の保守とは何か」という問いを突きつけられています。18日の討論会ではこの件が全く議題に上りませんでしたが、どこか公開の場で話し合ってほしいところです。
今日19日、郵便で選挙広報が届きました。この四候補のだけ入っていました。印刷代も大変な負担です。筆者撮影。
さらに李在明氏が自身と共に民主党を「中道保守」と位置付けていることからも、保守の立ち位置はどんどん狭くなっている現状です。
与党が今回の選挙を通じ新たなビジョンを確立できない場合(できていません)、保守陣営は急速に縮小するでしょう。与党ではすでに選挙後の党代表をめぐる駆け引きが始まっているとされますが、その前に掲げるべきものがあります。これが出てくるのかにも注目したいところです。
いずれにせよ、選挙まであと二週間しかありませんが、できるだけニュースレターを更新していきます。明日(20日)の晩にはYouTube『徐台教の韓国通信』の配信もあります。これから徹夜で準備することになりますが、また配信後にお知らせします。
それでは引き続きよろしくお願いします。アンニョンヒケセヨ。(徐台教)