この日の演説は青瓦台(韓国大統領府)により「新朝鮮半島平和ビジョン」と名付けられた。バナーは青瓦台が制作したもの。

●[全訳] 文在寅大統領ケルバー財団招待演説(新ベルリン宣言) [2017年7月6日]

尊敬するドイツ国民の皆様、
故国にいる国民の皆様、
ケルバー財団のハウルゼン理事とモドゥロ元東独総理をはじめとする内外の貴賓の皆様、

まず、冷戦と分断を超え統一を成し遂げ、
その力でヨーロッパの統合と国際平和を先導している
ドイツとドイツ国民に限りない敬意を表します。

今日この場を作っていただいた
ドイツ政府とケルバー財団にも感謝いたします。

また、先日亡くなられた故ヘルムート・コール総理の家族と
ドイツ国民たちに深い哀悼と慰労の念をお伝えします。
韓国は、冷戦の時期に困難な環境の中でも
積極的かつ能動的な外交で、ドイツの統一とヨーロッパ統合を主導した
ヘルムート・コール前総理の偉大な業績を記憶します。

親愛なる内外の貴賓の皆様、

ここ、ベルリンは今から17年前、
韓国の金大中大統領が南北の和解・協力の土台となった
「ベルリン宣言」を発表した場所です。
ここ、Altes Stadhausは
ドイツ統一条約の交渉が行われた歴史的な現場です。

私は今日、ベルリンの教訓が生きているこの場所で
韓国の新政府の朝鮮半島平和構想をお話しようと思います。

内外の貴賓の皆様、

ドイツ統一の経験は
地球上最後の分断国家として残った私たちに
統一に対する希望と共に
私たちが進むべき方向を教えてくれます。

それはまず、統一に至る過程の重要性です。
ドイツと唯一は相互尊重を土台とした
平和と協力の過程がいかに重要なのかに気付かせてくれました。
ドイツの国民たちはこの過程で蓄積された信頼を基に
自ら統一を決定することができました。

東西ドイツの市民たちは多様な分野で交流、協力し
両政府はこれを制度的に保障しました。
非政治的な民間交流が政治理念のかんぬきを外し
両国民の閉ざされた心を開いていきました。

東方政策が20余年の間続いたという事実も重要です。
政権が変わっても一貫した政策が可能だったのは
国民の支持に加え
国際社会の協力が背景となったからです。

ドイツはヨーロッパに平和秩序が造成される際、
その枠の中でドイツの統一も可能であると見ました。
国際社会と歩調を合わせ、時には国際社会を説得しながら
強固な安全保障を確保し、両独関係に対する支持を保障してもらいました。

ビリー・ブラント総理が第一歩を踏み出したドイツの統一過程は
別の政党のヘルムート・コール総理に至り完成しました。
私は朝鮮半島の平和と共同繁栄のためにも同様に
政党を超越した協力が続いていかなければならないと信じます。

この日の演説は青瓦台(韓国大統領府)により「新朝鮮半島平和ビジョン」と名付けられた。バナーは青瓦台が制作したもの。
内外の貴賓の皆様、

朝鮮半島の平和と統一を望むわが国民たちに
ベルリンは金大中大統領の「ベルリン宣言」と共に記憶されています。

金大中大統領のベルリン宣言は
2000年の第一次南北首脳会談につながり、
分断と戦争以降、60余年間対立し葛藤を繰り返してきた南と北が
和解と協力の道に踏み出す大転換を導きました。

その後を継いで盧武鉉大統領は
2007年第二次南北首脳会談を通じ
南北関係の発展と平和・発展のための里程標を立てました。

金大中大統領と盧武鉉大統領は
朝鮮半島に平和を定着させるために国際協力も推進していきました。

その間、6者会談は
北朝鮮の核問題を解決する原則と方向を込めた「9.19声明」と「2.13合意」を採択しました。
米朝関係、日朝関係にも進展がありました。

私は以前の二つの政府の努力を継承すると同時に
韓国のより主導的な役割を通じ
朝鮮半島の平和体制を構築する大胆な旅程を始めようと思います。

尊敬する内外の貴賓の皆様、

朝鮮半島が直面している最も大きな挑戦は北朝鮮の核問題です。
北朝鮮は核とミサイルによる挑発を続け
朝鮮半島と東北アジア、さらには世界の平和を脅かしています。

特に、つい二日前にあったミサイルによる挑発は
とても失望的で、大きく間違った選択です。

国連の安保理決議を明白に違反しただけでなく
国際社会の度重なる警告を正面から拒否したのです。
何よりも米韓主脳会談を通じ
ようやく対話の道を作り出したわが政府としては
さらに深い遺憾を覚えずにいられませんでした。

