23年8月18日午前(現地時間)、米国キャンプ・デービッドで開催された日米韓首脳会談において採択された三文書(キャンプ・デービッド原則、日米韓首脳共同宣言、日本・米国韓国間の協議することへのコミットメント)の一つ。日本外務省の仮訳をそのまま掲載する。なお、読みやすいようにパラグラフごとに改行を加えた。
[全文]日米韓首脳共同声明「キャンプ・デービッドの精神」(23年8月18日、米国)
(第一パラグラフ)
我々、日米韓三か国の首脳は、日米韓パートナーシップの新時代の幕を開くため、日米韓三か国及びその国民にとって類いまれな機会であると同時に、地政学的競争、気候危機、ロシアによるウクライナに対する侵略戦争、そして核による挑発が我々を試している歴史の分岐点において、キャンプ・デービッドに集った。
真のパートナーによる団結及び連携した行動を必要とするときであり、我々はこの要請に共に応えることを意図している。
日米韓は、我々のパートナーシップが三か国の全ての国民、地域、そして世界の安全と繁栄を増進すると信じ、連携して共に取り組んでいく決意である。
この精神にのっとり、バイデン大統領は日韓関係を転換させるにあたって勇気あるリーダーシップを発揮した尹大統領及び岸田総理大臣を称賛した。
この新たな友好の絆により、そして、強固な日米同盟及び米韓同盟に支えられ、それぞれの二国間関係は今やかつてなく強固である。日米韓三か国の関係もまた、かつてなく強固である。
(第二パラグラフ)
この歴史的な機会に、我々は、領域横断的に、また、インド太平洋及びそれを超えた地域において、我々の協力を三か国で拡大し、我々が分かち合う大きな野心を新たな地平へと引き上げることにコミットする。
我々は、我々の経済を強化し、強靭性及び繁栄を提供し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を支持し、特に国連安全保障理事会の現・次期理事国として、地域及び世界の平和と安全を強化する。
我々は、民主主義の促進及び人権の保護に関する連携を強化する。そして、我々は、日米同盟と米韓同盟の間の戦略的連携を強化し、日米韓の安全保障協力を新たな高みへと引き上げる。
この新たな時代に共に乗り出すに当たり、我々が共有する価値が我々の指針となり、三か国の5億人の国民が安全と繁栄を享受する自由で開かれたインド太平洋が、我々の共通の目的となる。
(第三パラグラフ)
本日、我々が共に生きる地域を強化するという共通の目的の下に結束していることを、我々は公に宣言する。
我々の使命は、日本、米国及び韓国による目標及び行動における連携を確保することで、繁栄し、連結され、強靱で、安定し、安全なインド太平洋を確保するために必要な共通の能力を生み出すことである。
我々のパートナーシップは、我々の国民のためのみならず、インド太平洋全体のためにある。
(第四パラグラフ)
我々は、三か国の共通の利益及び安全保障に影響を及ぼす地域の挑戦、挑発及び脅威に対する三か国の対応を連携させるため、相互に迅速な形で協議するとの我々の政府のコミットメントを発表する。
こうした協議を通じ、我々は、情報共有を行い、対外的なメッセージングを整合させ、対応を連携させる意図を有する。
この目的のために、首脳間を含め、三か国の定期的かつ適時の連絡が円滑になるよう、三か国間の連絡メカニズムを改善させる。
我々は、少なくとも年に一度、三か国の首脳、外務大臣、防衛大臣及び国家安全保障局長間でそれぞれ会合を開催し、三か国の外交及び国防当局間での各々の既存の日米韓会合を補完する。我々はまた、財務大臣間での初の日米韓会合を開催するほか、毎年開催される新たな商務・産業大臣会合も立ち上げる予定である。
また、インド太平洋に対する我々のアプローチの実施を連携させ、共同で行動する新たな分野を継続的に特定するため、年1回の日米韓インド太平洋対話を立ち上げる。
外部からの情報操作及び監視技術の悪用による脅威の増大を踏まえ、偽情報に対処するための取組において連携する方法についても議論する。
我々は、開発政策における連携の深化に向け具体的な議論を前進させるための、10月に予定される日米韓三か国の開発政策対話を歓迎する。我々は、地域の安全保障を堅持し、インド太平洋への関与を強化し、共に繁栄していくとの確固たる決意を有している。
(第五パラグラフ)
我々は、ASEAN中心性・一体性及びASEAN主導の地域的アーキテクチャーへの支持を全面的に再確認する。
我々は、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」の力強い実施及び主流化を支援するため、ASEANのパートナーと緊密に協力することにコミットしている。
我々は、メコン河流域において、共に、持続可能なエネルギーを支援するために取り組み、水の安全保障及び気候変動に関する強靱性を促進している。
我々はまた、太平洋島嶼国への支援を再確認するとともに、透明性があり効果的な方法で、かつ「パシフィック・ウェイ」と整合的な形で、太平洋地域との真のパートナーシップの下で連携していく意図を有し、各国及び太平洋地域を強化する。