北朝鮮の今回の選択は無謀です。
国際社会の応酬を自ら招きました。
北朝鮮が挑発を止め、非核化の意志を見せてくれるならば、
国際社会の支持と協力を受けられるよう先頭を切って助けるという
わが政府の意志を試しています。

私は北朝鮮が戻ってこられない橋を超えないことを願います。
北朝鮮は核とミサイル開発を放棄し
国際社会と協力できる道を探さなければなりません。

完全かつ検証可能で、不可逆的な朝鮮半島の非核化は
国際社会の一致した要求であり
朝鮮半島の平和のための絶対条件です。
朝鮮半島の非核化のための決断だけが
北朝鮮の安全を保障する道という意味です。

そこで私は今こそが
北朝鮮が正しい選択をできる最後の機会で、
最も良い時期であるという点を強調します。
高まり続ける軍事的な緊張の悪循環が限界点に達した今、
対話の必要性が過去のどの時よりも切実になったからです。

中断された朝鮮半島の平和プロセスを再び始めることができる
基本的な条件が整ったという点も重要です。

最近、米韓両国は、制裁は外交的な手段であり、
平和的な方式で朝鮮半島の非核化を達成するという大きな方向に合意しました。
北朝鮮に対し、敵対視する政策を持っていないことも明らかにしました。
北朝鮮の選択によっては国際社会と共に
より明るい未来を提供できることを確認しました。

米韓両国はまた、
当面する朝鮮半島の危機を打開するためにも
南北関係の改善が重要だという点で認識を共にしました。
トランプ大統領は朝鮮半島の平和統一環境を造成することにおいて
韓国の主導的な役割を支持し、
南北対話を再開しようとする私の構想を支持しました。

中国の習近平主席とも同様の共感帯(コンセンサス)を確認しました。

今や、北朝鮮が決定することだけが残りました。
対話の場に出てくることも、
苦労して整った対話の機会を振り払うことも
ただ、北朝鮮の選択にかかっています。

しかし万が一、北朝鮮が核による挑発を中断しないのならば
より強い制裁と圧迫の他に、別の選択がありません。
朝鮮半島の平和と北朝鮮の安全を保障できなくなるでしょう。

私は朝鮮半島の平和のための、わが政府と国際社会の意志を、
北朝鮮が非常に重大で緊急な信号として受け止めることを
期待し、促します。

内外の貴賓の皆様、

これからは、朝鮮半島の冷戦構造を解体し恒久的な平和定着を導き出すための
わが政府の政策方向をお話します。

一つ、私たちが追求するのは、ひたすら平和です。

平和な朝鮮半島は、核と戦争の脅威が無い朝鮮半島です。
南と北が互いを認め、尊重し、共によく暮らす朝鮮半島です。

私たちは既に、平和な朝鮮半島に至る道を知っています。
「6.15共同宣言」と「10.4首脳宣言」に立ち返ることです。

南と北は二つの宣言を通じ
南北問題の主人がわが民族であることを明らかにし
朝鮮半島で緊張緩和と平和保障のための緊密な協力を約束しました。
経済分野をはじめとする社会の各分野の協力作業を通じ
南北が共同繁栄の道に進もうと約束しました。

南と北が相互尊重の土台の上に結んだ
この合意の精神は依然として有効です。
そして切実です。
南と北が共に
平和な朝鮮半島を実現しようとした
その精神に戻らなければなりません。

私はこの場で明確にお話します。
私たちは北朝鮮の崩壊を望まないし、
いかなる形態の吸収統一も推進しません。
私たちは人為的な統一を追求することもしません。

統一は双方が共存共栄しながら、民族の共同体を回復していく過程です。
統一は平和が定着するならば、いつの時か南北間の合意によって
自然に成し遂げられることです。
私とわが政府が実現しようとするのは、ただ、平和です。

二つ、北朝鮮体制の安全を保障する
朝鮮半島の非核化を追求します。

去る4月、「戦争危機説」が朝鮮半島と世界を駆け巡りました。
朝鮮半島を取り巻く軍事的な緊張は世界の火薬庫のようです。

朝鮮半島の軍事的な緊張を早急に緩和しなければなりません。
南北間で失われた信頼を再び回復しなければなりません。
私たちはこのために、交流と対話を模索していきます。
北朝鮮もこれ以上の核による挑発を中断しなければなりません。
偶発的な衝突を防ぐための軍事管理体系も構築していかなければなりません。

より根本的な解法は、北朝鮮の核問題の根源的な解決です。
北朝鮮の核問題は過去よりもはるかに高度化し、難しくなりました。
段階的かつ包括的な接近が必要です。

わが政府は国際社会と共に
北朝鮮の核の完全な廃棄と平和体制の構築、
北朝鮮の安保・経済的な憂慮の解消、米朝関係および日朝関係の改善など
朝鮮半島と東北アジアの懸案を包括的に解決していきます。

しかし手の平も合わさってこそ音が鳴るものです。
北朝鮮が核による挑発を全面中断し、
非核化のための両者対話や多者対話に臨んでこそ可能なことです。

三つ、恒久的な平和体制を構築していきます。

1953年以来、朝鮮半島は60年以上も停戦状態にあります。
不安な停戦体制の上では、強固な平和を成し遂げることはできません。
南北の貴重な合意が政権が変わる度に
揺らいだり、破られてはいけません。

平和を制度化しなければなりません。

内には南北合意の法制化を推進します。
あらゆる南北合意は政権が変わっても継承されなければならない
朝鮮半島の基本資産であることを明確にします。

朝鮮半島に恒久的な平和構造を定着させるためには
終戦と共に関連国が参加する朝鮮半島の平和協定を締結しなければなりません。
北朝鮮の核問題と平和体制に対する包括的な接近で
完全な非核化と共に平和協定の締結を推進します。

四つ、朝鮮半島に新しい経済地図を描きます。

南北が共に繁栄する経済協力は
朝鮮半島の平和定着の重要な土台です。

私は「朝鮮半島新経済地図」構想を持っています。
北朝鮮の核問題が進展し、適切な条件が整うならば
朝鮮半島の経済地図を新たに描いていきます。

軍事境界線で断絶した南北を経済ベルトで新たに繋ぎ
南北が共に繁栄する経済共同体を作り上げます。

途切れた南北鉄道は再び連結されます。
釜山(プサン)と木浦(モクポ)で出発した列車が平壌と北京へと
ロシアとヨーロッパを走るでしょう。
南・北・露のガス管連結など、東北アジアの協力事業も推進できるはずです。

南と北は大陸と海洋をつなぐ橋梁国家として共同繁栄するでしょう。
南と北が10.4首脳宣言を共に実践するだけでいいのです。
その時世界は、平和の経済、共同繁栄の新しい経済モデルを見ることになるでしょう。

五つ、非政治的な交流協力事業は、政治・軍事的な状況と分離し
一貫性を持って推進していきます。

南北の交流協力事業は
朝鮮半島のあらゆる構成員の苦痛を治癒し、和合を成し遂げる過程であると同時に
内側からの平和を作ることです。

南北には分断と戦争で故郷を失い別れた家族たちがいます。
その苦痛を60年以上も癒してあげられなかったことは
南と北の政府の皆にとって
とても恥ずかしいことです。

韓国政府に家族再会を申請した離散家族のうち
現在、生きている方は6万余名、平均年齢は81歳です。
北朝鮮の事情も同様なはずです。
この方々が生きているあ間に家族に会えるようにしなければなりません。
いかなる政治的な考慮よりも優先されるべき緊急の人道的な問題です。

分断により南北の住民が被害を受けることも
南北が共に解決していかなければなりません。

北朝鮮の河川が氾濫すると、韓国の住民が水害が遭います。
感染病や山林の病虫による害、山火事は南北の境界を考慮しません。
南北が共同で対応する協力を進めていきます。

民間の次元での交流は当局間の交流に先立ち
南北間の緊張緩和と同質性の回復に貢献してきました。
民間交流の拡大は、行き詰った南北関係をひも解く貴重な力です。

多様な分野の民間交流を幅広く支援します。
地域間の交流も積極的に支援します。

人間尊重の普遍的な価値と国際規範は
朝鮮半島の全域で具現されなければなりません。

北朝鮮住民の劣悪な人権状況については
国際社会と共にはっきりした声をあげていきます。
さらに、北朝鮮の住民に実際にためになる方向へと
人道的な協力を拡大していきます。