我々は、サイバー・セキュリティ及び金融の健全性に関する能力構築の取組並びに新たな日米韓海洋安全保障協力枠組みを通じたものを含め、我々の取組が相互に強化し合い、我々の大切なパートナーにとって最大限に利益をもたらすことを確保するため、ASEAN及び太平洋島嶼国に対する地域的な能力構築の取組について協調する計画である。
(第六パラグラフ)
我々は、地域の平和及び繁栄を損なう、ルールに基づく国際秩序と整合的ではない行動に対する懸念を共有する。
我々は、南シナ海において最近我々が目の当たりにした、中国による不法な海洋権益に関する主張を後押しする危険かつ攻撃的な行動に関して各国が公に表明した立場を想起し、インド太平洋地域の水域におけるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する。
特に、我々は、埋め立てられた地形の軍事化、沿岸警備隊及び海上民兵船舶の危険な使用並びに威圧的な活動に強く反対する。我々はまた、違法・無報告・無規制(IUU) 漁業について懸念している。我々は、国連海洋法条約(UNCLOS)に反映された航行及び上空飛行の自由を含め、国際法への我々の確固たるコミットメン トを改めて表明する。
南シナ海仲裁裁判における2016年7月の仲裁判断は、 同仲裁手続の当事者間の海洋紛争の平和的解決のための法的基盤を提示する。
我々は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する。台湾に関する我々の基本的な立場に変更はなく、我々は、 両岸問題の平和的な解決を促す。
(第七パラグラフ)
我々はさらに、関連する国連安保理決議に従った、北朝鮮の完全な非核化に対するコミットメントを再確認し、北朝鮮に対し、核・弾道ミサイル計画を放棄するよう強く求める。
我々は、全ての国連加盟国に対し、全ての関連する国連安保理決議を完全に履行することを求める。我々は、朝鮮半島及びそれを超える地域の平和及び安全に対する重大な脅威を及ぼす、複数の大陸間弾道ミサイル(IC BM)発射を含む、北朝鮮によるかつてない数の弾道ミサイル発射、並びに相次ぐ通常の軍事的活動を強く非難する。
我々は、北朝鮮の不法な大量破壊兵器及び弾道ミサイル計画の資金源となる、北朝鮮の不正なサイバー活動に対する懸念を表明する。北朝鮮によるサイバー上の脅威と戦い、サイバーによって可能となる制裁の回避を阻止するため、国際社会と共に行うものを含め、我々の協力を推進するための新たな日米韓ワーキンググループを立ち上げることを発表する。
日米韓は、前提条件なしに北朝鮮との対話を再開することに引き続きコミットしている。我々はまた、北朝鮮における人権の尊重を促進するための協力を強化することにコミットし、拉致問題、抑留者問題及び帰還していない捕虜の問題の即時解決への共通のコミットメントを再確認する。
我々は、韓国の「大胆な構想」の目標への支持を表明し、自由で平和な統一された朝鮮半島を支持する。
(第八パラグラフ)
米国は、日本及び韓国の防衛に対する米国の拡大抑止のコミットメントは強固であり、米国のあらゆる種類の能力によって裏打ちされていることを断固として明確に再確認する。
日米韓三か国は本日、組織化された能力及び協力を強化するため、毎年、名称を付した、複数領域に及ぶ三か国共同訓練を定期的に実施する意図を有することを発表する。
8月中旬に、増大している北朝鮮の核・ミサ イルの脅威をより効果的に抑止し、対応する能力を示すため、日米韓三か国はミサイル警戒データのリアルタイム共有のための海上弾道ミサイル防衛試験を実施した。
我々は、2023年末までに、北朝鮮のミサイル警戒データのリアルタイムでの共有を運用開始することで、2022年11月のプノンペン声明に反映されたコミットメントを達成する意向であり、三か国はミサイル警戒データのリアルタイム共有のための技術的能力を試験するための初期的措置を実施した。
我々は、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対抗するため、強化された弾道ミサ イル防衛協力を追求することにコミットしている。我々は、核兵器のない世界の実現が国際社会の共通の目標であることを再確認し、核兵器が二度と使用されないことを確保するため引き続きあらゆる努力を尽くす。
(第九パラグラフ)
我々は安全保障上のパートナーシップを深化させると同時に、三か国それぞれが持ち合わせる固有の能力を活用し、経済安全保障及び技術の分野においても強固な協力を築き上げることにも引き続き焦点を当てていく。
プノンペン声明における我々のコミットメントを実施するにあたって、我々の国家安全保障に関するチームは、我々の共通目的を推進するため、日米韓経済安全保障対話の下で二度会合を行った。
我々は現在、とりわけ半導体や蓄電池に関するサプライチェーン強靱性、技術安全保障及び標準、クリーンエネルギー及びエネルギー安全保障、バイオテクノロジー、重要鉱物、医薬品、人工知能(AI)、量子計算及び科学研究において三か国で協力している。
(第十パラグラフ)
今後、三か国は、情報共有を拡大し、あり得べきグローバル・サプライチェーンの混乱に関する政策連携を強化し、経済的威圧に対抗し打ち克つためのより良い準備をするため、早期警戒システムの試験運用開始に向けて緊密に連携することにコミットしている。
我々はまた、クリーンエネルギー製品のサプライチェーンにおいて途上国がより大きな役割を果たすことができるよう支援するために、「RISE(強靭で包摂的なサプライチェーンの強化)に向けたパートナーシップ」を引き続き発展させる。
我々はまた、我々が開発する最先端技術が、 違法に輸出又は海外に窃盗されることを防ぐため、技術保護の取組に関する協力を強化する。この目標に向けて、我々は、米国の創造的技術攻撃部隊並びに日本及び韓国のカウンターパートとの間で、三か国の執行機関間の情報共有及び連携を深化させるための第一回目の交流を実施する。
我々はまた、国際の平和及び安全を脅し得る軍事的又は軍事転用可能な能力のために我々の技術が流用されることを防ぐため、輸出管理に関する日米韓の協力を引き続き強化していく。
(第十一パラグラフ)
技術保護の取組と併せて、我々は、三か国の国立研究所間の新たな協力の追求、 並びにとりわけ科学、技術、工学、数学(STEM)分野での三か国の共同研究 開発及び人的交流の拡大を通じたものを含め、連合され協力的な科学技術イノベーションを強化する。
我々はさらに、オープン無線アクセスネットワーク(RAN)に関する三か国の協力の拡大並びに宇宙安全保障協力に関する対話、とりわけ宇宙領域での脅威、国家宇宙戦略及び宇宙の責任ある利用に関する三か国の対話の更なる強化を追求する。
我々は、変革技術としてのAIの重要な役割を認識し、我々が共有する民主的価値観に沿った、AIに関する国際的なガバナンスを形成し、最先端のAIシステムに関する国際的議論の基礎として、安心で安全な、信頼できるAIを確保するための我々それぞれの取組を確認する。
(第十二パラグラフ)
我々は、引き続き経済参加への障壁を撤廃し、女性及び疎外された集団を含む全ての国民が成功できる、多様で、アクセス可能でかつ包摂的な経済を構築することに完全にコミットしている。我々は、若者や学生を含め、人的つながりを更に強化するよう取り組んでいく。
我々は、インド太平洋経済枠組み(IPEF) の交渉の成功裏な妥結に向けて引き続き協力し、また、尹大統領及び岸田総理大臣は、米国が今年アジア太平洋経済協力(APEC)フォーラムを主催することを歓迎する。
尹大統領及びバイデン大統領は、国際社会が直面する課題へ対応するためにG7広島サミットで日本が示した、力強く、原則に基づくリーダーシップを称賛する。
我々は共に、クリーン・エネルギーへの移行を加速し、三か国の開発金融機関間の連携及びグローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)を通じたものを含めて質の高いインフラ及び強靱なサプライチェーンのための資金を動員し、また、持続可能な経済成長及び金融の安定並びに秩序立った、良好に機能する金融市場を促進することにコミットしている。
我々は、共通の地球規模の課題への対応力を高めるよう、国際開発金融機関を進化させるとの野心的なアジェンダを継続する。首脳は、地球規模の課題への対処による貧困との闘いのために、今後策定される譲許性枠組みに沿い、新たな世界銀行グループの譲許的資金及び融資余力を提供することと、危機対応力を含む最貧国のためのリソースを拡大することを模索することにコミットした。
(第十三パラグラフ)
我々は、ウクライナ支援において結束している。我々は、国際秩序の根幹を揺るがすロシアによるいわれのない残酷な侵略戦争に対し、ウクライナと共にあるとのコミットメントを再確認する。我々は、引き続き、ウクライナへ支援を提供し、ロシアに対して協調した強力な制裁を科し、ロシアへのエネルギー依存の低減を加速させることにコミットする。
我々は、この破滅的な侵略戦争からの永続的な教訓は、領土一体性、主権及び紛争の平和的解決の原則を堅持するとの国際社会の不変の意志に違いないと信じる。いかなる場所であってもこれらの根本的な原則の拒絶は、我々の地域への脅威となるとの見地を我々は再確認する。
我々は、このような悪質な行動を二度と繰り返させないという意志で一致している。
(第十四パラグラフ)
我々は、決意を分かち合い、未来への楽観主義を胸に、キャンプ・デービッドを発つ。
我々の眼前にある機会は、保証されていたものではなく、掴み取ったものである。それは、もし我々が平和で繁栄した将来を我々の国民及びインド太平洋の人々にもたらそうとするならば、我々はより頻繁に団結しなければならないという、三首脳がそれぞれ断固として有している決意の結果である。
本日、 我々は、日米韓三か国の関係における新たな章が幕を開けたことを宣言する。我々はビジョンを共有し、我々の時代における最大の挑戦を前にしてもひるまず、そして何よりも、日米韓三か国は現在及び将来を通じてこれらの挑戦に共に立ち向かうことができるという我々の信念において結束している。