文在寅大統領による4つの提案をまとめたバナー。青瓦台(韓国大統領府)が作成した。
内外の貴賓の皆様、

私とわが政府は以上の政策方向を確固として堅持しながら
実践する準備ができています。

南北が共に手を結び
朝鮮半島の平和の突破口を開かなければなりません。
まず易しいことから始めることを北朝鮮に提案します。

一つ、急を要する人道的な問題から解決することです。

今年は「10.4首脳宣言」10周年です。
また、10月4日はわが民族の大きな祝日である秋夕(チュソク)です。

南と北は10.4宣言で
離れ離れになった家族と親戚たちの再会を拡大することで合意しました。

民族的な意味がある二つの記念日が重なるこの日に
離散家族の再会行事を開催するならば
南北が既存の合意を共に尊重し履行していく
意味のある出発になるでしょう。

北朝鮮が一歩さらに踏み出す勇気があるならば
今回の離散家族再会にお墓参りまで含めることを提案します。

分断当時のドイツの離散家族は書信往来や電話はもちろん
相互訪問と移住まで認められていました。
私たちにできない理由がありません。
これ以上の多くの離散家族が私たちの許を旅立つ前に、
彼らの涙を拭かなければなりません。
万一、北朝鮮がすぐに難しい場合には
私たちだけでも
北朝鮮の離散家族の故郷訪問とお墓参りを受け入れ、開放します。
北朝鮮の呼応を望み、
離散家族再会を議論するための南北赤十字会談の開催を希望します。

二つ、平昌オリンピックに北朝鮮が参加し「平和オリンピック」にすることです。

2018年2月、
朝鮮半島の軍事境界線から100キロの距離にある
韓国の平昌(ピョンチャン)で冬季オリンピックが開かれます。
2年後の2020年にの夏季オリンピックは東京で、
2022年には北京で冬季オリンピックが開かれます。

わが政府はアジアで続くこの貴重な祝祭を
朝鮮半島の平和、東北アジアと世界の平和を作っていく
きっかけとしていくことを北朝鮮に提案します。

スポーツには心と心をつなぐ力があります。
南と北、そして世界の選手たちが汗を流し競争し
倒れた選手を助け起こし抱き合う時、
世界はオリンピックを通じ、平和を見ることになります。

世界の首脳たちが共に拍手を送りながら、
朝鮮半島の平和の新しい始まりを共に開くことを期待します。
北朝鮮の平昌冬季オリンピック参加について
IOCも協力を約束している中
北朝鮮の積極的な呼応を期待します。

三つ、軍事境界線での敵対行為をお互いに中断することです。

今この瞬間にも、朝鮮半島の軍事境界線では
銃声の無い戦争が続いています。
双方の軍による軍事的緊張が高まっている状態は変わっていません。
これは南北の武力衝突の危険性を高調させ
接境地域で暮らす両側の国民の安全を脅かすことです。

今年7月27日は休戦協定64周年になる日です。
この日を期して南北が軍事境界線で
軍事的な緊張を高める一切の敵対行為を中止するならば
南北間の緊張を緩和する意味のある契機となるでしょう。

四つ、朝鮮半島の平和と南北協力のための
南北間の接触と対話を再開することです。

朝鮮半島の緊張緩和は最も急を要する問題です。
今のように当局者間にいかなる接触もない状況はとても危険です。
状況管理のための接触から始め
意味のある対話に進んで行かなければなりません。
さらに、正しい条件が整い
朝鮮半島の緊張と対峙局面を転換させる契機になるのならば
私はいつ、どこでも北朝鮮の金正恩委員長と会う用意があります。
核問題と平和協定を含み
南北のあらゆる関心事を対話のテーブルに乗せ
朝鮮半島の平和と南北協力のための議論をすることができます。

一度ではできないかもしれません。
始めることが重要です。席から立たなければ歩くことはできません。
北朝鮮の決断を期待します。

尊敬する内外の貴賓の皆様、

ドイツは韓国よりも先に冷戦を克服し統一を達成しましたが
今は地域主義とテロ、難民問題など
平和に対する別の挑戦に直面しています。

私はドイツが
ベルリンの民主主義と平和共存の精神で
新しい挑戦を克服し
ドイツ社会とヨーロッパの統合を完成させてくれることを信じます。

韓国も成熟した民主主義の力で
平和な朝鮮半島を必ず実現していきます。
ベルリンから始まった冷戦の解体をソウルと平壌で完成させ
新しい平和のビジョンを東北アジアと世界に伝播させます。

ドイツと韓国は平和に向けた前進を止めることはないでしょう。
両国は常に互いを支持し、応援し連帯していくでしょう。
人類のより良い暮らし、世界のより良い未来に向けて
しっかりと共に歩んでいきましょう。

ありがとうございます。